善徳女王 41話#1 傀儡(かいらい)

『厳密に言えば 今の身分は真骨(チンゴル)です
ですが春秋(チュンチュ)公は…』
『骨品制は… 下品な制度です』

※真骨(チンゴル):新羅(シルラ)の身分制度で 片方の親のみ王族である者

※骨品制:新羅(シルラ)の身分制度

金春秋(キム・チュンチュ)の言葉に ミシルまでもが表情を変える

烈火のごとく怒るキム・ソヒョン

『口を慎んでください!神国の根幹をなす骨品制を…』

『私はまだ若く 見識も広くはありませんが
こんな下品で野蛮な制度は 中国や西域でも聞いたことがありません!』

唯一ミシルにないもの

その聖骨(ソンゴル)という身分を盾にするつもりだった徳曼(トンマン)
動揺して出てきた徳曼(トンマン)に続くキム・ユシンと閼川(アルチョン)

『春秋(チュンチュ)公はあんまりです ミシルの手先になるのでは?』

『亡き母君のことも忘れて あんな行動をとるとは
ミシルに利用されるのを放っておけません』
『教育担当の毗曇(ピダム)は何をしている!何も知らないのか』

そこへ 大男甫(テナムボ)を従えて春秋(チュンチュ)が…

徳曼(トンマン)より先に 閼川(アルチョン)とユシンが聞く

『春秋(チュンチュ)公 なぜですか!』

『何をなさっているのか お分かりですか ミシルは…』
『王女様』

2人を無視し ただ徳曼(トンマン)だけに話しかける春秋(チュンチュ)

『今 何が起こっているかお分かりですか

それに これからどんなことが起こるか 分かりますか?』

ただじっと春秋(チュンチュ)を見つめる徳曼(トンマン)

代わりにユシンが…

『ミシルに利用されているのです』

『私が…』

ユシンを無視して 春秋(チュンチュ)は徳曼(トンマン)の耳元で

何かささやいた

真平(チンピョン)王をはじめとする王室側もまた この事態を嘆く

『何たることだ 春秋(チュンチュ)公がミシルの操り人形になるなど』

『陛下のご遺志を知りながらあんまりです』
『ミシル… 本当に恐ろしい人
まだ幼い純粋なあの子を利用しているのです
天明(チョンミョン)の息子まで巻き込もうとするなんて』

万明(マンミョン)夫人とマヤ王妃が怒る中 真平(チンピョン)王が…

『ヨンチュン なぜ黙っている 何を考えているのだ』

『陛下 このヨンチュン 恐れながら申し上げます
春秋(チュンチュ)公は副君(プグン)として問題ないと思います』

※副君(プグン):王の息子ではない王位継承者

『ヨンチュン公 それはどういう意味です?』

『あの方は天明(チョンミョン)王女様の嫡子です
真っ先に副君(プグン)として考えるべきお方では?』

これに対しキム・ソヒョンが憮然と言い返す

『ミシルの孫と結婚すれば ミシルの親族の婿が即位することになる』

『ですがそれ以前に 陛下の実の孫です!』
『ヨンチュン公!』
『陛下 冷静にお考えください
今はミシル側の味方でも 将来王室の利益となります
これは王室とミシルが和解する機会では?』

ミシルはただ1人 春秋(チュンチュ)の言葉を噛みしめていた

(この私が一度も超えようとも思わなかった骨品制という壁

それをいとも簡単に… あんなにも…)

さらに徳曼(トンマン)の言葉を思い返すミシル

「私は結婚しないだけでなく… 自ら王位を継ぐ副君(プグン)になるつもりです」

(女であるという理由から 考えもしなかった王への道 覇業への道…)

「セジュは 国の主ではないからです」

※セジュ:王の印を管理する役職

(1つの時代が終わるのか? 徳曼(トンマン)… 春秋(チュンチュ)…)

徳曼(トンマン)が真平(チンピョン)王のもとを訪ねると

中から激しく言い争う声が聞こえ 入室をためらい立ち止まる

『陛下の孫であり 天明(チョンミョン)王女様の嫡子です』

『ヨンチュン公!』
『事実でしょう
女性の王より春秋(チュンチュ)公の方が 世間の理解が得られます
天明(チョンミョン)王女様の一人息子です』
『そのとおり そしてヨンチュン公の甥でもある 違いますか?』

何を言うのだ…という表情になるヨンチュン公

『兄君ヨンス公のご子息であり ヨンチュン公の甥でしょう』

『私が利益のために言っているとでも?!!!そうお思いですか?』
『ヨンチュン公は間違ったことをおっしゃっている!』
『騒ぐな やめないか!』

そこへ 徳曼(トンマン)が入ってくる

気まずい雰囲気の中 徳曼(トンマン)は静かにヨンチュン公を見つめた

その頃毗曇(ピダム)は ヨムジョンを訪ねていた

『俺も知らなかったんだ 本当に初耳なんだよ

最近春秋(チュンチュ)公に会ってないし 何か妙だなと思っていたが
そういうお考えだったとは驚きだ 本当だよ 俺の目を見ろ!』

『何か… 魂胆があるんじゃないか?』

『とんでもない 俺の命はお前のものだ』

ヨムジョンの胸ぐらを掴む毗曇(ピダム)

『お前に 真心などないと分かってる』

『な…何をする』
『ウハハハ… だからお前を信じてるんだ
俺より怖い者に出会うまで 裏切りはしないはず さてどうする?』
『言っただろ お前が本当に徳曼(トンマン)を…』
『……何だと?』
『そんなに睨むなよ 言い直す
徳曼(トンマン)王女を王にしたいなら 春秋(チュンチュ)と敵対する』
『こうも早く動くとはな』
『徳曼(トンマン)王女が春秋(チュンチュ)公に勝てば済む話だ』

ギロリとヨムジョンを見る毗曇(ピダム)

『そうだろ?覇道に親も子も関係ない

まして顔すら知らなかった甥っ子だ 構わないさ』
『王女様を分かってないな』
『何がだ?』
『徳曼(トンマン)王女は春秋(チュンチュ)公が敵なら争わないはずだ 絶対に』

毗曇(ピダム)の読みどおり 徳曼(トンマン)は…
 
『私は春秋(チュンチュ)と争いません そのような事態は避けなければ』

『徳曼(トンマン)…』
『ゆえに ヨンチュン公にご迷惑はおかけしません』
『ではミシルの思うままにさせるのか?』
『これはミシルの計略です ミシルの思いどおりに事が運んでも構わないと?
ミシルの狙いは 私と春秋(チュンチュ)を争わせること
それがミシルの真意でしょう』
『では お前はどうする気なのだ』

『最悪の場合… 身を引きます』

『しかし王女様』
『ただし… 春秋(チュンチュ)が心配です』

徳曼(トンマン)の言葉を受けて真平(チンピョン)王が…

『まだ政治の舞台にも立てぬ幼いあの子を あのように利用するとは…』

ずっと外を歩き回っていたミシルは 足元もおぼつかない様子で

侍女に支えられながら やっと立っている状態だった
そんなミシルを心配して駆け付けるソルォン

『セジュ ここでしたか 皆 驚いています』

『……』
『セジュ こちらで何を?』
(私は長い間 何をしていたのだろうか…)
『春秋(チュンチュ)公の骨品制批判を 事前にお聞きでしたか?』
(私は今まで何を?)
『セジュ 大丈夫ですか?』
『…体調が優れないので 休みます』

龍華香徒(ヨンファヒャンド)の宿舎では 息巻く竹方(チュクパン)を

皆が総出で止めていた

『俺から言って聞かせる』

『やめとけ』
『急にどうしたんだ』
『春秋(チュンチュ)公に会うだと?』
『うるさい 手を放せってば!
俺は春秋(チュンチュ)公とは親しいからな 悪人じゃないって分かる』
『雑談しただけの仲だろ』
『それでもお互いに心が通じたんだよ
天明(チョンミョン)王女様の子が ミシル宮主(クンジュ)の手先だと?』

※宮主(クンジュ):王に仕える後宮を表す称号

『どう考えてもあり得ない

王女様が位牌堂を建てて祈っているのは 皆知ってる』
『王女様は傷ついただろうな』
『ミシル宮主(クンジュ)が悪い』

徳曼(トンマン)を心配する高島(コド)と大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)

竹方(チュクパン)は強気になって豪語する

『だから俺が 春秋(チュンチュ)公に掛け合ってくるんだ!』

『何だって?春秋(チュンチュ)公に会う?』
『言ってやる “そんな真似はやめなさい 人の道を外れています”』
『どうせ叱られるだけだ 出まかせ言うな』
『何?出まかせだって?!』
『何事だ!!!』

乱闘になろうとしているところへ キム・ユシンが…

慌てて整列する一同

『ユシン郎(ラン)!いえ風月主(プンウォルチュ)様 
こんなことが許せますか?
春秋(チュンチュ)公が副君(プグン)になると宣言したとか』

※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長

『ミシルが言わせたんだ』

『王女様には勝ってもらわないと』
『天明(チョンミョン)王女様の息子がケンカを売ったんだ!』
『それはできない』

ユシンの答えに納得できない一同

『“開陽帰天 開陽者立 鶏林天明” この予言で王女となられた』

『つまり?』
『天に帰った開陽者は天明(チョンミョン)王女様を指す』

※開陽帰天:1つの開陽が天に帰る

※開陽者立:開陽の者が立つ
※鶏林天明:鶏林の天に再び光が差す

『2つ目の開陽者は徳曼(トンマン)王女だ

王女様が春秋(チュンチュ)公と争えば 開陽者同士の争いとなり
自らの基盤と争うことになる それがミシル宮主(クンジュ)の狙いだ』
『ミシル宮主(クンジュ)はやることが汚すぎます!
よりによって天明(チョンミョン)王女様の子を
それも世宗(セジョン)公やソルォン公を差し置いて』
『ソルォン公に世宗(セジョン)公?』

竹方(チュクパン)の嘆きに 何かをひらめきかけるユシン

『たくさん男がいて息子もいるのに まったく… 何か?』

『……』
『どうしました?』
『そうか… なるほど なぜ気づかなかった!』

慌てて出て行くユシン

竹方(チュクパン)は何が何だか分からない

『何だ?また俺がいいことを教えたみたいだな』

その頃 徳曼(トンマン)もまた…

ヨンチュン公とキム・ソヒョンのやりとりを思い返し考えている

「天明(チョンミョン)王女様の一人息子です」

「そしてヨンチュン公の甥でもある!」

(これが… ミシルの考えた計略だったの?

分裂… 敵の狙いは我々の分裂?)

一方 世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子は…

『母上と約束したんでしょう?確かにそう言われたのですね?』

『……』

世宗(セジョン)がミシルに言われたこととは…

「状況は完全に変わりました 聖骨男尽(ソンゴルなんじん)ゆえ

世宗(セジョン)公を即位させるつもりでした
徳曼(トンマン)が婚姻を結ぶ相手は真骨(チンゴル)ですから
我々がその夫を操るのも 下ろすのも可能でした
でも徳曼(トンマン)は 自ら王になると宣言しました」
「だから春秋(チュンチュ)を副君(プグン)として推すと?」
「世宗(セジョン)公への私の気持ちは変わりません
私を信じて同意してください」

「状況は分かりますし セジュの言うことは正しい

ただ… 1つ約束してください」
「何でしょう」
「ソルォンの孫宝良(ポリャン)と春秋(チュンチュ)の縁談は取りやめに
いいですか 春秋(チュンチュ)は我が一族の娘と婚姻を」
「いいでしょう 約束します」

世宗(セジョン)の中に 身分のこと以外にソルォンに勝てるものがなかった

春秋(チュンチュ)との縁談によって生じるソルォンの立場上の優位さが
世宗(セジョン)には許せなかったのだ

『母上は応じたのですか?』

『確かだ 間違いない』
『でも文書も交わしていない』
『母親を疑うのか』
『信じてはいますが…!ソルォンは信じられない 何を企んでるか!
春秋(チュンチュ)が即位後に宝良(ポリャン)と結婚したら?
ソルォンは王の義父となり 外戚として力を得る』
『そうならぬように約束したのだ!そうなれば…当家は滅亡しかねん
私もセジュも 永遠の命があるわけではない
『やはり私が 直接母上に確かめてきます!』

執務室のミシルに 弟美生(ミセン)が…

『とにかく 姉上の思いどおりになりましたな

春秋(チュンチュ)公が現れた時 陛下や王女の顔色が変わった
ただ春秋(チュンチュ)公の骨品制への批判には… 正直驚きました
幼いゆえの発言か それとも王室育ちでないためか まあとにかく…』

『下がってください』

『え?』

同席しているソルォンが心配そうに…

『セジュ』

『大丈夫 1人になりたいだけです』

昭火(ソファ)もまた 徳曼(トンマン)を心配していた

『春秋(チュンチュ)公と争われるのですか?』

『日食の件で勝った時は有頂天になり
ミシルとの本格的な対決が楽しみでさえあった
でも春秋(チュンチュ)まで利用するとは… ミシルは恐ろしい』
『いくら幼いとはいえ春秋(チュンチュ)公があんなことを』
『これはミシルに立ち向かう代償です 本当にどうしたらいいのか…分からない』

そこへ キム・ユシンが入ってくる

『どうにも解せません

ミシルは世宗(セジョン)公を即位させ王妃になる気でした
世宗(セジョン)公はミシルを利用し 王位を狙っていた
なのに今は春秋(チュンチュ)公を推し宝良(ポリャン)との縁談を進めている
世宗(セジョン)公は受け入れたのでしょうか
世宗(セジョン)公が納得すると思いますか?』

ミシルは疲れ切って眠っている

眠りながらも春秋(チュンチュ)の言葉が耳から離れない

「骨品制は 下品な制度です」

そして徳曼(トンマン)の宣言…

「自ら王位を継ぐ副君(プグン)になるつもりです」

下がれと言われて下がったソルォンは

どうにもミシルの様子が気になり落ち着かなかった

徳曼(トンマン)は ユシンの考えに自分の考えを合わせ さらに考え込む

『私は 我々を分裂させる計略だと思っていました』

『考えられる事態は2つ
我々を分裂させ 春秋(チュンチュ)公と争わせる負担を与える
偽の札だということ』
『ではもう1つは?』
『もう1つは… とんでもないことですので
私も信じられないし あり得ないと思うのですが』
『何ですか?話してください』
『もう1つは… もう1つの事態とは…』

ユシンが言うのをためらっている頃

世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子は ミシルを訪ねる
しかし ミシルは会おうとしない
侍女を突き飛ばし 無理矢理入ろうとすると 中からソルォンが出てくる

『お越しに?』

『セジュに会いに?』
『1人になりたいと言われました』
『ソルォン公 何か企んでいるのでは?』
『どういう意味です』
『昨晩 母上は父上に固く約束しました
宝良(ポリャン)を春秋(チュンチュ)と婚姻させようとしても無駄です
あきらめてください』
『……』

固く拳を握りしめるソルォン

『どうした?』

『そのとおりです 宝良(ポリャン)との婚姻はなくなりました
セジュのご意志に従います』
『当然だ』
『行くぞ』

真平(チンピョン)王は 春秋(チュンチュ)を呼びつけて話す

『いくら幼いとはいえ こんなことは許されない』

『……』
『徳曼(トンマン)を誤解しているようだが
お前の母親が知れば あの世で嘆くだろう
たとえ誰であっても ミシルの傀儡(かいらい)になる者を
副君(プグン)にはできぬ 決して即位はさせない 肝に銘じよ』

執務室に戻った世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子は…

『ソルォン公は何か企んでいます』

『そんなに軽率な男ではない』
『自分だけ母上に会っていたのですよ 何を話していたか分かりませんよ』
『……』
『対策を立てないと!』
『……虎才(ホジェ) ピルタン ワンニュンはお前の配下だな』
『もちろん 私が掌握しています』
『呼び集めろ 引き入れなければ』
『はい!』

真平(チンピョン)王の話が終わりため息をつく春秋(チュンチュ)

すると今度は ヨンチュン公が…

『春秋(チュンチュ)公 お話があります』

『お話し下さい 叔父上』
『なぜです なぜミシルと一緒に和白(ファベク)会議へ?』

※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議

『いけませんか?』

『母君の天明(チョンミョン)王女様が なぜ亡くなったかお忘れですか?』
『……』
『ミシルは春秋(チュンチュ)公を利用しています』
『陛下は ミシルの傀儡(かいらい)を副君(プグン)にはできないと』
『その陛下の心情は当然のことです』
『では ヨンチュン公の心情は?』
『え?』
『人生は未来と同じく予測しがたいものですが 私はまだ若い
だから私は ミシルより長生きするはずでしょう?』
『……では?』
『ヨンチュン公が力を貸してください
私が副君(プグン)になれば 必ず王室の権威を確立させます
いかがです?私の力になっていただけますか?』

幼いゆえの過ちではない…

ヨンチュン公は驚愕して春秋(チュンチュ)を見た

一方ソルォンと宝宗(ポジョン)父子は…

『夏宗(ハジョン)兄上がそんなことを?』

『どうやら夏宗(ハジョン)公は不安なようだ』
『兄上だけでなく世宗(セジョン)公も同じでしょう』
『だがセジュは 誰にも会わず臥せっている』
『母上が世宗(セジョン)公に安心感を与えねば』
『世宗(セジョン)公の不安は 我々の得にならない
妙な方向に事が動き始めたな』

深く考え込んでいる徳曼(トンマン)

毗曇(ピダム)が近づいても気づきもしない

『あの… 王女様』

『ああ 来たのか』
『お悩みですか?春秋(チュンチュ)公と争うべきかどうか 違います?』
『私は春秋(チュンチュ)公と争ってはならない
ミシルは私と春秋(チュンチュ)を争わせ 王室を分裂させる気だ
ヨンチュン公は すでに違う意見を だけどミシルの動きが静かすぎる
何だか不安だ ユシン郎(ラン)の言っていたもう1つの事態なら…』
『どういうことです』

ユシンが徳曼(トンマン)に告げた もう1つの事態とは…

「もう1つの事態とは… とんでもないことですので

私も信じられないし あり得ないと思うのですが…

『何ですか?』

『いいえ そんなはずは… ミシルはそんなことしない…』

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