善徳女王 37話#1 ユシンの婚礼
『はい セジュの懐に飛び込みます』
『アッハッハッハ… 私の懐に飛び込むですって?
私が若ければ 実際に胸に抱いていたのに!!!
では 私たちの情の証しとして 我が一族のヨンモと婚姻を!』
※セジュ:王の印を管理する役職
ヨンモとは 夏宗(ハジョン)の娘である つまりミシルの孫にあたる
『はい そういたします』
衝撃の婚姻について 徳曼(トンマン)はミシルと対峙する
『一族のご婚儀をお祝い申し上げます』
『はい ユシン郎(ラン)自身が強く望んでおりますので』
『生きるためです』
『立派な風月主(プンウォルチュ)になるよう支援します』
※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長
『そうすべきです 武術の腕も人格も優れた方ですから』
『しかし私は これでユシン郎(ラン)が私のものになるとは思っていません』
『はい私もユシン郎(ラン)を奪われぬように努めます 必死に』
『必死に?よく分かっておられますね』
『私の相手は手強いですから』
『私は 陛下に仕える家門の出ですので
幼い時から殿方に尽くす術を教わって来ました』
『はい チヌン大帝 トンニュン太子 真智(チンジ)王に仕えていたそうですね
世宗(セジョン)公やソルォン公 それに名も知れぬ村人にも』
『おかげで 殿方の心を捉えるのに苦労したことはありません
でも 聖骨(ソンゴル)の王女様は 立場上ご無理でしょう
必死になるしかありませんね』
※聖骨(ソンゴル):父母共に王族である新羅(シルラ)の身分制度の最高位
『いつも心からの忠告を ありがとうございます』
ミシルの執務室から出てくると 外にはユシンが待っていた
無視して行こうとすると ユシンは徳曼(トンマン)の前に立ちふさがる
『いずれにせよ王女様と私は…』
『ユシン郎(ラン)のおかげで悟りました!民を守ることは簡単ではないと
ミシルが伽耶の民を人質にしているのでは ユシン郎(ラン)が妥協する以外に
伽耶の民を守る方法はない』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
『驚くべき悟りです!本当に他に方法はないのですか?』
『それは分かりません ですがこれだけは分かっています
“檀君(タングン)王以来 分裂しているこの土地を1つにせよ”
200年前からの新羅(シルラ)の夢です』
※檀君(タングン)王:古朝鮮(コジョソン)時代の初代王
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
『私は それを後世に伝えた新羅(シルラ)の王たちに魅了されました
その夢の大きさにも 同じ夢を追えることだけで胸がいっぱいになりました
私は チヌン大帝を支えた居柒夫(コチルブ)公や異斯夫(イサブ)公
今のソルォン公を超える武将となり 兵法家になります
王女様は チヌン大帝を超え ミシルを超える政治家 政策家におなりください
それが 私たちをつなぐ唯一の道です』
(私の気持ちは?どうなるの?)
立ち去ろうとする徳曼(トンマン)に ユシンはもうひと言だけ加えた
『王女様 君臣間の絆は 男女の愛よりも守るのが困難です
我々は もっと険しい道を進みます 我々の絆が試される時なのです』
『……分かっています』
(骨身に染みるほど分かっています)
一方ムンノとヨムジョンの話は続き 毗曇(ピダム)は辛抱強く立ち聞きしている
『執筆できる場所を用意してくれ』
『よほど信用できる者なのですね 分かりました』
『感謝している そなたのおかげで本の完成を決意出来た』
『とんでもない ピルブに同行してください
後日 百済(ペクチェ)と高句麗(コグリョ)の情勢を報告します
ではピルブの所へご案内を』
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
出てくる2人
毗曇(ピダム)は咄嗟に隠れる
賭博場での遊びを終えて帰ってきた美生(ミセン)と春秋(チュンチュ)
『兵部令(ピョンブリョン)を連れてきます』
※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官
1人になった春秋(チュンチュ)は それまでの軽薄な笑みを消し
不敵な表情で部屋を見廻す
『兵部令(ピョンブリョン)の屋敷か…』
宝宗(ポジョン)の娘宝良(ポリャン)は 化粧の真っ最中
祖父にあたるソルォンが見守っている
そこへ咳払いをしながら入ってくる美生(ミセン)
『支度はできましたか』
『セジュの美生(ミセン)公への信頼が厚いので 支度はさせましたが
宝良(ポリャン)は本当に 春秋(チュンチュ)公のお好みなのでしょうか?』
『これまで言われた中で最も屈辱的な言葉です!』
『ハッハッハ…そういう意味ではありません まだ幼いので心配なだけです』
『ご心配なく どうだ できたかな』
化粧の具合を見て 突然に怒り出す美生(ミセン)
『何だ!宝良(ポリャン)には似合わん色だ!
杏色にしろ 宝良(ポリャン)の肌に合う よこせ!』
美生(ミセン)が化粧を直すと 見違えるように明るい表情になる
『どれ 笑ってごらん 違う そんな笑い方ではない そっと微笑むのだ
セジュの微笑みを見たことないか』
『すみません』
『自分の任務の重さが分かっているのか?』
『それは十分に教えました』
ソルォンが答える
『非常に重要な任務だ 笑顔だけでなく言葉1つにも気をつけねばならん』
『春秋(チュンチュ)公は非常に気難しい方です
酒や食事にも いちいち評価を下すとか』
『本当に驚くべき方です』
父宝宗(ポジョン)と大男甫(テナムボ)の話に 不安を抱く宝良(ポリャン)だった
いよいよ2人が引合され 宝良(ポリャン)が カヤグムの演奏を披露する
『宝良(ポリャン)の演奏の腕前はなかなかでしょう?』
『ええ』
『叔父様の腕前にはかないません』
『同感だ』
『いやお恥ずかしい』
2人の様子を窺う美生(ミセン)
ソルォンが そろそろお開きの時間だという意味の挨拶をする
『是非またお越しを』
『隋の文化や情勢について お話を伺いたい』
『私の知識など大したものでは…』
そう言って チラと宝良(ポリャン)を見る春秋(チュンチュ)
『ご自分の家だと思って 気楽にいらしてください』
『そうですとも 宝良(ポリャン)にも世の中の広さを教えてやってください』
『分かりました』
『宝良(ポリャン)は 手の動きが美しいですな アハハ…』
ムンノの前に 乱暴に現れる毗曇(ピダム)
国仙(ククソン)であるムンノを護衛している兵士が遮るが…
『構わぬ 皆 下がれ』
毗曇(ピダム)は 深刻な表情でムンノの前にひざまずいた
『自分の未熟さは承知しています ご期待に添えていないことも
もっと… もっと精進します ですから…!』
『そうだ もっと自分を磨け いや 私と一緒に努力していこう』
『では… あの本を… 私に下さい』
『私とここを発つと言ったはずだ
ここでの出来事や人々を忘れて 私と発とう』
立ち上がった毗曇(ピダム)の中には ムンノを責める気持ちが沸き起こる
『なぜユシンなのですか?
“王より偉大で 王より長く続く歴史の主に” とおっしゃいました』
ムンノは 少年の毗曇(ピダム)に聞かれたことを思い出す
「師匠」
「今度は何が知りたいのだ」
「私の成すべき大業とは 王になることですか?」
「いいや 王よりも大きく王よりも偉大だ」
「そんなものが?」
「王は国の主だが この大業を成す者は 三国の歴史の主になるのだ」
「三国の歴史の主?」
「そうだ」
毗曇(ピダム)は必死に訴える
『師匠のあの一言に どれほど私の胸が躍ったか分かりますか
師匠のあの言葉に動かされ 幼かった私は…!
何十人も殺してまで あの本を守ったのです
あれは大事な物で 私の物だと言ったから!!!』
『……』
『師匠に認められたかった
なのになぜ ユシンなのですか
長年仕えてきた私ではなく!なぜ数回会っただけのユシンなのです?』
『お前の本心だったからだ!
お前はただ 私に褒められたい一心で彼らを殺した それがお前の本心だ』
『……』
『お前はそういう男だ ミシルと同じだ…
覚えておけ 本は決してお前の物にならない』
毗曇(ピダム)の表情は絶望感に変わっていく
ムンノの目には怒りが見える
『皆の者!!!』
『はい!』
『今後 ここに誰も入れるな!』
事実上 ムンノと毗曇(ピダム)との決別の瞬間だった
ミシルと同じだと言われた毗曇(ピダム)の中に 新たな感情が芽生え始めた
キム・ソヒョンと万明(マンミョン)夫人が 息子ユシンの決意を報告するため
真平(チンピョン)王を訪ねる
『結局そうするしかないのか?』
『申し訳ございません』
『どうかご理解ください』
『分かっているとも』
『陛下…』
『王女でさえ耐えているのだ 私には何も言えぬ』
『世宗(セジョン)公の家門との婚姻とはいえ
陛下に対する 私やユシンの忠誠は変わりません』
キム・ユシンと徳曼(トンマン)の仲は周知の事実
龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)たちは 訓練にも身が入らない
『王女様を捨てるなんてユシン郎(ラン)もひどい』
『一時はお2人で逃げた仲なのに』
『王女様が心配だ』
『ユシン郎(ラン)を誤解していた』
『俺も… これは裏切りだ!』
『そうじゃない ユシン郎(ラン)は悩み抜き 試練を乗り越えたんだ
愛より大義を選んだ 男ってのは…
とにかくユシン郎(ラン)は 大きなことを成し遂げる方だ』
竹方(チュクパン)の意見に 高島(コド)は…
『俺は気に入らない』
『うるさい! そうだ 西域から商人が来てるな 来い!』
『2人でどこへ?』
ユシンの決意を知り 雪地(ソルチ)が月夜(ウォルヤ)に…
『王子様!ユシン郎(ラン)のあの選択には本当に驚きました』
『政治的には正しい判断だ 伽耶の民は守られた
ミシルセジュと手を組んでも 我々に損はない』
『ですが 王女様とユシン郎(ラン)の仲は格別だったようです
王女様はご傷心のはず』
『お前はユシン郎(ラン)に助けられたな』
『……分かっております』
復耶会の首領の首を差し出せと言われ
王子の月夜(ウォルヤ)を守るため
一時は自分の首をと願い出ていた雪地(ソルチ)だったのだ
マヤ王妃は 傷心しているはずの娘徳曼(トンマン)を訪ねる
『徳曼(トンマン) 執務に没頭しても…』
『母上 春秋(チュンチュ)が心配です
宮殿を空けてばかりで読書もしません』
『そうね 隋にいた頃も 本を渡して半日も経たずに
別の本を持ってこいと言って 1冊も読み終えてないそうだ』
『私が様子を見に行きます』
パラパラと本をめくり つまらなそうにしている春秋(チュンチュ)
その横で閼川(アルチョン)が 鬼のような顔で睨んでいる
『他の本は?』
閼川(アルチョン)は 春秋(チュンチュ)の左手の中の物を取り上げる
それは 破った本で作られた紙風船だ
『本を破ってこんな物を作るとは
まだお若いとはいえ こんなことはいけません
天明(チョンミョン)王女様は無念のうちに亡くなられたのに』
本気で怒っている閼川(アルチョン)を上目づかいに見て
春秋(チュンチュ)は袖の中からもう1つの紙風船を取り出す
『酒令具(チュリョング)に似てないか?』
『いけません!こんなことをしている場合では…』
気づくと 徳曼(トンマン)が来ており 春秋(チュンチュ)を睨みつけている
『王女様お見えでしたか』
途端にふざけるのをやめ 険しい表情になる春秋(チュンチュ)
閼川(アルチョン)を退室させ 2人で話す
『そなたの母上を利用するなと私に言ったな
母上の代わりとなるのは 私ではなく自分だと
そう言ったそなたが こんな態度を? 母上は…』
『王女様! お暇なようですね』
春秋(チュンチュ)の言葉に呆れ果てる徳曼(トンマン)
『私は好きにしますので 母親の真似事はやめてください』
高島(コド)を連れて訓練場を抜け出した竹方(チュクパン)は
塀の向こうの昭火(ソファ)を見ている
高島(コド)が…
『すみません お時間あります?よければ私の兄貴と少しお話を
あなたに惚れまして…』
高島(コド)を押しのけ 自分から話しかける竹方(チュクパン)
『あの… 王女様にお目通りを願いたいのです』
『春秋(チュンチュ)公とお話し中です お待ちください』
『すみません ちょっと待ってください』
竹方(チュクパン)は 木彫りの像のようなものを昭火(ソファ)に渡し
その像が頭に巻いている物を指さす
『王女様に出会った時 これを頭に巻いていました』
『ええ 西域人が頭に巻くターバンですね』
『ええ ターバン 王女様が郎徒(ナンド)として生活なさっていた頃
“砂漠にいた時が一番幸せだった” と』
『そうですか』
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
『今 王女様はおつらいはずです ユシン郎(ラン)のことで』
『ええ』
『それでこれを買ったんです』
『買ったのは俺だ!!!』
余計なことを言う高島(コド)を蹴飛ばす竹方(チュクパン)
どうやら西域の商人から木彫りの像を買ったようだ
『つらい時は故郷を思い出すのが一番です 王女様に』
『ありがとうございます』
『とんでもない』
『一緒に幽閉されていた時も 私にお気遣いを… お礼も言えませんでした
本当にお優しい方ですね』
『優しいなんて… それほどでもないですよ エヘヘ…』
昭火(ソファ)が入って行くと 徳曼(トンマン)は1人泣いていた
木彫りの像を渡す昭火(ソファ)
『竹方(チュクパン)さんが渡してくれと』
『驚いた 砂漠でよく見た西域人だわ』
『ええ “やあ徳曼(トンマン)” “久しぶりだな”』
『ウフフ… カターンおじさん?』
『“新羅(シルラ)の王女になったって?
英雄を目指していた君が 王女になったのか”』
『そうよ』
木彫りの像を使い 口真似をする昭火(ソファ)
徳曼(トンマン)は 懐かしさと嬉しさで久々に笑顔を取り戻し涙ぐんだ
『“気の毒だな 英雄とは孤独なものだ”』
『……』
『王女様…』
『お願い 徳曼(トンマン)と… もう一度私を呼んで』
『…徳曼(トンマン)』
『母さん! 私つらいの… 明日です』
昭火(ソファ)は思わず立ち上がり 徳曼(トンマン)を抱きしめた
翌日
キム・ユシンと夏宗(ハジョン)の娘ヨンモとの婚礼が行われた
徳曼(トンマン)は 月夜(ウォルヤ)雪地(ソルチ)を伴い農地の視察へ
『ユシン郎(ラン)がどのように押梁州(アンニャンジュ)と民を守ったか
分かりますね』
『もちろんです 自分を犠牲にして土地を与え 飢えから救ってくださった
絶望のどん底だった暴徒の村を 王女様もご覧になったでしょう』
『だからこそ この地の民はユシン郎(ラン)に服従するでしょう
農業や訓練に励み そしてどんな秘密も守り抜くはずです ご安心を』
山中に1人 毗曇(ピダム)は考え込んでいる
「お前が全力で戦って ユシンに勝てたかどうかは分からないぞ」
「お前はただ 私に褒められたい一心で彼らを殺した お前はそういう男だ」
「私はあの男に懸ける」
ムンノは完成させた三韓地勢を持って歩いて行く
すると目の前に 毗曇(ピダム)が現れる
『本が完成したのですか?』
『本のことは忘れろ』
『どうしても その本をユシン郎(ラン)に渡すと?』
『……』
『ではその前に 私を倒さねば…』
『何だと』
『その本は私の物です!他の誰にもその本は渡さない』
『本当に愚かな奴め お前にこの本の主になる資格はない』
『資格?それは師匠が私に与えるべきものでしょう
教えるのが師匠の務めです』
『殺生はいけないと 教えねばならんのか? そこをどけ』
『嫌です』
『どけ!!!』
『どきません!!!』
『アッハッハッハ… 私の懐に飛び込むですって?
私が若ければ 実際に胸に抱いていたのに!!!
では 私たちの情の証しとして 我が一族のヨンモと婚姻を!』
※セジュ:王の印を管理する役職
ヨンモとは 夏宗(ハジョン)の娘である つまりミシルの孫にあたる
『はい そういたします』
衝撃の婚姻について 徳曼(トンマン)はミシルと対峙する
『一族のご婚儀をお祝い申し上げます』
『はい ユシン郎(ラン)自身が強く望んでおりますので』
『生きるためです』
『立派な風月主(プンウォルチュ)になるよう支援します』
※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長
『そうすべきです 武術の腕も人格も優れた方ですから』
『しかし私は これでユシン郎(ラン)が私のものになるとは思っていません』
『はい私もユシン郎(ラン)を奪われぬように努めます 必死に』
『必死に?よく分かっておられますね』
『私の相手は手強いですから』
『私は 陛下に仕える家門の出ですので
幼い時から殿方に尽くす術を教わって来ました』
『はい チヌン大帝 トンニュン太子 真智(チンジ)王に仕えていたそうですね
世宗(セジョン)公やソルォン公 それに名も知れぬ村人にも』
『おかげで 殿方の心を捉えるのに苦労したことはありません
でも 聖骨(ソンゴル)の王女様は 立場上ご無理でしょう
必死になるしかありませんね』
※聖骨(ソンゴル):父母共に王族である新羅(シルラ)の身分制度の最高位
『いつも心からの忠告を ありがとうございます』
ミシルの執務室から出てくると 外にはユシンが待っていた
無視して行こうとすると ユシンは徳曼(トンマン)の前に立ちふさがる
『いずれにせよ王女様と私は…』
『ユシン郎(ラン)のおかげで悟りました!民を守ることは簡単ではないと
ミシルが伽耶の民を人質にしているのでは ユシン郎(ラン)が妥協する以外に
伽耶の民を守る方法はない』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
『驚くべき悟りです!本当に他に方法はないのですか?』
『それは分かりません ですがこれだけは分かっています
“檀君(タングン)王以来 分裂しているこの土地を1つにせよ”
200年前からの新羅(シルラ)の夢です』
※檀君(タングン)王:古朝鮮(コジョソン)時代の初代王
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
『私は それを後世に伝えた新羅(シルラ)の王たちに魅了されました
その夢の大きさにも 同じ夢を追えることだけで胸がいっぱいになりました
私は チヌン大帝を支えた居柒夫(コチルブ)公や異斯夫(イサブ)公
今のソルォン公を超える武将となり 兵法家になります
王女様は チヌン大帝を超え ミシルを超える政治家 政策家におなりください
それが 私たちをつなぐ唯一の道です』
(私の気持ちは?どうなるの?)
立ち去ろうとする徳曼(トンマン)に ユシンはもうひと言だけ加えた
『王女様 君臣間の絆は 男女の愛よりも守るのが困難です
我々は もっと険しい道を進みます 我々の絆が試される時なのです』
『……分かっています』
(骨身に染みるほど分かっています)
一方ムンノとヨムジョンの話は続き 毗曇(ピダム)は辛抱強く立ち聞きしている
『執筆できる場所を用意してくれ』
『よほど信用できる者なのですね 分かりました』
『感謝している そなたのおかげで本の完成を決意出来た』
『とんでもない ピルブに同行してください
後日 百済(ペクチェ)と高句麗(コグリョ)の情勢を報告します
ではピルブの所へご案内を』
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
出てくる2人
毗曇(ピダム)は咄嗟に隠れる
賭博場での遊びを終えて帰ってきた美生(ミセン)と春秋(チュンチュ)
『兵部令(ピョンブリョン)を連れてきます』
※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官
1人になった春秋(チュンチュ)は それまでの軽薄な笑みを消し
不敵な表情で部屋を見廻す
『兵部令(ピョンブリョン)の屋敷か…』
宝宗(ポジョン)の娘宝良(ポリャン)は 化粧の真っ最中
祖父にあたるソルォンが見守っている
そこへ咳払いをしながら入ってくる美生(ミセン)
『支度はできましたか』
『セジュの美生(ミセン)公への信頼が厚いので 支度はさせましたが
宝良(ポリャン)は本当に 春秋(チュンチュ)公のお好みなのでしょうか?』
『これまで言われた中で最も屈辱的な言葉です!』
『ハッハッハ…そういう意味ではありません まだ幼いので心配なだけです』
『ご心配なく どうだ できたかな』
化粧の具合を見て 突然に怒り出す美生(ミセン)
『何だ!宝良(ポリャン)には似合わん色だ!
杏色にしろ 宝良(ポリャン)の肌に合う よこせ!』
美生(ミセン)が化粧を直すと 見違えるように明るい表情になる
『どれ 笑ってごらん 違う そんな笑い方ではない そっと微笑むのだ
セジュの微笑みを見たことないか』
『すみません』
『自分の任務の重さが分かっているのか?』
『それは十分に教えました』
ソルォンが答える
『非常に重要な任務だ 笑顔だけでなく言葉1つにも気をつけねばならん』
『春秋(チュンチュ)公は非常に気難しい方です
酒や食事にも いちいち評価を下すとか』
『本当に驚くべき方です』
父宝宗(ポジョン)と大男甫(テナムボ)の話に 不安を抱く宝良(ポリャン)だった
いよいよ2人が引合され 宝良(ポリャン)が カヤグムの演奏を披露する
『宝良(ポリャン)の演奏の腕前はなかなかでしょう?』
『ええ』
『叔父様の腕前にはかないません』
『同感だ』
『いやお恥ずかしい』
2人の様子を窺う美生(ミセン)
ソルォンが そろそろお開きの時間だという意味の挨拶をする
『是非またお越しを』
『隋の文化や情勢について お話を伺いたい』
『私の知識など大したものでは…』
そう言って チラと宝良(ポリャン)を見る春秋(チュンチュ)
『ご自分の家だと思って 気楽にいらしてください』
『そうですとも 宝良(ポリャン)にも世の中の広さを教えてやってください』
『分かりました』
『宝良(ポリャン)は 手の動きが美しいですな アハハ…』
ムンノの前に 乱暴に現れる毗曇(ピダム)
国仙(ククソン)であるムンノを護衛している兵士が遮るが…
『構わぬ 皆 下がれ』
毗曇(ピダム)は 深刻な表情でムンノの前にひざまずいた
『自分の未熟さは承知しています ご期待に添えていないことも
もっと… もっと精進します ですから…!』
『そうだ もっと自分を磨け いや 私と一緒に努力していこう』
『では… あの本を… 私に下さい』
『私とここを発つと言ったはずだ
ここでの出来事や人々を忘れて 私と発とう』
立ち上がった毗曇(ピダム)の中には ムンノを責める気持ちが沸き起こる
『なぜユシンなのですか?
“王より偉大で 王より長く続く歴史の主に” とおっしゃいました』
ムンノは 少年の毗曇(ピダム)に聞かれたことを思い出す
「師匠」
「今度は何が知りたいのだ」
「私の成すべき大業とは 王になることですか?」
「いいや 王よりも大きく王よりも偉大だ」
「そんなものが?」
「王は国の主だが この大業を成す者は 三国の歴史の主になるのだ」
「三国の歴史の主?」
「そうだ」
毗曇(ピダム)は必死に訴える
『師匠のあの一言に どれほど私の胸が躍ったか分かりますか
師匠のあの言葉に動かされ 幼かった私は…!
何十人も殺してまで あの本を守ったのです
あれは大事な物で 私の物だと言ったから!!!』
『……』
『師匠に認められたかった
なのになぜ ユシンなのですか
長年仕えてきた私ではなく!なぜ数回会っただけのユシンなのです?』
『お前の本心だったからだ!
お前はただ 私に褒められたい一心で彼らを殺した それがお前の本心だ』
『……』
『お前はそういう男だ ミシルと同じだ…
覚えておけ 本は決してお前の物にならない』
毗曇(ピダム)の表情は絶望感に変わっていく
ムンノの目には怒りが見える
『皆の者!!!』
『はい!』
『今後 ここに誰も入れるな!』
事実上 ムンノと毗曇(ピダム)との決別の瞬間だった
ミシルと同じだと言われた毗曇(ピダム)の中に 新たな感情が芽生え始めた
キム・ソヒョンと万明(マンミョン)夫人が 息子ユシンの決意を報告するため
真平(チンピョン)王を訪ねる
『結局そうするしかないのか?』
『申し訳ございません』
『どうかご理解ください』
『分かっているとも』
『陛下…』
『王女でさえ耐えているのだ 私には何も言えぬ』
『世宗(セジョン)公の家門との婚姻とはいえ
陛下に対する 私やユシンの忠誠は変わりません』
キム・ユシンと徳曼(トンマン)の仲は周知の事実
龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)たちは 訓練にも身が入らない
『王女様を捨てるなんてユシン郎(ラン)もひどい』
『一時はお2人で逃げた仲なのに』
『王女様が心配だ』
『ユシン郎(ラン)を誤解していた』
『俺も… これは裏切りだ!』
『そうじゃない ユシン郎(ラン)は悩み抜き 試練を乗り越えたんだ
愛より大義を選んだ 男ってのは…
とにかくユシン郎(ラン)は 大きなことを成し遂げる方だ』
竹方(チュクパン)の意見に 高島(コド)は…
『俺は気に入らない』
『うるさい! そうだ 西域から商人が来てるな 来い!』
『2人でどこへ?』
ユシンの決意を知り 雪地(ソルチ)が月夜(ウォルヤ)に…
『王子様!ユシン郎(ラン)のあの選択には本当に驚きました』
『政治的には正しい判断だ 伽耶の民は守られた
ミシルセジュと手を組んでも 我々に損はない』
『ですが 王女様とユシン郎(ラン)の仲は格別だったようです
王女様はご傷心のはず』
『お前はユシン郎(ラン)に助けられたな』
『……分かっております』
復耶会の首領の首を差し出せと言われ
王子の月夜(ウォルヤ)を守るため
一時は自分の首をと願い出ていた雪地(ソルチ)だったのだ
マヤ王妃は 傷心しているはずの娘徳曼(トンマン)を訪ねる
『徳曼(トンマン) 執務に没頭しても…』
『母上 春秋(チュンチュ)が心配です
宮殿を空けてばかりで読書もしません』
『そうね 隋にいた頃も 本を渡して半日も経たずに
別の本を持ってこいと言って 1冊も読み終えてないそうだ』
『私が様子を見に行きます』
パラパラと本をめくり つまらなそうにしている春秋(チュンチュ)
その横で閼川(アルチョン)が 鬼のような顔で睨んでいる
『他の本は?』
閼川(アルチョン)は 春秋(チュンチュ)の左手の中の物を取り上げる
それは 破った本で作られた紙風船だ
『本を破ってこんな物を作るとは
まだお若いとはいえ こんなことはいけません
天明(チョンミョン)王女様は無念のうちに亡くなられたのに』
本気で怒っている閼川(アルチョン)を上目づかいに見て
春秋(チュンチュ)は袖の中からもう1つの紙風船を取り出す
『酒令具(チュリョング)に似てないか?』
『いけません!こんなことをしている場合では…』
気づくと 徳曼(トンマン)が来ており 春秋(チュンチュ)を睨みつけている
『王女様お見えでしたか』
途端にふざけるのをやめ 険しい表情になる春秋(チュンチュ)
閼川(アルチョン)を退室させ 2人で話す
『そなたの母上を利用するなと私に言ったな
母上の代わりとなるのは 私ではなく自分だと
そう言ったそなたが こんな態度を? 母上は…』
『王女様! お暇なようですね』
春秋(チュンチュ)の言葉に呆れ果てる徳曼(トンマン)
『私は好きにしますので 母親の真似事はやめてください』
高島(コド)を連れて訓練場を抜け出した竹方(チュクパン)は
塀の向こうの昭火(ソファ)を見ている
高島(コド)が…
『すみません お時間あります?よければ私の兄貴と少しお話を
あなたに惚れまして…』
高島(コド)を押しのけ 自分から話しかける竹方(チュクパン)
『あの… 王女様にお目通りを願いたいのです』
『春秋(チュンチュ)公とお話し中です お待ちください』
『すみません ちょっと待ってください』
竹方(チュクパン)は 木彫りの像のようなものを昭火(ソファ)に渡し
その像が頭に巻いている物を指さす
『王女様に出会った時 これを頭に巻いていました』
『ええ 西域人が頭に巻くターバンですね』
『ええ ターバン 王女様が郎徒(ナンド)として生活なさっていた頃
“砂漠にいた時が一番幸せだった” と』
『そうですか』
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
『今 王女様はおつらいはずです ユシン郎(ラン)のことで』
『ええ』
『それでこれを買ったんです』
『買ったのは俺だ!!!』
余計なことを言う高島(コド)を蹴飛ばす竹方(チュクパン)
どうやら西域の商人から木彫りの像を買ったようだ
『つらい時は故郷を思い出すのが一番です 王女様に』
『ありがとうございます』
『とんでもない』
『一緒に幽閉されていた時も 私にお気遣いを… お礼も言えませんでした
本当にお優しい方ですね』
『優しいなんて… それほどでもないですよ エヘヘ…』
昭火(ソファ)が入って行くと 徳曼(トンマン)は1人泣いていた
木彫りの像を渡す昭火(ソファ)
『竹方(チュクパン)さんが渡してくれと』
『驚いた 砂漠でよく見た西域人だわ』
『ええ “やあ徳曼(トンマン)” “久しぶりだな”』
『ウフフ… カターンおじさん?』
『“新羅(シルラ)の王女になったって?
英雄を目指していた君が 王女になったのか”』
『そうよ』
木彫りの像を使い 口真似をする昭火(ソファ)
徳曼(トンマン)は 懐かしさと嬉しさで久々に笑顔を取り戻し涙ぐんだ
『“気の毒だな 英雄とは孤独なものだ”』
『……』
『王女様…』
『お願い 徳曼(トンマン)と… もう一度私を呼んで』
『…徳曼(トンマン)』
『母さん! 私つらいの… 明日です』
昭火(ソファ)は思わず立ち上がり 徳曼(トンマン)を抱きしめた
翌日
キム・ユシンと夏宗(ハジョン)の娘ヨンモとの婚礼が行われた
徳曼(トンマン)は 月夜(ウォルヤ)雪地(ソルチ)を伴い農地の視察へ
『ユシン郎(ラン)がどのように押梁州(アンニャンジュ)と民を守ったか
分かりますね』
『もちろんです 自分を犠牲にして土地を与え 飢えから救ってくださった
絶望のどん底だった暴徒の村を 王女様もご覧になったでしょう』
『だからこそ この地の民はユシン郎(ラン)に服従するでしょう
農業や訓練に励み そしてどんな秘密も守り抜くはずです ご安心を』
山中に1人 毗曇(ピダム)は考え込んでいる
「お前が全力で戦って ユシンに勝てたかどうかは分からないぞ」
「お前はただ 私に褒められたい一心で彼らを殺した お前はそういう男だ」
「私はあの男に懸ける」
ムンノは完成させた三韓地勢を持って歩いて行く
すると目の前に 毗曇(ピダム)が現れる
『本が完成したのですか?』
『本のことは忘れろ』
『どうしても その本をユシン郎(ラン)に渡すと?』
『……』
『ではその前に 私を倒さねば…』
『何だと』
『その本は私の物です!他の誰にもその本は渡さない』
『本当に愚かな奴め お前にこの本の主になる資格はない』
『資格?それは師匠が私に与えるべきものでしょう
教えるのが師匠の務めです』
『殺生はいけないと 教えねばならんのか? そこをどけ』
『嫌です』
『どけ!!!』
『どきません!!!』
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