善徳女王 43話#1 強敵 ミシル
『そんなことあるはずがない あり得ぬことです』
『私たちはとんでもないことをしでかした
女の身で王になると言った私と 骨品制を否定した春秋(チュンチュ)』
※骨品制:新羅(シルラ)の身分制度
『私たちがミシルを目覚めさせた 眠れる龍が… 覚醒したのだ
だから 私の手をつかめ ミシルまでは私が相手をする』
遊山から戻ったミシルは たった今まで争っていた4人の男たちの前で宣言する
『ええ 私自ら名乗りを上げます』
徳曼(トンマン)から自分の手をつかめと言われた春秋(チュンチュ)
しかし 春秋(チュンチュ)は事態を甘く見ていた
『王女様の思い違いでは?もしくはミシルがどうかしているか
聖骨(ソンゴル)でもなく 王族の血も引いていないのに…』
※聖骨(ソンゴル):父母共に王族である新羅(シルラ)の身分制度の最高位
『骨品制を野蛮だと否定したそなたに それを言う資格が?』
『では ミシルには王になる資格があると?』
『ミシルは神国を治めてきた
統治の方法はともかく その点は尊重されるべきだ』
※神国:新羅(シルラ)の別称
『そんなにミシルを認めるなら お譲りになればいい!』
『それはならぬ ミシルは有能だが神国の発展には毒だ
ミシルは貴族という自身の基盤を決して無視できない
だが私が王になれば 民という私の基盤をもっと大きくできる
確かに私はまだ力も弱く 能力もミシルには及ばぬ
だが それが私が王を目指す理由だ』
初めて 神妙な顔つきで徳曼(トンマン)を見つめる春秋(チュンチュ)
『そなたと私 王室の勢力とユシン郎(ラン)の伽耶勢力
閼川郎(アルチョンラン)の豪族勢力が 一致団結せねばならぬ
だから私は そなたに手を差し伸べた 今度はそなたが決める番だ』
母ミシルの前で 狼狽する夏宗(ハジョン)
『本当に… 母上が自ら?』
『ええ 真智(チンジ)王にペクチョン王子 世宗(セジョン)公
そして春秋(チュンチュ)公 誰かを王に据えるのはもうやめます
…… 私が王になる』
世宗(セジョン) 夏宗(ハジョン) そしてソルォン 宝宗(ポジョン)
4人の男の前にひざまずくミシル
『力をお貸しください』
始めて見るミシルの姿に 4人の男たちは覚悟を決めなければならなかった
そして徳曼(トンマン)の決意に 金春秋(キム・チュンチュ)も…
春秋(チュンチュ)と別れた徳曼(トンマン)を
キム・ユシンと閼川(アルチョン) そして毗曇(ピダム)が待っていた
閼川(アルチョン)が…
『王女様 本当にミシルがそんな決意を?』
『私は そう判断しました』
ユシンが聞く
『春秋(チュンチュ)公は?』
『強くて賢い子です 賢明な選択をするでしょう』
毗曇(ピダム)に向き直る徳曼(トンマン)
『ヨムジョンとはどう知り合いに?』
『師匠を支援していたのです』
『春秋(チュンチュ)とは新羅(シルラ)に来てからか?』
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
『いえ 中国にいた頃から知っていたようです 才覚も見抜いていました』
『師匠の支援とは どういったことだ』
『…あの者は膨大な情報と人脈を持ち
高句麗(コグリョ) 百済(ペクチェ) 中国 新羅(シルラ)において
貴族や豪族の個人情報まで把握しています』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『信用できるか?』
『それは… 商人と同じです 利害が一致すれば信用できます』
『有能か?』
『それは確かです 師匠が頼るほどですから』
考え込む徳曼(トンマン)にユシンと閼川(アルチョン)が…
『何か考えが?』
『まずミシルの思惑を説明してください』
場所を徳曼(トンマン)の執務室に移し 話し合う4人
『不本意にも私と春秋(チュンチュ)が
ミシルを封印する2つの壁を崩しました』
『性別の壁と骨品の壁ですか』
『ええ 少し前まで 自らが立つとは考えもしなかったはず
けれど新羅(シルラ)に新しい風が吹いた』
『それで自ら副君(プグン)争いに参加を?』
※副君(プグン):王の息子ではない王位継承者
『ええ 功績や信望では誰にも引けを取りません』
『天神の王女の座を失った今も 最大勢力を誇っています』
『今もなお 圧倒的な強さです』
ミシルの遊山に同行していた毗曇(ピダム)が…
『何よりミシルは 決して夢をあきらめません
王妃になれぬならいっそのこと…』
『“自ら王になる” と…』
深刻な表情になる一同
『分かってはいましたが 実に優れた人物です』
『王女様に王になると言われ 我々がどれだけ驚いたことか
同じ女性であるミシルは 言うまでもないことでしょう』
『夢を見るだけの人なら厄介なことはありません
この時点でミシルが自ら立つのは
春秋(チュンチュ)の離間計を破るためです』
※離間計:2人の間を引き裂く策略
『一触即発だった世宗(セジョン)とソルォンは 結束を固めているはず』
自ら王になると宣言して立ち去ったミシル
驚愕している4人のところへ美生(ミセン)がやって来て
『答えてください! 今 夏宗(ハジョン)が言ったことは本当なのですか
本当に… 姉上が?』
押し黙る4人 ソルォンが…
『最初の夢から ともに歩んできました
初めは己の低い身分に対して不満があったからですが しかしながら
おそばで支えるうちに感化されていった セジュの夢は私の夢です』
※セジュ:王の印を管理する役職
夏宗(ハジョン)と世宗(セジョン)が…
『しかし いくら母上でも容易なことではありません』
『セジュは実に悪いお人だ 男に 王座への欲より
セジュを独占したいという欲を抱かせるのだから
こんなことで我々は男といえるのか』
世宗(セジョン)の嘆きに ソルォンが…
『その方が 不可能な夢です』
『ワッハッハ… そうだな そのとおりだ… 私も ミシルの意志に従う』
世宗(セジョン)の目には涙が滲んでいる
ソルォンもまた感慨深い表情で微笑んでいた
ミシルの弟である美生(ミセン)も 涙を滲ませながら笑う
『ハッハッハ… さすが姉上だ ただ者じゃない』
『それは皆承知ですが 王座をどうやって得るのです!』
涙ぐむ男たちの中で 夏宗(ハジョン)だけが心配顔だった
さらに議論を重ねる徳曼(トンマン)の執務室では…
『挙兵する気では?』
『兵を?』
『政変か』
『それはあり得ません』
すぐに否定する徳曼(トンマン)に ユシンが同意する
『ええ ミシルは大義を重んじます 真智(チンジ)王廃位の時も…』
『異斯夫(イサブ) 居柒夫(コチルブ) 弩里夫(ノリブ) ムンノ公まで
皆を説得し 血を流さずにやり遂げました』
『武力行使には明らかな名分が必要です』
『それよりも 国を治めてきた自身の価値を皆に認めさせる方が早い』
ミシルの執務室でも
世宗(セジョン) ソルォン 美生(ミセン) 夏宗(ハジョン)が話し合う
『セジュの強みは 常に大義を守って来たことです』
『そのとおりだ』
『今回もそこに重点を置くべきです』
ソルォンの主張に夏宗(ハジョン)が…
『では 和白(ファベク)会議を使い副君(プグン)の座を争うと?』
『王女様が王になれるなら姉上にだって可能だ
むしろ女王といえば姉上の方がふさわしい』
※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議
『そうですが 母上が言っていたでしょう
我々が王ではないから貴族が味方するのだと
王になると言えばどんな反応をするか』
夏宗(ハジョン)の反論に美生(ミセン)が…
『では真智(チンジ)王の時のように廃位に追い込むか…』
『真智(チンジ)王は失政を犯しましたが』
『今の王にはそのような落ち度はありません』
『ならばチヌン大帝の時のように…』
『暗殺と遺言と捏造?』
『おい 口を慎め』
あからさまな夏宗(ハジョン)を睨みつける美生(ミセン)
さすがに世宗(セジョン)も息子を叱りつける
ソルォンが…
『あれは我々がチヌン大帝の側近ゆえにできたことです』
『それなら一体どうすればいいんです!』
美生(ミセン)がその答えを示す
『正攻法がいいだろう』
『正攻法?』
『和白(ファベク)会議を使うのです
それなら 大義にもかなうし王になれる可能性も高い』
『私もそう思いますが 夏宗(ハジョン)公の言う通り 貴族らがどう出るか…』
『まったく…』
結局どんなに話し合っても結論は出ない
徳曼(トンマン)は 行く末に1つの予測を示す
『貴族は分裂します』
『ミシルを支持する者たちが離れていくと?』
これに賛同したのは閼川(アルチョン)だ
『私もそう思います ミシルが王になるのは貴族も望まないはずです』
『それよりは 王女様が王になる方がマシと?』
遠い目をしてつぶやく毗曇(ピダム)
徳曼(トンマン)が…
『ええ むしろこうなってよかったのかもしれません
決断をしたミシルは 我々の最大の強敵になりますが
その一方で 強いミシルを揺るがしたことになります
ミシルは弱点をあらわにしたのです』
『弱点?』
徳曼(トンマン)がユシンに…
『例の準備は進んでいますか』
『はい 順調に進んでおります ですが今あれを実行されるのですか?』
『はい 今こそ好機です』
『しかし…』
『ええ 若干の変更が必要です 抜かりなく緻密に計算しなくては』
翌日 徳曼(トンマン)から報告を受ける真平(チンピョン)王
『租税改革か
ヨンチュン公から お前が自作農を増やす策を練っていることは聞いた』
『はい』
『だが貴族が賛同するとは思えぬ』
『ええ 反対するでしょう
それに 租税改革は数十年かけて成すべき大事業です』
キム・ソヒョンが聞く
『それなのに あえて提議する理由は何ですか』
『まず1つ目は 王室が民のために何をするのか知らせるためです』
『では2つ目の理由は?』
『これは推測ですが… ミシルは自ら王座を狙う気です』
信じがたい推測にヨンチュン公とキム・ソヒョンが…
『何をおっしゃっているのです』
『春秋(チュンチュ)公を立てずにミシルが自ら王に?』
『はい ですから租税改革の最大の目的は ミシルの勢力の孤立化です
成立させてみせます』
ユシンと月夜(ウォルヤ)が監督する中
雪地(ソルチ)の指揮の下 蔵籍(チャンジョク)が徹底的に調査されている
※蔵籍(チャンジョク):新羅(シルラ)時代の土地台帳
『見落としがあってはならん 残らず調べよ』
『はい』
そこへ徳曼(トンマン)が視察に訪れる
全員が起立して出迎える
『作業を続けなさい』
『どうですか』
『お許しを得た』
『よかった』
月夜(ウォルヤ)の問いに閼川(アルチョン)が答えた
徳曼(トンマン)が月夜(ウォルヤ)に…
『毗曇(ピダム)は?』
『奥の部屋で調査すべき貴族を選んでいます』
『行きましょう』
書類の山の中で作業している毗曇(ピダム)
『どうですか』
『ヨムジョンが持つ約1000名の貴族の情報を持ってきました』
『所有する土地だけでなく 人脈や婚姻関係も調べて
百済(ペクチェ)や高句麗(コグリョ)とのつながりも』
『はい そうしています』
『それから貴族だけでなく 地方の権力者や特定の集団の有力者も調べ
名簿を作っておくのだ』
『分かりました 私にお任せください』
『発表するまで 情報が漏れぬよう くれぐれも用心を』
『はい』
『忙しいとは思いますが もう1つ頼みたいことが
陛下の食事と薬を 特別に管理してほしいのです』
この指示に 閼川(アルチョン)が…
『なぜです』
『まさか…』
『ええ 何があるか分かりません
ミシルが決断した今 すべての可能性を考えねば』
『承知しました』
綿密な計画を練っているのは ミシル側も同じだった
ソルォンが 世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)に指示を出す
『貴族たちに1人ずつ確認を』
『直接会って?』
『ええ セジュと王女様に対する考えを聞いておくのです』
『セジュが衝撃的な発言をした際 賛成派 反対派 中立派の
それぞれの数を把握するのか』
『あらゆる状況を考えておかねば』
そこで美生(ミセン)が…
『貴族のほとんどが王京(ワンギョン)に住んでいます
2000戸以上の小作人を持つ貴族は35名ほど 税は連中の懐へ入ります』
※王京(ワンギョン):新羅(シルラ)時代の首都である慶州(キョンジュ)
『その内25名が我々の味方です』
『300戸以上を持つ者は約200名 100戸以上は約450名
それから 少々の土地を持つ六頭品の者たちや地方の豪族たち
連中は 数は多いがさほど役には立ちません』
『ですが 彼らがどちらを支持するかは重要です
この機に権力を得ようと 王女に兵力を支援する恐れも』
美生(ミセン)の調べに意見を出すソルォン
それを受けて世宗(セジョン)が…
『なるべく多く味方に取り込まねば』
『簡単なことです 我が子のうち未婚者は8人 叔父上には何人いますか』
夏宗(ハジョン)に聞かれて考え込む美生(ミセン)
『まだ婚礼を挙げていないのは… ええと 何人だったか…』
『計算の得意なお方が分からないんですか?』
『私には難しいことだ』
『とにかく子供をすべて婚姻させてしまえばいいんです それが一番です!』
『ええ そうでもして貴族らを取り込まねば』
『最近 頭がよくなったみたいだ 母上にも知ってもらわないと!』
『よかったなぁ 賢くなって』
徐羅伐(ソラボル)の街を見下ろす高台で 考えているミシル
ずっとそばに付き添っているチルスクに…
『お前は どう思う?』
『……』
『一番最初に気づいたのに なぜ何の反応も示さぬ』
『私はセジュに従うだけです 守るべき家族も財産もありません
今やセジュの夢が 私の人生に残せるすべてとなりました』
『恨み言のように聞こえるな』
『…まさか』
『恨まれても仕方ない 皆の利害にズレが生じようと
お前だけは私に従うであろう 遅すぎただろうか あと10年早ければ…』
そこへ ソルォンが1つの書簡を持ってやって来る
『セジュ まずは貴族たちの考えを探ります』
『ええ お願いします ですが私は副君(プグン)の座を争ったりしません
それでも違う意味で その準備は有用です 続けてください』
『ところで 春秋(チュンチュ)はどのように?』
『春秋(チュンチュ)…』
答えを出さぬまま その名を口にし ミシルは怪しげに微笑んだ…
金春秋(キム・チュンチュ)は ヨムジョンのもとにいた
『徳曼(トンマン)王女は租税改革の準備のため
貴族の土地所有の状況などを調べておいでです ハッハッハ…』
『租税改革案…』
『はい』
『叔母上は私の策を真似る気か』
『どういうことです?』
『何でもない ソルォン公と世宗(セジョン)公はどうしている』
『特に動きはありません』
『……ミシルは?』
『セジュも特に動きはないようです』
考えを巡らせる春秋(チュンチュ)は 突然立ち上がる
『どこへ行かれるのです春秋(チュンチュ)公!
まったく 何をお考えなのやら…』
春秋(チュンチュ)が会いに行ったのは…
宝宗(ポジョン)がミシルの指示を世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子へ…
『母上が調査を続けるようにと』
『そうか 分かった』
そこへ大男甫(テナムボ)がやって来る
『どうした』
『あの… 春秋(チュンチュ)公がお見えです』
『…お通ししろ』
『はい』
言いにくそうに話す大男甫(テナムボ)
父美生(ミセン)と春秋(チュンチュ)の間には
亡き天明(チョンミョン)王女の件で秘密があった
一同が起立して迎える
ミシルが王座に就くなら 春秋(チュンチュ)の婚礼については問題もない
『皆さん ここにおいででしたか』
『我々もお捜ししていました』
『婚礼は急いで済ませたとお聞きしましたが鮑石亭(ポソクチョン)で
盛大に挙げ直さねばなりません』
※鮑石亭(ポソクチョン):新羅(シルラ)の王族が宴会に使用した離宮
皆が歓迎する中 さらに大げさな態度で美生(ミセン)が…
『我が一族の祝い事です 盛大に祝わねば』
『副君(プグン)になろうとするお方が粗末な式だけでは 貴族らも困惑します』
『ええ ところでミシル宮主(クンジュ)はどちらに?』
※宮主(クンジュ):王に仕える後宮を表す称号
ミシルのもとに会いに来た春秋(チュンチュ)は まずチルスクに取り次ぎを頼む
『セジュと話を』
『……どうぞ』
春秋(チュンチュ)の声が聞こえているミシル
チルスクはミシルの微かな反応で判断し 春秋(チュンチュ)を通した
『ようこそ 春秋(チュンチュ)公』
『はい セジュ』
『婚礼を挙げたそうですね お祝い申し上げます』
『……』
『母君がご存命であれば… 喜ばれたでしょうに』
ミシルから視線を外す春秋(チュンチュ)
『考えてみると 私たちは実に縁が深いようです』
再び視線を戻し ミシルと向き合う
『春秋(チュンチュ)公のおじい様にあたる真智(チンジ)王
父君のヨンス公 そして母君の天明(チョンミョン)王女様』
春秋(チュンチュ)に近づき 抱きしめ その耳元で…
『皆 私が殺しました』
ハッとする春秋(チュンチュ)
怪しげに 不敵に微笑み ギロリと睨むミシル
『なぜだと?』
『……』
『王族という優越感だけで!私を制圧しようとしたからです!!!
このミシルを制圧するのに!全力で挑まなかったからです!!!』
たじろぐ春秋(チュンチュ)…
『策を講じるとは そういうこと!計略が頭脳戦だと勘違いされぬよう!
これまで私は 王妃になるため謀略を巡らし
体と心と命 すべてを懸けてきました
私を恐れるなら すがるか…
復讐したいなら王女のように命を懸けるか!
私への対応はその2つだけです!!!
決死の覚悟で立ち向かうか あるいは何もせず死ぬか!!!』
もはや春秋(チュンチュ)は 立っているのが精いっぱいだった
その目には涙が今にもこぼれそうになり
叱られた子供のようにミシルを見る顔には 自信のかけらもなかった
フラフラと歩きながら 春秋(チュンチュ)は徳曼(トンマン)のもとへ…
天明(チョンミョン)王女のために建てられた神殿で無心に祈る徳曼(トンマン)
『春秋(チュンチュ)』
何を話そうというのか…
春秋(チュンチュ)は何も言わず帰ろうとする
『帰るのか?』
『……今度は 離間計を使う気のようですね 私の真似ですか?』
『ええ そなたから学んだ そしてミシルからも
大義に背くことなく敵を孤立させられる策だ』
『どちらが勝つか見ものです』
去ろうとする春秋(チュンチュ)の背中に声をかける徳曼(トンマン)
『手を貸してくれ』
『……』
『そなたが必要だ』
『早く… どちらか選べと?』
『いいえ 以前私に なぜ徐羅伐(ソラボル)へ来たのか
そして自分がなぜ来たと思うかと尋ねたな』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
徳曼(トンマン)の方へ向き直る春秋(チュンチュ)
『“ミシルだけでなく…陛下や腐った新羅(シルラ)すべてに復讐してやる
もう誰も信じたりしない 陛下にも 王妃様にも ユシン郎(ラン)にも
誰にも心を許したりしない” そんな気持ちだった
憎しみが心を支配し 復讐することばかり考えた
そなたも そんな気持ちだったのでは?
だが春秋(チュンチュ) それはできなかった
人を信じねば 何も始めることはできない 私と一緒に始めよう』
『私たちはとんでもないことをしでかした
女の身で王になると言った私と 骨品制を否定した春秋(チュンチュ)』
※骨品制:新羅(シルラ)の身分制度
『私たちがミシルを目覚めさせた 眠れる龍が… 覚醒したのだ
だから 私の手をつかめ ミシルまでは私が相手をする』
遊山から戻ったミシルは たった今まで争っていた4人の男たちの前で宣言する
『ええ 私自ら名乗りを上げます』
徳曼(トンマン)から自分の手をつかめと言われた春秋(チュンチュ)
しかし 春秋(チュンチュ)は事態を甘く見ていた
『王女様の思い違いでは?もしくはミシルがどうかしているか
聖骨(ソンゴル)でもなく 王族の血も引いていないのに…』
※聖骨(ソンゴル):父母共に王族である新羅(シルラ)の身分制度の最高位
『骨品制を野蛮だと否定したそなたに それを言う資格が?』
『では ミシルには王になる資格があると?』
『ミシルは神国を治めてきた
統治の方法はともかく その点は尊重されるべきだ』
※神国:新羅(シルラ)の別称
『そんなにミシルを認めるなら お譲りになればいい!』
『それはならぬ ミシルは有能だが神国の発展には毒だ
ミシルは貴族という自身の基盤を決して無視できない
だが私が王になれば 民という私の基盤をもっと大きくできる
確かに私はまだ力も弱く 能力もミシルには及ばぬ
だが それが私が王を目指す理由だ』
初めて 神妙な顔つきで徳曼(トンマン)を見つめる春秋(チュンチュ)
『そなたと私 王室の勢力とユシン郎(ラン)の伽耶勢力
閼川郎(アルチョンラン)の豪族勢力が 一致団結せねばならぬ
だから私は そなたに手を差し伸べた 今度はそなたが決める番だ』
母ミシルの前で 狼狽する夏宗(ハジョン)
『本当に… 母上が自ら?』
『ええ 真智(チンジ)王にペクチョン王子 世宗(セジョン)公
そして春秋(チュンチュ)公 誰かを王に据えるのはもうやめます
…… 私が王になる』
世宗(セジョン) 夏宗(ハジョン) そしてソルォン 宝宗(ポジョン)
4人の男の前にひざまずくミシル
『力をお貸しください』
始めて見るミシルの姿に 4人の男たちは覚悟を決めなければならなかった
そして徳曼(トンマン)の決意に 金春秋(キム・チュンチュ)も…
春秋(チュンチュ)と別れた徳曼(トンマン)を
キム・ユシンと閼川(アルチョン) そして毗曇(ピダム)が待っていた
閼川(アルチョン)が…
『王女様 本当にミシルがそんな決意を?』
『私は そう判断しました』
ユシンが聞く
『春秋(チュンチュ)公は?』
『強くて賢い子です 賢明な選択をするでしょう』
毗曇(ピダム)に向き直る徳曼(トンマン)
『ヨムジョンとはどう知り合いに?』
『師匠を支援していたのです』
『春秋(チュンチュ)とは新羅(シルラ)に来てからか?』
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
『いえ 中国にいた頃から知っていたようです 才覚も見抜いていました』
『師匠の支援とは どういったことだ』
『…あの者は膨大な情報と人脈を持ち
高句麗(コグリョ) 百済(ペクチェ) 中国 新羅(シルラ)において
貴族や豪族の個人情報まで把握しています』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『信用できるか?』
『それは… 商人と同じです 利害が一致すれば信用できます』
『有能か?』
『それは確かです 師匠が頼るほどですから』
考え込む徳曼(トンマン)にユシンと閼川(アルチョン)が…
『何か考えが?』
『まずミシルの思惑を説明してください』
場所を徳曼(トンマン)の執務室に移し 話し合う4人
『不本意にも私と春秋(チュンチュ)が
ミシルを封印する2つの壁を崩しました』
『性別の壁と骨品の壁ですか』
『ええ 少し前まで 自らが立つとは考えもしなかったはず
けれど新羅(シルラ)に新しい風が吹いた』
『それで自ら副君(プグン)争いに参加を?』
※副君(プグン):王の息子ではない王位継承者
『ええ 功績や信望では誰にも引けを取りません』
『天神の王女の座を失った今も 最大勢力を誇っています』
『今もなお 圧倒的な強さです』
ミシルの遊山に同行していた毗曇(ピダム)が…
『何よりミシルは 決して夢をあきらめません
王妃になれぬならいっそのこと…』
『“自ら王になる” と…』
深刻な表情になる一同
『分かってはいましたが 実に優れた人物です』
『王女様に王になると言われ 我々がどれだけ驚いたことか
同じ女性であるミシルは 言うまでもないことでしょう』
『夢を見るだけの人なら厄介なことはありません
この時点でミシルが自ら立つのは
春秋(チュンチュ)の離間計を破るためです』
※離間計:2人の間を引き裂く策略
『一触即発だった世宗(セジョン)とソルォンは 結束を固めているはず』
自ら王になると宣言して立ち去ったミシル
驚愕している4人のところへ美生(ミセン)がやって来て
『答えてください! 今 夏宗(ハジョン)が言ったことは本当なのですか
本当に… 姉上が?』
押し黙る4人 ソルォンが…
『最初の夢から ともに歩んできました
初めは己の低い身分に対して不満があったからですが しかしながら
おそばで支えるうちに感化されていった セジュの夢は私の夢です』
※セジュ:王の印を管理する役職
夏宗(ハジョン)と世宗(セジョン)が…
『しかし いくら母上でも容易なことではありません』
『セジュは実に悪いお人だ 男に 王座への欲より
セジュを独占したいという欲を抱かせるのだから
こんなことで我々は男といえるのか』
世宗(セジョン)の嘆きに ソルォンが…
『その方が 不可能な夢です』
『ワッハッハ… そうだな そのとおりだ… 私も ミシルの意志に従う』
世宗(セジョン)の目には涙が滲んでいる
ソルォンもまた感慨深い表情で微笑んでいた
ミシルの弟である美生(ミセン)も 涙を滲ませながら笑う
『ハッハッハ… さすが姉上だ ただ者じゃない』
『それは皆承知ですが 王座をどうやって得るのです!』
涙ぐむ男たちの中で 夏宗(ハジョン)だけが心配顔だった
さらに議論を重ねる徳曼(トンマン)の執務室では…
『挙兵する気では?』
『兵を?』
『政変か』
『それはあり得ません』
すぐに否定する徳曼(トンマン)に ユシンが同意する
『ええ ミシルは大義を重んじます 真智(チンジ)王廃位の時も…』
『異斯夫(イサブ) 居柒夫(コチルブ) 弩里夫(ノリブ) ムンノ公まで
皆を説得し 血を流さずにやり遂げました』
『武力行使には明らかな名分が必要です』
『それよりも 国を治めてきた自身の価値を皆に認めさせる方が早い』
ミシルの執務室でも
世宗(セジョン) ソルォン 美生(ミセン) 夏宗(ハジョン)が話し合う
『セジュの強みは 常に大義を守って来たことです』
『そのとおりだ』
『今回もそこに重点を置くべきです』
ソルォンの主張に夏宗(ハジョン)が…
『では 和白(ファベク)会議を使い副君(プグン)の座を争うと?』
『王女様が王になれるなら姉上にだって可能だ
むしろ女王といえば姉上の方がふさわしい』
※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議
『そうですが 母上が言っていたでしょう
我々が王ではないから貴族が味方するのだと
王になると言えばどんな反応をするか』
夏宗(ハジョン)の反論に美生(ミセン)が…
『では真智(チンジ)王の時のように廃位に追い込むか…』
『真智(チンジ)王は失政を犯しましたが』
『今の王にはそのような落ち度はありません』
『ならばチヌン大帝の時のように…』
『暗殺と遺言と捏造?』
『おい 口を慎め』
あからさまな夏宗(ハジョン)を睨みつける美生(ミセン)
さすがに世宗(セジョン)も息子を叱りつける
ソルォンが…
『あれは我々がチヌン大帝の側近ゆえにできたことです』
『それなら一体どうすればいいんです!』
美生(ミセン)がその答えを示す
『正攻法がいいだろう』
『正攻法?』
『和白(ファベク)会議を使うのです
それなら 大義にもかなうし王になれる可能性も高い』
『私もそう思いますが 夏宗(ハジョン)公の言う通り 貴族らがどう出るか…』
『まったく…』
結局どんなに話し合っても結論は出ない
徳曼(トンマン)は 行く末に1つの予測を示す
『貴族は分裂します』
『ミシルを支持する者たちが離れていくと?』
これに賛同したのは閼川(アルチョン)だ
『私もそう思います ミシルが王になるのは貴族も望まないはずです』
『それよりは 王女様が王になる方がマシと?』
遠い目をしてつぶやく毗曇(ピダム)
徳曼(トンマン)が…
『ええ むしろこうなってよかったのかもしれません
決断をしたミシルは 我々の最大の強敵になりますが
その一方で 強いミシルを揺るがしたことになります
ミシルは弱点をあらわにしたのです』
『弱点?』
徳曼(トンマン)がユシンに…
『例の準備は進んでいますか』
『はい 順調に進んでおります ですが今あれを実行されるのですか?』
『はい 今こそ好機です』
『しかし…』
『ええ 若干の変更が必要です 抜かりなく緻密に計算しなくては』
翌日 徳曼(トンマン)から報告を受ける真平(チンピョン)王
『租税改革か
ヨンチュン公から お前が自作農を増やす策を練っていることは聞いた』
『はい』
『だが貴族が賛同するとは思えぬ』
『ええ 反対するでしょう
それに 租税改革は数十年かけて成すべき大事業です』
キム・ソヒョンが聞く
『それなのに あえて提議する理由は何ですか』
『まず1つ目は 王室が民のために何をするのか知らせるためです』
『では2つ目の理由は?』
『これは推測ですが… ミシルは自ら王座を狙う気です』
信じがたい推測にヨンチュン公とキム・ソヒョンが…
『何をおっしゃっているのです』
『春秋(チュンチュ)公を立てずにミシルが自ら王に?』
『はい ですから租税改革の最大の目的は ミシルの勢力の孤立化です
成立させてみせます』
ユシンと月夜(ウォルヤ)が監督する中
雪地(ソルチ)の指揮の下 蔵籍(チャンジョク)が徹底的に調査されている
※蔵籍(チャンジョク):新羅(シルラ)時代の土地台帳
『見落としがあってはならん 残らず調べよ』
『はい』
そこへ徳曼(トンマン)が視察に訪れる
全員が起立して出迎える
『作業を続けなさい』
『どうですか』
『お許しを得た』
『よかった』
月夜(ウォルヤ)の問いに閼川(アルチョン)が答えた
徳曼(トンマン)が月夜(ウォルヤ)に…
『毗曇(ピダム)は?』
『奥の部屋で調査すべき貴族を選んでいます』
『行きましょう』
書類の山の中で作業している毗曇(ピダム)
『どうですか』
『ヨムジョンが持つ約1000名の貴族の情報を持ってきました』
『所有する土地だけでなく 人脈や婚姻関係も調べて
百済(ペクチェ)や高句麗(コグリョ)とのつながりも』
『はい そうしています』
『それから貴族だけでなく 地方の権力者や特定の集団の有力者も調べ
名簿を作っておくのだ』
『分かりました 私にお任せください』
『発表するまで 情報が漏れぬよう くれぐれも用心を』
『はい』
『忙しいとは思いますが もう1つ頼みたいことが
陛下の食事と薬を 特別に管理してほしいのです』
この指示に 閼川(アルチョン)が…
『なぜです』
『まさか…』
『ええ 何があるか分かりません
ミシルが決断した今 すべての可能性を考えねば』
『承知しました』
綿密な計画を練っているのは ミシル側も同じだった
ソルォンが 世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)に指示を出す
『貴族たちに1人ずつ確認を』
『直接会って?』
『ええ セジュと王女様に対する考えを聞いておくのです』
『セジュが衝撃的な発言をした際 賛成派 反対派 中立派の
それぞれの数を把握するのか』
『あらゆる状況を考えておかねば』
そこで美生(ミセン)が…
『貴族のほとんどが王京(ワンギョン)に住んでいます
2000戸以上の小作人を持つ貴族は35名ほど 税は連中の懐へ入ります』
※王京(ワンギョン):新羅(シルラ)時代の首都である慶州(キョンジュ)
『その内25名が我々の味方です』
『300戸以上を持つ者は約200名 100戸以上は約450名
それから 少々の土地を持つ六頭品の者たちや地方の豪族たち
連中は 数は多いがさほど役には立ちません』
『ですが 彼らがどちらを支持するかは重要です
この機に権力を得ようと 王女に兵力を支援する恐れも』
美生(ミセン)の調べに意見を出すソルォン
それを受けて世宗(セジョン)が…
『なるべく多く味方に取り込まねば』
『簡単なことです 我が子のうち未婚者は8人 叔父上には何人いますか』
夏宗(ハジョン)に聞かれて考え込む美生(ミセン)
『まだ婚礼を挙げていないのは… ええと 何人だったか…』
『計算の得意なお方が分からないんですか?』
『私には難しいことだ』
『とにかく子供をすべて婚姻させてしまえばいいんです それが一番です!』
『ええ そうでもして貴族らを取り込まねば』
『最近 頭がよくなったみたいだ 母上にも知ってもらわないと!』
『よかったなぁ 賢くなって』
徐羅伐(ソラボル)の街を見下ろす高台で 考えているミシル
ずっとそばに付き添っているチルスクに…
『お前は どう思う?』
『……』
『一番最初に気づいたのに なぜ何の反応も示さぬ』
『私はセジュに従うだけです 守るべき家族も財産もありません
今やセジュの夢が 私の人生に残せるすべてとなりました』
『恨み言のように聞こえるな』
『…まさか』
『恨まれても仕方ない 皆の利害にズレが生じようと
お前だけは私に従うであろう 遅すぎただろうか あと10年早ければ…』
そこへ ソルォンが1つの書簡を持ってやって来る
『セジュ まずは貴族たちの考えを探ります』
『ええ お願いします ですが私は副君(プグン)の座を争ったりしません
それでも違う意味で その準備は有用です 続けてください』
『ところで 春秋(チュンチュ)はどのように?』
『春秋(チュンチュ)…』
答えを出さぬまま その名を口にし ミシルは怪しげに微笑んだ…
金春秋(キム・チュンチュ)は ヨムジョンのもとにいた
『徳曼(トンマン)王女は租税改革の準備のため
貴族の土地所有の状況などを調べておいでです ハッハッハ…』
『租税改革案…』
『はい』
『叔母上は私の策を真似る気か』
『どういうことです?』
『何でもない ソルォン公と世宗(セジョン)公はどうしている』
『特に動きはありません』
『……ミシルは?』
『セジュも特に動きはないようです』
考えを巡らせる春秋(チュンチュ)は 突然立ち上がる
『どこへ行かれるのです春秋(チュンチュ)公!
まったく 何をお考えなのやら…』
春秋(チュンチュ)が会いに行ったのは…
宝宗(ポジョン)がミシルの指示を世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子へ…
『母上が調査を続けるようにと』
『そうか 分かった』
そこへ大男甫(テナムボ)がやって来る
『どうした』
『あの… 春秋(チュンチュ)公がお見えです』
『…お通ししろ』
『はい』
言いにくそうに話す大男甫(テナムボ)
父美生(ミセン)と春秋(チュンチュ)の間には
亡き天明(チョンミョン)王女の件で秘密があった
一同が起立して迎える
ミシルが王座に就くなら 春秋(チュンチュ)の婚礼については問題もない
『皆さん ここにおいででしたか』
『我々もお捜ししていました』
『婚礼は急いで済ませたとお聞きしましたが鮑石亭(ポソクチョン)で
盛大に挙げ直さねばなりません』
※鮑石亭(ポソクチョン):新羅(シルラ)の王族が宴会に使用した離宮
皆が歓迎する中 さらに大げさな態度で美生(ミセン)が…
『我が一族の祝い事です 盛大に祝わねば』
『副君(プグン)になろうとするお方が粗末な式だけでは 貴族らも困惑します』
『ええ ところでミシル宮主(クンジュ)はどちらに?』
※宮主(クンジュ):王に仕える後宮を表す称号
ミシルのもとに会いに来た春秋(チュンチュ)は まずチルスクに取り次ぎを頼む
『セジュと話を』
『……どうぞ』
春秋(チュンチュ)の声が聞こえているミシル
チルスクはミシルの微かな反応で判断し 春秋(チュンチュ)を通した
『ようこそ 春秋(チュンチュ)公』
『はい セジュ』
『婚礼を挙げたそうですね お祝い申し上げます』
『……』
『母君がご存命であれば… 喜ばれたでしょうに』
ミシルから視線を外す春秋(チュンチュ)
『考えてみると 私たちは実に縁が深いようです』
再び視線を戻し ミシルと向き合う
『春秋(チュンチュ)公のおじい様にあたる真智(チンジ)王
父君のヨンス公 そして母君の天明(チョンミョン)王女様』
春秋(チュンチュ)に近づき 抱きしめ その耳元で…
『皆 私が殺しました』
ハッとする春秋(チュンチュ)
怪しげに 不敵に微笑み ギロリと睨むミシル
『なぜだと?』
『……』
『王族という優越感だけで!私を制圧しようとしたからです!!!
このミシルを制圧するのに!全力で挑まなかったからです!!!』
たじろぐ春秋(チュンチュ)…
『策を講じるとは そういうこと!計略が頭脳戦だと勘違いされぬよう!
これまで私は 王妃になるため謀略を巡らし
体と心と命 すべてを懸けてきました
私を恐れるなら すがるか…
復讐したいなら王女のように命を懸けるか!
私への対応はその2つだけです!!!
決死の覚悟で立ち向かうか あるいは何もせず死ぬか!!!』
もはや春秋(チュンチュ)は 立っているのが精いっぱいだった
その目には涙が今にもこぼれそうになり
叱られた子供のようにミシルを見る顔には 自信のかけらもなかった
フラフラと歩きながら 春秋(チュンチュ)は徳曼(トンマン)のもとへ…
天明(チョンミョン)王女のために建てられた神殿で無心に祈る徳曼(トンマン)
『春秋(チュンチュ)』
何を話そうというのか…
春秋(チュンチュ)は何も言わず帰ろうとする
『帰るのか?』
『……今度は 離間計を使う気のようですね 私の真似ですか?』
『ええ そなたから学んだ そしてミシルからも
大義に背くことなく敵を孤立させられる策だ』
『どちらが勝つか見ものです』
去ろうとする春秋(チュンチュ)の背中に声をかける徳曼(トンマン)
『手を貸してくれ』
『……』
『そなたが必要だ』
『早く… どちらか選べと?』
『いいえ 以前私に なぜ徐羅伐(ソラボル)へ来たのか
そして自分がなぜ来たと思うかと尋ねたな』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
徳曼(トンマン)の方へ向き直る春秋(チュンチュ)
『“ミシルだけでなく…陛下や腐った新羅(シルラ)すべてに復讐してやる
もう誰も信じたりしない 陛下にも 王妃様にも ユシン郎(ラン)にも
誰にも心を許したりしない” そんな気持ちだった
憎しみが心を支配し 復讐することばかり考えた
そなたも そんな気持ちだったのでは?
だが春秋(チュンチュ) それはできなかった
人を信じねば 何も始めることはできない 私と一緒に始めよう』
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