善徳女王 37話#2 ムンノ死す

『お前は言わば 柄のない剣も同然 触れる者はケガをするだけだ
誰かがお前の柄になってくれればと願ってきた
だが 誰にも無理なら 私の手でその剣を折るしかない
本当にそれを望むのか?』

『本当に… そうお考えなら… 折ればいい 折ればいいではないですか!

師匠の教えは 決して忘れません』

師匠と弟子との 熾烈な戦いだった

その戦法 剣法 拳法にいたるすべてが同じだった
相手の出方が手に取るように読める2人に 決着は難しい

その時…!

木の陰から何者かが吹き針を ムンノ目がけて放った

首筋に痛みを感じて手をやるムンノ

『師匠!!!』

毗曇(ピダム)の剣ではなく ムンノは毒針に倒れた

体に毒が回り切る前に…!毗曇(ピダム)はムンノを背負って走った
置き去られた包み… 三韓地勢のことなど頭になかった

毒針を放つ者を雇ったのは ヨムジョンだった

誰もいなくなった山中に ポツンと置き去られた包みを
ヨムジョンが持っていく…

必死に走る毗曇(ピダム)は 草につまづき転んでしまう

地面に転がるムンノ
毗曇(ピダム)は 這いつくばりムンノのもとへ

『師匠…』

『もう無駄だ』
『治療をすれば間に合います!』
『毗曇(ピダム)… なぜ本を持って行かず 私を背負い走って来た?』
『……』
『なぜだ』

毗曇(ピダム)は答えられなかった

なぜかと聞かれても 自分でも分からないのだ
師匠を殺しても奪いたかった本だったのに…

『私は至らぬ師匠だった』

『師匠…』
『お前の言う通り…お前を恐れていたのかもしれん
お前の気性を配慮して…正そうと思わずに ただ押えつけていた すまない…
最後に… お前の心根を知った だがもう遅い… せめて礼を言う…』

虫の息の中 ムンノは懐から書状を取り出し 毗曇(ピダム)に渡す
 
『徐羅伐(ソラボル)へ戻るのだ 花郎(ファラン)になれ…』

※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)

※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団

『師匠…』

『ユシンに従って… 王女様をお助けしろ 間違いなくお前は… 私の弟子だ』
『……師匠?』

ムンノは 毗曇(ピダム)の胸にもたれかかり絶命した

『師匠 目を開けてください 師匠ーーーっ!!!』

徐羅伐(ソラボル)

武芸道場で嫌々ながら木刀を振っているのは春秋(チュンチュ)

キム・ユシンが片時も離れず見守っている

『6回!』

『6回…』
『7回!』
『7回…』
『8回!』
『8回…』
『その持ち方では手首を痛めます 力を抜き気味にして…』
『疲れた 休もう』

徐羅伐(ソラボル)に来る道中 大男甫(テナムボ)を困らせたように

今回も簡単に座り込んでしまう春秋(チュンチュ)

『始めたばかりです 馬にも乗れず 剣も握れずにどうやって身を守るのです』

『木登りが得意な者は木から落ちて死ぬ
剣が得意な者は剣を使って死ぬ』
『剣を使って死ぬのは花郎(ファラン)の名誉です』
『アハハ… 花郎(ファラン)の名誉だと?
花郎(ファラン)は戦に出て手柄を立てないといけない
戦に出ない私に なぜ剣を練習する必要がある?』
『敵の急襲を受けた時は?自分は戦えないから敵に命乞いをしますか?
それでも男ですか? 剣を握ってください』

ユシンが差し出す剣を押しのけて 春秋(チュンチュ)は立ち上がった

『お前が母上の最期を見届けたそうだな

母上との縁談が持ち上がっていたとも聞くぞ
しかし 母上との婚姻がダメになり 徳曼(トンマン)王女の婿になろうとし
それも失敗… 結局はミシルセジュの家門と婚儀を それが男のすることか?
どうだ! しかしお前の立場では婚姻以外で勢力を得られまい』
『何が言いたいのです』
『愚鈍な男にしては頭を働かせたな 比才(ピジェ)ではかなり愚鈍に見えたが』

※比才(ピジェ):腕比べ

『あの愚直さがお前の武器か?』

ユシンはふと 若き日の天明(チョンミョン)王女から言われたことを思い出す

その息子春秋(チュンチュ)が 同じように自分を愚弄している

「賢くもなく!武術に秀でてもいない!地方で権勢を揮っているが

徐羅伐(ソラボル)の花郎(ファラン)の足元にも及ばない!
それでも 郎徒(ナンド)を統率せねばならない」

『そうだ その愚直な誠実さで 人々の心をつかんだのか』

「だから誠実さを見せつけようというのか」

『それが 徐羅伐(ソラボル)で生き残るための お前の策か』

「図星だな 郎徒(ナンド)を従わせるための策略だったのか」

ユシンは 春秋(チュンチュ)を見て微笑んだ

睨まれてもおかしくない状況で… 春秋(チュンチュ)は逆に警戒する

『何がおかしい』

『春秋(チュンチュ)公と同じことをおっしゃった方がいました』

キム・ユシンが風月主(プンウォルチュ)になって 初めての花郎(ファラン)会議

『嘉俳(カベ)で 徐羅伐(ソラボル)への入城を望む

地方の花郎(ファラン)を選抜する』

※嘉俳(カベ):中秋(チュソク) 陰暦の8月15日

『恒例の行事です』

『今回は 選抜者の人数を倍にする』

ユシンの考えに 花郎(ファラン)たちがひそひそと…

(地方の花郎(ファラン)を増やす?)

(しかも倍に?)

『それでは徐羅伐(ソラボル)の花郎(ファラン)より多くなります

徐羅伐(ソラボル)の花郎(ファラン)の地位が…』

石品(ソクプム)の反論に ユシンは臆せずに答える

『その代わり徐羅伐(ソラボル)の花郎(ファラン)は
風流黄巻(プンニュファングォン)に載せる郎徒(ナンド)の数を
倍にして選抜できるようにする』

※風流黄巻(プンニュファングォン):花郎(ファラン)の名簿を指す名称

(そんな…)

(どうやって?)
(倍は多すぎる)
(そうだとも)

『それは喜ばしい話ですが 郎徒(ナンド)たちの俸禄や食事

武器はどうします?』

さらなる石品(ソクプム)の疑問に 徳曼(トンマン)が答える

『それは王室が負担します 元上花(ウォンサンファ)は地方の優秀な
花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)を選抜するよう頼みます』

※元上花(ウォンサンファ):花郎(ファラン)出身で花郎の師匠となる者

『はい 仰せの通りにいたします

ところで 国仙(ククソン)はまたお発ちになられたのですか?』

※国仙(ククソン):花郎(ファラン)の総指導者

『大変でしょうが元上花(ウォンサンファ)には

国仙(ククソン)の分までご尽力ください』
『はい』

そこへ 花郎(ファラン)の格好をした毗曇(ピダム)が入ってくる

(まさかあいつが?)

(なぜここに)

毗曇(ピダム)はまず 元上花(ウォンサンファ)チルスクの前にひざまずき

忠誠を誓い 続いて徳曼(トンマン)の方に向き直る

『王女様にご挨拶申し上げます』

『どうなっているのだ!一体どこへ行っていた!』
『国仙(ククソン)も来られたのか?』
『師匠は太白(テぺク)山に入られました』
『太白(テぺク)山?』

ここでムンノの死を報告するわけにはいかなかった

毗曇(ピダム)は 死ぬ間際にムンノが渡した書状をチルスクに差し出す
書状はチルスクの手から徳曼(トンマン)に…

『師匠は私を正式な後継者にすると

都で花郎(ファラン)として 師匠の代わりに志を遂げよとのことです』
『では林宗郎(イムジョンラン)は?』

書状が 徳曼(トンマン)からチルスクに渡される

皆を代表するように 宝宗(ポジョン)が…

『そなたには郎徒(ナンド)がいないのに 花郎(ファラン)になるだと?』

『郎徒(ナンド)はこれから集める』
『筆跡は?』

まったく信じていない石品(ソクプム)が聞く

一瞬石品(ソクプム)を睨む毗曇(ピダム)だが 冷静に話を進める

『我が師匠を侮辱しないでくれ…』

これを聞いたミシルは…

『毗曇(ピダム)が戻った?』

『ムンノ公が国仙(ククソン)として
毗曇(ピダム)を花郎(ファラン)として認めるとの文を… 筆跡は本物です』
『ムンノ公はどこに?』
『太白(テぺク)山です』
『太白(テぺク)山?』

(自分は来ずに毗曇(ピダム)だけを送った?)

ムンノを始末し 三韓地勢の本を手に入れたヨムジョンは上機嫌だ

蒸し手拭いを顔に乗せくつろいでいると…
何者かが入って来た気配がする
 
『今度は何の用だ』

椅子を蹴飛ばされて…

『どうした』

『……』
『返事をしろ!』

手拭いを外し 目の前の毗曇(ピダム)の姿に慌てふためくヨムジョン

その手に握られた剣は血で真っ赤に染まっている
毗曇(ピダム)の顔と服は 返り血でぐっしょりと濡れている

『何者だ どうやって入った!』

『当ててみろ この血は俺のじゃない では誰の血かな?』
『だ…誰もおらんのか… ピルブ… タムス!』
『当たり… 正解だよ』

隙を見て逃げ出したヨムジョンだが 店の中の死体の山に恐れおののく

自分の他には 誰も生きてはいない
追いかけて来た毗曇(ピダム)は 楽しげに血染めの剣を眺めまわしている

『寺の場所を知るのも 本の存在を知るのも 俺とお前だけだ

師匠を殺したのは俺ではないから お前だろう 違うか?』
『フフ… フハハハ… なぜ人の店に来て人を殺すんだよ
目的は本か?報復か?』
『両方なら?』
『ウヘヘへ… 殺せば…』
『本は見つからないか? 別に構わない 見つからなくてもいい』
『……』
『取りあえず 殺して帰る』
『フハハハ… 目的は報復か?ん?
お前だってムンノ公を殺そうとしていたじゃないか ウホホホ…
あの本を持ってきて じっくり話し合おう』

死体の山だらけの賭博場を出て 別の建物の方へ案内するヨムジョン

『突き飛ばさないでくれ よしよし分かった!』

『妙な真似はするな』
『店のあんな惨状を見て妙な真似ができるか この中だ』

案内された建物の中から 人の気配がする

毗曇(ピダム)は姿勢を低くして警戒した

『何もしないさ あんたも怖がりだな』

一番奥の部屋から灯りがもれ 中から紙風船が何個も転がってくる

ヨムジョンに一撃を食らわせ 毗曇(ピダム)はその紙風船を手に取った
広げてみると…

『三韓地勢!』

※三韓地勢:三国の地理を記録した地図

誰が三韓地勢を破り 紙風船を作っているのか?

毗曇(ピダム)が中に飛び込んでいくと そこにいたのは
あの時 美生(ミセン)に連れられ いかさま博打にだまされていた青年だった

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