善徳女王 41話#2 もう1つの事態

ソルォンのもとへ春秋(チュンチュ)がやって来た

『ようこそ』

『宝良(ポリャン)様に会いに来ました』
『……宝良(ポリャン)は静養に出かけております』
『どこか悪いのですか』
『心配されるほどでは 
宝良(ポリャン)は幼い頃から体が弱く病気がちなのです』
『そうですか 戻ったら私が心配していたと伝えてください』
『そういたします』

虎才(ホジェ) ピルタン ワンニュンが 世宗(セジョン)の屋敷の前に…

『ピルタン郎(ラン) そなたもか』

『はい 上仙(サンソン)はなぜこちらへ?』
『上大等(サンデドゥン)に呼ばれた』

※上仙(サンソン):風月主(プンウォルチュ)を務めた花郎(ファラン)

※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理

3人が入って行くところを 石品(ソクプム) サンタクらが目撃する

石品(ソクプム)は早速このことをソルォンに報告する

『虎才(ホジェ)たちが?』

『はい 世宗(セジョン)公の屋敷に入るのを この目で見ました』
『一体 何があったのです なぜ世宗(セジョン)公の屋敷を監視しろと?』
『……』

黙りこむ父を気づかう宝宗(ポジョン)

『私がワンニュン郎(ラン)とピルタン郎(ラン)に会いましょうか?』

『いいや 急いで朴義郎(パグィラン)徳充郎(トクチュンラン)
ソニョル郎(ラン)を呼べ 話がある』
『分かりました』

一方 林宗(イムジョン)はヨンチュン公に呼び出され…
 
『何ですと?春秋(チュンチュ)公を?』

『叔父としての私的な感情からではない
真骨(チンゴル)でも天明(チョンミョン)王女様の嫡子の方が
女性より万民に認められやすい』
『ですが 徳曼(トンマン)王女様も副君(プグン)になると宣言なさっています』
『王女様は春秋(チュンチュ)公と争う気はないらしい
正しいご判断だ もし春秋(チュンチュ)公と争えば ミシルが有利になるだけだ
他の花郎(ファラン)がどう動こうと お前は静観し私の命令を待て よいな?』
『はい…』

※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団

毗曇(ピダム)は ミシルに会おうとするが 侍女が来て…

『ミシルセジュは誰にも会わないと…』

『それならば帰りますが 毗曇(ピダム)が来たとだけお伝えください』
『今はお休み中ですので お伝えできません』
『では ここで待ちます』

ソルォンの屋敷で宝良(ポリャン)に会えなかった春秋(チュンチュ)は

ヨムジョンの屋敷を訪ねる

『驚くべき宣言をされたそうで』

ヨムジョンのいれた茶を 美味しそうに飲む春秋(チュンチュ)

『いい香りだ 産地は?』

『中国産の固形茶です
ミシルは春秋(チュンチュ)公を王女様と争わせるつもりだとか』
『……』
『余けいなお世話でしょうが
春秋(チュンチュ)公はミシルに利用されているのでは?』

ヨムジョンの問いに 春秋(チュンチュ)はクスッと笑う

『そなたまでそう思うならよかった』

『え?』
『毗曇(ピダム)は来たか?』
『はい 徳曼(トンマン)王女様は春秋(チュンチュ)公と争えないと
心配しておりました』
『そうか』
『何か… 別のお考えでも?』
『そなたに頼みたいことがある』
『え?どんな?』

ソルォンの屋敷に呼ばれたのは 石品(ソクプム)をはじめ

朴義郎(パグィラン)徳充郎(トクチュンラン)ソニョル郎(ラン)

『実は折り入って話がある

皆 宝宗(ポジョン)と親しいそうだが これは別のことだ 協力してくれるか?』

皆 何の事だか分からず返事に困っていたが 石品(ソクプム)が口火を切り

続いて徳充(トクチュン)朴義(パグィ) そしてソニョルが答える

『徐羅伐(ソラボル)の花郎(ファラン)になった時から

兵部令(ピョンブリョン)に忠誠を誓っております
どんな命令にも従います』
『もちろんです 兵部令(ピョンブリョン)のおかげで
家柄の低い我々が徐羅伐(ソラボル)十花郎(ファラン)になれたのです』
『そのとおりです どうぞご命令ください』
『どんな指示にも従います』

※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)

※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官

虎才(ホジェ) ピルタン ワンニュンを招いた世宗(セジョン)の屋敷では

夏宗(ハジョン)が虎才(ホジェ)に…

『調府(チョブ)の大舎(テサ)になったそうだな』

『上大等(サンデドゥン)と調府令(チョブリョン)のおかげです』
『お前に能力と信望があったからだ 私の力などではない』

※調府(チョブ):貢納と租税を担当した官庁

※大舎(テサ):調府(チョブ)の3番目の官職
※調府令(チョブリョン):調府(チョブ)の長官

世宗(セジョン)もまた息子夏宗(ハジョン)に負けじと愛想を振りまく

まずはワンニュンに…

『お父上はお元気なのか?』

『穀物高騰の際には 上大等(サンデドゥン)に助けられたとお礼を』
『我々の仲だろう そんなことは当然だ』

夏宗(ハジョン
)がそれに合わせて加勢する

『そうですとも 当家に何かあれば すぐ駆けつけてくれるな?』

『ええ いつもご配慮いただき感謝しております』

次はピルタンに…

『そなたの父君と狩りに行きたいが 上州停(サンジュジョン)の

幢主(タンジュ)だから ご多忙だろう』
『世宗(セジョン)公とご無沙汰だと 父も同じことを』

※上州停(サンジュジョン):上州(サンジュ)に置かれた軍営

※幢主(タンジュ):郡に派遣された地方官

しらじらしくも夏宗(ハジョン)が…

『上州停(サンジュジョン)といえば徐羅伐(ソラボル)に一番近い軍営

精鋭兵を3千も抱えている 大変であろう』
『先日 5千に増員されたそうです』

これを聞いた世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子はほくそ笑む

『そうか それだけ兵がいるなら さぞかしお忙しいことだろう』
『アッハハハ… そうですね さあ飲もう!』

そこで世宗(セジョン)が書状を取り出す

『この文を父君に渡してくれ』

この状況を 徳曼(トンマン)に報告するキム・ユシンと閼川(アルチョン)

『世宗(セジョン)公の屋敷に虎才(ホジェ)たちが集まっています』

『ソルォン公の屋敷には石品郎(ソクプムラン)や朴義郎(パグィラン)が』
『上大等(サンデドゥン)と兵部令(ピョンブリョン)がそれぞれ屋敷に
花郎(ファラン)たちを集めたと?』
『今 一番不安なのは世宗(セジョン)公でしょう
春秋(チュンチュ)公と宝良(ポリャン)の婚姻を容認するはずがない』
『上大等(サンデドゥン)と兵部令(ピョンブリョン)が反目を?』
『親交のある花郎(ファラン)たちを集めて万一に備えているのだろう』
『妙なことになってきた』

2人のやり取りを聞いていた徳曼(トンマン)が小さくつぶやく

『ミシル…』

『はい?』
『我々の分裂が狙いだったはず』
『ええ ヨンチュン公は春秋(チュンチュ)公と極秘に話を』
『でも実際に分裂しているのはソルォンと世宗(セジョン)です』
『では もしかして…』
『このような状況でもミシルは臥せったまま
ミシルは春秋(チュンチュ)を推すために あらゆる策を練っていたはずです
でもミシルに動きがない ミシルは世宗(セジョン)公を見限った?』
『あり得ません 上大等(サンデドゥン)は和白(ファベク)会議の統率者で
有事の際は国政を動かします』
『しかも 王位継承者がいない場合 即位できます』
『そんな人物をミシルが見限ると?』
『もしそのつもりなら 綿密に計画を立てて暗殺でもするはず
つまりその可能性はありません では… やはり…
ユシン郎(ラン)が言っていた もう1つの事態? まさかそんなことが…』

その頃ミシルは 臥せっていた体を力なく起こし侍女を呼ぶ

『今は何時だ?』

『卯の刻です じき夜明けです』

※卯の刻:午前5時~7時

『そうか 水を』

『はい ところで 毗曇郎(ピダムラン)が長い間 待っています』
『……毗曇(ピダム)が?』
『帰しますか?』
『通して』
『はい』

同じ時 ソルォンの屋敷では 侍女の報告にソルォンが驚いている

『何?!宝良(ポリャン)が連れ去られた?』

『突然 男たちが現れて…』
『護衛はどうした!!!』
『あまりに急なことで対処できず…』

遅れて宝良(ポリャン)の父である宝宗(ポジョン)がやって来る

『宝良(ポリャン)がさらわれたのですか!!!』

『そうらしい』
『セ…世宗(セジョン)公の仕業では?!!!』
『下がってよい』

半泣きの侍女が下がっていく

侍女には聞かせられない話だった

『宝良(ポリャン)の婚姻で地位が脅かされるから その芽を摘む気では?』

『世宗(セジョン)公はそんな無茶な真似はしない』
『世宗(セジョン)公ではなく夏宗(ハジョン)兄上かも
無茶な事でもやりかねない!』

さらわれた宝良(ポリャン)は 納屋のようなところで怯えきっていた

そこへ 人相の悪い男たちが入ってくる
そして男たちに続いて現れたのは ヨムジョンと春秋(チュンチュ)だった…!

春秋(チュンチュ)の姿に 泣きそうになる宝良(ポリャン)

優しく抱き起こす春秋(チュンチュ)

『驚いたか?』

『恐ろしかったです どういうことですか』
『何も心配しなくていい』

そう言って 春秋(チュンチュ)は宝良(ポリャン)を抱きしめた

『案ずるな 大丈夫だ』

『春秋(チュンチュ)公…』
『もう大丈夫』

宝良(ポリャン)を抱きしめながら ヨムジョンをチラッと見る春秋(チュンチュ)

ヨムジョンは背後でほくそ笑んでいる

一方 ミシルの部屋には毗曇(ピダム)が…

『だいぶ待ったそうね 用件は何?』

『此度の策は うまくいきませんよ
徳曼(トンマン)王女様は春秋(チュンチュ)公と争いません
最悪の場合 徳曼(トンマン)王女様は身を引くでしょう
王になるため副君(プグン)に名乗り出た方です
並外れた知略と広い度量がおありです
それに 春秋(チュンチュ)公もセジュの意のままにはならない』

『それで?なぜ来たの?』

『このまま休んでいる場合ではないでしょう
なぜいつまでも起きてこないのです』
『探れと言われて来たのか
この非常時において私の狙いが読めないから 探れとでも?』
『……』
『そのはずはないな 進んで報告し手柄を立てたいのだな
なるほど きっとそうだ』
『どうしてずっと 休んでおられるのですか?』
『ただ… 眠いのです』
『え?』
『どうだ 私と遊山に出かけないか?』

一夜明け 宮殿では…

ソルォンと宝宗(ポジョン)父子目の前に
世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子が…
眼光鋭いソルォンと宝宗(ポジョン)を見咎める世宗(セジョン)父子

『どうした』

『なぜ睨む?』
『お聞きしたいことがあります』
『宝良(ポリャン)はどこです?!』
『宝良(ポリャン)がどうした』
『なぜ我々に行方を聞くのだ』
『宝良(ポリャン)を返してください!』

激昂する宝宗(ポジョン)の腕を掴み ソルォンが穏やかに聞き直す

『居場所をご存じではありませんか?』

『だからなぜ我々に聞くのだ!!!』
『こんな汚い真似をなさるとは まるでならず者だ!』
『ならず者だと?!!!こいつめ!もう一度言ってみろ!!!』

宝宗(ポジョン)の胸ぐらを掴む夏宗(ハジョン)

『娘を返してください!!!』

『知ったことか!!!』
『知っています 返してください!!!』
『何を知っているというのだ!!!』
『この恥知らず!!!』
『まったく!!!』

この様子を目撃した閼川(アルチョン)と林宗(イムジョンが

さっそく徳曼(トンマン)に報告する 同席しているユシンも驚く

『どういうことですか』

『世宗(セジョン)公とソルォン公がケンカを?』
『宝良(ポリャン)が行方不明だそうです』
『宝良(ポリャン)が?』
『もしも世宗(セジョン)公がさらったならば…
春秋(チュンチュ)公の即位に備え婚姻を阻止するため?』

徳曼(トンマン)とユシンが 同時にこれを否定する

『違う』

『宝良(ポリャン)を まさか… 本当に宝良(ポリャン)を…』
『そうです 春秋(チュンチュ)公です』
『何だって 春秋(チュンチュ)公が?』

閼川(アルチョン)にはまだ 何が起こっているのかが分からない

金春秋(キム・チュンチュ)は 輿を先導して宮殿に入って来た

輿に乗っているのは宝良(ポリャン)
その表情は晴れ晴れと倖せに満ちていた

『何だと?ソルォン公と世宗(セジョン)公が?』

息子である大男甫(テナムボ)の報告に驚く美生(ミセン)

『はい 宝良(ポリャン)がいなくなり 言い争いを』

『宝良(ポリャン)が?どうなっているのだ 姉上に会わねばならん
起こしてでも何でも話をせねば 行くぞ』
『セジュは遊山に出かけられました』
『何?遊山だと?』

小川のせせらぎが聞こえる山の中

チルスクを従え歩くミシル その後方には毗曇(ピダム)も同行している

『輿にも乗らず徐羅伐(ソラボル)の外へ出るとは』

『気分がいいわ 少人数で身軽なのはよいな』
『護衛が少なすぎます』
『お前と毗曇(ピダム)がいる たとえ軍隊が襲ってきても安心だ』

後ろから毗曇(ピダム)が…

『着いては来ましたが どこへ行くのです?』

『……疲れたわ』

サッとチルスクが進み出る

『お手をどうぞ!』

『……手を貸して』
『え?』

チルスクの手を無視して ミシルは毗曇(ピダム)の方を向く

戸惑う毗曇(ピダム)の手につかまり 歩くミシル

互いに名乗り合ってはいないが

母と息子であることを意識する2人だった

その頃徳曼(トンマン)は…

『春秋(チュンチュ)を捜して!』

『閼川郎(アルチョンラン)たちは半月(パノォル)城の一帯の捜索を
竹方(チュクパン)たちは市場を』

※半月(パノォル)城:新羅(シルラ)王宮があった都城

『谷使欣(コクサフン)たちはソルォン公の屋敷を』

『急いで』

徳曼(トンマン)の慌て振りに 月夜(ウォルヤ)が…

『春秋(チュンチュ)公に何があったのですか?』

『まずは捜索を!!!必ず見つけてください』

緊迫した状況の中

春秋(チュンチュ)が宮殿につく

『陛下に謁見を』

『承知しました』

大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)の報告を聞き 驚く徳曼(トンマン)とユシン

『何ですって?春秋(チュンチュ)が?!!!』

『本当か?』
『便殿にお2人で入られました』
『はい 陛下に謁見を』

便殿に急ぐ徳曼(トンマン)

しかし真平(チンピョン)王はすでに 春秋(チュンチュ)の報告を受けていた

『今 何と申した?』

『昨晩 宝良(ポリャン)と婚礼を挙げ 初夜を過ごしました』
『婚礼?婚礼だと?宝良(ポリャン)と?』

(ソルォンめ あやつ…)

世宗(セジョン)の目には怒りが…

(そんな まさか…)

夏宗(ハジョン)もまた動揺している

『ですから宝良(ポリャン)が住まう宮殿を用意してください』

そこへ入って来た徳曼(トンマン)とキム・ユシン

徳曼(トンマン)は 先ほどのユシンとの会話を思い返す

「そうです 春秋(チュンチュ)公です」

「春秋(チュンチュ)が皆を分裂させ 新勢力の確立を計画しているなら…

(新勢力… 春秋(チュンチュ) ソルォン公 ヨンチュン公の連合?)

骨品制を批判した時の春秋(チュンチュ)の言葉…

「今 何が起こっているか お分かりですか?

それに これからどんなことが起こるか… 分かりますか?」

そして 春秋(チュンチュ)は徳曼(トンマン)の耳元でささやいたのだ

「私が… ミシルを利用しているとしたら?」

(姉上 春秋(チュンチュ)は弱くないわ)

そして ユシンはこうも言っていた

「私も信じられないし あり得ないと思うのですが」

「何ですか?話してください」
「もう1つは… もう1つの事態とは…
春秋(チュンチュ)公がミシルをはめたのです」

真平(チンピョン)王の言葉…

「まだ政治の舞台にも立てぬ幼いあの子を…」

(春秋(チュンチュ)は… 幼くない

いいえ 春秋(チュンチュ)はすでに舞台に立った…!)

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