善徳女王 38話#2 徳曼(トンマン)の商才
『一袋が鉄艇(チョルチョン)20両なんてあり得ない!
数日前は14両だっただろ!』
『勘弁してくださいよ 今の市場では22両以上ですよ』
『そうか? …もっと上がるから構わんが ほら!』
『ありがとうございます』
商人相手に怒鳴っていた夏宗(ハジョン)は 1人納得したようにほくそ笑む
『市場に穀物が出回れば 買い占めて持ってこい』
『もちろんですとも!』
これを盗み見ている竹方(チュクパン)と高島(コド)
(夏宗(ハジョン)公もだ)
(貴族が買い占めていたんだな)
(家族が多いにしても あんなにたくさん買うなんて 大食いなのかも!)
(バカ野郎!自分中心の考え方はするな もう昔の高島(コド)とは違う!
大郎頭(テナンドゥ)竹方(チュクパン)様の一番の部下だという自覚を持て)
(でも米俵を見たから何だかうれしい)
(バカ野郎 まったく!)
宮殿の外の砦で待つ 徳曼(トンマン)とユシンのもとへ
竹方(チュクパン)が戻ってくる
『ユシン郎(ラン)!失礼します ぷ…風月主(プンウォルチュ)様
任務を果たして無事に戻りました!』
※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長
『分かりましたか』
『はい 穀物の値段と流れについて報告します』
『早く話せ!』
昭火(ソファ)を意識するあまり 要点を得ない竹方(チュクパン)
『商人の言う通り 売り切れたのは確かです』
『誰が買ったのですか』
『スウルブ公 ソルォン公 夏宗(ハジョン)公 世宗(セジョン)公など
お偉い方々の屋敷に運ばれていきました 高値で買い込んでいました』
『貴族が買占めを』
『値段を天井知らずに釣り上げている』
『でも なぜ高い値段で買い続けているのでしょう』
自慢げに竹方(チュクパン)が…
『値段がもっと上がるから高くても買うのです』
『利益を得るために民を相手に商売を』
『それは分かっています』
『では…』
『それでも まだ腑に落ちない点が』
徳曼(トンマン)は 父真平(チンピョン)王に会う
『腑に落ちない?』
『はい 陛下』
『言ってみよ』
『チヌン大帝の頃も 不作の年はありましたが
これほど価格は上がりませんでした
調べてみると 真智(チンジ)王の時から繰り返されています』
『チヌン大帝の時代と比べることはできない
当時は領土が広がり続けていた
新たな領土に民を移住させて 土地を分け与え税を免除した
その結果 自作農が多くなった しかし今はそうすることができない
私のせいだな…』
『違います 貴族の買占めが度を越しているので 理由が気になるのです』
『しかし 買占めは罪ではない 自分の財産はどう使ってもよいものだ
いくら買い占めても 凶作で飢饉が起これば
王室と同じように 貴族も救恤米を提供する』
※救恤米:貧民救済のために使う米
『この十数年間で 王室より多く救恤米を提供したのは いつもミシルだった』
『そこが疑問なのです 救恤米を無償で提供するのに
あえて高い値段で買い占めるのはなぜでしょうか』
ユシンの執務室に入って来たのは金春秋(キム・チュンチュ)
しかし 誰もいないようだ
『ユシン郎(ラン) ユシン… 約束の時間を守れないのか
風月主(プンウォルチュ)が執務室を留守にするなんて』
遅れて入って来たキム・ユシン
『おいででしたか』
『遅かったじゃないか』
『王女様の命令で 教育担当が変わりました』
『そうか? 確かにお前は生真面目だし 愚鈍だから私とは合わない
新しい担当者は誰だ?』
『はい おい!中に入れ』
入って来た担当者の顔を見て 驚く春秋(チュンチュ)…!
『新しい教育担当の毗曇(ピダム)です』
『あの…』
『毗曇郎(ピダムラン)は国仙(ククソン)ムンノの弟子で
今は無名之徒(ムミョンジド)の花郎(ファラン)です』
※国仙(ククソン):花郎(ファラン)の総指導者
『あの… ユシン郎(ラン)
訓練を重ねるうちに私たちは仲良くなっただろ
今後もお前から教わる方がいいと思うのだが…』
ギロリと睨まれて 絶望的な表情の春秋(チュンチュ)
『頼んだぞ』
『心配は無用だ』
『待ってくれよ!!!』
行こうとするユシンを引き止めようと必死になる春秋(チュンチュ)
しかし ユシンはさっさと行ってしまい 毗曇(ピダム)と2人きりに…
さっそく 毗曇(ピダム)のやり方で教育が始まった
『3つ目!本で折り紙をしない
4つ目!絶対に逃げ出さない
それから5つ目だ』
毗曇(ピダム)が話すことを すべて書き取る春秋(チュンチュ)
『ところで なぜ私に敬語を使わない?』
『俺は 王女様にもタメ口だった』
勇気を持って聞いたのに…
『5つ目だ 5つ目は… チッ! 忘れちまっただろ』
『ところで 王女様は穀物価格を調べているのか』
『叔母君には敬語を使え!』
『お前もそうだろ』
『…確かにそうだな ウヘヘ… おい』
『何だよ』
『貴族の買占めで値段が上がっている』
『だから?』
『なぜ貴族はそんなことを?』
毗曇(ピダム)も感じるその疑問を
徳曼(トンマン)は真正面からミシルにぶつけてみた
『失礼ですが 本当に厚かましい方ですね』
『はい 自分でもそう思います』
『なぜ私にそんなことを質問しようと?』
『知りたくて仕方ないのです
それに答えてくれるのは 徐羅伐(ソラボル)でセジュだけだと思うので』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
何でもためらわずにぶつかってくる徳曼(トンマン)に
ミシルの顔には笑みがこぼれる
『もし気に障ったなら これで失礼します』
『いいえ 質問は何でした?』
『はい 凶作が予想される場合 商人なら買い占めて
価格を釣り上げてから売り 利益を上げます
しかし貴族は 凶作で飢饉になれば救恤米を提供します
利益が出てもわずかで 損をする場合もあります』
『ええ そうです』
『それなのになぜ 買い占めて価格を釣り上げ民を苦しめるのですか』
『民がなぜ苦しむのですか?』
ミシルが徳曼(トンマン)の質問に答えようとしている時
毗曇(ピダム)も同じことを春秋(チュンチュ)に聞く
『貴族の意図を教えろ!』
『利益を得るためだろ』
『でも実際は儲けが出ないらしいぞ だって… お前に話しても無駄か』
『金品だけを考えるから分からないんだ』
『何の話だ?』
『穀物や鉄や金塊以外にも 得られるものはあるだろ?』
まさに同じ答えを ミシルも出していた
『民がなぜ苦しむのですか?』
『穀物の価格が上がって買えないため 飢えているのでしょう』
『では その飢えた民はどうなると思いますか』
『はい? それは… その…』
『民は小作農もいますが自作農もいるのです 彼らはどうなると?』
ミシルの言葉で 何かをひらめく徳曼(トンマン)は
血相を変えて自分の執務室に戻ってくる
待っていたユシンが怪訝な顔で見ている
『王女様 何をお探しで?』
『これです 分かりました
凶作だった真智(チンジ)王2年の秋
真智(チンジ)王3年7月 建福(コンポク)2年と13年 そして28年です』
※建福(コンポク):真平(チンピョン)王時代の年号
『凶作のたびに貴族の土地と奴婢が増えています』
『自作農が没落した』
『そうです』
『貴族が穀物を買い占めるのは…』
『高利貸しが目的なのです』
『返済できない場合は 土地を奪われ小作農となります』
『小作農だった場合は 貴族の奴婢になる』
『真智(チンジ)王の頃から 凶作のたびに貴族は自作農を没落させ
自分の領地を広げ 税収を増やしたのです
それによって 王室は税収が減りました』
『そのかわり 翌年の春になれば 買った穀物を救恤米として出す
民心を慰める名目で』
『なぜ分かったのですか?』
『実は ミシル宮主(クンジュ)が教えてくれました』
『はい?』
※宮主(クンジュ):王に仕える後宮を表す称号
ユシンの驚きと同様に 徳曼(トンマン)が自らミシルを訪ねてきたということは
夏宗(ハジョン)たちを驚かせていた
『えぇっ?徳曼(トンマン)王女が?』
『それで 教えたのですか?』
『教えたのではなく 質問をしただけです』
『それは 答えに導いたということでは?』
『徳曼(トンマン)王女が知ったところで何もできません』
『自分の財産で買うのだから文句はないはずだ!』
『姉上は徳曼(トンマン)がどう動くか知りたくて わざと教えてやったのでは?』
美生(ミセン)の質問に ミシルは楽しそうに笑みを浮かべるのだった
徳曼(トンマン)の話を聞いたユシンは…
『しかし それは止められません
自分の財産で買うのですから 高利貸しも法で禁止すべきですが
和白(ファベク)会議で貴族が反対するでしょう』
※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議
『法では禁止しません』
『何です?』
『商売には商売で対抗するのです』
自信に満ちた表情の徳曼(トンマン)
ユシンは戸惑いの顔になる
『私は交易地で育ちました
各国の最高の商売人が集まる場所です
新羅(シルラ)も貿易が盛んですが 比べ物になりません 私も商売をします』
この件について 王室側でも会議が開かれる
『貴族の買占めを止める方法はない』
『はい 財産の使い道には口出しできません』
『しかも 昔から行われてきたことなのです』
そこで徳曼(トンマン)が…
『国の財産を使うのです』
『王室の財産で?』
『一体どうやって?』
『陛下 この件は私にお任せください
短期的にも長期的にも いい方法があります』
『反発は避けられません』
『王女様 実は私も買い占めました』
徳曼(トンマン)の執務室に キム・ソヒョンとヨンチュン公が…
しかも ヨンチュン公までが買い占めたと告白する
『だからではありませんが 貴族の反発は想像以上でしょう』
『それより 救恤米を提供しては?』
『凶作のたび救恤米を配っても
農民は土地を捨て 小作農や流民になるのです 力を貸してください』
『しかし 市場に国が介入するわけにはまいりません 代理人が必要です』
『はい 適任者がいるのです』
徳曼(トンマン)の言う適任者とは…
『儲かってるか?』
『びっくりさせるな!!!』
またしてもヨムジョンを驚かせる毗曇(ピダム)
『まったくあいつら 筆を洗っておけよ!
なぜ物音も立てずに入って来るんだ?!!!
頼むから驚かせないでくれ 血の気が引いた』
『内密に頼みたいことがある 使えそうな奴を集めろ 急げ…』
毗曇(ピダム)の密命を受けて ヨムジョンが動き出す
市場の商人たちに どんどん穀物を売り込む
『200石だ』
『200石ですか?!』
『早く運べ!』
『ありがたい 今は10石だって手に入らないのに200石?
でもこんなにたくさん どこで手に入れたのですか』
『知る必要はない 今日の相場は鉄艇(チョルチョン)25両か?』
『はい』
『今後も持って来るぞ』
『よろしくお願いします!貴族にもっと買い込めと言われていたので助かります』
市場の様子を探る毗曇(ピダム)
『いらっしゃい』
『約束の穀物を持って来たぞ』
『こちらに鉄艇(チョルチョン)5000両をご用意しました』
そんなことも知らず 世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子は余裕だ
『価格が釣り上がるのを心配したって無駄なのに アッハッハ…』
『かえって噂が広まり高騰するだろう』
『はい』
そこへ…
『上大等(サンデドゥン)はこちらに?』
『入れ どうした?』
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理にあたる
石品(ソクプム) 徳充(トクチュン) 朴義(パグィ)の3人だ
『市場の動きが怪しいです』
『またその話か?天井知らずに価格が上がり続けているって話だろ』
『いいえ 市場に穀物が出回っています』
『もしや何か 聞いていらっしゃいませんか?』
『父にも頼まれました』
『王室の蔵を開けたのでは?』
市場に穀物が出回るということは 価格が下落に向かうということだ
さらに上がると見込んで 高値の穀物を買い占めている貴族たちには深刻だ
『蔵を開けただと?上大等(サンデドゥン)の私に知らせずに開けるわけがない』
『民に配給するための救恤米だ 市場に流れるはずないだろ』
『担当部署もないんだ いいからもう行け』
ならばと退室する石品(ソクプム)たち
『確かに最近は穀物が出回っていますが 言い値で買い続けています
昨日も もっと持って来るから買うかと聞かれました
一袋 鉄艇(チョルチョン)30両でした』
『確かに高いな 数日前の2倍以上の価格だ』
『でも 買い続けるべきでしょ?』
貴族たちは何も気づいてはいない
徳曼(トンマン)は 刻々と変わりゆく市場の情勢を見極めていた
『今の状況は?』
『1000石ほど市場に出しました』
『あと1000石 追加します』
『しかし 価格はまだ下がりません』
『貴族はいつまで買い続けるのか』
『利益を得るためなら そろそろ手を引くはず
しかし… 自作農を没落させるために買い続けるでしょう
そして気づくはずです 高い値段でたくさん買い過ぎたと…』
ミシルは 執務室に側近を招集し そこへユシンを呼びつける
ミシルをはじめ 皆が注目する中 夏宗(ハジョン)が…
『お呼びでしょうか』
『お前に聞きたいことがある
もしや王女様は… 王室の穀物を売り払っているのでは?
穀物がたくさん出回っている』
『はい 価格の高騰が続いたため
王室の穀物を市場で売れば 国庫が潤うと言われました』
唖然とする一同 ミシルさえも言葉がない
ソルォンが怒りを込めて詰問する
『王室が商売をするつもりか 何ということだ!!!』
この件が知れ渡ると 花郎(ファラン)たちが口々に不安を口にする
『王室の蔵を開けて売った?』
『しかも 全部売り払うそうだ』
『では 穀物の価格が下がるのではないか?』
『買った穀物を売るよう 父上に伝えなければ』
『それを売れば さらに値段が下がる』
『そうだ 今売ったら大損害だ』
石品(ソクプム)と徳充(トクチュン)はもっとも深刻そうだ
『そなたたちは財力があるからいいが
我々は 価格が下がれば今の土地を手放すことになる』
『そうだ 自作農の土地を奪うために買い込んだのに
このままでは損をする 早く行こう!』
ようやく気づき始めた貴族たち
ユシンと閼川(アルチョン) 毗曇(ピダム)が 徳曼(トンマン)に報告する
『貴族たちが売り始めました』
『穀物の価格が下がり始めています』
『いい傾向です ソヒョン公と次の手を』
『はい』
『では私も 自分の仕事をします』
ミシルと大臣たちを招集する徳曼(トンマン)
『陛下の代わりに 穀物価格についての会議を行います
意見がある方は発言を』
真っ先に世宗(セジョン)が…
『王女様 もしや王室の蔵を開けられたのですか』
『はい』
素直に認める徳曼(トンマン)に 夏宗(ハジョン)が興奮する
『無料配布でなく 王室の穀物で商売ですか!』
ミシルが後を引き受けて言葉をつなぐ
『価格が上がるから穀物を放出するとは… がっかりしました
単純な考え方ですね』
『王室が民を相手に商売などしてはなりません』
『飢饉のときに無償で配るために備蓄している穀物で 商売をしたのですか』
『救恤米は 私なりの方法で用意しています』
あくまでも余裕の笑みを浮かべる徳曼(トンマン)
それをじっと見つめるミシル
市場では 石品(ソクプム)が…
『穀物を売りたい』
『売った時の値段では買い取れません
たくさん出回り 価格が下がりました』
徳充(トクチュン)も…
『いくらだ』
『この前までは鉄艇(チョルチョン)25両でしたが
今は頑張っても15両というところです』
朴義(パグィ)も信じられない表情に…
『数日前に1袋20両で買ったのに!今は15両とは考えられない!』
責められる徳曼(トンマン)は 笑顔で答える
『はい 商売といえば商売ですね
王室は高値で穀物を売りました 値下がりすれば買い戻します
王室は大きな利益を得るでしょう また市場にたくさん穀物が出回れば…』
『価格が下がって市場が安定する』
徳曼(トンマン)に最後まで言わせず ミシルが答えた
『しかし 貴族が申し合わせて売らないと言えば どうするつもりですか?』
『そうならないはずです』
どうしてこんなにも笑顔でいられるのか…
その自信はどこから来るのか…
ミシル側はさっぱりわからない
すると徳曼(トンマン)が 最後の言葉を放った
『備蓄されている兵糧米も すべて放出します
すでにソヒョン公が動いています』
『兵糧米を放出するなどとんでもない』
『穀物が高騰するから 王室の穀物と兵糧米を出し切る
本当にそれで 解決すると思いますか』
『これまで 誰も考えなかったわけではありません』
口々に意見を述べるミシル側に対し
徳曼(トンマン)は 厳しい口調で答える
『値上がりは 本当に穀物が足りなかったせいですか?
貴族たちが自作農を没落させるためでしょう?
私は 民を相手に商売してはいません 貴族を相手にしているのです』
『兵糧米は国防にも関わります!どうやって責任を取るのですか
百済(ペクチェ)と戦になったら…』
もっともらしく言うソルォンを見据えて 徳曼(トンマン)は答えた
『実際に放出することも しないこともできます』
『何です?』
だんだん楽しそうな笑顔になるミシル
『放出しない?』
『はい 出すと公表するだけでいいのです』
『公表だけ?』
『価格が上がったのは 穀物が足りないからではなく
足りなくなることを恐れ 皆が買い込んだためでしょう それと同じことです
兵糧米を放出するという噂を流せば 価格の下落を恐れて
貴族はとにかく売るでしょう そして値段が下がる』
『それでも貴族が売らずに 値下がりしなかったら?』
『そうなるでしょうか 売らずにいられますか?
そうするには… あまりにも… 高値で買ったのでは?』
数日前は14両だっただろ!』
『勘弁してくださいよ 今の市場では22両以上ですよ』
『そうか? …もっと上がるから構わんが ほら!』
『ありがとうございます』
商人相手に怒鳴っていた夏宗(ハジョン)は 1人納得したようにほくそ笑む
『市場に穀物が出回れば 買い占めて持ってこい』
『もちろんですとも!』
これを盗み見ている竹方(チュクパン)と高島(コド)
(夏宗(ハジョン)公もだ)
(貴族が買い占めていたんだな)
(家族が多いにしても あんなにたくさん買うなんて 大食いなのかも!)
(バカ野郎!自分中心の考え方はするな もう昔の高島(コド)とは違う!
大郎頭(テナンドゥ)竹方(チュクパン)様の一番の部下だという自覚を持て)
(でも米俵を見たから何だかうれしい)
(バカ野郎 まったく!)
宮殿の外の砦で待つ 徳曼(トンマン)とユシンのもとへ
竹方(チュクパン)が戻ってくる
『ユシン郎(ラン)!失礼します ぷ…風月主(プンウォルチュ)様
任務を果たして無事に戻りました!』
※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長
『分かりましたか』
『はい 穀物の値段と流れについて報告します』
『早く話せ!』
昭火(ソファ)を意識するあまり 要点を得ない竹方(チュクパン)
『商人の言う通り 売り切れたのは確かです』
『誰が買ったのですか』
『スウルブ公 ソルォン公 夏宗(ハジョン)公 世宗(セジョン)公など
お偉い方々の屋敷に運ばれていきました 高値で買い込んでいました』
『貴族が買占めを』
『値段を天井知らずに釣り上げている』
『でも なぜ高い値段で買い続けているのでしょう』
自慢げに竹方(チュクパン)が…
『値段がもっと上がるから高くても買うのです』
『利益を得るために民を相手に商売を』
『それは分かっています』
『では…』
『それでも まだ腑に落ちない点が』
徳曼(トンマン)は 父真平(チンピョン)王に会う
『腑に落ちない?』
『はい 陛下』
『言ってみよ』
『チヌン大帝の頃も 不作の年はありましたが
これほど価格は上がりませんでした
調べてみると 真智(チンジ)王の時から繰り返されています』
『チヌン大帝の時代と比べることはできない
当時は領土が広がり続けていた
新たな領土に民を移住させて 土地を分け与え税を免除した
その結果 自作農が多くなった しかし今はそうすることができない
私のせいだな…』
『違います 貴族の買占めが度を越しているので 理由が気になるのです』
『しかし 買占めは罪ではない 自分の財産はどう使ってもよいものだ
いくら買い占めても 凶作で飢饉が起これば
王室と同じように 貴族も救恤米を提供する』
※救恤米:貧民救済のために使う米
『この十数年間で 王室より多く救恤米を提供したのは いつもミシルだった』
『そこが疑問なのです 救恤米を無償で提供するのに
あえて高い値段で買い占めるのはなぜでしょうか』
ユシンの執務室に入って来たのは金春秋(キム・チュンチュ)
しかし 誰もいないようだ
『ユシン郎(ラン) ユシン… 約束の時間を守れないのか
風月主(プンウォルチュ)が執務室を留守にするなんて』
遅れて入って来たキム・ユシン
『おいででしたか』
『遅かったじゃないか』
『王女様の命令で 教育担当が変わりました』
『そうか? 確かにお前は生真面目だし 愚鈍だから私とは合わない
新しい担当者は誰だ?』
『はい おい!中に入れ』
入って来た担当者の顔を見て 驚く春秋(チュンチュ)…!
『新しい教育担当の毗曇(ピダム)です』
『あの…』
『毗曇郎(ピダムラン)は国仙(ククソン)ムンノの弟子で
今は無名之徒(ムミョンジド)の花郎(ファラン)です』
※国仙(ククソン):花郎(ファラン)の総指導者
『あの… ユシン郎(ラン)
訓練を重ねるうちに私たちは仲良くなっただろ
今後もお前から教わる方がいいと思うのだが…』
ギロリと睨まれて 絶望的な表情の春秋(チュンチュ)
『頼んだぞ』
『心配は無用だ』
『待ってくれよ!!!』
行こうとするユシンを引き止めようと必死になる春秋(チュンチュ)
しかし ユシンはさっさと行ってしまい 毗曇(ピダム)と2人きりに…
さっそく 毗曇(ピダム)のやり方で教育が始まった
『3つ目!本で折り紙をしない
4つ目!絶対に逃げ出さない
それから5つ目だ』
毗曇(ピダム)が話すことを すべて書き取る春秋(チュンチュ)
『ところで なぜ私に敬語を使わない?』
『俺は 王女様にもタメ口だった』
勇気を持って聞いたのに…
『5つ目だ 5つ目は… チッ! 忘れちまっただろ』
『ところで 王女様は穀物価格を調べているのか』
『叔母君には敬語を使え!』
『お前もそうだろ』
『…確かにそうだな ウヘヘ… おい』
『何だよ』
『貴族の買占めで値段が上がっている』
『だから?』
『なぜ貴族はそんなことを?』
毗曇(ピダム)も感じるその疑問を
徳曼(トンマン)は真正面からミシルにぶつけてみた
『失礼ですが 本当に厚かましい方ですね』
『はい 自分でもそう思います』
『なぜ私にそんなことを質問しようと?』
『知りたくて仕方ないのです
それに答えてくれるのは 徐羅伐(ソラボル)でセジュだけだと思うので』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
何でもためらわずにぶつかってくる徳曼(トンマン)に
ミシルの顔には笑みがこぼれる
『もし気に障ったなら これで失礼します』
『いいえ 質問は何でした?』
『はい 凶作が予想される場合 商人なら買い占めて
価格を釣り上げてから売り 利益を上げます
しかし貴族は 凶作で飢饉になれば救恤米を提供します
利益が出てもわずかで 損をする場合もあります』
『ええ そうです』
『それなのになぜ 買い占めて価格を釣り上げ民を苦しめるのですか』
『民がなぜ苦しむのですか?』
ミシルが徳曼(トンマン)の質問に答えようとしている時
毗曇(ピダム)も同じことを春秋(チュンチュ)に聞く
『貴族の意図を教えろ!』
『利益を得るためだろ』
『でも実際は儲けが出ないらしいぞ だって… お前に話しても無駄か』
『金品だけを考えるから分からないんだ』
『何の話だ?』
『穀物や鉄や金塊以外にも 得られるものはあるだろ?』
まさに同じ答えを ミシルも出していた
『民がなぜ苦しむのですか?』
『穀物の価格が上がって買えないため 飢えているのでしょう』
『では その飢えた民はどうなると思いますか』
『はい? それは… その…』
『民は小作農もいますが自作農もいるのです 彼らはどうなると?』
ミシルの言葉で 何かをひらめく徳曼(トンマン)は
血相を変えて自分の執務室に戻ってくる
待っていたユシンが怪訝な顔で見ている
『王女様 何をお探しで?』
『これです 分かりました
凶作だった真智(チンジ)王2年の秋
真智(チンジ)王3年7月 建福(コンポク)2年と13年 そして28年です』
※建福(コンポク):真平(チンピョン)王時代の年号
『凶作のたびに貴族の土地と奴婢が増えています』
『自作農が没落した』
『そうです』
『貴族が穀物を買い占めるのは…』
『高利貸しが目的なのです』
『返済できない場合は 土地を奪われ小作農となります』
『小作農だった場合は 貴族の奴婢になる』
『真智(チンジ)王の頃から 凶作のたびに貴族は自作農を没落させ
自分の領地を広げ 税収を増やしたのです
それによって 王室は税収が減りました』
『そのかわり 翌年の春になれば 買った穀物を救恤米として出す
民心を慰める名目で』
『なぜ分かったのですか?』
『実は ミシル宮主(クンジュ)が教えてくれました』
『はい?』
※宮主(クンジュ):王に仕える後宮を表す称号
ユシンの驚きと同様に 徳曼(トンマン)が自らミシルを訪ねてきたということは
夏宗(ハジョン)たちを驚かせていた
『えぇっ?徳曼(トンマン)王女が?』
『それで 教えたのですか?』
『教えたのではなく 質問をしただけです』
『それは 答えに導いたということでは?』
『徳曼(トンマン)王女が知ったところで何もできません』
『自分の財産で買うのだから文句はないはずだ!』
『姉上は徳曼(トンマン)がどう動くか知りたくて わざと教えてやったのでは?』
美生(ミセン)の質問に ミシルは楽しそうに笑みを浮かべるのだった
徳曼(トンマン)の話を聞いたユシンは…
『しかし それは止められません
自分の財産で買うのですから 高利貸しも法で禁止すべきですが
和白(ファベク)会議で貴族が反対するでしょう』
※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議
『法では禁止しません』
『何です?』
『商売には商売で対抗するのです』
自信に満ちた表情の徳曼(トンマン)
ユシンは戸惑いの顔になる
『私は交易地で育ちました
各国の最高の商売人が集まる場所です
新羅(シルラ)も貿易が盛んですが 比べ物になりません 私も商売をします』
この件について 王室側でも会議が開かれる
『貴族の買占めを止める方法はない』
『はい 財産の使い道には口出しできません』
『しかも 昔から行われてきたことなのです』
そこで徳曼(トンマン)が…
『国の財産を使うのです』
『王室の財産で?』
『一体どうやって?』
『陛下 この件は私にお任せください
短期的にも長期的にも いい方法があります』
『反発は避けられません』
『王女様 実は私も買い占めました』
徳曼(トンマン)の執務室に キム・ソヒョンとヨンチュン公が…
しかも ヨンチュン公までが買い占めたと告白する
『だからではありませんが 貴族の反発は想像以上でしょう』
『それより 救恤米を提供しては?』
『凶作のたび救恤米を配っても
農民は土地を捨て 小作農や流民になるのです 力を貸してください』
『しかし 市場に国が介入するわけにはまいりません 代理人が必要です』
『はい 適任者がいるのです』
徳曼(トンマン)の言う適任者とは…
『儲かってるか?』
『びっくりさせるな!!!』
またしてもヨムジョンを驚かせる毗曇(ピダム)
『まったくあいつら 筆を洗っておけよ!
なぜ物音も立てずに入って来るんだ?!!!
頼むから驚かせないでくれ 血の気が引いた』
『内密に頼みたいことがある 使えそうな奴を集めろ 急げ…』
毗曇(ピダム)の密命を受けて ヨムジョンが動き出す
市場の商人たちに どんどん穀物を売り込む
『200石だ』
『200石ですか?!』
『早く運べ!』
『ありがたい 今は10石だって手に入らないのに200石?
でもこんなにたくさん どこで手に入れたのですか』
『知る必要はない 今日の相場は鉄艇(チョルチョン)25両か?』
『はい』
『今後も持って来るぞ』
『よろしくお願いします!貴族にもっと買い込めと言われていたので助かります』
市場の様子を探る毗曇(ピダム)
『いらっしゃい』
『約束の穀物を持って来たぞ』
『こちらに鉄艇(チョルチョン)5000両をご用意しました』
そんなことも知らず 世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子は余裕だ
『価格が釣り上がるのを心配したって無駄なのに アッハッハ…』
『かえって噂が広まり高騰するだろう』
『はい』
そこへ…
『上大等(サンデドゥン)はこちらに?』
『入れ どうした?』
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理にあたる
石品(ソクプム) 徳充(トクチュン) 朴義(パグィ)の3人だ
『市場の動きが怪しいです』
『またその話か?天井知らずに価格が上がり続けているって話だろ』
『いいえ 市場に穀物が出回っています』
『もしや何か 聞いていらっしゃいませんか?』
『父にも頼まれました』
『王室の蔵を開けたのでは?』
市場に穀物が出回るということは 価格が下落に向かうということだ
さらに上がると見込んで 高値の穀物を買い占めている貴族たちには深刻だ
『蔵を開けただと?上大等(サンデドゥン)の私に知らせずに開けるわけがない』
『民に配給するための救恤米だ 市場に流れるはずないだろ』
『担当部署もないんだ いいからもう行け』
ならばと退室する石品(ソクプム)たち
『確かに最近は穀物が出回っていますが 言い値で買い続けています
昨日も もっと持って来るから買うかと聞かれました
一袋 鉄艇(チョルチョン)30両でした』
『確かに高いな 数日前の2倍以上の価格だ』
『でも 買い続けるべきでしょ?』
貴族たちは何も気づいてはいない
徳曼(トンマン)は 刻々と変わりゆく市場の情勢を見極めていた
『今の状況は?』
『1000石ほど市場に出しました』
『あと1000石 追加します』
『しかし 価格はまだ下がりません』
『貴族はいつまで買い続けるのか』
『利益を得るためなら そろそろ手を引くはず
しかし… 自作農を没落させるために買い続けるでしょう
そして気づくはずです 高い値段でたくさん買い過ぎたと…』
ミシルは 執務室に側近を招集し そこへユシンを呼びつける
ミシルをはじめ 皆が注目する中 夏宗(ハジョン)が…
『お呼びでしょうか』
『お前に聞きたいことがある
もしや王女様は… 王室の穀物を売り払っているのでは?
穀物がたくさん出回っている』
『はい 価格の高騰が続いたため
王室の穀物を市場で売れば 国庫が潤うと言われました』
唖然とする一同 ミシルさえも言葉がない
ソルォンが怒りを込めて詰問する
『王室が商売をするつもりか 何ということだ!!!』
この件が知れ渡ると 花郎(ファラン)たちが口々に不安を口にする
『王室の蔵を開けて売った?』
『しかも 全部売り払うそうだ』
『では 穀物の価格が下がるのではないか?』
『買った穀物を売るよう 父上に伝えなければ』
『それを売れば さらに値段が下がる』
『そうだ 今売ったら大損害だ』
石品(ソクプム)と徳充(トクチュン)はもっとも深刻そうだ
『そなたたちは財力があるからいいが
我々は 価格が下がれば今の土地を手放すことになる』
『そうだ 自作農の土地を奪うために買い込んだのに
このままでは損をする 早く行こう!』
ようやく気づき始めた貴族たち
ユシンと閼川(アルチョン) 毗曇(ピダム)が 徳曼(トンマン)に報告する
『貴族たちが売り始めました』
『穀物の価格が下がり始めています』
『いい傾向です ソヒョン公と次の手を』
『はい』
『では私も 自分の仕事をします』
ミシルと大臣たちを招集する徳曼(トンマン)
『陛下の代わりに 穀物価格についての会議を行います
意見がある方は発言を』
真っ先に世宗(セジョン)が…
『王女様 もしや王室の蔵を開けられたのですか』
『はい』
素直に認める徳曼(トンマン)に 夏宗(ハジョン)が興奮する
『無料配布でなく 王室の穀物で商売ですか!』
ミシルが後を引き受けて言葉をつなぐ
『価格が上がるから穀物を放出するとは… がっかりしました
単純な考え方ですね』
『王室が民を相手に商売などしてはなりません』
『飢饉のときに無償で配るために備蓄している穀物で 商売をしたのですか』
『救恤米は 私なりの方法で用意しています』
あくまでも余裕の笑みを浮かべる徳曼(トンマン)
それをじっと見つめるミシル
市場では 石品(ソクプム)が…
『穀物を売りたい』
『売った時の値段では買い取れません
たくさん出回り 価格が下がりました』
徳充(トクチュン)も…
『いくらだ』
『この前までは鉄艇(チョルチョン)25両でしたが
今は頑張っても15両というところです』
朴義(パグィ)も信じられない表情に…
『数日前に1袋20両で買ったのに!今は15両とは考えられない!』
責められる徳曼(トンマン)は 笑顔で答える
『はい 商売といえば商売ですね
王室は高値で穀物を売りました 値下がりすれば買い戻します
王室は大きな利益を得るでしょう また市場にたくさん穀物が出回れば…』
『価格が下がって市場が安定する』
徳曼(トンマン)に最後まで言わせず ミシルが答えた
『しかし 貴族が申し合わせて売らないと言えば どうするつもりですか?』
『そうならないはずです』
どうしてこんなにも笑顔でいられるのか…
その自信はどこから来るのか…
ミシル側はさっぱりわからない
すると徳曼(トンマン)が 最後の言葉を放った
『備蓄されている兵糧米も すべて放出します
すでにソヒョン公が動いています』
『兵糧米を放出するなどとんでもない』
『穀物が高騰するから 王室の穀物と兵糧米を出し切る
本当にそれで 解決すると思いますか』
『これまで 誰も考えなかったわけではありません』
口々に意見を述べるミシル側に対し
徳曼(トンマン)は 厳しい口調で答える
『値上がりは 本当に穀物が足りなかったせいですか?
貴族たちが自作農を没落させるためでしょう?
私は 民を相手に商売してはいません 貴族を相手にしているのです』
『兵糧米は国防にも関わります!どうやって責任を取るのですか
百済(ペクチェ)と戦になったら…』
もっともらしく言うソルォンを見据えて 徳曼(トンマン)は答えた
『実際に放出することも しないこともできます』
『何です?』
だんだん楽しそうな笑顔になるミシル
『放出しない?』
『はい 出すと公表するだけでいいのです』
『公表だけ?』
『価格が上がったのは 穀物が足りないからではなく
足りなくなることを恐れ 皆が買い込んだためでしょう それと同じことです
兵糧米を放出するという噂を流せば 価格の下落を恐れて
貴族はとにかく売るでしょう そして値段が下がる』
『それでも貴族が売らずに 値下がりしなかったら?』
『そうなるでしょうか 売らずにいられますか?
そうするには… あまりにも… 高値で買ったのでは?』
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