善徳女王 38話#1 穀物高騰!
『この本は… これはお前の物か?』
師匠ムンノが長い歳月書き綴った本を破り 山ほどの紙風船にした青年
毗曇(ピダム)は呆れて声も出ない
しかし この青年が亡き天明(チョンミョン)の息子
春秋(チュンチュ)だとは知る由もない
『ところで… お お前は何者だ』
剣を突きつけられて声が上ずる
『何歳だ? “何者だ”だと?』
床に剣を突き刺し 毗曇(ピダム)は春秋(チュンチュ)に掴み掛かる
『何をするんですか やめてください!ちゃんと話し合いましょう』
『分からないのか 折り紙なんかしやがって!
この本がどういう物か分かっているのか?この野郎!』
『公子様!』
布団にくるまれて棒で叩かれている春秋(チュンチュ)を見て
仰天するヨムジョン
しかしそんなことはどうでもいい毗曇(ピダム)
ヨムジョンのみぞおちに一撃を食らわせ 春秋(チュンチュ)を叩き続ける
『謝るから許してくれよ!あぁ!…あぅ!私が悪かった!すまない
殴るのはやめてくれ!』
結局 正座して紙風船を1個ずつ広げきれいに重ねていく春秋(チュンチュ)
『あいつは誰だ?』
『いや こちらの公子様に誰だなどと…』
『ぶっ殺すぞ』
『まったく何なんだよ…』
毗曇(ピダム)に ニッコリと笑いかける春秋(チュンチュ)
『ちゃんと戻せ』
ニッコリを返しながら 返り血だらけの顔で脅す毗曇(ピダム)
春秋(チュンチュ)はあきらめて作業を続ける
『あいつは何者だ?』
『だから公子様は…』
春秋(チュンチュ)を残し 外に出る2人
『あの方は金春秋(キム・チュンチュ)だ』
『キム・チュンチュ?何者だ?』
『天明(チョンミョン)王女の息子だ』
『マヌケという噂の?』
『マヌケかどうか知らんが 間違いなく王族だ
真智(チンジ)王が廃位されなければ聖骨(ソンゴル)だった』
※聖骨(ソンゴル):父母共に王族である新羅(シルラ)の身分制度の最高位
毗曇(ピダム)は ふたたびヨムジョンののど元に剣を…
『あいつに 師匠を殺して本を奪えと言われたのか?それを信じろと?』
『誤解だよ 俺がただ春秋(チュンチュ)公に読むように勧めた』
『どうして?』
『俺はお前の師匠とは考えが違う
あの本の主はユシンではなく あいつだと思っている』
戻ると 春秋(チュンチュ)は作業も追えずに眠っている
剣の先でつついて起こす毗曇(ピダム)
目が覚めて起き上がると 子供のように言い訳を始める
『怠けているのではない 休憩してからやろうと思った』
できている分の本を取り上げ 毗曇(ピダム)はドカッと座り込む
春秋(チュンチュ)に申し訳なさそうにヨムジョンが…
『春秋(チュンチュ)公 申し訳ありません』
『おい』
『公子様なんだぞ!』
『殺すぞ…』
血染めの毗曇(ピダム)にそう言われては ヨムジョンは黙るしかない
『おい!』
『あ…』
『これ 順番がバラバラだろ』
『いや 順番は合っているはずだ』
そう言われて確認すると 確かに順番は合っているようだ
手当たり次第に紙風船を解きしわを伸ばしているだけだと思っていたのだ
『お前 全部覚えていたのか?』
コクリとうなずく春秋(チュンチュ)
解いた紙風船を 順番を考えながら挟んでいる
どうやらマヌケなだけの男ではないらしい
まとまった三韓地勢を手に 夜の闇の中でヨムジョンに剣を突きつける
『やめてくれ!何をするつもりだ?』
『本は取り返した あとはお前を殺すだけだ』
『フハハハ… それはないだろ』
『笑うな!』
『ウヒャヒャヒャ… おい 冗談だろ』
『お前の笑い声は最初から耳障りだった
首を斬っても笑えるか 確かめよう』
『ちょっと待ってくれ!!!!!ひ…ひどいじゃないか 俺たちは共犯だろ』
『共犯だと?』
『天下のムンノが 毒針をかわせずに死んだのか?ウヒャヒャヒャ…
そうじゃないだろ 優秀な弟子と剣で戦っている最中だったから
毒針をかわせずに死んだんじゃなかったのか?』
『この野郎!』
『思いのままに刺し殺せばいい 俺を殺してお前も自決しろ!
お前も俺と一緒にムンノを殺しただろ ウハハハハ…
もしくは俺を殺さずに お互いに生き延びればいい』
『お前を生かすべき理由を あと3つ言ってみろ!』
『お前は勘違いしていることがある 三韓地勢はムンノの物か?』
※三韓地勢:三国の地理を記録した地図
『違う ムンノと俺の物だ!
ムンノは20年間 誰の金で放浪できたと思う?
高句麗(コグリョ)や百済(ペクチェ)に行けたのは誰のおかげだ?』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『この俺が組織を総動員して資料を運んでやったんだ!
それなのにムンノの物だと? 俺の物だ!!!!!』
『他には?』
『それをまったく知らないユシンって奴に渡すなんて 黙っていられるかよ!』
『それから?』
『……』
『他にはないのか!!!!!』
『俺には密偵組織がある 俺が死ねば各地の密偵がバラバラになってしまう
お前をそいつらと引き合わせてやってもいい』
『何のために?』
『だから!!!俺と一緒に王を擁立してみないか
俺たちのような者にはそれしかできないだろ!!!
ミシルもあいつを推してるんだ あいつなら間違いない!!!』
急に表情が変わる毗曇(ピダム)
『おい どうしたんだ?
お前だって自分の物がユシンに渡ると思ったからムンノに剣を向けたんだろ?
お前なら俺の気持ちを よく分かってくれるよな』
毗曇(ピダム)の中の怒りを ヨムジョンは知るはずもない
いきなり斬りつけられて 血だらけの顔を覆い泣き叫ぶ
『この野郎 何しやがるんだよ!!!』
『その傷が痛むたび 鏡を見るたびに思い出せ!
俺を裏切ったり 逃げたりすれば殺す そして!!!
俺たちが擁立する新王はあいつではない』
泣き叫び続けるヨムジョンを残し 毗曇(ピダム)は三韓地勢を持って立ち去る
(ミシルがあんなマヌケなガキを 後押しするだと?
我が母上は 何を考えているのだろうか)
すべての花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)の前で キム・ユシンが
任命状を読み上げる
『龍華香徒(ヨンファヒャンド) 竹方(チュクパン)と雪地(ソルチ)を
大郎頭(テナンドゥ)に任命する
飛天之徒(ピチョンジド)ヤンギルを大徒(テド)に任命する』
※大郎頭(テナンドゥ):郎徒(ナンド)の6番目の等級
※大徒(テド):郎徒(ナンド)の最高位
『月夜(ウォルヤ)は少監(ソガム)に任命する 閼川(アルチョン)を補佐せよ』
※少監(ソガム):武将の8番目の等級
『そなたたちは侍衛府(シウィブ)として王室の護衛の最前線に立つ
侍衛府(シウィブ)は王室の親衛部隊に組み入れられる 任務を遂行せよ
侍衛府(シウィブ)の訓練は そなたに任せる』
大風(テプン)谷使欣(コクサフン)高島(コド)らが任命された侍衛府(シウィブ)
その訓練の責任者として 月夜(ウォルヤ)が任命された
※侍衛府(シウィブ):近衛隊
突然のように現れて役職に就いた月夜(ウォルヤ)について
石品(ソクプム)とサンタクが チルスクのもとへ…
『月夜(ウォルヤ)は万弩(マンノ)城の村長の息子です
ソヒョン公が目をかけて養子にしたようです』
『戦で死んだ郎徒(ナンド)も多い
郎徒(ナンド)の選抜については セジュも快諾したそうだが…』
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
※セジュ:王の印を管理する役職
『ユシン郎(ラン)の真意を測りかねているのですか』
『心配なさらなくても大丈夫です
この私が郎徒(ナンド)をきちんと監視します』
『これからお前たちは 花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)の様子を
常に報告するように』
『分かりました!』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
『ところで毗曇(ピダム)は?』
『郎徒(ナンド)もいませんし 特に動きもありません』
『そうか』
徳曼(トンマン)は 国の内情に詳しいヨンチュン公を訪ねる
『チヌン大帝は領土を広げました
それなのになぜ穀物が足りないのですか?』
『土地はあっても半分以上が荒れ地のため 農地が足りません』
『農地が足りないのか…』
『それに耕作した次の年は 土地がやせて作物が育たないのです』
『荒れ地を開墾する方法は?』
ユシン 閼川(アルチョン)を伴い鉄器工場を視察する徳曼(トンマン)は
ウォルチョン大師の言葉を思い出す
「武器の技術では いかに強い鉄を作り出すかが重要です
チヌン大帝の頃 鉄の技術の変革がありました
武器は新羅(シルラ)が最高です さらに進歩もしています」
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
「農具用の鉄は 武器用の鉄とは違うのですか」
「ええ 違います 農具用の鉄はあまり丈夫でなく
土を掘ることすらままなりません」
じっと考え込む徳曼(トンマン)の様子を気にするユシン
『何をお考えですか?』
『言えば叱られそうです』
『はい?』
『武器を溶かして農具を作っては?』
『それはいけません』
『そう簡単に言うな』
即答するユシンに呆れる閼川(アルチョン)だが
『そなたなら何と言う?』
『……』
『武器を減らさずに 農具を作る方法をお考えください
春秋(チュンチュ)公の訓練があるので失礼します』
『まったく…』
武骨で愛想のないユシンに 徳曼(トンマン)を気づかう閼川(アルチョン)
市場まで出てきた龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)たち
『出てくるのはまずい』
『未の刻に集合だろ』
※未の刻:午後1時~3時
『度胸がない奴らだな 今日は何の日だ?ん?
俺が大郎頭(テナンドゥ)になった日だろ 訓練なんてやってられるか』
竹方(チュクパン)の言葉に 気が大きくなる高島(コド)
『月夜郎(ウォルヤラン)も昇進したし 見逃してくれるさ』
『俺が何になったって?』
『大郎頭(テナンドゥ)だ!』
『何だって?』
『大郎頭(テナンドゥ)だよ!』
『そうだ!だから俺様がご馳走してやるよ 何がいい?
これか?今日はとことん飲もう! さあ いざ出陣だ!』
市場通りを酒場に向かって駆け出す一同
すると 何やら揉め事が起きているようだ
『冗談じゃない!7日前は麻布10枚で豆5升だっただろ!
この前は20枚で 今日は売らないだと?これで何とかしてくれ!』
『穀物の値段が上がっているんだ』
『どうか頼むよ』
『日照りで穀物がないから仕方ない!』
豆売りの商人が 後ろに山積みの品物がありながら売ろうとしない
客の男は激怒して怒鳴っている
『じゃあ あれは何だ?』
『あれはもう売れた物だと さっきも言っただろ!!!』
『頼む… うちの子供たちが飢え死にしそうなんだ』
『あんたの事情なんて知らないよ!』
男の剣幕に 心配顔の高島(コド)たち
『ケンカだ』
『穀物の値上がりか』
『この数日で高くなったと母さんも心配していた』
『行こう 大郎頭(テナンドゥ)として民に合わせる顔がない
俺たちは やるべきことがある』
4人が行こうとすると 悲鳴が上がり野次馬たちも驚いて逃げ出す
男が怒りに任せて商人を斧で叩き殺したのだ
武芸道場では キム・ユシンが春秋(チュンチュ)に剣術を教えている
『声が出ていませんね 大きな声で数えてください!』
『心の中で数えています』
『声を出した方が気合が入って集中できます』
『うるさく騒げば集中できるのか?静かな方が集中できるのではないか?』
そこへ 竹方(チュクパン)と高島(コド)が 血相を変えて駆け込んでくる
2人の姿を見て 慌てて隠れる春秋(チュンチュ)
まだ自分の正体を知られたくないのだ
『大変です!』
『何事だ?』
『東市(トンシ)で殺人が!』
※東市(トンシ):徐羅伐(ソラボル)の東にある市場
『どういうことだ?』
『早く来てください!』
『分かった しばし…』
しばし待っていろ と言うつもりが 春秋(チュンチュ)はもう姿がなかった
逃げ出した春秋(チュンチュ)の前方に 大男甫(テナムボ)の姿が…
よかった!とばかりに駆け寄る春秋(チュンチュ)
『見つかる前に早く行こう』
『はい』
すると今度は 前から毗曇(ピダム)がやって来る
素早く隠れる春秋 (チュンチュ)…!
『どうしました?』
『うわぁ… あいつ 本当に怖い奴なんだ』
市場では 商人を殺してしまった男が 泣き叫ぶ商人の娘を人質に…!
『近づいたら殺してやる!!!』
先に来ていた宝宗(ポジョン)たちから話を聞くユシン
『どういうことだ?』
『人質を取って騒いでいるのです』
『近づいたらぶっ殺すからな!!!』
男の背後に掛けられている竿に目をやるユシン
察した宝宗(ポジョン)と石品(ソクプム)が 正面から男に近づく
その隙に ユシンは背後に回り込んだ
『いいか?来るなよ! 殺すぞ! 来るんじゃない!!!
俺はどうせ死ぬ 道連れになりたいのは誰だ!!!』
ユシンは竿を外すと同時に 男に命中させた
大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)が 抑え込んで縛り上げた
刑場で取り調べが始まる
一部始終を目撃した者として 竹方(チュクパン)が証言をする
『この人が豆を買おうとしたけど 店の人は売ってくれませんでした
言い争ううちに興奮してしまって 斧で殴り掛かったんです』
『事実か?』
『間違いありません 頭に来て殺しました』
神妙に罪を認めた男は 涙ながらに訴える
『あいつは本当に悪い奴なんです
最初は麻布10枚で豆5升をくれたのに だんだん豆の量が減っていき
最後はもう売らないと… 畑は痩せて草も生えません
子供たちに食わせる物もなく… 飢え死にしそうなんです!
殺してください… ここで死んでも飢え死にしても同じこと どうか殺してください』
徳曼(トンマン)の執務室では 毗曇(ピダム)と閼川(アルチョン)が
膨大な資料を読み 調べ物をしている
そこへ ユシンが報告にやって来る
『穀物価格が高騰しています 東市(トンシ)での殺人も それが理由でした』
『人を殺すほどなのか』
『穀物の値段のせいで?』
『この10日間で 豆1石が鉄艇(チョルチョン)3両から15両になりました』
※鉄艇(チョルチョン):古代朝鮮で貨幣に使われた小さな鉄板
『そんなに値段が上がったのですか』
『はい どうも妙です』
心配する徳曼(トンマン)に 疑問があると言うユシン
すると毗曇(ピダム)が…
『私が商団の動きを探ってみます』
『商人に知り合いでもいるのか』
『いないなら作ればいいのです』
『では頼む』
『私も市場を探ってみます』
閼川(アルチョン)も黙ってはいられないと進言するが
『いいえ 一緒に動きましょう 私も行きます』
使用人を装った閼川(アルチョン)と林宗(イムジョン)
そして侍女を装い昭火(ソファ)が…
『あの 麦を買いたいのですが』
『ありません』
『ここにあるでしょう』
『それは売れた物です』
『これ全部ですか?少しだけでも売ってください』
『もう買い手がついたんです!』
徳曼(トンマン)と目配せをする昭火(ソファ)
『金3両で買います』
『……金3両だと?
いや もう売れた物だから売ることはできません!
あれだって全部売れたんだ』
徳曼(トンマン)が直接商人と話す
『買ったのは 誰です?』
『知ってどうするんだ』
一方毗曇(ピダム)は ヨムジョンを訪ねていた
『どうした?』
手下でも入って来たと思っているヨムジョン
しかし 急に顔の手拭いを剥ぎ取られ 慌てふためく…!
『俺はあれ以来 そっと入ってこられるのがダメなんだよ!』
『今の穀物の価格は 誰の仕業だ?お前か?』
分かれて調べていたユシンが…
『西市(ソシ)も同じでした 売ってくれません』
『もう売れたと?』
『はい』
※西市(ソシ):徐羅伐(ソラボル)の西にある市場
『誰が買ったのか調べましょう
穀物の流れを追跡しなければ 内密に調査できる人は?』
危険がありそうで 皆が下を向く
しかし 昭火(ソファ)に見つめられた竹方(チュクパン)は…
『私が引き受けます!侍衛府(シウィブ)の大郎頭(テナンドゥ)として
この任務を必ず果たして参ります』
『ではお願いします』
竹方(チュクパン)と… 結局は高島(コド)も手伝って
穀物を運ぶ商人たちを尾行する
『穀物をお持ちしました』
(ソルォン公の屋敷だろ?)
(そうだな)
(一体 何袋あるんだろう)
向こうの方から 大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)が…
結局 皆で行動している龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)たちだった
(兄貴!)
(さっきの荷車はどこへ?)
(スプム公の屋敷だ)
(大郎頭(テナンドゥ)だろ!)
谷使欣(コクサフン)の言い方を注意する高島(コド)
(スプム公の屋敷です 大郎頭(テナンドゥ)! これでいい?)
(その態度を忘れるなよ)
(ところで 金持ちの家ばかりだな)
(他の屋敷にも行ってみよう)
屋敷の前で商人と話しているのは 宝宗(ポジョン)だ
『これだけか』
『これで精一杯です 米はもちろん アワや豆も市場に出回っていません』
『金ははずむから 出回り次第買うんだ』
『かしこまりました 中に運べ!!!』
奥から出てきたソルォンに深々と頭を下げ 手下を動かす商人
『出回り次第買い入れています』
『お前に任せる 春秋(チュンチュ)公がまた来たのか?』
屋敷の中の桟敷で
宝宗(ポジョン)の娘 宝良(ポリャン)の前に宝石を並べているのはヨムジョン
『どれにするか 迷うでしょう?
どれも美しく輝いています “私を選んで”と言っていますよ
いいご趣味をしてらっしゃいます』
『どうですか』
付き添っている春秋(チュンチュ)に尋ねるが 春秋(チュンチュ)は無関心だ
不機嫌になる宝良(ポリャン)を気づかうヨムジョン
『私はお似合いだと思いますが さすがお目が高い!』
『では これは?』
『そなたの顔に 丸い形は似合わない』
『そうですか…』
ぶっきらぼうな言い方に傷つく宝良(ポリャン)
春秋(チュンチュ)は自ら選んで手に取った
『これは似合いそうだ』
途端に笑顔になる宝良(ポリャン)
ヨムジョンもホッとした表情に…
『やっぱり公子様はお目が高くていらっしゃる
ペルシアから届いたばかりです』
『はっきりした顔立ちだから 派手な色は避けるべきだ』
『急いで仕立てれば 嘉俳(カベ)の宴で着られます』
『そうだな』
※嘉俳(カベ):中秋 陰暦の8月15日
耳飾りの次に生地も選んでもらい 満足げな宝良(ポリャン)
春秋(チュンチュ)が次に手に取ったのは きらびやかな小物入れ
『実にお目が高い!隋から仕入れた皇帝への献上品です』
『偽物だ 騙されたな』
『す…すごく高かったのに!』
『隋の仙仏山には仏像が刻まれている
彫刻や陶磁器に適した土があるからだ
その土で作った器だけが 隋の王室に入るのだ』
※仙仏山:中国山東省の山 磨崖仏で有名
『こ…今後気をつけます 頭脳明晰ですなぁ… ハハハ…』
『あの者は 誰だったかな』
『漢山州(ハンサンジュ)の都督です』
※都督(トドク):州の長官
『名前はキム・インムンだったか』
『キム・インムンは何瑟羅州(ハスルラジュ)の軍主です
あの方は伊飡(イチャン)のイム・ヨンジです』
※伊飡(イチャン):新羅(シルラ)における十七官位の2番目
『イム・ヨンジとは初めて聞く名前だ』
『何度もお話しましたよ
百済(ペクチェ)が枷岑(カジャム)城を攻撃した時 副将軍でした』
目配せし合う春秋(チュンチュ)とヨムジョン
『その功績を認められて 弟監(テガム)まで務めました
本当に人を覚えられないんですね』
※弟監(テガム):新羅(シルラ)の兵部(ピョンブ)の官職
『そうだな どうしてこんなに顔と名前が一致しないのか』
『私も 飲み屋で何を飲んだか覚えていません
酒の肴だって何を食べたのか まったく思い出せなくなりました』
『2人とも困ったものだ』
『そうですね 公子様 アハハハ… さあ ゆっくりとお選びください』
春秋(チュンチュ)が連れて来た怪しげな商人を見るソルォンが…
『さっきの商人は何者だ?』
『美生(ミセン)公が通う賭博場の者です
貿易も手掛けていて 何度か来たことがあります』
『身元の怪しい者は入れるな』
『美生(ミセン)公の知り合いなので心配いりません』
『春秋(チュンチュ)公は毎日来るのか』
『はい 宝良(ポリャン)に気があるのでは?
美生(ミセン)公が そろそろ縁談をまとめるでしょう』
師匠ムンノが長い歳月書き綴った本を破り 山ほどの紙風船にした青年
毗曇(ピダム)は呆れて声も出ない
しかし この青年が亡き天明(チョンミョン)の息子
春秋(チュンチュ)だとは知る由もない
『ところで… お お前は何者だ』
剣を突きつけられて声が上ずる
『何歳だ? “何者だ”だと?』
床に剣を突き刺し 毗曇(ピダム)は春秋(チュンチュ)に掴み掛かる
『何をするんですか やめてください!ちゃんと話し合いましょう』
『分からないのか 折り紙なんかしやがって!
この本がどういう物か分かっているのか?この野郎!』
『公子様!』
布団にくるまれて棒で叩かれている春秋(チュンチュ)を見て
仰天するヨムジョン
しかしそんなことはどうでもいい毗曇(ピダム)
ヨムジョンのみぞおちに一撃を食らわせ 春秋(チュンチュ)を叩き続ける
『謝るから許してくれよ!あぁ!…あぅ!私が悪かった!すまない
殴るのはやめてくれ!』
結局 正座して紙風船を1個ずつ広げきれいに重ねていく春秋(チュンチュ)
『あいつは誰だ?』
『いや こちらの公子様に誰だなどと…』
『ぶっ殺すぞ』
『まったく何なんだよ…』
毗曇(ピダム)に ニッコリと笑いかける春秋(チュンチュ)
『ちゃんと戻せ』
ニッコリを返しながら 返り血だらけの顔で脅す毗曇(ピダム)
春秋(チュンチュ)はあきらめて作業を続ける
『あいつは何者だ?』
『だから公子様は…』
春秋(チュンチュ)を残し 外に出る2人
『あの方は金春秋(キム・チュンチュ)だ』
『キム・チュンチュ?何者だ?』
『天明(チョンミョン)王女の息子だ』
『マヌケという噂の?』
『マヌケかどうか知らんが 間違いなく王族だ
真智(チンジ)王が廃位されなければ聖骨(ソンゴル)だった』
※聖骨(ソンゴル):父母共に王族である新羅(シルラ)の身分制度の最高位
毗曇(ピダム)は ふたたびヨムジョンののど元に剣を…
『あいつに 師匠を殺して本を奪えと言われたのか?それを信じろと?』
『誤解だよ 俺がただ春秋(チュンチュ)公に読むように勧めた』
『どうして?』
『俺はお前の師匠とは考えが違う
あの本の主はユシンではなく あいつだと思っている』
戻ると 春秋(チュンチュ)は作業も追えずに眠っている
剣の先でつついて起こす毗曇(ピダム)
目が覚めて起き上がると 子供のように言い訳を始める
『怠けているのではない 休憩してからやろうと思った』
できている分の本を取り上げ 毗曇(ピダム)はドカッと座り込む
春秋(チュンチュ)に申し訳なさそうにヨムジョンが…
『春秋(チュンチュ)公 申し訳ありません』
『おい』
『公子様なんだぞ!』
『殺すぞ…』
血染めの毗曇(ピダム)にそう言われては ヨムジョンは黙るしかない
『おい!』
『あ…』
『これ 順番がバラバラだろ』
『いや 順番は合っているはずだ』
そう言われて確認すると 確かに順番は合っているようだ
手当たり次第に紙風船を解きしわを伸ばしているだけだと思っていたのだ
『お前 全部覚えていたのか?』
コクリとうなずく春秋(チュンチュ)
解いた紙風船を 順番を考えながら挟んでいる
どうやらマヌケなだけの男ではないらしい
まとまった三韓地勢を手に 夜の闇の中でヨムジョンに剣を突きつける
『やめてくれ!何をするつもりだ?』
『本は取り返した あとはお前を殺すだけだ』
『フハハハ… それはないだろ』
『笑うな!』
『ウヒャヒャヒャ… おい 冗談だろ』
『お前の笑い声は最初から耳障りだった
首を斬っても笑えるか 確かめよう』
『ちょっと待ってくれ!!!!!ひ…ひどいじゃないか 俺たちは共犯だろ』
『共犯だと?』
『天下のムンノが 毒針をかわせずに死んだのか?ウヒャヒャヒャ…
そうじゃないだろ 優秀な弟子と剣で戦っている最中だったから
毒針をかわせずに死んだんじゃなかったのか?』
『この野郎!』
『思いのままに刺し殺せばいい 俺を殺してお前も自決しろ!
お前も俺と一緒にムンノを殺しただろ ウハハハハ…
もしくは俺を殺さずに お互いに生き延びればいい』
『お前を生かすべき理由を あと3つ言ってみろ!』
『お前は勘違いしていることがある 三韓地勢はムンノの物か?』
※三韓地勢:三国の地理を記録した地図
『違う ムンノと俺の物だ!
ムンノは20年間 誰の金で放浪できたと思う?
高句麗(コグリョ)や百済(ペクチェ)に行けたのは誰のおかげだ?』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『この俺が組織を総動員して資料を運んでやったんだ!
それなのにムンノの物だと? 俺の物だ!!!!!』
『他には?』
『それをまったく知らないユシンって奴に渡すなんて 黙っていられるかよ!』
『それから?』
『……』
『他にはないのか!!!!!』
『俺には密偵組織がある 俺が死ねば各地の密偵がバラバラになってしまう
お前をそいつらと引き合わせてやってもいい』
『何のために?』
『だから!!!俺と一緒に王を擁立してみないか
俺たちのような者にはそれしかできないだろ!!!
ミシルもあいつを推してるんだ あいつなら間違いない!!!』
急に表情が変わる毗曇(ピダム)
『おい どうしたんだ?
お前だって自分の物がユシンに渡ると思ったからムンノに剣を向けたんだろ?
お前なら俺の気持ちを よく分かってくれるよな』
毗曇(ピダム)の中の怒りを ヨムジョンは知るはずもない
いきなり斬りつけられて 血だらけの顔を覆い泣き叫ぶ
『この野郎 何しやがるんだよ!!!』
『その傷が痛むたび 鏡を見るたびに思い出せ!
俺を裏切ったり 逃げたりすれば殺す そして!!!
俺たちが擁立する新王はあいつではない』
泣き叫び続けるヨムジョンを残し 毗曇(ピダム)は三韓地勢を持って立ち去る
(ミシルがあんなマヌケなガキを 後押しするだと?
我が母上は 何を考えているのだろうか)
すべての花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)の前で キム・ユシンが
任命状を読み上げる
『龍華香徒(ヨンファヒャンド) 竹方(チュクパン)と雪地(ソルチ)を
大郎頭(テナンドゥ)に任命する
飛天之徒(ピチョンジド)ヤンギルを大徒(テド)に任命する』
※大郎頭(テナンドゥ):郎徒(ナンド)の6番目の等級
※大徒(テド):郎徒(ナンド)の最高位
『月夜(ウォルヤ)は少監(ソガム)に任命する 閼川(アルチョン)を補佐せよ』
※少監(ソガム):武将の8番目の等級
『そなたたちは侍衛府(シウィブ)として王室の護衛の最前線に立つ
侍衛府(シウィブ)は王室の親衛部隊に組み入れられる 任務を遂行せよ
侍衛府(シウィブ)の訓練は そなたに任せる』
大風(テプン)谷使欣(コクサフン)高島(コド)らが任命された侍衛府(シウィブ)
その訓練の責任者として 月夜(ウォルヤ)が任命された
※侍衛府(シウィブ):近衛隊
突然のように現れて役職に就いた月夜(ウォルヤ)について
石品(ソクプム)とサンタクが チルスクのもとへ…
『月夜(ウォルヤ)は万弩(マンノ)城の村長の息子です
ソヒョン公が目をかけて養子にしたようです』
『戦で死んだ郎徒(ナンド)も多い
郎徒(ナンド)の選抜については セジュも快諾したそうだが…』
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
※セジュ:王の印を管理する役職
『ユシン郎(ラン)の真意を測りかねているのですか』
『心配なさらなくても大丈夫です
この私が郎徒(ナンド)をきちんと監視します』
『これからお前たちは 花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)の様子を
常に報告するように』
『分かりました!』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
『ところで毗曇(ピダム)は?』
『郎徒(ナンド)もいませんし 特に動きもありません』
『そうか』
徳曼(トンマン)は 国の内情に詳しいヨンチュン公を訪ねる
『チヌン大帝は領土を広げました
それなのになぜ穀物が足りないのですか?』
『土地はあっても半分以上が荒れ地のため 農地が足りません』
『農地が足りないのか…』
『それに耕作した次の年は 土地がやせて作物が育たないのです』
『荒れ地を開墾する方法は?』
ユシン 閼川(アルチョン)を伴い鉄器工場を視察する徳曼(トンマン)は
ウォルチョン大師の言葉を思い出す
「武器の技術では いかに強い鉄を作り出すかが重要です
チヌン大帝の頃 鉄の技術の変革がありました
武器は新羅(シルラ)が最高です さらに進歩もしています」
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
「農具用の鉄は 武器用の鉄とは違うのですか」
「ええ 違います 農具用の鉄はあまり丈夫でなく
土を掘ることすらままなりません」
じっと考え込む徳曼(トンマン)の様子を気にするユシン
『何をお考えですか?』
『言えば叱られそうです』
『はい?』
『武器を溶かして農具を作っては?』
『それはいけません』
『そう簡単に言うな』
即答するユシンに呆れる閼川(アルチョン)だが
『そなたなら何と言う?』
『……』
『武器を減らさずに 農具を作る方法をお考えください
春秋(チュンチュ)公の訓練があるので失礼します』
『まったく…』
武骨で愛想のないユシンに 徳曼(トンマン)を気づかう閼川(アルチョン)
市場まで出てきた龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)たち
『出てくるのはまずい』
『未の刻に集合だろ』
※未の刻:午後1時~3時
『度胸がない奴らだな 今日は何の日だ?ん?
俺が大郎頭(テナンドゥ)になった日だろ 訓練なんてやってられるか』
竹方(チュクパン)の言葉に 気が大きくなる高島(コド)
『月夜郎(ウォルヤラン)も昇進したし 見逃してくれるさ』
『俺が何になったって?』
『大郎頭(テナンドゥ)だ!』
『何だって?』
『大郎頭(テナンドゥ)だよ!』
『そうだ!だから俺様がご馳走してやるよ 何がいい?
これか?今日はとことん飲もう! さあ いざ出陣だ!』
市場通りを酒場に向かって駆け出す一同
すると 何やら揉め事が起きているようだ
『冗談じゃない!7日前は麻布10枚で豆5升だっただろ!
この前は20枚で 今日は売らないだと?これで何とかしてくれ!』
『穀物の値段が上がっているんだ』
『どうか頼むよ』
『日照りで穀物がないから仕方ない!』
豆売りの商人が 後ろに山積みの品物がありながら売ろうとしない
客の男は激怒して怒鳴っている
『じゃあ あれは何だ?』
『あれはもう売れた物だと さっきも言っただろ!!!』
『頼む… うちの子供たちが飢え死にしそうなんだ』
『あんたの事情なんて知らないよ!』
男の剣幕に 心配顔の高島(コド)たち
『ケンカだ』
『穀物の値上がりか』
『この数日で高くなったと母さんも心配していた』
『行こう 大郎頭(テナンドゥ)として民に合わせる顔がない
俺たちは やるべきことがある』
4人が行こうとすると 悲鳴が上がり野次馬たちも驚いて逃げ出す
男が怒りに任せて商人を斧で叩き殺したのだ
武芸道場では キム・ユシンが春秋(チュンチュ)に剣術を教えている
『声が出ていませんね 大きな声で数えてください!』
『心の中で数えています』
『声を出した方が気合が入って集中できます』
『うるさく騒げば集中できるのか?静かな方が集中できるのではないか?』
そこへ 竹方(チュクパン)と高島(コド)が 血相を変えて駆け込んでくる
2人の姿を見て 慌てて隠れる春秋(チュンチュ)
まだ自分の正体を知られたくないのだ
『大変です!』
『何事だ?』
『東市(トンシ)で殺人が!』
※東市(トンシ):徐羅伐(ソラボル)の東にある市場
『どういうことだ?』
『早く来てください!』
『分かった しばし…』
しばし待っていろ と言うつもりが 春秋(チュンチュ)はもう姿がなかった
逃げ出した春秋(チュンチュ)の前方に 大男甫(テナムボ)の姿が…
よかった!とばかりに駆け寄る春秋(チュンチュ)
『見つかる前に早く行こう』
『はい』
すると今度は 前から毗曇(ピダム)がやって来る
素早く隠れる春秋 (チュンチュ)…!
『どうしました?』
『うわぁ… あいつ 本当に怖い奴なんだ』
市場では 商人を殺してしまった男が 泣き叫ぶ商人の娘を人質に…!
『近づいたら殺してやる!!!』
先に来ていた宝宗(ポジョン)たちから話を聞くユシン
『どういうことだ?』
『人質を取って騒いでいるのです』
『近づいたらぶっ殺すからな!!!』
男の背後に掛けられている竿に目をやるユシン
察した宝宗(ポジョン)と石品(ソクプム)が 正面から男に近づく
その隙に ユシンは背後に回り込んだ
『いいか?来るなよ! 殺すぞ! 来るんじゃない!!!
俺はどうせ死ぬ 道連れになりたいのは誰だ!!!』
ユシンは竿を外すと同時に 男に命中させた
大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)が 抑え込んで縛り上げた
刑場で取り調べが始まる
一部始終を目撃した者として 竹方(チュクパン)が証言をする
『この人が豆を買おうとしたけど 店の人は売ってくれませんでした
言い争ううちに興奮してしまって 斧で殴り掛かったんです』
『事実か?』
『間違いありません 頭に来て殺しました』
神妙に罪を認めた男は 涙ながらに訴える
『あいつは本当に悪い奴なんです
最初は麻布10枚で豆5升をくれたのに だんだん豆の量が減っていき
最後はもう売らないと… 畑は痩せて草も生えません
子供たちに食わせる物もなく… 飢え死にしそうなんです!
殺してください… ここで死んでも飢え死にしても同じこと どうか殺してください』
徳曼(トンマン)の執務室では 毗曇(ピダム)と閼川(アルチョン)が
膨大な資料を読み 調べ物をしている
そこへ ユシンが報告にやって来る
『穀物価格が高騰しています 東市(トンシ)での殺人も それが理由でした』
『人を殺すほどなのか』
『穀物の値段のせいで?』
『この10日間で 豆1石が鉄艇(チョルチョン)3両から15両になりました』
※鉄艇(チョルチョン):古代朝鮮で貨幣に使われた小さな鉄板
『そんなに値段が上がったのですか』
『はい どうも妙です』
心配する徳曼(トンマン)に 疑問があると言うユシン
すると毗曇(ピダム)が…
『私が商団の動きを探ってみます』
『商人に知り合いでもいるのか』
『いないなら作ればいいのです』
『では頼む』
『私も市場を探ってみます』
閼川(アルチョン)も黙ってはいられないと進言するが
『いいえ 一緒に動きましょう 私も行きます』
使用人を装った閼川(アルチョン)と林宗(イムジョン)
そして侍女を装い昭火(ソファ)が…
『あの 麦を買いたいのですが』
『ありません』
『ここにあるでしょう』
『それは売れた物です』
『これ全部ですか?少しだけでも売ってください』
『もう買い手がついたんです!』
徳曼(トンマン)と目配せをする昭火(ソファ)
『金3両で買います』
『……金3両だと?
いや もう売れた物だから売ることはできません!
あれだって全部売れたんだ』
徳曼(トンマン)が直接商人と話す
『買ったのは 誰です?』
『知ってどうするんだ』
一方毗曇(ピダム)は ヨムジョンを訪ねていた
『どうした?』
手下でも入って来たと思っているヨムジョン
しかし 急に顔の手拭いを剥ぎ取られ 慌てふためく…!
『俺はあれ以来 そっと入ってこられるのがダメなんだよ!』
『今の穀物の価格は 誰の仕業だ?お前か?』
分かれて調べていたユシンが…
『西市(ソシ)も同じでした 売ってくれません』
『もう売れたと?』
『はい』
※西市(ソシ):徐羅伐(ソラボル)の西にある市場
『誰が買ったのか調べましょう
穀物の流れを追跡しなければ 内密に調査できる人は?』
危険がありそうで 皆が下を向く
しかし 昭火(ソファ)に見つめられた竹方(チュクパン)は…
『私が引き受けます!侍衛府(シウィブ)の大郎頭(テナンドゥ)として
この任務を必ず果たして参ります』
『ではお願いします』
竹方(チュクパン)と… 結局は高島(コド)も手伝って
穀物を運ぶ商人たちを尾行する
『穀物をお持ちしました』
(ソルォン公の屋敷だろ?)
(そうだな)
(一体 何袋あるんだろう)
向こうの方から 大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)が…
結局 皆で行動している龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)たちだった
(兄貴!)
(さっきの荷車はどこへ?)
(スプム公の屋敷だ)
(大郎頭(テナンドゥ)だろ!)
谷使欣(コクサフン)の言い方を注意する高島(コド)
(スプム公の屋敷です 大郎頭(テナンドゥ)! これでいい?)
(その態度を忘れるなよ)
(ところで 金持ちの家ばかりだな)
(他の屋敷にも行ってみよう)
屋敷の前で商人と話しているのは 宝宗(ポジョン)だ
『これだけか』
『これで精一杯です 米はもちろん アワや豆も市場に出回っていません』
『金ははずむから 出回り次第買うんだ』
『かしこまりました 中に運べ!!!』
奥から出てきたソルォンに深々と頭を下げ 手下を動かす商人
『出回り次第買い入れています』
『お前に任せる 春秋(チュンチュ)公がまた来たのか?』
屋敷の中の桟敷で
宝宗(ポジョン)の娘 宝良(ポリャン)の前に宝石を並べているのはヨムジョン
『どれにするか 迷うでしょう?
どれも美しく輝いています “私を選んで”と言っていますよ
いいご趣味をしてらっしゃいます』
『どうですか』
付き添っている春秋(チュンチュ)に尋ねるが 春秋(チュンチュ)は無関心だ
不機嫌になる宝良(ポリャン)を気づかうヨムジョン
『私はお似合いだと思いますが さすがお目が高い!』
『では これは?』
『そなたの顔に 丸い形は似合わない』
『そうですか…』
ぶっきらぼうな言い方に傷つく宝良(ポリャン)
春秋(チュンチュ)は自ら選んで手に取った
『これは似合いそうだ』
途端に笑顔になる宝良(ポリャン)
ヨムジョンもホッとした表情に…
『やっぱり公子様はお目が高くていらっしゃる
ペルシアから届いたばかりです』
『はっきりした顔立ちだから 派手な色は避けるべきだ』
『急いで仕立てれば 嘉俳(カベ)の宴で着られます』
『そうだな』
※嘉俳(カベ):中秋 陰暦の8月15日
耳飾りの次に生地も選んでもらい 満足げな宝良(ポリャン)
春秋(チュンチュ)が次に手に取ったのは きらびやかな小物入れ
『実にお目が高い!隋から仕入れた皇帝への献上品です』
『偽物だ 騙されたな』
『す…すごく高かったのに!』
『隋の仙仏山には仏像が刻まれている
彫刻や陶磁器に適した土があるからだ
その土で作った器だけが 隋の王室に入るのだ』
※仙仏山:中国山東省の山 磨崖仏で有名
『こ…今後気をつけます 頭脳明晰ですなぁ… ハハハ…』
『あの者は 誰だったかな』
『漢山州(ハンサンジュ)の都督です』
※都督(トドク):州の長官
『名前はキム・インムンだったか』
『キム・インムンは何瑟羅州(ハスルラジュ)の軍主です
あの方は伊飡(イチャン)のイム・ヨンジです』
※伊飡(イチャン):新羅(シルラ)における十七官位の2番目
『イム・ヨンジとは初めて聞く名前だ』
『何度もお話しましたよ
百済(ペクチェ)が枷岑(カジャム)城を攻撃した時 副将軍でした』
目配せし合う春秋(チュンチュ)とヨムジョン
『その功績を認められて 弟監(テガム)まで務めました
本当に人を覚えられないんですね』
※弟監(テガム):新羅(シルラ)の兵部(ピョンブ)の官職
『そうだな どうしてこんなに顔と名前が一致しないのか』
『私も 飲み屋で何を飲んだか覚えていません
酒の肴だって何を食べたのか まったく思い出せなくなりました』
『2人とも困ったものだ』
『そうですね 公子様 アハハハ… さあ ゆっくりとお選びください』
春秋(チュンチュ)が連れて来た怪しげな商人を見るソルォンが…
『さっきの商人は何者だ?』
『美生(ミセン)公が通う賭博場の者です
貿易も手掛けていて 何度か来たことがあります』
『身元の怪しい者は入れるな』
『美生(ミセン)公の知り合いなので心配いりません』
『春秋(チュンチュ)公は毎日来るのか』
『はい 宝良(ポリャン)に気があるのでは?
美生(ミセン)公が そろそろ縁談をまとめるでしょう』
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