善徳女王 62話(最終話)#1 明活(ミョンファル)山城 制圧!
反乱軍となった貴族たちと戦おうと 多くの民が武芸道場に集結し
善徳(ソンドク)女王は 民の前で激励の訓示を述べた
額には汗が滲んでおり その体調の変化に気づいたのは
侍衛府令(シウィブリョン)閼川(アルチョン)だけだった
『陛下 私が背負います』
『民の前です… 自分で歩きます』
『…承知いたしました』
善徳(ソンドク)女王が玉座から退席した後 民の間にざわめきが起こる
誰もが夜空を見上げている
『あの星 揺れていないか?』
『本当だ!!!』
夜空にまたたく星の 最も輝きを放つ星が揺れ ついには流れ星となった…!
その瞬間 善徳(ソンドク)女王は崩れるようにして倒れ込む
『陛下!』
『陛下ーーーっ!』
駆け寄る金春秋(キム・チュンチュ) キム・ソヒョン キム・ユシン!!!
苦しそうな呼吸に喘ぎながら 善徳(ソンドク)女王が…
『騒ぎ立てる必要はありません』
『輿を持て!!!』
閼川(アルチョン)が 必死に耐えている体を支える
民衆の間から叫び声が…!
『星が落ちたのは月(ウォル)城の方角だ!!!』
※月(ウォル)城:徐羅伐(ソラボル)の都城
明活(ミョンファル)山城でも 皆が夜空を見上げ驚愕している
毗曇(ピダム)はほくそ笑み 民に向かって言い放った
『月(ウォル)城に星が落ちた!これは月(ウォル)城の敗北を意味する!
月(ウォル)城の運は尽き!月(ウォル)城に血が流れるだろう!
我々は天の味方だ!新たな神国のために!』
※神国:新羅(シルラ)の別称
そこですかさずヨムジョンが…
『上大等(サンデドゥン)毗曇(ピダム)公 万歳!!!』
『万歳!!!』
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
一気に士気が高まり ミシルの一族と貴族たちは歓喜に満ちた奇声を上げる
すでに迷いから脱した毗曇(ピダム)は 真っ直ぐに一点を見つめる
(私が神国となる! そして徳曼(トンマン) お前を手に入れる!)
寝所に運ばれた善徳(ソンドク)女王
脈診した医官は 狼狽するばかり…
『へ…陛下!』
『薬を処方してまいれ』
『ですが陛下…!』
『もうよい 下がりなさい』
医官と入れ違いに キム・ユシンが入ってくる
『陛下 どこがお悪いのですか?』
無理に起き上がろうとする善徳(ソンドク)女王
『寝ていてください!』
『いいえ この病は 横になると頭痛がひどくなるのです』
『いつからお悪いのですか 何の病なのです?』
『……』
『陛下 説明してください』
2人のやり取りを 閼川(アルチョン)は 気が気ではない様子で見守る
『私が神国に来た初めての夜のことでした ある夢を見たのです
私は夢の中で ムンノを捜していました』
それは まだ少女だった徳曼(トンマン)が 市場を聞きまわっている頃のこと
「ムンノだって?」
「知ってる?」
「寺にいるらしい」
「寺に?」
「いや 太白(テぺク)山の仙人になったそうだ 雲に乗って空を飛ぶらしい」
誰に何を聞いても ムンノのはっきりとした行方は分からなかった
途方に暮れて歩いていると 白い絹の服を着た女性が近づいてきて
ふいに 少女徳曼(トンマン)を抱きしめたのだった
「ちょっと何をするんです!放してください!」
善徳(ソンドク)女王は 夢の中の出来事を 丹念に思い出しながら話す
『その女性は私を抱きしめ 涙を流していました
昨日 数十年ぶりにその夢を見たのです 誰だったのだろう あの女性は…』
『陛下 ご病気のことをお尋ねしたのです』
閼川(アルチョン)はキム・ユシンに目配せをし、首を横に振り
善徳(ソンドク)女王の話を受け入れるように聞き返す
『陛下 誰だったのです?』
『それが… 分からぬのです 顔が思い出せません
上将軍(サンジャングン)』
『はい 陛下』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
『上将軍(サンジャングン)の立てた作戦を許可します 今夜実行してください』
『…承知いたしました』
寝所を出たところで 閼川(アルチョン)はすべてをキム・ユシンに話した
『何だと?それは本当なのか!』
『私も最近知った』
『そんな… 何てことだ!』
『陛下は このような時に噂が広がってはならぬと 医官にも口止めを』
苦悩の表情で キム・ユシンは再び寝所に戻っていく
夢にうなされているかのように 善徳(ソンドク)女王の寝顔は苦しそうだった
ふと 善徳(ソンドク)女王の言葉を思い出す
「王座を譲って… 毗曇(ピダム)と静かに暮らしたい
それは最後の夢で… 私の本心でした」
自らの命の限りを予感していたのか…
しかし 善徳(ソンドク)女王の本心を知らぬ毗曇(ピダム)
上将軍(サンジャングン)キム・ユシンは 作戦会議を開く
『より多くの貴族が合流する前に戦を終え 被害を食い止める
東西南北4つの門から 明活(ミョンファル)山城へ攻め入ります』
『では 陽動作戦ですか?』
『声東撃西(せいとうげきせい)なら どこがおとりですか?』
※声東撃西:兵法三十六計の陽動作戦の一種
『おとりはありません すべてが本物で同時攻撃です
東西南北の4つの門が開いたら 私は本体を率い城の正面を攻めます』
一方 毗曇(ピダム)は…
『月(ウォル)城では すぐに決着をつけようとするはず』
『ええ 貴族らが合流する前に戦いを終わらせる気でしょう』
『ここ明活(ミョンファル)山城を守り切れば 我々は勝てます
貴族らが集まるまで耐え抜きましょう』
『ユルポ県にいる兵も徐羅伐(ソラボル)へ向かっています』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
『明日には さらに5千の兵が我々の味方に』
『兵は全部で2万人 真っ向勝負も可能です』
『アッハッハ… 味方が増える一方だ!徐羅伐(ソラボル)へ来て正解でした!』
浮かれる夏宗(ハジョン)を無視して 毗曇(ピダム)が冷静に言い放つ
『兵が集まるまでは 防御に徹しなければなりません
今夜 そして明日までが勝負です 耐え抜けば武運は我々に傾くでしょう』
まさに知略の戦いとなる様相を呈し キム・ユシンは…
『まずは閼川(アルチョン)が防御点を攻めます 陛下の許しは得ました
防御点を制圧したら 林宗(イムジョン) 徳充(トクチュン) 朴義(パグィ)
月夜(ウォルヤ)下将軍(ハジャングン)が 4つの門を一斉攻撃します』
『そんなことが可能なのか その作戦では防御点の制圧後
4方向から同時に総攻撃するということだが
各門にいる兵に どうやって合図を送るのだ』
大将軍(テジャングン)キム・ソヒョンの疑問に閼川(アルチョン)も…
『角笛では敵に聞かれてしまうし 火矢では城の後方の兵に見えません』
『味方の全員に見えて 敵にばれない合図があるのか』
『月(ウォル)城に落ちた星のせいで 兵の士気が下がっています
あの星を空に戻すのです それが合図です』
キム・ユシンの作戦に従い まずは防御点に攻め入るユシンの兵
『敵だーーーっ!!!防御態勢を取れ!!!』
『向こう側を守れ!!!』
閼川(アルチョン)の指揮のもと 防御点は制圧された
『準備しろ!』
『はい!』
谷使欣(コクサフン)が松明で合図を出すと 暗闇で動きがあった
間もなくして 毗曇(ピダム)のもとへ伝令が飛び込んでくる
『上大等(サンデドゥン)!!!防御拠点が敵に襲われました!』
『何だと?!』
『防御拠点が攻撃を?』
城に直接攻撃があるものと思っていた毗曇(ピダム)は 動揺する
『はい 蹶張弩(クォルチャンノ)部隊の奇襲です!』
『南東と川岸にも兵の動きがありました』
『四方から城へ攻め入るつもりか!!!』
狼狽する夏宗(ハジョン)を無視し 美生(ミセン)が…
『……これは陽動作戦です』
『城を取り囲む気だ!』
『あるいは後方を狙うとも考えられます』
『すぐどこかに兵を送らないと!』
さらにうろたえる夏宗(ハジョン)は もはや誰からも無視される
『いいえ かく乱です
ユシンの本体以外に惑わされてはなりません
明日まで持ちこたえれば勝機をつかめます』
不安を募らせる一同に 毗曇(ピダム)はひるむことなく…
『宝宗(ポジョン)公 ピルタン公 兵は移動しない!
守りを強化し 敵の動きを引き続き見張るように』
『承知いたしました!』
そこへ 取り乱して叫びながらヨムジョンが飛び込んでくる…!!!
とにかく外へと促され出てみると 兵士たちが夜空を見上げて動揺している
『星だ!月(ウォル)城の方角だ!星が空に戻っていくぞ!』
『本当に星じゃないか 昇っていくぞ!』
『何と… 落ちた星が空に戻るとは』
忌々しく夜空を睨みつける毗曇(ピダム)
確かに瞬きながら 星が昇っていく
しかし 美生(ミセン)だけはなぜか面白げな表情になり 笑い出すのだった
『そういうことか… あれは凧だ 凧ですよ』
『凧?』
『凧に火をつけ揚げているのです アッハハハ… 偽物です』
『では 我が軍の士気を下げようと?』
絡繰りを見破り得意気な美生(ミセン)
しかし 毗曇(ピダム)は険しい表情でさらに夜空を睨みつける!
『違う… あれは攻撃の合図だ!!!我が軍の注意を引くためだ!』
毗曇(ピダム)の推測通り 四方の門の兵士たちは皆 夜空に夢中だった
迫りくる敵の気配に気づく者は 誰一人いなかった
石塀をよじ登って侵入した林宗(イムジョン)が 部下に指示を出す
『城門を開けよ!!!』
『はい!』
開かれた城門から 総指揮をしている閼川(アルチョン)を先頭に
軍勢がなだれ込むように押し寄せる
その隊列の中には サンタクの姿があった
サンタクは 辺りを窺うようにしながら隊列から抜け出す…
その頃 毗曇(ピダム)のもとには次々と伝令からの報告が入っていた
『上大等(サンデドゥン)!東門が突破されました!!!』
『南門から朴義(パグィ)と徳充(トクチュン)率いる大軍が!!!』
毗曇(ピダム)はじっと考え込む
夏宗(ハジョン)は泣きそうな声で…
『えぇっ?!!!南門も突破されたのか?!!!』
『どうなっているんだ!!!』
苛立ちながら毗曇(ピダム)が命令を下す
『直ちに東門と南門へ兵を移し 敵を西門に誘い出せ!
私が自ら軍を率いて行く』
『はい!』
執務室に戻ろうとする毗曇(ピダム)の前に サンタクが姿を見せる
『サンタク… どうしたのだ!』
『上大等(サンデドゥン)…』
すべてを知ったサンタクは ヨムジョンに殺されかけた
何としても 真実を毗曇(ピダム)に告げねばと戻ったのだった
耳元でささやくサンタクの言葉に みるみる表情が変わる毗曇(ピダム)!
執務室では ヨムジョンが貴族たちに…
『すぐに城を脱出しなくては!!!』
『ああ 陥落するのも時間の問題だ!』
『キソン峠にホユン公の部隊が!無事な北門に行き策を練ってください!』
『分かった!』
貴族たちが退室し 慌ただしく脱出の準備をするヨムジョン
そこへ…
『毗曇(ピダム)公!急いで城から脱出し ホユン公と合流し
敵に決戦を挑みましょう!!!』
黙り込み じっとヨムジョンを見つめる毗曇(ピダム)
その目には涙さえ滲んでいる
『どうなさったのです』
『薄汚い奴め…侍衛府(シウィブ)の兵士フクサンのことだ』
※侍衛府(シウィブ):近衛隊
途端にヨムジョンは不敵な笑みを浮かべる
『バレたか…』
毗曇(ピダム)とヨムジョンが睨み合っている間にも
次々と城門は開かれ いよいよキム・ユシンが軍を率いて現れた
『連中は神国の敵だ!神国の敵を壊滅させよ!』
迫りくるユシンの軍勢のことも知らず 毗曇(ピダム)はヨムジョンににじり寄る
『すべてお前の謀略だったのだな!』
『お前はそこが問題だ 何でも人のせいにする』
もはやヨムジョンは 上大等(サンデドゥン)として崇めることもしない
知り合った頃のように 毗曇(ピダム)に対してタメ口で話し始めた
『ムンノを殺したのも 反乱も 陛下に刃向ったのも俺のせいか?フッハハハ…
俺がやらなくても お前はムンノを殺していたさ』
『黙れ!!!』
ヨムジョンの胸ぐらをつかむ毗曇(ピダム)
しかしヨムジョンはもう 毗曇(ピダム)を怖がることもせず 遠慮なしに話す
『俺がやらなくてもお前は陛下を手に入れるために何でもした!!!』
『その口を閉じろーーーっ!!!』
『この10年間 権力の掌握に力を注いだのはなぜだ!』
『……』
『ムンノに捨てられたから?ミシルの遺志を継ぐため?
俺にそそのかされたからだと? それは違う お前の中に潜んでいたのさ
王となり すべてを手にしたい欲がな!!!』
小刻みに震え 毗曇(ピダム)は動揺しながら声を振り絞る
『それは… お前の… 思い違いだ そうではない! 俺はただ…』
『あぁ~ 陛下への恋心か?お前が恋にのぼせてすべてがおかしくなった
俺はほんの少し軌道修正しただけさ』
『……』
『もし 恋が成就していたら何か変わったとでも?
それでもお前は反乱を起こしたはずだ なぜかって? 不安だからさ
お前は いつ陛下に見捨てられるかと怯え 信じられないから』
毗曇(ピダム)の動揺が 狼狽に変わる
ヨムジョンの胸元から手を放し 毗曇(ピダム)はうなだれた
『お前はそういう奴だ 人を信じられず
自分が裏切られ 捨てられることを恐れている』
『やめろーーーっ!!!』
『ところで知ってるか?陛下はお前を 最後まで信じていた』
最後の言葉が 毗曇(ピダム)を打ちのめした
『信じられなかったのも 揺らいだのもお前だ
お前たちの恋を壊したのは…陛下でも俺でもない
それはお前自身だ アーッハハハ…』
高笑いしながら出て行こうとするヨムジョンを毗曇(ピダム)が引き止め
振り向き様の胸を剣で一突きした
(違う… そうじゃない)
そこへ 美生(ミセン)が駆け込んでくる
『上大等(サンデドゥン)!早く来てください!北門へ…』
こと切れたヨムジョンを発見し 狼狽する美生(ミセン)
ヨムジョンを殺したということは 毗曇(ピダム)が真実を知ったということだ
『違う… そうじゃない!!!』
出て行こうとする毗曇(ピダム)の行く手を遮る美生(ミセン)
『どけ』
『私も殺していけ』
何?という顔で見つめる毗曇(ピダム)
美生(ミセン)もまた 知り合った頃のように
毗曇(ピダム)を見下す話し方をし始めた
『お前が姉上に似ているなどと… 思った私が愚かだった
お前を信じ大業を遂げるなど!無理なことだったのだ
姉上は… 買いかぶり過ぎた』
『大業か… ミシルの夢のために生まれ ムンノの夢のために育てられた
大業はお前たちの夢だろう』
『姉上に捨てられ ムンノに愛情をかけられず
我々に恋路を邪魔されたというのか』
『……』
『いいか毗曇(ピダム) 烔宗(ヒョンジョン)よ』
※烔宗(ヒョンジョン):毗曇(ピダム)の本来の名
『自分のせいだと認めたくないようだが
自分を破滅させられるのは 自分自身だけだ
誰もお前を破滅させることは出来ない!!!
すべて!お前のせいに他ならぬ まったく哀れな奴だ…』
美生(ミセン)はこの時 ミシルの弟として また毗曇(ピダム)の叔父として
愛情をこめて苦言を呈したのだ
その目からは涙があふれ 毗曇(ピダム)もまた涙した
『なぜ今になって そんなことを言うんだ』
『言ったさ 姉上も!ソルォン公も… この私もな
皆がそう言っていたのに お前は耳を貸さなかった…』
城門から 次々に捕らえられる貴族たちは
チュジン公を先頭に 門前のキム・ユシンに睨みを利かせ連行されていく
林宗(イムジョン)が報告する
『明活(ミョンファル)山城を制圧いたしました!』
『毗曇(ピダム) 夏宗(ハジョン) 美生(ミセン)
宝宗(ポジョン)が見当たりません 逃げたようです!』
『まだ近くにいるはずだ 狼(ナム)山と武華(ムファ)山
明活(ミョンファル)山城一帯を捜し 捕らえよ!』
そこへ 閼川(アルチョン)を伴い善徳(ソンドク)女王が姿を見せる
キム・ユシンが駆け寄る
『陛下!』
『ええ 何ですか?』
『毗曇(ピダム)を捕らえた後の処遇は?』
一瞬の沈黙の後
善徳(ソンドク)女王の答えを待つユシン そして閼川(アルチョン)
『不安なのですか 私があの者を生かすのではと』
『いいえ そうではなく…』
『すでに毗曇(ピダム)は神国の敵と宣布し 殺害を命じています
なぜまた確認するのです?』
『……』
ミシルの墓の前に座り込んでいるのは
ミシルの弟の美生(ミセン)と
世宗(セジョン)とミシルの息子である夏宗(ハジョン)だ
チルスクの乱の時に 善徳(ソンドク)女王によって生かされたが
今またこうして 逃亡の身となってしまった
『叔父上… 後悔を?』
『とんでもない 男としてこの世に生まれ
100人以上も子をもうけ 幾人もの女と過ごした
持てる才能を存分に発揮し 権力を握り そして手放した
楽しかった… 実に楽しかった』
そう言いながら 美生(ミセン)は泣き笑いの表情で空を見上げた
『叔父上が うらやましいです…』
『アッハハ… お前はユシンの義理の父親だ 殺されずに済むさ』
『……本当ですか?』
『ハッハッハ… 来たぞ!』
林宗(イムジョン)の軍勢が押し寄せ 2人を取り囲む
『逆賊を!王命により捕らえる!!!』
夏宗(ハジョン)は怯えきって美生(ミセン)の背後にまわり しがみつき
美生(ミセン)は 豪快に笑いながら涙を滲ませた
善徳(ソンドク)女王は 民の前で激励の訓示を述べた
額には汗が滲んでおり その体調の変化に気づいたのは
侍衛府令(シウィブリョン)閼川(アルチョン)だけだった
『陛下 私が背負います』
『民の前です… 自分で歩きます』
『…承知いたしました』
善徳(ソンドク)女王が玉座から退席した後 民の間にざわめきが起こる
誰もが夜空を見上げている
『あの星 揺れていないか?』
『本当だ!!!』
夜空にまたたく星の 最も輝きを放つ星が揺れ ついには流れ星となった…!
その瞬間 善徳(ソンドク)女王は崩れるようにして倒れ込む
『陛下!』
『陛下ーーーっ!』
駆け寄る金春秋(キム・チュンチュ) キム・ソヒョン キム・ユシン!!!
苦しそうな呼吸に喘ぎながら 善徳(ソンドク)女王が…
『騒ぎ立てる必要はありません』
『輿を持て!!!』
閼川(アルチョン)が 必死に耐えている体を支える
民衆の間から叫び声が…!
『星が落ちたのは月(ウォル)城の方角だ!!!』
※月(ウォル)城:徐羅伐(ソラボル)の都城
明活(ミョンファル)山城でも 皆が夜空を見上げ驚愕している
毗曇(ピダム)はほくそ笑み 民に向かって言い放った
『月(ウォル)城に星が落ちた!これは月(ウォル)城の敗北を意味する!
月(ウォル)城の運は尽き!月(ウォル)城に血が流れるだろう!
我々は天の味方だ!新たな神国のために!』
※神国:新羅(シルラ)の別称
そこですかさずヨムジョンが…
『上大等(サンデドゥン)毗曇(ピダム)公 万歳!!!』
『万歳!!!』
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
一気に士気が高まり ミシルの一族と貴族たちは歓喜に満ちた奇声を上げる
すでに迷いから脱した毗曇(ピダム)は 真っ直ぐに一点を見つめる
(私が神国となる! そして徳曼(トンマン) お前を手に入れる!)
寝所に運ばれた善徳(ソンドク)女王
脈診した医官は 狼狽するばかり…
『へ…陛下!』
『薬を処方してまいれ』
『ですが陛下…!』
『もうよい 下がりなさい』
医官と入れ違いに キム・ユシンが入ってくる
『陛下 どこがお悪いのですか?』
無理に起き上がろうとする善徳(ソンドク)女王
『寝ていてください!』
『いいえ この病は 横になると頭痛がひどくなるのです』
『いつからお悪いのですか 何の病なのです?』
『……』
『陛下 説明してください』
2人のやり取りを 閼川(アルチョン)は 気が気ではない様子で見守る
『私が神国に来た初めての夜のことでした ある夢を見たのです
私は夢の中で ムンノを捜していました』
それは まだ少女だった徳曼(トンマン)が 市場を聞きまわっている頃のこと
「ムンノだって?」
「知ってる?」
「寺にいるらしい」
「寺に?」
「いや 太白(テぺク)山の仙人になったそうだ 雲に乗って空を飛ぶらしい」
誰に何を聞いても ムンノのはっきりとした行方は分からなかった
途方に暮れて歩いていると 白い絹の服を着た女性が近づいてきて
ふいに 少女徳曼(トンマン)を抱きしめたのだった
「ちょっと何をするんです!放してください!」
善徳(ソンドク)女王は 夢の中の出来事を 丹念に思い出しながら話す
『その女性は私を抱きしめ 涙を流していました
昨日 数十年ぶりにその夢を見たのです 誰だったのだろう あの女性は…』
『陛下 ご病気のことをお尋ねしたのです』
閼川(アルチョン)はキム・ユシンに目配せをし、首を横に振り
善徳(ソンドク)女王の話を受け入れるように聞き返す
『陛下 誰だったのです?』
『それが… 分からぬのです 顔が思い出せません
上将軍(サンジャングン)』
『はい 陛下』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
『上将軍(サンジャングン)の立てた作戦を許可します 今夜実行してください』
『…承知いたしました』
寝所を出たところで 閼川(アルチョン)はすべてをキム・ユシンに話した
『何だと?それは本当なのか!』
『私も最近知った』
『そんな… 何てことだ!』
『陛下は このような時に噂が広がってはならぬと 医官にも口止めを』
苦悩の表情で キム・ユシンは再び寝所に戻っていく
夢にうなされているかのように 善徳(ソンドク)女王の寝顔は苦しそうだった
ふと 善徳(ソンドク)女王の言葉を思い出す
「王座を譲って… 毗曇(ピダム)と静かに暮らしたい
それは最後の夢で… 私の本心でした」
自らの命の限りを予感していたのか…
しかし 善徳(ソンドク)女王の本心を知らぬ毗曇(ピダム)
上将軍(サンジャングン)キム・ユシンは 作戦会議を開く
『より多くの貴族が合流する前に戦を終え 被害を食い止める
東西南北4つの門から 明活(ミョンファル)山城へ攻め入ります』
『では 陽動作戦ですか?』
『声東撃西(せいとうげきせい)なら どこがおとりですか?』
※声東撃西:兵法三十六計の陽動作戦の一種
『おとりはありません すべてが本物で同時攻撃です
東西南北の4つの門が開いたら 私は本体を率い城の正面を攻めます』
一方 毗曇(ピダム)は…
『月(ウォル)城では すぐに決着をつけようとするはず』
『ええ 貴族らが合流する前に戦いを終わらせる気でしょう』
『ここ明活(ミョンファル)山城を守り切れば 我々は勝てます
貴族らが集まるまで耐え抜きましょう』
『ユルポ県にいる兵も徐羅伐(ソラボル)へ向かっています』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
『明日には さらに5千の兵が我々の味方に』
『兵は全部で2万人 真っ向勝負も可能です』
『アッハッハ… 味方が増える一方だ!徐羅伐(ソラボル)へ来て正解でした!』
浮かれる夏宗(ハジョン)を無視して 毗曇(ピダム)が冷静に言い放つ
『兵が集まるまでは 防御に徹しなければなりません
今夜 そして明日までが勝負です 耐え抜けば武運は我々に傾くでしょう』
まさに知略の戦いとなる様相を呈し キム・ユシンは…
『まずは閼川(アルチョン)が防御点を攻めます 陛下の許しは得ました
防御点を制圧したら 林宗(イムジョン) 徳充(トクチュン) 朴義(パグィ)
月夜(ウォルヤ)下将軍(ハジャングン)が 4つの門を一斉攻撃します』
『そんなことが可能なのか その作戦では防御点の制圧後
4方向から同時に総攻撃するということだが
各門にいる兵に どうやって合図を送るのだ』
大将軍(テジャングン)キム・ソヒョンの疑問に閼川(アルチョン)も…
『角笛では敵に聞かれてしまうし 火矢では城の後方の兵に見えません』
『味方の全員に見えて 敵にばれない合図があるのか』
『月(ウォル)城に落ちた星のせいで 兵の士気が下がっています
あの星を空に戻すのです それが合図です』
キム・ユシンの作戦に従い まずは防御点に攻め入るユシンの兵
『敵だーーーっ!!!防御態勢を取れ!!!』
『向こう側を守れ!!!』
閼川(アルチョン)の指揮のもと 防御点は制圧された
『準備しろ!』
『はい!』
谷使欣(コクサフン)が松明で合図を出すと 暗闇で動きがあった
間もなくして 毗曇(ピダム)のもとへ伝令が飛び込んでくる
『上大等(サンデドゥン)!!!防御拠点が敵に襲われました!』
『何だと?!』
『防御拠点が攻撃を?』
城に直接攻撃があるものと思っていた毗曇(ピダム)は 動揺する
『はい 蹶張弩(クォルチャンノ)部隊の奇襲です!』
『南東と川岸にも兵の動きがありました』
『四方から城へ攻め入るつもりか!!!』
狼狽する夏宗(ハジョン)を無視し 美生(ミセン)が…
『……これは陽動作戦です』
『城を取り囲む気だ!』
『あるいは後方を狙うとも考えられます』
『すぐどこかに兵を送らないと!』
さらにうろたえる夏宗(ハジョン)は もはや誰からも無視される
『いいえ かく乱です
ユシンの本体以外に惑わされてはなりません
明日まで持ちこたえれば勝機をつかめます』
不安を募らせる一同に 毗曇(ピダム)はひるむことなく…
『宝宗(ポジョン)公 ピルタン公 兵は移動しない!
守りを強化し 敵の動きを引き続き見張るように』
『承知いたしました!』
そこへ 取り乱して叫びながらヨムジョンが飛び込んでくる…!!!
とにかく外へと促され出てみると 兵士たちが夜空を見上げて動揺している
『星だ!月(ウォル)城の方角だ!星が空に戻っていくぞ!』
『本当に星じゃないか 昇っていくぞ!』
『何と… 落ちた星が空に戻るとは』
忌々しく夜空を睨みつける毗曇(ピダム)
確かに瞬きながら 星が昇っていく
しかし 美生(ミセン)だけはなぜか面白げな表情になり 笑い出すのだった
『そういうことか… あれは凧だ 凧ですよ』
『凧?』
『凧に火をつけ揚げているのです アッハハハ… 偽物です』
『では 我が軍の士気を下げようと?』
絡繰りを見破り得意気な美生(ミセン)
しかし 毗曇(ピダム)は険しい表情でさらに夜空を睨みつける!
『違う… あれは攻撃の合図だ!!!我が軍の注意を引くためだ!』
毗曇(ピダム)の推測通り 四方の門の兵士たちは皆 夜空に夢中だった
迫りくる敵の気配に気づく者は 誰一人いなかった
石塀をよじ登って侵入した林宗(イムジョン)が 部下に指示を出す
『城門を開けよ!!!』
『はい!』
開かれた城門から 総指揮をしている閼川(アルチョン)を先頭に
軍勢がなだれ込むように押し寄せる
その隊列の中には サンタクの姿があった
サンタクは 辺りを窺うようにしながら隊列から抜け出す…
その頃 毗曇(ピダム)のもとには次々と伝令からの報告が入っていた
『上大等(サンデドゥン)!東門が突破されました!!!』
『南門から朴義(パグィ)と徳充(トクチュン)率いる大軍が!!!』
毗曇(ピダム)はじっと考え込む
夏宗(ハジョン)は泣きそうな声で…
『えぇっ?!!!南門も突破されたのか?!!!』
『どうなっているんだ!!!』
苛立ちながら毗曇(ピダム)が命令を下す
『直ちに東門と南門へ兵を移し 敵を西門に誘い出せ!
私が自ら軍を率いて行く』
『はい!』
執務室に戻ろうとする毗曇(ピダム)の前に サンタクが姿を見せる
『サンタク… どうしたのだ!』
『上大等(サンデドゥン)…』
すべてを知ったサンタクは ヨムジョンに殺されかけた
何としても 真実を毗曇(ピダム)に告げねばと戻ったのだった
耳元でささやくサンタクの言葉に みるみる表情が変わる毗曇(ピダム)!
執務室では ヨムジョンが貴族たちに…
『すぐに城を脱出しなくては!!!』
『ああ 陥落するのも時間の問題だ!』
『キソン峠にホユン公の部隊が!無事な北門に行き策を練ってください!』
『分かった!』
貴族たちが退室し 慌ただしく脱出の準備をするヨムジョン
そこへ…
『毗曇(ピダム)公!急いで城から脱出し ホユン公と合流し
敵に決戦を挑みましょう!!!』
黙り込み じっとヨムジョンを見つめる毗曇(ピダム)
その目には涙さえ滲んでいる
『どうなさったのです』
『薄汚い奴め…侍衛府(シウィブ)の兵士フクサンのことだ』
※侍衛府(シウィブ):近衛隊
途端にヨムジョンは不敵な笑みを浮かべる
『バレたか…』
毗曇(ピダム)とヨムジョンが睨み合っている間にも
次々と城門は開かれ いよいよキム・ユシンが軍を率いて現れた
『連中は神国の敵だ!神国の敵を壊滅させよ!』
迫りくるユシンの軍勢のことも知らず 毗曇(ピダム)はヨムジョンににじり寄る
『すべてお前の謀略だったのだな!』
『お前はそこが問題だ 何でも人のせいにする』
もはやヨムジョンは 上大等(サンデドゥン)として崇めることもしない
知り合った頃のように 毗曇(ピダム)に対してタメ口で話し始めた
『ムンノを殺したのも 反乱も 陛下に刃向ったのも俺のせいか?フッハハハ…
俺がやらなくても お前はムンノを殺していたさ』
『黙れ!!!』
ヨムジョンの胸ぐらをつかむ毗曇(ピダム)
しかしヨムジョンはもう 毗曇(ピダム)を怖がることもせず 遠慮なしに話す
『俺がやらなくてもお前は陛下を手に入れるために何でもした!!!』
『その口を閉じろーーーっ!!!』
『この10年間 権力の掌握に力を注いだのはなぜだ!』
『……』
『ムンノに捨てられたから?ミシルの遺志を継ぐため?
俺にそそのかされたからだと? それは違う お前の中に潜んでいたのさ
王となり すべてを手にしたい欲がな!!!』
小刻みに震え 毗曇(ピダム)は動揺しながら声を振り絞る
『それは… お前の… 思い違いだ そうではない! 俺はただ…』
『あぁ~ 陛下への恋心か?お前が恋にのぼせてすべてがおかしくなった
俺はほんの少し軌道修正しただけさ』
『……』
『もし 恋が成就していたら何か変わったとでも?
それでもお前は反乱を起こしたはずだ なぜかって? 不安だからさ
お前は いつ陛下に見捨てられるかと怯え 信じられないから』
毗曇(ピダム)の動揺が 狼狽に変わる
ヨムジョンの胸元から手を放し 毗曇(ピダム)はうなだれた
『お前はそういう奴だ 人を信じられず
自分が裏切られ 捨てられることを恐れている』
『やめろーーーっ!!!』
『ところで知ってるか?陛下はお前を 最後まで信じていた』
最後の言葉が 毗曇(ピダム)を打ちのめした
『信じられなかったのも 揺らいだのもお前だ
お前たちの恋を壊したのは…陛下でも俺でもない
それはお前自身だ アーッハハハ…』
高笑いしながら出て行こうとするヨムジョンを毗曇(ピダム)が引き止め
振り向き様の胸を剣で一突きした
(違う… そうじゃない)
そこへ 美生(ミセン)が駆け込んでくる
『上大等(サンデドゥン)!早く来てください!北門へ…』
こと切れたヨムジョンを発見し 狼狽する美生(ミセン)
ヨムジョンを殺したということは 毗曇(ピダム)が真実を知ったということだ
『違う… そうじゃない!!!』
出て行こうとする毗曇(ピダム)の行く手を遮る美生(ミセン)
『どけ』
『私も殺していけ』
何?という顔で見つめる毗曇(ピダム)
美生(ミセン)もまた 知り合った頃のように
毗曇(ピダム)を見下す話し方をし始めた
『お前が姉上に似ているなどと… 思った私が愚かだった
お前を信じ大業を遂げるなど!無理なことだったのだ
姉上は… 買いかぶり過ぎた』
『大業か… ミシルの夢のために生まれ ムンノの夢のために育てられた
大業はお前たちの夢だろう』
『姉上に捨てられ ムンノに愛情をかけられず
我々に恋路を邪魔されたというのか』
『……』
『いいか毗曇(ピダム) 烔宗(ヒョンジョン)よ』
※烔宗(ヒョンジョン):毗曇(ピダム)の本来の名
『自分のせいだと認めたくないようだが
自分を破滅させられるのは 自分自身だけだ
誰もお前を破滅させることは出来ない!!!
すべて!お前のせいに他ならぬ まったく哀れな奴だ…』
美生(ミセン)はこの時 ミシルの弟として また毗曇(ピダム)の叔父として
愛情をこめて苦言を呈したのだ
その目からは涙があふれ 毗曇(ピダム)もまた涙した
『なぜ今になって そんなことを言うんだ』
『言ったさ 姉上も!ソルォン公も… この私もな
皆がそう言っていたのに お前は耳を貸さなかった…』
城門から 次々に捕らえられる貴族たちは
チュジン公を先頭に 門前のキム・ユシンに睨みを利かせ連行されていく
林宗(イムジョン)が報告する
『明活(ミョンファル)山城を制圧いたしました!』
『毗曇(ピダム) 夏宗(ハジョン) 美生(ミセン)
宝宗(ポジョン)が見当たりません 逃げたようです!』
『まだ近くにいるはずだ 狼(ナム)山と武華(ムファ)山
明活(ミョンファル)山城一帯を捜し 捕らえよ!』
そこへ 閼川(アルチョン)を伴い善徳(ソンドク)女王が姿を見せる
キム・ユシンが駆け寄る
『陛下!』
『ええ 何ですか?』
『毗曇(ピダム)を捕らえた後の処遇は?』
一瞬の沈黙の後
善徳(ソンドク)女王の答えを待つユシン そして閼川(アルチョン)
『不安なのですか 私があの者を生かすのではと』
『いいえ そうではなく…』
『すでに毗曇(ピダム)は神国の敵と宣布し 殺害を命じています
なぜまた確認するのです?』
『……』
ミシルの墓の前に座り込んでいるのは
ミシルの弟の美生(ミセン)と
世宗(セジョン)とミシルの息子である夏宗(ハジョン)だ
チルスクの乱の時に 善徳(ソンドク)女王によって生かされたが
今またこうして 逃亡の身となってしまった
『叔父上… 後悔を?』
『とんでもない 男としてこの世に生まれ
100人以上も子をもうけ 幾人もの女と過ごした
持てる才能を存分に発揮し 権力を握り そして手放した
楽しかった… 実に楽しかった』
そう言いながら 美生(ミセン)は泣き笑いの表情で空を見上げた
『叔父上が うらやましいです…』
『アッハハ… お前はユシンの義理の父親だ 殺されずに済むさ』
『……本当ですか?』
『ハッハッハ… 来たぞ!』
林宗(イムジョン)の軍勢が押し寄せ 2人を取り囲む
『逆賊を!王命により捕らえる!!!』
夏宗(ハジョン)は怯えきって美生(ミセン)の背後にまわり しがみつき
美生(ミセン)は 豪快に笑いながら涙を滲ませた
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