善徳女王 61話#1 明活(ミョンファル)山城

苦悩し叫びだす毗曇(ピダム)の横で
ヨムジョンは美生(ミセン)との密談を思い返す

「毗曇(ピダム)の信頼を崩す?」

「そうです」
「毗曇(ピダム)が引っ掛かるのか?」
「陛下に関することですから」

善徳(ソンドク)女王が刺客を差し向けたと ヨムジョンは騒ぎ立てる

『陛下が殺そうとしたのか?陛下が? ウハハ… ウッハッハ…

結局はこういうことになったのか!お前が皆を裏切って命を懸けた愛は
こんなもんだったのか!!!!! アーーーッハッハッハ…』
『この野郎… 殺してやる!!!』
『俺を殺すのか?殺してみろよ 俺を殺せばなかったことになるのか?
俺を殺してそれでどうするつもりだ?
お前はまた捨てられたんだ 陛下に捨てられた』

剣を取り落し 地べたに座り込む毗曇(ピダム)

洞窟では 毗曇(ピダム)を連れて来るというヨムジョンを待ちくたびれ

美生(ミセン)が苛立ちの頂点に…!

『あの2人は なぜまだ来ないのだ!』

『ヨムジョンが毗曇(ピダム)公を連れて来ると?』
『私兵を集めたのに毗曇(ピダム)が来ないと始まらない』
『ヨムジョンは何を考えているんだ!』
『ヨムジョンの策略です』
『信用したのが間違っていた』
『信じなきゃよかった』
『やられましたね』

残忍さが消え 絶望で座り込む毗曇(ピダム)にヨムジョンが…

『今からでもいい 徳曼(トンマン)を手に入れたいなら神国を奪え!

準備は整っている お前はもともと王になりたかったんだろ え?』

放心状態で立ち上がり フラフラと歩き出す毗曇(ピダム)

『どうした?どこへ行くんだ? 毗曇(ピダム)…』

毗曇(ピダム)が受けた
衝撃も知らず
善徳(ソンドク)女王は 推火(チュファ)郡の毗曇(ピダム)に宛て手紙を書く

“今回のことは 私が徐羅伐(ソラボル)で

王として対処する最後の仕事となるだろう
これを終えたら…譲位する
王位を譲って 推火(チュファ)郡に行くつもりだ
小さな寺が建てられる場所を用意して待っていなさい
短い時間でも お前と一緒に過ごしたい”

※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)

(本当に俺を 殺そうとしたのだろうか)

「私に恋心を? 私は…味気ない話だけれど神国だけに恋せねばならない

恋とは すべてを懸けるものよ だから私は人に恋はできない
できたとしても どちらかが偽物になる」

(偽物?でも私には…)

「話してほしかった」

「でも… 話したとして 王女様にまで見捨てられたら?」

ふたたび座り込んだ毗曇(ピダム)は 指輪を取り出す

2人にとって ただ1つの共通の物…
毗曇(ピダム)は愛おしそうに指輪に頬ずりをする

善徳(ソンドク)女王は まだ手紙の続きを書いていた

“どんなことがあっても 私を信じて待っていなさい    徳曼(トンマン)”

手紙の最後に 善徳(ソンドク)女王は あえて“徳曼(トンマン)”と書き記す

呼ばれていた竹方(チュクパン)が現れた

『陛下 お呼びでしょうか』

『推火(チュファ)郡に行って これを毗曇(ピダム)に
必ず本人に渡すのです』
『はい 陛下』

「神国だけに恋せねばならない」

(それならば 私が神国になります
それがダメなら 神国の邪魔者と共に消えればいいのです
どちらでも 私は構いません
王という地位は 私を捨てたり殺したりする必要があるほど 重荷なのですか
そうであるなら 私がその荷を下ろして差し上げます)

洞窟では 現れたヨムジョンに美生(ミセン)たちが怒り出す

『貴様 なぜ1人で来たのだ?!!!』

『毗曇(ピダム)はどこにいるんだ?!!!』
『必ず来るはずです』
『責任を持って連れて来るはずでは?!!!』
『……』
『ヨムジョン!お前という奴は…毗曇(ピダム)は来なければ私がお前を殺す!』
『こんなことをしている場合ではない!!!すぐにここを離れるべきでは?』
『兵部(ピョンブ)は我々の居場所を突き止めたかも』
『このままではやられてしまいます!』
『ひとまずユルポ県に行きましょう』
『そこで時間を稼ぎ勢力を集めます』
『このまま何もせず 待ってはいられません』

そこへ…!!!

『毗曇(ピダム)公!!!』

『情けない人たちですね』

上大等(サンデドゥン)の服で現れた毗曇(ピダム)は 
冷静さを取り戻していた
その眼差しには 恋心の欠片も滲んではいない

宮殿では 近衛兵を前に侍衛府令(シウィブリョン)閼川(アルチョン)が…

『持ち場を徹底して守り 怪しい動きはすぐに報告せよ』

『はい 侍衛府令(シウィブリョン)!』

※侍衛府令(シウィブリョン):侍衛府(シウィブ)の長

すると 1人の近衛兵が残り閼川(アルチョン)を呼び止める

『ここ数日 フクサンが見えません どうも行動が怪しかったのです』

『怪しい?』

洞窟では 戻ってきた毗曇(ピダム)の指示に 皆が納得できないでいた

『逃げないのですか?

ユルポ県に行かないなら どうするおつもりですか?』
『チルスクの乱の時に ミシルがなぜ負けたと?』

そのことを口に出していいものか… 皆が押し黙る

『徐羅伐(ソラボル)を見捨てて 大耶(テヤ)城に行ったからです

徐羅伐(ソラボル)を捨てる者は逆賊となる
新羅(シルラ)の大義は 徐羅伐(ソラボル)にだけあるのです』

※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一

『では…』

『徐羅伐(ソラボル)を奪還し 女王を廃位させる
そして私が王になります』

初めて毗曇(ピダム)の口から 明確な答えが出た

それは 生きるか死ぬかの明暗を分ける 重大な決定だった…!!!

『我々は毗曇(ピダム)公に従います!』

『毗曇(ピダム)公に従います!』
『間もなく夜が明けるでしょう 明るくなる前に徐羅伐(ソラボル)に進撃します』
『では…陛下がおられる月(ウォル)城を攻撃するのですか?!!!』

※月(ウォル)城:半月(パノォル)城 徐羅伐(ソラボル)の都城

『合流する予定の貴族もまだ来ておりません』

『今の兵力では兵部(ピョンブ)に勝てるか分かりません!』

待ちかねていた毗曇(ピダム)の過激さに 怖気づく一同

毗曇(ピダム)はただ 愉快そうに含み笑いをするばかりだった

兵部(ピョンブ)では 迫りくる事態に備え作戦会議が行われている


『おそらくユルポ県に向かうでしょう』

『あそこは司量部(サリャンブ)の管轄ですし
毗曇(ピダム)とヨムジョンの本拠地です』

※司量部(サリャンブ):王室のすべての部署を監察する部署

『だからこそ ここを拠点に乱を起こすでしょう

ユルポ県から徐羅伐(ソラボル)への道に兵を配置して
徐羅伐(ソラボル)への入城を防がなくては』

そこへ 谷使欣(コクサフン)が駆け込んでくる

『クモ山からソンギ谷へ 兵が移動中です! 兵は2千ほどです』

『徐羅伐(ソラボル)の東にある大徳(テドク)山に向かうのでは?』
『大徳(テドク)山?』

つづいて大風(テプン)が…!

『チュジン公の部隊が七谷(テルゴク)峠を越えました!』

『何だと?!!!ソンギ谷から大徳(テドク)山 そして七谷(テルゴク)峠か!』

金春秋(キム・チュンチュ)が…

『ソンギ谷と七谷(テルゴク)峠 では彼らの狙いは…!!!』

『都城です!』
『そうです 陛下がおられる月(ウォル)城に向かっています!』

立ち上がる善徳(ソンドク)女王

『七谷(テルゴク)峠を越えて都で決戦となれば 多くの民が犠牲になる!

大軍が月(ウォル)城に侵入できる道は
この三道(サムド)峰と徳山峠しかありません
上将軍(サンジャングン)!徳山峠で敵の侵入を防ぎなさい!』

※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官

毗曇(ピダム)軍 本陣では…

チュジン公 虎才(ホジェ)公が 毗曇(ピダム)のもとへ

『ご指示通りに準備しました』

『皆 来ましたか?』
『私兵は全員 ヨド平原に集結しています どうしましょうか』

そこへヨムジョンが…

『ユシン軍が月(ウォル)城を出ました』

『兵の数は?』
『2千ほどで徳山峠に防御線を張っています』
『全面戦を始めますか?』
『全面戦か』

善徳(ソンドク)女王は…

『徐羅伐(ソラボル)での全面戦は絶対に避けねばなりません』

『今 敵の気勢をくじかないと 収拾がつかなくなります』
『脱走した私兵も合流したのだろうか』

春秋(チュンチュ)の疑問に閼川(アルチョン)が答える

『分かりませんが 兵力に自信があるから進撃するのでは』

敵の確実な情報がないまま 時が過ぎていく

毗曇(ピダム)軍本陣では…

『チュジン公と虎才(ホジェ)公は 私兵を率いてユシンの部隊を攻撃する

全力を尽くして戦い 退却命令にはすぐに従うのだ』
『退却命令ですか?』
『今すぐ出陣してください』
『分かりました』

腑に落ちない表情で出て行く2人

残ったヨムジョンも 何かおかしいと思い始める

『ピルタンの部隊は?』

『待機中ですが 命令を出しますか?』
『いや まだだ』

兵部令(ピョンブリョン)キム・ソヒョンのもとへ報告が入る

※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官

『ヨドでユシン軍が集中攻撃を受けています』

『集中攻撃だと?!戦況を説明せよ』
『虎才(ホジェ)軍は撃退しましたが
宝宗(ポジョン)公とチュジン公の部隊に挟み撃ちされました』
『ヨドを主攻撃ということは やはり月(ウォル)城が狙いなのか!』
『今は上将軍(サンジャングン)が何とか食い止めていますが…』
『ヨドから月(ウォル)城はすぐだ! 狼(ナン)山と武華(ムファ)山の兵を
ヨドに移動させて ユシン軍の援護を!』
『はい!』

毗曇(ピダム)のもとへ 刻々と情報を届けるヨムジョン

『狼(ナン)山と武華(ムファ)山の兵が移動していると報告が

上大等(サンデドゥン)の予想通りです!』

※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理

『そうか ピルタンの部隊に作戦を開始するように伝えよ』

『はい!』
『待て!
チュジン公 虎才(ホジェ)公 宝宗(ポジョン)公には退却命令を伝えよ
『退却ですか?月(ウォル)城に進軍するのでは?』
『月(ウォル)城?もちろん…違う』

報告を受けたキム・ソヒョンは 我が耳を疑う

『敵が退却した?!

狼(ナン)山と武華(ムファ)山の兵は ヨドに合流したか?』
『まだ到着していません』
『なのに退却したのか… !!! 退却した方向は?!!!』
『狼(ナン)山の方向です』
『狼(ナン)山?!!!狼(ナン)山には誰もいない!!!何てことだ…』

ヨンチュン公が 大慌てで駆け込み 善徳(ソンドク)女王に報告する

『上将軍(サンジャングン)ユシンがヨドで

虎才(ホジェ) チュジン 宝宗(ポジョン)の軍を撃退しました』
『虎才(ホジェ) チュジン 宝宗(ポジョン)が退却したのか?』
『退却したので まずはひと安心です』
『退却…』

春秋(チュンチュ)が考え込む

『狼(ナン)山と武華(ムファ)山の兵をヨドに集めて挟み撃ちに』

『狼(ナン)山?!!!今は狼(ナン)山に誰もいないのですか?!陛下…』
『はい そのとおりです』
『まさか…』

春秋(チュンチュ)の考えが 善徳(ソンドク)女王にも分かった

『今問題なのは狼(ナン)山ではありません』

『ここです』
『明活(ミョンファル)山城』
『…明活(ミョンファル)山城に向かったと?』

ようやく事態が把握できたヨンチュン公だった

善徳(ソンドク)女王は 深刻な表情になる

『都に2つの権力が生まれることになる』

キム・ユシンもまた 事態を把握し顔色を変える

『退却した敵は狼(ナン)山に向かったのか』

『狼(ナン)山のトリ峠に集まっています』
『ひょっとすると…』
『どうしました?』
『狙いは月(ウォル)城ではない』
『はい?』
『明活(ミョンファル)山城を狙っているのだ!』

明活(ミョンファル)山城 正門には…

ピルタンの部隊の出迎えを受け 毗曇(ピダム)が入城しようとしていた
その後には ミシルの一族と貴族たちが続く

『よくやった』

『上大等(サンデドゥン)の計略で城はガラ空き 簡単に落とせました』

徐羅伐(ソラボル)では 王室の人間だけで会議が開かれている

春秋(チュンチュ)が 今回の事態の説明をする

『彼らの狙いは月(ウォル)城ではなく 明活(ミョンファル)山城だったのです

ヨドを集中攻撃して狼(ナン)山の兵を移動させ
少ない兵力で明活(ミョンファル)山城を占領したのです』
『ミシルの乱は 徐羅伐(ソラボル)を離れて失敗した』
『同じ過ちを繰り返さないよう 策略を練ったのです』

次にヨンチュン公とキム・ソヒョンが…

『月(ウォル)城と明活(ミョンファル)山城の距離は 2里もありません』

『騎兵ならば わずかな時間で着く距離です』
『都で大軍が対峙するとは!』
『申し訳ありません 陛下』

兵部令(ピョンブリョン)キム・ソヒョンが謝罪する

『何たることだ… 都を戦場にするとは!何という大胆な策略だ!!!』

無事に入城した毗曇(ピダム)軍は…

『神国の700年の歴史はもとより 他の国々でも

都で大規模な軍が対峙するとは前代未聞です』
『それに 月(ウォル)城と明活(ミョンファル)山城は目と鼻の先です』
『こんな不安定な状態は長く続けられません
上大等(サンデドゥン) これからどうするおつもりですか?』
『どうすると思いますか?』

そこで美生(ミセン)が…

『まずは 広く知らせるべきでは?』
『誰に知らせるというのですか?』
『そうです 誰に何を知らせるのですか?』
『都に戦線ができたのは初めてのことです
これまで私たち貴族は皆 陛下に忠誠を誓っていた
女王でありながら 先の王より王権は強化されていた
しかし このことを知れば 多くの貴族や民は
女王の能力と王権に疑問を抱くはずです 女に王が務まるのかと
最初から誰もが 疑問に思っていたことです』

『そうです 女王に反する大義を広く知らせて

都の戦線をできるだけ長く維持させる
しかし月(ウォル)城では この状態を一刻も早く解決しようとするでしょう』

会議の後 春秋(チュンチュ)は善徳(ソンドク)女王と2人になる

『毗曇(ピダム)です 今の状況と貴族の組織的な行動

戦線から脱走した私兵の動き…毗曇(ピダム)が一緒に動いているはずです』
『……』
『ミシルやソルォンはもういません
こんな大胆な策を立てられるのは… 毗曇(ピダム)だけです』
『それ以上は言うな』
『陛下もそうお考えでしょう?違いますか?』
『…そうだ 私もそう思っている しかし… 違うと信じたい そう願っている』

一方 推火(チュファ)郡の官庁に着いた竹方(チュクパン)は

そこで会ったサンタクと話す

『毗曇(ピダム)公はまだ来ていないのか?』

『先に行けと言われたのだが まだ到着していない』
『どうしたんだ とっくに着いている頃なのに…』
『何を持っているんだ 渡しておくよ』
『王命なんだ 直接本人に手渡さないと』

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