善徳女王 42話#2 ミシル 覚醒
宝宗(ポジョン)の一団が世宗(セジョン)を拉致している同じ時
夏宗(ハジョン)もまたソルォンを拉致していた
縄にかけられたソルォンは喉元に剣を突きつけられている
『いつか何かしでかすとは思っていたが まさかこんな…
まったくあきれたものだ』
『世宗(セジョン)公が我々を信じて下さらぬからです
セジュが不在の時こそ自重せねばなりません』
『自重だと?父上を拉致しておいて何を言う!』
『仕方なかったのです そうしなければ兵を動員し我々を討つ勢いでしたので』
『ハ!フハハハ… 責任転嫁もいいところだ』
『我々は春秋(チュンチュ)公にはめられたのです!』
『ソルォン公が下手な言い逃れを 嘘はもっともらしく上手につかなきゃ
あんな子供が?我々をはめたと? アッハハハ…』
親のような歳のソルォンの胸ぐらをつかむ夏宗(ハジョン)
『お前の計略なのは分かっている!』
『セジュの変化が分からぬか!』
『母上がどうしたというのだ』
『夏宗(ハジョン)公はセジュが物事をこのように進めるとお思いに?』
突然の春秋(チュンチュ)の訪問に 困り顔のヨムジョン
『春秋(チュンチュ)公の計画通りに進んではいますが…』
『どうかしたか』
『世宗(セジョン)公とソルォン公が兵を動かし大騒ぎに』
『気がかりな事でも?うまくいってるではないか』
『ええ ですがまったく音沙汰がないというのは…』
『ミシルのことか』
『はい あまりにも動きがないので』
『ソルォン公に味方するという意味だろう 他に手はない』
『まあ 確かにそうです 徳曼(トンマン)王女が王になると宣言した以上
対抗馬は春秋(チュンチュ)公だけですから』
『皆 ミシルを買いかぶり過ぎだ』
『決して侮れぬお方です』
『己の利を最優先する権力者の1人に過ぎぬ』
春秋(チュンチュ)の言い草に眉をひそめるヨムジョンだが 反論はしない
『それより こんな面白い時に毗曇(ピダム)はどこへ行った』
王妃になるというしがない夢を… というミシルの話に毗曇(ピダム)は
『しがない夢ですか』
『今思うと そうだ 力なき女の浅知恵 王妃が何だ 王妃など…
所詮 1人の男の正室に過ぎぬ アッハッハッハ…
時代に逆らい 息子を捨ててまで…』
『……』
『王妃になるため 私は子まで捨てた』
動揺を隠しきって毗曇(ピダム)は…
『素敵です』
『そう思うか』
『当時はそれが夢だったのでしょう?』
『そうだ しがなくも…』
『しがなくても 壮大でも 夢とはそういうもの すべてを捨てさせます』
『理解してくれるとはありがたい
なぜ徳曼(トンマン)に仕えている お前とは合わないのに』
『私は鴨なのです』
『鴨?』
『鴨は 生まれて初めて見た者に追従するそうです』
2人が会話を楽しんでいる時
ようやく到着した大男甫(テナムボ)を迎えるチルスク
『チルスク公』
『セジュは待てと仰せだ』
『至急なのです ソルォン公と世宗(セジョン)公が…』
『ああいう時のセジュはどうすることもできん』
『しかし…』
『待つのだ!』
さらにミシルと毗曇(ピダム)は話し込む
『世に出て始めて見たのが徳曼(トンマン)王女だったと?』
毗曇(ピダム)は遠い目をして思い出を辿る
師匠ムンノが 死の間際に残した言葉を…
(王女とは知らずに助けようとした その心に偽りはない
私にはできなかったが 徳曼(トンマン)王女はお前の慈悲の心を引き出した)
『恋心を?』
『まあ そうです』
『何とも魅力のないものだな
恋を成就させるために女を追う男とは 踏みつけたくなる』
『では 恋心だけでなく自分の夢もかなえられるなら?』
ミシルに向かって微笑む毗曇(ピダム)
『三韓一統の大業を成すため
師匠は生涯をかけて「三韓地勢」を書きました』
※三韓一統:高句麗(コグリョ)百済(ペクチェ)新羅(シルラ)の三国統一
※三韓地勢:三国の地理を記録した地図
『セジュは三韓一統に興味がないようですが
王女様は大いに関心をお持ちです
王女様は私を得て大業を成し 私は王女様を得て歴史に名を残す
師匠が “この大業を成す者は歴史に名を残す” と
これなら壮大な夢と言えましょう
大望を抱く男なら 女も魅力を感じるのでは?
ですから しがない夢などお捨てになったらどうです?』
もはや互いに視線を外せなくなった2人
『なぜだ』
『……私だからです』
『断る』
『なぜです?』
『……私だから』
『しがない夢だと ご自分で認められたのでは?』
『それは認める だがこのミシルは 認めてもあきらめたことはなかった
再出発してきたのだ それが私 ミシルだ…』
ミシル側の内紛とも取れる動きは 王室にも知れ渡る
ヨンチュン公が真平(チンピョン)王に報告する
『不穏な動きが』
『不穏とは?』
『世宗(セジョン)公とソルォン公の花郎(ファラン)がそれぞれ慌ただしい動きを』
ヨンチュン公が林宗(イムジョン)に話を聞く
『他には?』
『ピルタン郎(ラン)が父親の所へ』
『ピルタンというと…
上州停(サンジュジョン)の幢主(タンジュ) チュジンの息子か』
『さようです 陛下』
『一体 何を始めようというのだ 徳曼(トンマン)はどこだ?』
不在の徳曼(トンマン)に代わり同席していた昭火(ソファ)が…
『“ミシルセジュに確かめることがある” とお出かけに』
『ミシルは宮殿にいないのであろう?会いに出かけて何かあったら… うっ…』
『陛下!!!』
突然に胸をおさえて倒れこむ真平(チンピョン)王
『陛下 大丈夫ですか すぐに医官を!』
『はい!』
『待て!医官は呼ぶな… その必要はない』
『陛下!』
『病気は分かっている こんな時に外部に広まっては困る』
一方ミシルは…
『待てと言ったでしょう!!!数日徐羅伐(ソラボル)を出ただけでこの騒ぎか』
『そうではなく 王女様がお見えです』
ミシルに付き添っていた毗曇(ピダム)が驚き
徳曼(トンマン)はユシンを従えて神妙な表情で現れた
『こんな所まで何のご用ですか?』
ミシルと徳曼(トンマン)が話し合う間 席を外した毗曇(ピダム)にユシンが…
『なぜここに?』
『疑っているなら答えない』
『ただの質問だ 答えろ』
『春秋(チュンチュ)公の計略だと知らせに行き…』
『遊山に誘われた?』
『断る理由もない そっちは何の用だ なぜ王女様まで?』
『王女様が不安に』
『何を?』
『ミシルらしくない行動を』
『遊山に出かけただけでもう気づかれたのか』
『では 王女様が思った通りミシルに何か変化が?』
『……そのようだ』
『そうなのか…』
ミシルと徳曼(トンマン)が向き合う
『セジュ こんなことをされては困ります
セジュらしくない行動をこのように取られて 私はどうすれば?』
『どういう意味です』
『私がセジュのように考え行動しようとしていることは ご存じのはず』
『それで?』
『セジュは誰より信頼できる敵です なのに なぜ理解できぬ行動を?』
『私のように考え行動しようとしていると?』
『はい』
『ならばなぜ こんな行動を取ったかお分かりのはず』
『だから… 不安なのです』
夏宗(ハジョン)に捕らわれているソルォンは 諦めずに訴え続ける
『私の不安が偽りだとお思いですか?』
『……』
『世宗(セジョン)公がセジュに従うのは 財力や家柄が劣るからですか?』
『…そうではない』
『セジュの判断力と能力を信頼されているからでしょう』
『……』
『セジュが春秋(チュンチュ)に欺かれるとでも? 私の言いなりになるとでも?
今 セジュの心には変化が起きています 新たな決意をしようとしている』
『新たな決意? まさか…』
一方的に話をしていた徳曼(トンマン)
今度はミシルが静かに話し始める
『王女様は私に興味深い問いを たくさん投げかけました
今回も質問をお聞きしましょう』
『ご自分を小さく感じますか?』
『……はい』
『それが耐えがたく 許せませんか?』
『はい』
『では 決意を固めたのですか』
『はい…』
『本気で… そうなさると?』
『私が負け 王女様が勝つこともありましょう
しかし ただよこせと言うのは虫が良すぎます
千の財産や千の人材なら ただでお渡ししてもいい ですが…
私が持っているのは時代です
時代を取る気ならば 私を避けては通れません』
『すべてを失うかもしれません 私には何もありませんがセジュは違います』
『ええ だからここへ遊山に来ました 初心を取り戻すためです
全身全霊でお相手いたします 主となるために…』
ミシルは微笑み 徳曼(トンマン)は驚愕して涙ぐんだ
一方 捕らわれの身の世宗(セジョン)のもとに ソルォンからの伝言が…
『本当にソルォン公がそう伝えろと言ったのか』
『はい ただ信じてほしいとは申しません
父上はセジュの変化について上大等(サンデドゥン)様とお話ししたいと』
『なぜ今まで黙っていた』
『あまりに 大それたことゆえ…』
世宗(セジョン)とソルォンの両勢力が動きを見せる同じ頃
徳曼(トンマン)はミシルとの会談を終え戻ってきた
『聞きだしましたか』
『ミシルは決意を固めていました』
『ではミシルはその道へ進む気ですか?』
『すぐに徐羅伐(ソラボル)に戻らねば』
徳曼(トンマン)が帰り 毗曇(ピダム)もいなくなり
ようやく大男甫(テナムボ)が面会することに…
『春秋(チュンチュ)公が宝良(ポリャン)と婚姻を』
『馬の用意を』
『はい!』
『徐羅伐(ソラボル)に戻ります』
『はい…』
先に宮殿に着いた徳曼(トンマン)を 閼川(アルチョン)が出迎える
『お留守の間 世宗(セジョン)公とソルォン公が大変なことに』
ユシンが聞く
『大変な事とは?』
『派閥の花郎(ファラン)や郎徒(ナンド)を動員し 一触即発の状態だ』
『春秋(チュンチュ)は?』
『郎徒(ナンド)に捜させていますが見つかりません』
『宝良(ポリャン)は?』
『宝良(ポリャン)は宮殿にいる だが春秋(チュンチュ)公はどこにも…』
『きっとあそこです』
『心当たりが?』
毗曇(ピダム)だけが春秋(チュンチュ)の行方を知っているようだ
『以前エジプトへ旅しましたが すごく暑くて肌が焼けそうでした
黒い服の方が涼しいかと思い着ていたら 何と火傷しましてね アッハッハ…』
ヨムジョンに習って蒸し手拭いを顔に当てている春秋(チュンチュ)
いつもながら毗曇(ピダム)が入って来たことに気づかないヨムジョン
『今でもたまにそのことを思い出し…』
手拭いを剥ぎ取られて騒ぎ出そうとするヨムジョンを 毗曇(ピダム)が止める
何も知らないままの春秋(チュンチュ)は 気配にも気づかない
いきなり手拭いを取られ 毗曇(ピダム)の姿に驚く間もなく
徳曼(トンマン)とユシンが入ってくる
『以前 買占めを手伝ったヨムジョンです』
『そうか』
毗曇(ピダム)がヨムジョンを紹介する
『王女様がお越しとは驚きました 近くで拝見すると…』
『静かにしていろ』
毗曇(ピダム)に睨まれて黙るヨムジョン
『外で待て 春秋(チュンチュ)に話がある』
2人きりになると 春秋(チュンチュ)は目を逸らし
徳曼(トンマン)はじっと春秋(チュンチュ)を見据えた
同じ時 互いに拉致した世宗(セジョン)とソルォンを囲みながら
武器を構えて睨み合う まさに一触即発の状況の両勢力
自分の計略でそんな事態になっていることも知らず
春秋(チュンチュ)は…
『降伏しに来たのですか?』
『……』
『手を組みたいのなら受け入れましょう
叔母上の資質と能力は 私も高く評価しています』
『ありがたい まずは謝らねばならぬ
そなたを子ども扱いし 王座を得るに値する龍と見なさなかったことを
それから 卓越した能力を認める』
満足そうにニヤリと笑う春秋(チュンチュ)
『それから武骨な私に比べ
そなたには人間関係や心理を見抜く繊細な洞察力がある』
睨み合っている両勢力は すでに剣を抜いている
ソルォンが緊迫する中 世宗(セジョン)に話しかける
『信じてください 私が信頼できぬならセジュを信じてください
セジュがこんな事態を招くはずがない』
『確かに セジュなら自らの手で私を暗殺しただろう』
『ええ 私にも野望はありますが
セジュの同意もなく 1人でこんな無茶はしません ですから信じてください』
『だが我々は 後戻りできぬところまで来た
互いの身を拘束し 剣を突きつけた』
『私から信じましょう 宝宗(ポジョン) 剣を下ろせ』
世宗(セジョン)の隣に立つ宝宗(ポジョン)は
相手側が剣を突き出したままなのに とても従うことができないでいた
『下に置くのだ 早く』
ものすごい形相で睨みつけながら 地面に剣を置いたものの
立ち上がることができずに 姿勢を低くして身構えている
しかしゆっくりと立ち上がって真っ直ぐに前を向いた
『お前たちも剣を置き 寺の外で待機せよ』
ソルォンの陣営が出て行き 世宗(セジョン)も命令せざるを得なかった
『お前たちもだ 下がっていろ』
こうして両勢力の緊張が解かれた頃
徳曼(トンマン)は本題に入り始めた
『だが そなたの計画は失敗だ』
『失敗?』
『1つ 見逃したのだ』
『私はすべての状況を考え対策を立てました
王女様が副君(プグン)に名乗り出れば
対抗できる者は誰もいません 私以外には』
『いる』
春秋(チュンチュ)の表情が変わる
『ミシルだ』
互いに縄を解かれた世宗(セジョン)とソルォンが向かい合う
『宝宗(ポジョン)から聞いたことが事実なら…』
『事実です』
『ならば まさか母上が自ら?』
夏宗(ハジョン)が驚きで絶句しているところへ…
『セジュ!』
ミシルの登場に驚く4人の男たち
そして春秋(チュンチュ)もまた 認めたくない事実に直面していた
『そんなこと あるはずがない あり得ぬことです!』
『私たちはとんでもないことをしでかした
女の身で王になると言った私と 骨品制を否定した春秋(チュンチュ)』
※骨品制:新羅(シルラ)の身分制度
『私たちがミシルを 目覚めさせた 眠れる龍が… 覚醒したのだ
だから私の手をつかめ ミシルまでは私が相手をする』
戻ってきたミシルは 4人の男の前で宣言する
『ええ 私が自ら 名乗りを上げます』
夏宗(ハジョン)もまたソルォンを拉致していた
縄にかけられたソルォンは喉元に剣を突きつけられている
『いつか何かしでかすとは思っていたが まさかこんな…
まったくあきれたものだ』
『世宗(セジョン)公が我々を信じて下さらぬからです
セジュが不在の時こそ自重せねばなりません』
『自重だと?父上を拉致しておいて何を言う!』
『仕方なかったのです そうしなければ兵を動員し我々を討つ勢いでしたので』
『ハ!フハハハ… 責任転嫁もいいところだ』
『我々は春秋(チュンチュ)公にはめられたのです!』
『ソルォン公が下手な言い逃れを 嘘はもっともらしく上手につかなきゃ
あんな子供が?我々をはめたと? アッハハハ…』
親のような歳のソルォンの胸ぐらをつかむ夏宗(ハジョン)
『お前の計略なのは分かっている!』
『セジュの変化が分からぬか!』
『母上がどうしたというのだ』
『夏宗(ハジョン)公はセジュが物事をこのように進めるとお思いに?』
突然の春秋(チュンチュ)の訪問に 困り顔のヨムジョン
『春秋(チュンチュ)公の計画通りに進んではいますが…』
『どうかしたか』
『世宗(セジョン)公とソルォン公が兵を動かし大騒ぎに』
『気がかりな事でも?うまくいってるではないか』
『ええ ですがまったく音沙汰がないというのは…』
『ミシルのことか』
『はい あまりにも動きがないので』
『ソルォン公に味方するという意味だろう 他に手はない』
『まあ 確かにそうです 徳曼(トンマン)王女が王になると宣言した以上
対抗馬は春秋(チュンチュ)公だけですから』
『皆 ミシルを買いかぶり過ぎだ』
『決して侮れぬお方です』
『己の利を最優先する権力者の1人に過ぎぬ』
春秋(チュンチュ)の言い草に眉をひそめるヨムジョンだが 反論はしない
『それより こんな面白い時に毗曇(ピダム)はどこへ行った』
王妃になるというしがない夢を… というミシルの話に毗曇(ピダム)は
『しがない夢ですか』
『今思うと そうだ 力なき女の浅知恵 王妃が何だ 王妃など…
所詮 1人の男の正室に過ぎぬ アッハッハッハ…
時代に逆らい 息子を捨ててまで…』
『……』
『王妃になるため 私は子まで捨てた』
動揺を隠しきって毗曇(ピダム)は…
『素敵です』
『そう思うか』
『当時はそれが夢だったのでしょう?』
『そうだ しがなくも…』
『しがなくても 壮大でも 夢とはそういうもの すべてを捨てさせます』
『理解してくれるとはありがたい
なぜ徳曼(トンマン)に仕えている お前とは合わないのに』
『私は鴨なのです』
『鴨?』
『鴨は 生まれて初めて見た者に追従するそうです』
2人が会話を楽しんでいる時
ようやく到着した大男甫(テナムボ)を迎えるチルスク
『チルスク公』
『セジュは待てと仰せだ』
『至急なのです ソルォン公と世宗(セジョン)公が…』
『ああいう時のセジュはどうすることもできん』
『しかし…』
『待つのだ!』
さらにミシルと毗曇(ピダム)は話し込む
『世に出て始めて見たのが徳曼(トンマン)王女だったと?』
毗曇(ピダム)は遠い目をして思い出を辿る
師匠ムンノが 死の間際に残した言葉を…
(王女とは知らずに助けようとした その心に偽りはない
私にはできなかったが 徳曼(トンマン)王女はお前の慈悲の心を引き出した)
『恋心を?』
『まあ そうです』
『何とも魅力のないものだな
恋を成就させるために女を追う男とは 踏みつけたくなる』
『では 恋心だけでなく自分の夢もかなえられるなら?』
ミシルに向かって微笑む毗曇(ピダム)
『三韓一統の大業を成すため
師匠は生涯をかけて「三韓地勢」を書きました』
※三韓一統:高句麗(コグリョ)百済(ペクチェ)新羅(シルラ)の三国統一
※三韓地勢:三国の地理を記録した地図
『セジュは三韓一統に興味がないようですが
王女様は大いに関心をお持ちです
王女様は私を得て大業を成し 私は王女様を得て歴史に名を残す
師匠が “この大業を成す者は歴史に名を残す” と
これなら壮大な夢と言えましょう
大望を抱く男なら 女も魅力を感じるのでは?
ですから しがない夢などお捨てになったらどうです?』
もはや互いに視線を外せなくなった2人
『なぜだ』
『……私だからです』
『断る』
『なぜです?』
『……私だから』
『しがない夢だと ご自分で認められたのでは?』
『それは認める だがこのミシルは 認めてもあきらめたことはなかった
再出発してきたのだ それが私 ミシルだ…』
ミシル側の内紛とも取れる動きは 王室にも知れ渡る
ヨンチュン公が真平(チンピョン)王に報告する
『不穏な動きが』
『不穏とは?』
『世宗(セジョン)公とソルォン公の花郎(ファラン)がそれぞれ慌ただしい動きを』
ヨンチュン公が林宗(イムジョン)に話を聞く
『他には?』
『ピルタン郎(ラン)が父親の所へ』
『ピルタンというと…
上州停(サンジュジョン)の幢主(タンジュ) チュジンの息子か』
『さようです 陛下』
『一体 何を始めようというのだ 徳曼(トンマン)はどこだ?』
不在の徳曼(トンマン)に代わり同席していた昭火(ソファ)が…
『“ミシルセジュに確かめることがある” とお出かけに』
『ミシルは宮殿にいないのであろう?会いに出かけて何かあったら… うっ…』
『陛下!!!』
突然に胸をおさえて倒れこむ真平(チンピョン)王
『陛下 大丈夫ですか すぐに医官を!』
『はい!』
『待て!医官は呼ぶな… その必要はない』
『陛下!』
『病気は分かっている こんな時に外部に広まっては困る』
一方ミシルは…
『待てと言ったでしょう!!!数日徐羅伐(ソラボル)を出ただけでこの騒ぎか』
『そうではなく 王女様がお見えです』
ミシルに付き添っていた毗曇(ピダム)が驚き
徳曼(トンマン)はユシンを従えて神妙な表情で現れた
『こんな所まで何のご用ですか?』
ミシルと徳曼(トンマン)が話し合う間 席を外した毗曇(ピダム)にユシンが…
『なぜここに?』
『疑っているなら答えない』
『ただの質問だ 答えろ』
『春秋(チュンチュ)公の計略だと知らせに行き…』
『遊山に誘われた?』
『断る理由もない そっちは何の用だ なぜ王女様まで?』
『王女様が不安に』
『何を?』
『ミシルらしくない行動を』
『遊山に出かけただけでもう気づかれたのか』
『では 王女様が思った通りミシルに何か変化が?』
『……そのようだ』
『そうなのか…』
ミシルと徳曼(トンマン)が向き合う
『セジュ こんなことをされては困ります
セジュらしくない行動をこのように取られて 私はどうすれば?』
『どういう意味です』
『私がセジュのように考え行動しようとしていることは ご存じのはず』
『それで?』
『セジュは誰より信頼できる敵です なのに なぜ理解できぬ行動を?』
『私のように考え行動しようとしていると?』
『はい』
『ならばなぜ こんな行動を取ったかお分かりのはず』
『だから… 不安なのです』
夏宗(ハジョン)に捕らわれているソルォンは 諦めずに訴え続ける
『私の不安が偽りだとお思いですか?』
『……』
『世宗(セジョン)公がセジュに従うのは 財力や家柄が劣るからですか?』
『…そうではない』
『セジュの判断力と能力を信頼されているからでしょう』
『……』
『セジュが春秋(チュンチュ)に欺かれるとでも? 私の言いなりになるとでも?
今 セジュの心には変化が起きています 新たな決意をしようとしている』
『新たな決意? まさか…』
一方的に話をしていた徳曼(トンマン)
今度はミシルが静かに話し始める
『王女様は私に興味深い問いを たくさん投げかけました
今回も質問をお聞きしましょう』
『ご自分を小さく感じますか?』
『……はい』
『それが耐えがたく 許せませんか?』
『はい』
『では 決意を固めたのですか』
『はい…』
『本気で… そうなさると?』
『私が負け 王女様が勝つこともありましょう
しかし ただよこせと言うのは虫が良すぎます
千の財産や千の人材なら ただでお渡ししてもいい ですが…
私が持っているのは時代です
時代を取る気ならば 私を避けては通れません』
『すべてを失うかもしれません 私には何もありませんがセジュは違います』
『ええ だからここへ遊山に来ました 初心を取り戻すためです
全身全霊でお相手いたします 主となるために…』
ミシルは微笑み 徳曼(トンマン)は驚愕して涙ぐんだ
一方 捕らわれの身の世宗(セジョン)のもとに ソルォンからの伝言が…
『本当にソルォン公がそう伝えろと言ったのか』
『はい ただ信じてほしいとは申しません
父上はセジュの変化について上大等(サンデドゥン)様とお話ししたいと』
『なぜ今まで黙っていた』
『あまりに 大それたことゆえ…』
世宗(セジョン)とソルォンの両勢力が動きを見せる同じ頃
徳曼(トンマン)はミシルとの会談を終え戻ってきた
『聞きだしましたか』
『ミシルは決意を固めていました』
『ではミシルはその道へ進む気ですか?』
『すぐに徐羅伐(ソラボル)に戻らねば』
徳曼(トンマン)が帰り 毗曇(ピダム)もいなくなり
ようやく大男甫(テナムボ)が面会することに…
『春秋(チュンチュ)公が宝良(ポリャン)と婚姻を』
『馬の用意を』
『はい!』
『徐羅伐(ソラボル)に戻ります』
『はい…』
先に宮殿に着いた徳曼(トンマン)を 閼川(アルチョン)が出迎える
『お留守の間 世宗(セジョン)公とソルォン公が大変なことに』
ユシンが聞く
『大変な事とは?』
『派閥の花郎(ファラン)や郎徒(ナンド)を動員し 一触即発の状態だ』
『春秋(チュンチュ)は?』
『郎徒(ナンド)に捜させていますが見つかりません』
『宝良(ポリャン)は?』
『宝良(ポリャン)は宮殿にいる だが春秋(チュンチュ)公はどこにも…』
『きっとあそこです』
『心当たりが?』
毗曇(ピダム)だけが春秋(チュンチュ)の行方を知っているようだ
『以前エジプトへ旅しましたが すごく暑くて肌が焼けそうでした
黒い服の方が涼しいかと思い着ていたら 何と火傷しましてね アッハッハ…』
ヨムジョンに習って蒸し手拭いを顔に当てている春秋(チュンチュ)
いつもながら毗曇(ピダム)が入って来たことに気づかないヨムジョン
『今でもたまにそのことを思い出し…』
手拭いを剥ぎ取られて騒ぎ出そうとするヨムジョンを 毗曇(ピダム)が止める
何も知らないままの春秋(チュンチュ)は 気配にも気づかない
いきなり手拭いを取られ 毗曇(ピダム)の姿に驚く間もなく
徳曼(トンマン)とユシンが入ってくる
『以前 買占めを手伝ったヨムジョンです』
『そうか』
毗曇(ピダム)がヨムジョンを紹介する
『王女様がお越しとは驚きました 近くで拝見すると…』
『静かにしていろ』
毗曇(ピダム)に睨まれて黙るヨムジョン
『外で待て 春秋(チュンチュ)に話がある』
2人きりになると 春秋(チュンチュ)は目を逸らし
徳曼(トンマン)はじっと春秋(チュンチュ)を見据えた
同じ時 互いに拉致した世宗(セジョン)とソルォンを囲みながら
武器を構えて睨み合う まさに一触即発の状況の両勢力
自分の計略でそんな事態になっていることも知らず
春秋(チュンチュ)は…
『降伏しに来たのですか?』
『……』
『手を組みたいのなら受け入れましょう
叔母上の資質と能力は 私も高く評価しています』
『ありがたい まずは謝らねばならぬ
そなたを子ども扱いし 王座を得るに値する龍と見なさなかったことを
それから 卓越した能力を認める』
満足そうにニヤリと笑う春秋(チュンチュ)
『それから武骨な私に比べ
そなたには人間関係や心理を見抜く繊細な洞察力がある』
睨み合っている両勢力は すでに剣を抜いている
ソルォンが緊迫する中 世宗(セジョン)に話しかける
『信じてください 私が信頼できぬならセジュを信じてください
セジュがこんな事態を招くはずがない』
『確かに セジュなら自らの手で私を暗殺しただろう』
『ええ 私にも野望はありますが
セジュの同意もなく 1人でこんな無茶はしません ですから信じてください』
『だが我々は 後戻りできぬところまで来た
互いの身を拘束し 剣を突きつけた』
『私から信じましょう 宝宗(ポジョン) 剣を下ろせ』
世宗(セジョン)の隣に立つ宝宗(ポジョン)は
相手側が剣を突き出したままなのに とても従うことができないでいた
『下に置くのだ 早く』
ものすごい形相で睨みつけながら 地面に剣を置いたものの
立ち上がることができずに 姿勢を低くして身構えている
しかしゆっくりと立ち上がって真っ直ぐに前を向いた
『お前たちも剣を置き 寺の外で待機せよ』
ソルォンの陣営が出て行き 世宗(セジョン)も命令せざるを得なかった
『お前たちもだ 下がっていろ』
こうして両勢力の緊張が解かれた頃
徳曼(トンマン)は本題に入り始めた
『だが そなたの計画は失敗だ』
『失敗?』
『1つ 見逃したのだ』
『私はすべての状況を考え対策を立てました
王女様が副君(プグン)に名乗り出れば
対抗できる者は誰もいません 私以外には』
『いる』
春秋(チュンチュ)の表情が変わる
『ミシルだ』
互いに縄を解かれた世宗(セジョン)とソルォンが向かい合う
『宝宗(ポジョン)から聞いたことが事実なら…』
『事実です』
『ならば まさか母上が自ら?』
夏宗(ハジョン)が驚きで絶句しているところへ…
『セジュ!』
ミシルの登場に驚く4人の男たち
そして春秋(チュンチュ)もまた 認めたくない事実に直面していた
『そんなこと あるはずがない あり得ぬことです!』
『私たちはとんでもないことをしでかした
女の身で王になると言った私と 骨品制を否定した春秋(チュンチュ)』
※骨品制:新羅(シルラ)の身分制度
『私たちがミシルを 目覚めさせた 眠れる龍が… 覚醒したのだ
だから私の手をつかめ ミシルまでは私が相手をする』
戻ってきたミシルは 4人の男の前で宣言する
『ええ 私が自ら 名乗りを上げます』
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