善徳女王 43話#2 租税改革案の行方

『手を休めて聞け 今後 陛下の薬は王女様の乳母殿が管理なさる』
『仕入れた薬剤は記録し 私に報告してください』

王女様の乳母とは 昭火(ソファ)のことである

キム・ユシンが女官たちに昭火(ソファ)を紹介した

『陛下に薬をお出しする役目も 乳母殿に任せよ』

さらにそのことを 王室にも報告する

『今後は乳母殿が薬典(ヤクチョン)の管理を』

※薬典(ヤクチョン):王室の薬局

『食事の管理は 母上に任せます』

『分かったわ』
『肉典(ユクチョン)の食材はもちろん献上される特産品にも用心を』
『任せて』

※肉典(ユクチョン):王室の料理を担当していた官府

『それから 陛下にお出しする前に必ず毒味を

(昭火(ソファ)に向かって) お薬の方もお願いします』
『はい そう致します』

ユシンの万全なる配慮に加え 父キム・ソヒョンが…

『護衛の人員も増やしておきました』

『徳曼(トンマン)とユシンがいてくれて本当に心強いわ』

翌日 徳曼(トンマン)を出迎えるユシン

『いらっしゃいましたね』

『はい』
『毗曇(ピダム)と閼川(アルチョン)は先に 我々も参りましょう』
『……』
『お顔の色が優れませんね』
『……昨日 春秋(チュンチュ)と話をしました まだ心が動かぬようです』
『待ちましょう』

ユシン 閼川(アルチョン) 毗曇(ピダム) そして月夜(ウォルヤ)が集い

租税改革の実施に向けての調査が進められていた

『ウグァン公は?』

『堅城郡の太守です 阿飡(アチャン)のトヨン公の義弟で
所有地は3400束です』

※阿飡(アチャン):新羅(シルラ)における十七官位の6番目

『3000束の土地を所有する者が最も多いようです』

『よって3000束を基準にしてはどうかと』
『目的を勘違いされているようですね』

最終的に結論付けた月夜(ウォルヤ)に対し 徳曼(トンマン)が言い放った

困惑する一同…

『3000束ではダメです』

『王女様 なぜですか』

ユシンでさえも 徳曼(トンマン)の真意が分からない

そこへ…

『それでは 敵は分裂しません』

金春秋(キム・チュンチュ)が現れた…!

『春秋(チュンチュ)…』

『3000束の土地を有する者が最も多いのは事実です
しかし彼らは六頭品以下の貴族と地方の豪族が大部分
最も多い貴族たちを従わせねばなりませんが
賛成派と反対派が一番激しく対立する基準点を決めてこそ
より大きな効果を得られます どれだけ多くの既得権を有する者を
王女様の味方につけられるかが 目的でしょう?』

最も徳曼(トンマン)のやり方を理解している春秋(チュンチュ)

徳曼(トンマン)は満足そうに春秋(チュンチュ)を見つめ
他の一同は驚きと称賛の視線を送る

そして春秋(チュンチュ)は 徳曼(トンマン)と2人きりになる

『私を引き入れるなら私のすべてを…

私が持つ毒までも抱え込まねばなりません』
『そなただけではない 他の皆も同じだ 毒を持つ者 野望を抱く者
希望を持つ者 彼ら全員を私の器で受け入れなければならない
そしてその彼らが 私を作ってくれる
私にできるのは 皆を受け入れる器になること
もし私の器が小さいと感じたら いつでも壊して出て行くがよい』

『ミシルに… 勝てますか』

『……』
『母上… 私の… 母上…』

ポロポロと涙をこぼして泣き出す春秋(チュンチュ)

『私と同じくらい… 王女様も泣きましたか』

徳曼(トンマン)は 春秋(チュンチュ)を引き寄せ 赤子のように抱いた

今の春秋(チュンチュ)を癒すものは 言葉ではなく 母のようなぬくもりだった…

春秋(チュンチュ)を加え さらに調査は続いた

そこで ユシンが1つの答えを導き出した

『5000束です 5000束を基準にすればいい』

『そのとおりです 5000束です』
『やりました』
『あとは発表ですね』
『明日 便殿会議が その場で皆にこれを発表します』

翌日の便殿会議

『租税改革ですと?』

予想通り大騒ぎになると 徳曼(トンマン)は静かに話し始めた

『チヌン大帝は 戦で得た地を皆に分け与えましたが

その多くが 今や貴族の所有となっています
これは “網羅四方” を目指した先王たちの意に背き
さらには民の暮らしを困窮させています
皆に同じ税率をかけるのは 理にかないません
5000束を基準とし それ以上の土地を持つ者には 増税を課します』

ここまでの発表で目をむく貴族たち

『5000束から7000束の土地を持つ者には6割

7000束から9000束の土地を持つ者には7割
9000束から1万2000束の土地を持つ者には8割
1万2000束以上の土地を持つ者には… 9割の租税を課します』

『9割ですって?!!! いきなりそんな…』

『そのかわり 5000束以下の土地を持つ貴族は 5割から3割に

500束から5000束の土地を持つ農民は2割
500束以下の土地を持つ農民は1割に税を引き下げます』

『中小貴族と民に対して減税を行い その分を大貴族に負担させると?』

『はい』

騒ぎは大きくなるばかりだった

最後に真平(チンピョン)王が…

『この租税改革に関する法を制定したい

和白(ファベク)会議で可決されることを強く望む』

市場には 租税改革案の張り紙がされた

張り紙の前で 竹方(チュクパン)が分かりやすく説明している

『いいですか この租税改革案が可決されれば

500束以下の農民は1割! 500束から5000束の農民は2割!
それだけの税を納めればいいってこと!』

『本当に1割だけ税を納めればいいんですか』

『我らが徳曼(トンマン)王女が出されたこの改革案が
和白(ファベク)会議で可決さえされればね』
『どうせ無理さ 和白(ファベク)会議で票を投じるのは全員貴族だ
自分に都合の悪い法案を 貴族が可決するとでも?
そんなこと絶対にあり得ない!』
『でも 王女様が出された法案に反対できるかな』
『とにかく 可決さえされればいいな』
『王女様のおかげで暮らしが楽になるなら嬉しい』

『きっと可決されます! 徳曼(トンマン)王女 万歳!』

『万歳!』
『もう一度!』
『徳曼(トンマン)王女 万歳!』

演説が大盛況に終わり ご機嫌の竹方(チュクパン)一行は

演説を聞いていた民たちに招かれ酒場へ…

『何だか申し訳ないな』

『侍衛府(シウィブ)といえば 王女様の護衛部隊でしょう?』

※侍衛府(シウィブ):近衛隊

『まあ そんなものです』

『しっかり護衛してくださいね』
『任せてください』
『兄貴 俺侍衛府(シウィブ)にいてよかった!』
『俺も!』
『俺もだ!』

高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)は

ご馳走と酒に大喜びする

『安上がりな連中だ 酒1本で大喜びとは』

そこへサンタクが…

『まったく!あきれたもんだ 小さい奴らめ!』

『どこから湧いて来やがった ここは侍衛府(シウィブ)の席だぞ 入って来るな』
『自分のおごりじゃないくせに!そんなだから背が縮みシワが増えるんだ
すみません 餅と肉をお願いします!首周りの肉を!』
『おい見たか 何て図々しい奴だ おい!食ってばかりいないで酒を注げ
お前にも1杯やるとしよう さあ飲め!
酒をやる代わりに お前が得意なあのイカの歌を披露しろ』
『分かった!』

結局は サンタクにも酒をご馳走し 盛り上がる一同

ミシル側はそれどころではなかった

世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子 ソルォン
そして美生(ミセン)が怒り狂っていた

『中小貴族や民は大騒ぎです “王女様 万歳” と!』

『王女様はどうかしています!つまり貴族と対立する気でしょう?』

夏宗(ハジョン)の見解をすぐさま否定するソルォン

『いいえ これは離間計です』

『離間計?』
『2つの集団の利害を衝突させ 対立を招くことが目的です』

なるほどと納得する美生(ミセン)

『春秋(チュンチュ)公が宝良(ポリャン)との婚姻で

義兄上とソルォン公の対立を目論んだように?』
『そうです 徳曼(トンマン)王女は貴族を分裂させようとしているのでしょう』
『この法案に 心が揺らぐ貴族もいるはず そうなれば…』

美生(ミセン)が世宗(セジョン)に視線を送る

『徳曼(トンマン)に寝返る貴族も出てくる』

『ええ 徳曼(トンマン)王女は日に日に聡明さを増しておられる』

一方 ミシル派の花郎(ファラン)たちは 宝宗(ポジョン)のもとに集まっていた

『あんなのは不公平だ』

『まったく王女様は無分別にも程がある』
『何かやらねばと焦っているのだろう』
『しかし 裕福な者に多くの税を課すことがそんなに不公平か?』

朴義(パグィ)の言い方に徳充(トクチュン)が…

『まさか王女様が出した改革案に賛成するのか!』

『そうではないが 合理性はあると思う
石品(ソクプム)だって 減税は嬉しいだろう?』
『それはそうだが… 減税だけが問題ではない』

チラッと宝宗(ポジョン)を伺い見る石品(ソクプム)

『ああ 問題は王女様の横暴さだ

減税した分を すべて大貴族に負担させるとは!』
『だが 今まで多くの恩恵を…』
『お前は何が言いたいんだ!!!』

どこまでも徳曼(トンマン)寄りの意見を繰り返す朴義(パグィ)に

徳充(トクチュン)が怒り 場の雰囲気が悪くなる
花郎(ファラン)の間でも家の事情によって反応がまったく違うのだった

ピルタンとワンニュンが虎才(ホジェ)を追いかけてくる

『上仙(サンソン)様!』

『改革案は可決を?』

※上仙(サンソン):風月主(プンウォルチュ)を務めた花郎(ファラン)

『私には分からぬ』

『調府(チョブ)所属ですから我々よりは詳しいでしょう』

※調府(チョブ):貢納と租税を担当した官庁

『私も可決を望むが 和白(ファベク)会議が… 王女様は何と?』

『ご意志は固いようです』

虎才(ホジェ)に聞かれて 月夜(ウォルヤ)がそっけなく答える

林宗(イムジョン)が進言する

『花郎(ファラン)や中小貴族の意見を 大等(テドゥン)らに伝えるべきでは?』
『和白(ファベク)会議を傍聴するため上京すると
父上から上大等(サンデドゥン)に言伝を頼まれた』

※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団

※大等(テドゥン):新羅(シルラ)の中央貴族の核心層
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理

ワンニュンが虎才(ホジェ)に…

『では 私もご一緒します』

林宗(イムジョン)は…

『私もヨンチュン公にお会いします』

虎才(ホジェ)とワンニュンが連れだって世宗(セジョン)のもとへ

林宗(イムジョン)はヨンチュン公のもとへ
残されたピルタンが月夜(ウォルヤ)に話があると切り出した

虎才(ホジェ)とワンニュン そして数人の貴族たちが

世宗(セジョン)と夏宗(ハジョン)父子の前で…

『今 何と?』

『どうか租税改革の可決をと 父が申しております』

代表して進言した虎才(ホジェ)に対し 声を荒げる夏宗(ハジョン)

『何だと!正気なのか?!』

『私の父も同じことを申しております』
『何だ!』

同席した貴族たちの代表が…

『その…これまで我々は皆様に多くの支援を』

『何が言いたい!可決しないともう協力はしないということか!』

それ以上は言いにくそうにしている貴族たち

すると虎才(ホジェ)が…

『切なる要望でございます』

『要望だと?』

租税改革案を発表してからの状況を ヨンチュン公が王室へ報告する

『大貴族と中小貴族の反目が激化しています』

『直接的かつ現実的な問題だ すでに発表した時から溝ができていた』
『ええ 王女様の狙い通りです』

万明(マンミョン)夫人が…

『ですが中小貴族が立ち上がっても

和白(ファベク)会議での可決は難しいでしょう』
『可決は期待していない』
『では…』

真平(チンピョン)王の答えに納得がいかない王妃

代わりにヨンチュン公が説明する

『8名の反対と我々2名の賛成で否決されるでしょう

しかし反対票を投じた大等(テドゥン)は 中小貴族と民の恨みを買うことに』
『この改革案に 誰が反対し誰が賛成したか分かるわけだ』

ようやく納得した王妃

『否決されたとしても 和白(ファベク)会議の実態を

民と中小貴族に示すことができると?』

月夜(ウォルヤ)はピルタンを伴い ユシンと会う

『ピルタン郎(ラン)が風月主(プンウォルチュ)に話があるそうです』

※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長

ピルタンは用心深く辺りを窺い…

『私の父が これを王女様に渡してほしいと』

ピルタンから書状を受け取ると ユシンは直ちに徳曼(トンマン)のもとへ…

『中小貴族が動きそうです』

同じく報告に来た閼川(アルチョン)も…

『私の父も和白(ファベク)会議を傍聴しに来るそうです』

『そうですか』
『これを』

ピルタンから受け取った書状を渡すと そこにはピルタンの父チュジン公が

徳曼(トンマン)に会いたいと書かれてあった

『チュジン公が味方に付けばとても心強い

土地は5000束以下ですが 徐羅伐(ソラボル)の近くに精鋭兵を有しています』
『他にも傍聴を希望する貴族たちがたくさんいます』

ミシルの執務室では ようやくミシルの前に

世宗(セジョン) 夏宗(ハジョン) 美生(ミセン) ソルォンが…

『中小貴族は大騒ぎです 我々に意見までして』

『“少々修正してでも改革案を可決してくれ” と』
『徳曼(トンマン)は教えたことをとてもうまく応用する』

クスリと笑い ミシルはソルォンに…

『貴族らと個別に話はしましたか?』

『会いましたが 心変わりしている可能性も』
『母上 このままでは我々の勢力が分裂を起こします』
『……』
『何とか言ってください』

お手上げだというように 美生(ミセン)までもが泣き言を…

『これでは我々だけが皆の恨みを買うことになります』

『むろん我々が恨みを買う必要はありません
ゆえに和白(ファベク)会議では賛成票を投じるのです』
『えっ?!賛成票を?』
『どういうことですか』
『母上 一体 何を…』
『今から世宗(セジョン)公はスウルブ公を ソルォン公はチンチュン公を
美生(ミセン)はシンボ公を 夏宗(ハジョン)はスンシン公を訪ね
この文を渡してください 直接渡し 丑の刻まで返事を得るのです』

※丑の刻:午前1時~3時

夜になり 武芸場に和白(ファベク)会議のための会場がつくられている

『明日です』

徳曼(トンマン)は翌日の和白(ファベク)会議を前に 意志を固めている

翌日 大等(テドゥン)たちが円卓につき 傍聴の貴族と民が集った

『礼を尽くせ!』

ミシルをはじめ全員が起立し 徳曼(トンマン)王女を迎える

世宗(セジョン)が 議題について発表する

『王女様がご提案された租税改革については 皆様もご存じのことでしょう

本日 この和白(ファベク)会議でその決議をいたします
すでに熟考されたでしょうから 議論はせず直ちに投票したいと存じます
大等(テドゥン)の皆様は採決に当たり 札を投げ入れてください』

ミシル側の大等(テドゥン)はすべて賛成の票を投じた

『賛成9票』

『9票?!』
『反対が1票ありましたので 満場一致の原則により
租税改革案は否決されました』

絶望の表情で下を向くキム・ソヒョンとヨンチュン公

ほくそ笑む美生(ミセン)と夏宗(ハジョン)

ユシンと閼川(アルチョン)は…

『9票だと?1名を除き全員賛成したというのか』

『やられた 否決になっても中小貴族らの非難をかわすミシルの策だ』

笑顔を見せるミシルを 徳曼(トンマン)は睨みつけた

そして 意を決したように立ち上がる…!

『もう一度提議を』

『一度否決された案件は 二度と提議できません』
『提議するのは別の案件です』

ミシルは笑顔を崩さない

『満場一致の議決方法を 多数決へ変更することを求めます』

笑顔を保ち続けるミシル

憮然とする世宗(セジョン) 夏宗(ハジョン) そして美生(ミセン)
世宗(セジョン)が…

『満場一致は和白(ファベク)会議の伝統です それをお変えになると?』

『神国の制度の中で 満場一致を許すのは和白(ファベク)会議だけです
神国の根幹である花郎(ファラン)も多数決を重視し
各部の長も多数決で決まります
和白(ファベク)会議だけが満場一致の原則を採り
大等(テドゥン)らの利害に合わぬ事案は 常に否決されてきました
これは我が国の発展を妨げるものであり 大貴族の私腹を肥やすだけの悪習
よって 和白(ファベク)会議を多数決の原則にすることを提議します』

『そのとおりだ!』

『王女様が正しい!』
『多数決にしろ!』

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