善徳女王 39話#2 徳曼(トンマン)の怒り

いつものように賭博場で楽しんでいる金春秋(キム・チュンチュ)
そこへ美生(ミセン)が顔を出す

『春秋(チュンチュ)公』

『これは美生(ミセン)公』
『遅くなりました 宮殿で面白いことが』
『どんな?』
『安康(アンガン)城で暴動が起きたのです』
『暴動が?』
『前回は王女に一杯食わされた 今度は私たちがやる番です
『それで何をしたのです?』
『半減した収穫をすべて租税に取りました すると当然暴動が起きる
王室は夏宗(ハジョン)に減税を命じましたが
夏宗(ハジョン)は それは無理だと言い張りました』

宮殿では この一件の説明をするという口実で

竹方(チュクパン)が高島(コド)を従えて昭火(ソファ)と会っている

『簡単に話しますね 税を減らすか減らさないかの問題です

税を減らしたら 王室の財政が悪化する 減らさなければ…
民は高利貸しを利用し 結局どうなりますか? 奴婢になります』

『分かりやすい説明でした』

『でしょう?ですよね?私は3歳で漢字を覚えて…』
『俺は3歳で岩を担いだ』

割り込む高島(コド)を威嚇し…

『うるさい!』

『高利貸しを使わせないように努力されたのに
こんなことになってどうしたらいいのか…』
『あまり心配すると お体に障りますよ』

執務室のキム・ユシンと毗曇(ピダム)

そこへ 慌てて閼川(アルチョン)が駆け込んでくる

『王女様が安康(アンガン)城に行かれるそうだ』

『王女様自ら 暴動が起こった地に?』
『ユシン郎(ラン)に先に行けと
城を占拠した村長を 外へ連れ出せとのご命令だ』
『村長を?』
『方法を見つけたのか』

徳曼(トンマン)の決断を心配するマヤ王妃と真平(チンピョン)王

そして万明(マンミョン)夫人が同席している

『大丈夫なのでしょうか』

『王女様の手には負えないと思います』
『もしも成功すれば 王室は貴族を通さず租税を徴収できる
自作農が増えますから』
『民は自分の土地を持てます』
『うまくいきますか?』

2人の話を受けて真平(チンピョン)王が…

『私も天明(チョンミョン)もミシルと戦ってきた 勝利したこともある

今までミシルは 負けてもうろたえたことがない
だが徳曼(トンマン)に対しては違うようだ
今回は ミシルも貴族たちも相当うろたえている 私は徳曼(トンマン)を信じる』

徳曼(トンマン)の行動は ミシルにも知らされた

『王女が安康(アンガン)城に向かった?』

『ユシン郎(ラン)は先発し 王女は今出発を』
『なぜ私たちを通さず 民と解決するのだ』
『王女の考えは?』

皆に聞かれて美生(ミセン)は…

『頭でも下げるのでしょう』

『プアハハ… 頭を下げる? 租税を半分くれとでも頼むつもりですか?』
『何がおかしい まったく何て奴だ!』

先に到着したキム・ユシンが徳曼(トンマン)を出迎える

『王女様』

『どうですか?』
『村長が待っています』
『太守は?』
『城内の民に捕まっています お会いになりますか?』
『はい』
『向こうにいます』

天幕の中には 村長と2人の民が縛られた状態で座らされていた

『私たちがしばらく経っても戻らなければ 城にいる太守と兵は殺されます』

『王女様に脅迫は通じない』
『私たちは ただ悔しいだけです!』
『収穫物を全部 持っていかれました』
『そのとおりです 害虫被害で凶作だったのに例年通り徴収するなんて』
『村長として無責任ではないか これは謀反だ
命を落とすのは 村長だけではない』

徳曼(トンマン)の言葉に 村長がゆっくりと語り始める

『村人は 1年かけて作った作物を全部取られたのです
どうせいつ死ぬか分かりません 食べ物は何ひとつ残っていないのですから
しかも 穀物を運ぶ兵士に飛びかかったといって 16歳の少年が殺されました
そして太守に助けを求めに行ったところ さらに1人殺されました
私たちには 他に方法がありませんでした
しかしそちらの方が 王女様には他の選択肢があると言われました
だから命懸けで来たのです』

『他の選択肢があれば従うのか?』

『私は村長として責任を取り 死なねばなりません
どうか村人たちの命を助け 飢えから救ってください』

村長が死ぬと聞き 3人の村人は身を乗り出して命乞いをする

『王女様 やめてください!』

『どうかお願いします!』
『村長を殺すなんて!』

『徴収した250石の穀物は お前たちに返す』

『なぜそのような…』

徳曼(トンマン)の言葉の意味を測りかねる村人たち

『そしてお前たち全員に 一定の荒れ地と2等級の鉄で作った農具を与える』

『そ…それは本当でしょうか』
『穀物だけでなく 土地と農具まで?』
『ただし 低利で貸すのだ』
『低利で…貸す?』
『頂けるのではないと?』
『租税の250石と 荒れ地で収穫した50石を合わせ 来年300石を返すのだ』
『300石…』
『荒れ地でできた穀物は 50石を除いて全部お前たちの物だ
荒れ地を農地にすれば それもお前たちの物だ』
『荒れ地と そこで取れた穀物をすべて下さると?』
『では 貴族に納めなくてもいいのですか?』
『そうだ』

村長と村人たちは互いに顔を見合わせ にわかには信じがたい様子だ

すると1人の村人が…

『ひとまず250石は返してもらえるのですね

『荒れ地さえ開墾すれば 来年 再来年にはもっと豊かになる』
『とにかく 今食べる物には困らないんですね』
『そうだ 土地と農具も一緒に与える 王女として約束する』
『はい 王女様の仰せの通りにいたします』

互いに目配せをして笑みを浮かべる村長と村人たち

ユシンと閼川(アルチョン)は 彼らが何も理解していないのではと感じ取る
その日の命を長らえることで精一杯の民であった
将来の展望など考えたこともないのだ
来年の収穫よりも 今250石がもらえるという そのことだけを喜ぶのだった

天幕の外で 徳曼(トンマン)に進言する2人

『処罰は下すべきです』

『はい 暴動を起こしたのですから 土地の開墾と処罰は別の問題です』
『村人のために命を懸けた者です』
『王女様 しかし反乱の首謀者です』

これを受け 徳曼(トンマン)はあらためて村長たちの前に出る

『方法がなかったとはいえ 反乱を主導し国を乱した』

『は…はい 覚悟はできております』
『さらし首にし国の規律を守るのが筋だ』
『村人を…よろしくお願いします』
『もしもお前を殺さなかったら…』

徳曼(トンマン)の話の流れに ユシンと閼川(アルチョン)が表情を変える

『私の考えを村人たちに伝え 正しく導けるか?新しい土地に定着できるか?』

『王女様…』
『いけません!』

閼川(アルチョン)が叫んでも 徳曼(トンマン)は話を続ける

『開墾さえすれば 貴族に租税を徴収されないお前たちの土地ができる』
『お助け下されば 王女様の仰せの通りに!』
『反乱を主導した罪の処罰は猶予する』
『王女様!!!』
『王女様 いけません!』
『王女が話しているのです!』
『申し訳ありません しかし!』

2人の制止を 王女の権限で止める徳曼(トンマン)

『王女の言葉は朝廷と王室を代表するものだ 重く受け止めよ

これに従えば 村人たちは新しい暮らしができる
だが従わなければ 今日助けたお前の命を奪うことになる 分かったな』
『お助け下されば 命を懸けて王女様のご命令に従います
感謝いたします!感謝いたします王女様!』

帰り道

閼川(アルチョン)がユシンに…

『王女様が加兮(カへ)城にも行かれると』

『分かった』

徳曼(トンマン)は 直接民と話し満足げだった

こうして話しさえすれば分かってもらえるのだと…

ミシルの執務室

ミシルを挟んで世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)が

『王女はまだ戻らないのか』

『意気揚々と加兮(カへ)城以南を巡回しています
安康(アンガン)城の話を聞いて 民が万歳を唱えていると』
『首謀者を処刑しないなど あってはならぬことです』
『そのとおりです 大変なことになる!』
『いつ戻るのです?』
『行く先々で歓迎されるから 帰らないのでは?』
『10日も経つので そろそろ戻るでしょう
反乱を企てた者を処罰しないとは 国の規律を何だと思ってる』

夏宗(ハジョン)のいうとおり 徳曼(トンマン)は意気揚々と戻った

それを迎える昭火(ソファ)の表情は暗い

『戻りました』

『王女様 ご存じないのですか?』
『何の話です?』

徳曼(トンマン)を待ち構えていたのは真平(チンピョン)王と大臣たちだった

ミシル側ばかりか キム・ソヒョンとヨンチュン公の表情も暗い

同じ時 キム・ユシンも宝宗(ポジョン)と石品(ソクプム)から報告を受けていた

『何だと?安康(アンガン)城の村人が逃げた?』

『穀物と農具を持って 皆 逃げたそうです』
『王女様は期待されていたでしょうに 失望が大きいのでは?』
『今すぐに 花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)を集めよ!』
『なぜですか?』
『逃げた安康(アンガン)城の民を全員捕らえる!1人残らず!!!』

徳曼(トンマン)は はらわたが煮えくり返る思いだった

世宗(セジョン)たちから何を言われても 返す言葉もなかったのだ

「王女様は 民を信じすぎたようです」

「目の前に穀物があるのに 誰が荒れ地を開墾してまで借りを返しますか」
「王女様の広いお心が招いた失敗です」
「渡した穀物はどうしますか?他の地域から補うおつもりで?」

閼川(アルチョン)が報告にやって来る

『風月主(プンウォルチュ)が全兵力を動員し

安康(アンガン)城に出発しました
逃げた村人を 全員捕らえるとのことです』
『私も向かいます 準備を』
『はい 王女様』

※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長

そこへ とおりかかるミシル

ミシルは徳曼(トンマン)を自室に招く

『王女様は 何とおっしゃいましたか
真実と希望と話し合いで 民を治めると?』
『……』
『民は真実を重荷に感じます 希望は持て余し
話し合いは面倒がり 自由を与えると迷う』
『……』
『民は 即物的なのです 子供と同じです
それゆえに 恐ろしいし大変なのです』
『……』
『ご飯をねだる子供に米と薪を渡して 次からは自分で炊けと?
アッハッハッハ… 暴動を起こしても処罰しない前例も残しました
処罰は断固として厳しく褒美は少しずつゆっくり…それが支配の基本です
この国を滅ぼすおつもりですか?!!!』

言い聞かせるようなミシルの言葉を じっと聞いていた徳曼(トンマン)は…

『まず… 飢えて抗議するのは暴動ではありません 生存というのです』

『生存?それで王女様を裏切り逃げたのですか!』
『信じられなかったのです
セジュの時代には考えられなかったことですから
セジュが恐怖で統治してきた結果です』
『……』
『やっと分かりました
これがチヌン大帝以降 新羅(シルラ)が発展しない理由です』
『それは…どういうことですか?』
『セジュは… セジュは国の主ではないからです』

ミシルの目は動揺を隠しきれずに 涙が今にも溢れそうだった

『国の主であれば 民を我が子のように思う

話をして理解させようとします そして幸せを願うはずです
セジュは 他人の子を世話する気持ちだったのでは?
叱って押さえつけ 寝かしつけようとした
主でない者が 国や民のために夢を見られますか?』
『……』
『残念ながら 夢なき者は決して英雄になれません
夢なき者の時代は 前進しません』

立ち去ろうとして徳曼(トンマン)は ひと言を付け加えた

『ああ 先程の言葉には感銘を受けました 厳しい処罰と少しずつ与える褒美

そして 前例を残すなということにも同意します
決して前例にならないようにするつもりです』

花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)を総動員して 村人たちは捕らえられた

徳曼(トンマン)は 村人たちに問う

『なぜ逃げた?』

『お…お許しください もう一度だけ機会を!どうか…』
『今度こそは必ず 荒れ地を開墾いたします』
『逃げた理由を答えよ!!!』

神妙な雰囲気の中 徳曼(トンマン)と村人たちの会話だけが響く

そこへ 毗曇(ピダム)と金春秋(キム・チュンチュ)が…
異様な雰囲気を察し そっと成り行きを見ている

村長が代表して 徳曼(トンマン)の問いに答える

『荒れ地を開墾できる保証はありません

もし開墾できなければ 借りだけが残ります』
『普通の農具とは違う 武器に使う鉄で作った農具だ』
『私たちには 鉄の違いなど分かりません
王女様も私たちから利子を取りたいだけでしょう?貴族と同じように』

搾取されるだけの民の意識は 徳曼(トンマン)の理解を越えるものだった

これが 虐げられ裏切られることしか知らない 民の真意だった
愕然とする徳曼(トンマン)の様子を 皆が見守っている
小さく震えながら 徳曼(トンマン)は必死に冷静を保とうとしていた

『私は… お前たちを貴族から解放したいのだ

支給された穀物に頼るその日暮らしではなく
汗を流して仕事をし 利子を返してほしい
自分たちの力で土地を持たせてやりたい!
お前たちが 奴婢にならないように

ようやく徳曼(トンマン)の心に触れ 村人たちはうつむく

徳曼(トンマン)は 次第に叫ぶような口調になり 感情を抑えられなくなる

『貴族の家畜となり!お前たちの子も孫もずっと奴婢として生きるのか!!!

分からないのか… 私は土地を与えたいのだ!!!!!
毎年穀物が取れる土地を 代々受け継いでいけるお前たちの土地だ!』

動揺し始める民を見て 徳曼(トンマン)はミシルの言葉を思い出す

「民は真実を重荷に感じます 希望は持て余し

話し合いは面倒がり 自由を与えると迷う」

1人の老女が立ち上がって叫ぶ

それに習い 皆が口々に命乞いをする

『土地は要りません お助けを!!!』

『どうか命だけはお助けを!』
『お助け下さい』
『どうか命だけは…』

その様子を 冷やかに見ている宝宗(ポジョン)と石品(ソクプム)

まったく徳曼(トンマン)の意を理解しない民に
ユシンと閼川(アルチョン) 毗曇(ピダム)と春秋(チュンチュ)は困惑する

「民は即物的なのです 子供と同じです」

(本当にミシルの言葉が正しいのか?)

ミシルもまた 徳曼(トンマン)に言われた言葉を思い返し考え込んでいた

「セジュは 国の主ではないからです」

(本当に 徳曼(トンマン)の言葉が正しいのか?)

口々に泣き叫び 命乞いをする民

ユシンが厳しく命令する

『何をしている ひざまずかせろ! 静かにしろ!!!』

徳曼(トンマン)は立ち上がり 民に向かって宣言する

『私は 必ずやってみせる

お前たちに… 土地を持たせてやる
穀物を作るだけではなく 生きる喜びを味わえるように
そして 希望を持てるようにしてやる!』

そう言って 前に進み出た徳曼(トンマン)は

隣に立つユシンの剣を抜くと
前列にひざまずいている村長に剣を向ける
村人たちは震え上がり 悲鳴を上げる
思いがけない徳曼(トンマン)の行動に 緊張が走る

『お前は約束を捨てた 私との信義を捨て村人の未来を捨てた』

観念したように じっと徳曼(トンマン)を見上げる村長

隣でひざまずく村人の代表は泣きじゃくっている
徳曼(トンマン)の中に ミシルの言葉が…

「処罰は断固として厳しく 褒美は少しずつゆっくり それが支配の基本です」

『未来を… 希望を… お前たちに悟らせてやる 私は決してあきらめない』

『お助けを… お助け下さい! もう絶対に逃げません お許しください!』
『王女様 お願いします!』

徳曼(トンマン)の殺気に 怯えながら命乞いを繰り返す村長と村人

これほどまでの徳曼(トンマン)の怒りを 誰も見たことがない
花郎(ファラン)と郎徒(ナンド)たちも 静まり返る

徳曼(トンマン)の頬を 涙がつたう

固く握りしめられた剣…

その時…!

徳曼(トンマン)は剣を振り下ろした

服に 顔に 返り血が飛び 村長と1人の村人は絶命した
絶叫と悲鳴がとどろき 宝宗(ポジョン)と石品(ソクプム)すら青ざめている

『必ずや… やってみせる!』

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