善徳女王 47話#1 チルスクの誤算
『王女様大変です!敵に取り囲まれました!!!』
徳曼(トンマン)が隠れていた山の中の本拠地は
チルスクが率いる兵によって取り囲まれ
放たれた火矢によって火災が発生していた
チルスクのもとに駆け付けた石品(ソクプム)
『連絡を受けて すぐに参りました』
サンタクが状況報告する
『包囲しました 突入は?』
チルスクが 徳曼(トンマン)の隠れている建物に向かって叫ぶ
『逆賊ども!!!武器を捨てて出て来い!王命に従え!』
扉の隙間から外を確認する月夜(ウォルヤ)
『完全に包囲されました』
『王女様 どうしましょう…』
怯える昭火(ソファ)
今となっては徳曼(トンマン)に手立てがあるわけではない
外では さらにチルスクが叫んでいる
『今のうちに出てこなければ!国法に基づき全員捕らえる!!!
抵抗すれば皆殺しだ!!!』
石品(ソクプム)がチルスクを促す
『突入しましょう 準備は万端です』
『中の様子が不明だ 何人いるかも分からん 様子を見る 全員待機しろ』
『はい』
キム・ユシンが進言する
『私が突破します 王女様を連れて逃げろ』
またしても自分が食い止めると言うユシンに月夜(ウォルヤ)が…
『相手は元上花(ウォンサンファ)のチルスクだ
その体では戦えない!』
※元上花(ウォンサンファ):花郎(ファラン)出身で花郎の師匠となる者
『ではどうする 方法がない 王女様が捕まったら終わりだ』
『何か方法があるはずです 考えてみます』
『無理です 時間がありません』
再び外の様子を窺う月夜(ウォルヤ)
『相手は大勢だ!』
見かねて昭火(ソファ)が…
『あの… それでは こうしてはどうでしょう』
外では サンタクがチルスクに状況報告をしている
『動きはありません』
『よし突入する 全員 攻撃の準備をしろ』
『はい!』
中では 昭火(ソファ)の提案に徳曼(トンマン)が…
『だめです それは絶対にいけません!』
『お聞き入れください 他に手はありません』
『いいえ 危険すぎます なりません!』
『危険なのは皆 同じです!』
徳曼(トンマン)と昭火(ソファ)の押し問答に月夜(ウォルヤ)が…
『確かにその方法しか 手はないかと』
『月夜郎(ウォルヤラン)! だめです 認められません!』
頑なな徳曼(トンマン)に昭火(ソファ)は涙ぐんで訴える
『他に方法がないでしょう?』
『考え出します!!!』
『時間がりません!急がなくては!!!』
『だめです』
『王女様!』
『絶対に許しません!!!』
『やるべきです』
『それ以上言わないで…』
昭火(ソファ)は席を立ち 徳曼(トンマン)を正面から見据えた
『徳曼(トンマン)!母さんの言うことを聞いて』
『……母さん』
侍女の昭火(ソファ)ではない
母として 昭火(ソファ)は徳曼(トンマン)に言い聞かせる
『母さんの言葉に従いなさい… いいわね?』
母と娘の決断に ユシンと月夜(ウォルヤ)は口を挟むことはできなかった
外では チルスクが突入の準備を整えている
『王女は捕らえない 殺すのだ
王女の死の責任は誰にも負わせない 顔を隠せ』
赤装束に覆面姿の突入部隊が 合図とともに行動を開始する
次々と突入していくと 中から剣のぶつかる音と悲鳴が…!
激しい戦い そして血しぶきが飛び 中から傷ついた赤装束の兵士が出てくる
チルスクと共にこれを見ていた石品(ソクプム)とサンタクが息を飲む
『あっという間にやられました
どうします 2組目を行かせますか?』
『誰かがいる すご腕の誰かが…
ユシン郎(ラン)は負傷を おそらく別の人物だ』
『では2組目を同時に突入させますか?』
『広い空間なら多人数が有利だが
狭い場所に多数で突入しても結果は同じだ』
『ではどうしましょう』
『私が行く 2組は私に続け』
チルスク自らが突入するという
中では負傷した体で息も絶え絶えのキム・ユシンを 月夜(ウォルヤ)が気遣う
『私がおとりになる』
『私のはずだ!』
『何としても生き延びろ』
『しかし…』
『そなたの命は伽耶のものだ!』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
月夜(ウォルヤ)は 何としてもユシンを生かすために説得する
『我らの大業のために生き延びてくれ そなたが王女様をお守りしろ
王女様の安否よりもそなたが大事だ 連中は任せろ』
『だめだ』
建物の中に入り 1つ1つの部屋を捜索していくチルスク
しかし中には誰もいないかのように気配がない
いくつめかの部屋で ようやく対面したのは キム・ユシンだ…!
他の兵たちを倒したユシンは 部屋にチルスクをおびき入れ鍵をかける
そこでチルスクは気がつくのだった
(王女がいない)
負傷しているユシンは 死に物狂いでチルスクと戦う
奥の部屋へ奥の部屋へとチルスクを誘い込む
すると…
そこでチルスクが目にしたのは 赤装束を剥ぎ取られた部下の遺体だった
『まさか…』
『元上花(ウォンサンファ) だまされましたね』
最初の突入部隊が中で戦った時 一斉に飛び出してきた兵士たち
その中に 赤装束に身を包み仲間の方へ駆け寄る人物が…
負傷者だと思い助け起こした兵士は すぐに仲間ではないと気づく
しかし 後ろからこれもまた赤装束に身を包んだ月夜(ウォルヤ)が現れ
この人物を守りながら逃げていったのだ
石品(ソクプム)は慌ててこれを追う!
『王女か?!』
外の騒ぎを聞いたチルスクは ユシンに構わず外に出ようとする
ユシンはチルスクを追いかけ少しでも足止めしようと必死だった
やっとのことでユシンを振り切り外に出たチルスク
サンタクがうろたえて報告する
『何者かが逃走を』
『追え 王女だ!!!』
『はい!!!』
皆が行ってしまうと ユシンはフラフラと歩きだし 一番奥の扉を開けた
そこには 徳曼(トンマン)がいた…!
王女と見せかけ逃げたのは昭火(ソファ)なのだ
それを守るようにして一緒に逃げた月夜(ウォルヤ)
キム・ユシンは 月夜(ウォルヤ)との約束通り徳曼(トンマン)を守ったのだった
『今です お急ぎを!』
ユシンと共に逃げる徳曼(トンマン)
王女に成りすまし逃げる昭火(ソファ)
それを追いかけるチルスク
「徳曼(トンマン)には 追いかける過程で死んでもらう
国法に背き 逮捕に抵抗して死亡 それが徳曼(トンマン)の最期です」
チルスクは 赤装束の2人を追い詰めた
そして ミシルの筋書き通りに事を進めるため 剣を握り直す
(さらばだ 徳曼(トンマン)…)
積年の思いを込めて剣を振りかざすチルスク…!!!
その時 ユシンと逃げている徳曼(トンマン)が突然胸を抑えて倒れ込む
『王女様 大丈夫ですか? どうなさいました 何です』
『何かが… 起こったようです』
おびただしい血が チルスクの剣からしたたり落ちる
小刻みに震えている チルスクの足元の 赤装束に身を包んだ人物
かばいきれなかった月夜(ウォルヤ)が呼びかける
『乳母殿… 乳母殿!!!』
この呼びかけに驚いたのはチルスクだった
徳曼(トンマン)だと信じて斬ったのは…!
『昭火(ソファ)… 昭火(ソファ)!』
『チルスク郎(ラン)…』
『昭火(ソファ)…』
『私たちは結局… こうなる運命だったのですね』
『昭火(ソファ)…』
『この30年… 回り回って結局… 元通りに…』
『昭火(ソファ)しっかりしろ! 昭火(ソファ)…!』
徳曼(トンマン)は 胸の痛みに苦しみながらヨムジョンの根城へ辿りつく
春秋(チュンチュ)が…
『王女様 何があったのです!』
同席している竹方(チュクパン)とヨムジョンも言葉が出ない
毗曇(ピダム)が…
『王女様』
その頃チルスクは 自らの手で昭火(ソファ)を斬り殺してしまった衝撃に耐え
ミシルのもとへ報告しに戻る
『逃がした?またしても?!!!』
『本拠地を襲撃したのに?』
『王女がいたのでは?』
『どうして逃げられたのだ!』
美生(ミセン)夏宗(ハジョン) そしてソルォン宝宗(ポジョン)父子が責め立てる
しかしミシルはひと言も言葉を発しない
同じ時 万明(マンミョン)夫人がインガン殿に来ていた
『王女様はご無事のようです』
『そうか なぜ分かった』
『元上花(ウォンサンファ)が兵を率いて出ましたが
先ほど成果もなく戻ってきました』
『よかった よくインガン殿に入れましたね』
『ここの内官を買収したのです ミシルが知っても何もできないはず
私に手出しすれば 陛下を軟禁していると認めることに』
一方 厳しい拷問に耐えかね気を失っていた閼川(アルチョン)は
誰かが呼ぶ声で意識を取り戻す
同じく拷問されていたヨンチュン公とキム・ソヒョンが同室に移されたのだ
『閼川郎(アルチョンラン) 気がついたか? 王女様を追っていた兵が戻った』
『……王女様は?』
『お逃げになったようだ ユシンも無事らしい』
牢の中の高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)も…
『王女様はご無事のようだ』
『兵たちの話が聞こえた』
『ユシン郎(ラン)に王女様を守っていただきたい』
『毎日 生きた心地がしない』
自分のおとりとなった育ての母昭火(ソファ)を按ずる徳曼(トンマン)
そこへ月夜(ウォルヤ)1人だけが現れる
『王女様』
『母さんは?』
『……』
『月夜郎(ウォルヤラン)!』
ユシンが促す
『どうした なぜ黙っている』
『月夜郎(ウォルヤラン) 母さんは?』
『……』
それでも何も答えない様子に 竹方(チュクパン)が…
『月夜郎(ウォルヤラン) どうしたんです 早く話してください!』
『王女様 お許しを…』
ミシルへの報告は続いている
チルスクに代わり 石品(ソクプム)が話す内容に驚く美生(ミセン)
『何だと おとりだった?』
『はい 我々が王女と思い込み襲った相手は 別人でした
その隙に 本物の王女は逃げました』
『情けない そんな調子だから毎回逃げられるんだ!』
ここで初めてミシルが口を開く
『もしや 乳母だったのでは?死んだのは昭火(ソファ)か?』
『はい セジュ』
※セジュ:王の印を管理する役職
『母さん こんなの嫌… こんなのひどすぎる 母さん 私のために…
本当に母さんはバカよ どんな母親にも真似できない!
二度も命を捨てた 私のために… 母さん… 母さん…
母さんお願いだから目を覚まして… 母さん起きてよぉ…』
月夜(ウォルヤ)が連れて来た昭火(ソファ)の遺体に取りすがり
泣き続ける徳曼(トンマン)だった
やり切れずヨムジョンは毗曇(ピダム)と中に入る
『俺たちも同じさ 人の世話ばかり焼いてあんなふうに死ぬんだ 嫌な運命だ』
ミシルは 位牌堂にいるチルスクのもとへ
『ここで何をしているのだ』
『イファ郎 モ郎 キサン郎 サダハム郎
彼らのように 私の名もここに残るでしょうか?』
『名を残したいのか?』
『何か希望がなければ生きられません
私は16歳の時 高句麗(コグリョ)軍の捕虜になり 生き埋めにされました
その敵陣へセジュが攻め入り 瀕死の私を救い出してくれました
それ以来私は セジュに命をささげてきました』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
『それで?』
『その後も 数多くの戦いを経験しました
ムンノとの死闘も タクラマカン砂漠で砂嵐にも遭いました』
『幾度も生死の危機を乗り越えてきた』
『よく生き延びられたと いつも思っていましたが』
『何だ』
『ただ 死ぬ機会を逃がしていたのです 次の機会は逃しません』
『そうか そうなさい』
そう言いながらミシルはチルスクに背を向けた
そして細かなことは聞かず 要点だけを聞いた
『なぜそのまま行かせた』
『遺体を渡す者がいないので』
『そう よくやったわ』
徳曼(トンマン)が隠れていた山の中の本拠地は
チルスクが率いる兵によって取り囲まれ
放たれた火矢によって火災が発生していた
チルスクのもとに駆け付けた石品(ソクプム)
『連絡を受けて すぐに参りました』
サンタクが状況報告する
『包囲しました 突入は?』
チルスクが 徳曼(トンマン)の隠れている建物に向かって叫ぶ
『逆賊ども!!!武器を捨てて出て来い!王命に従え!』
扉の隙間から外を確認する月夜(ウォルヤ)
『完全に包囲されました』
『王女様 どうしましょう…』
怯える昭火(ソファ)
今となっては徳曼(トンマン)に手立てがあるわけではない
外では さらにチルスクが叫んでいる
『今のうちに出てこなければ!国法に基づき全員捕らえる!!!
抵抗すれば皆殺しだ!!!』
石品(ソクプム)がチルスクを促す
『突入しましょう 準備は万端です』
『中の様子が不明だ 何人いるかも分からん 様子を見る 全員待機しろ』
『はい』
キム・ユシンが進言する
『私が突破します 王女様を連れて逃げろ』
またしても自分が食い止めると言うユシンに月夜(ウォルヤ)が…
『相手は元上花(ウォンサンファ)のチルスクだ
その体では戦えない!』
※元上花(ウォンサンファ):花郎(ファラン)出身で花郎の師匠となる者
『ではどうする 方法がない 王女様が捕まったら終わりだ』
『何か方法があるはずです 考えてみます』
『無理です 時間がありません』
再び外の様子を窺う月夜(ウォルヤ)
『相手は大勢だ!』
見かねて昭火(ソファ)が…
『あの… それでは こうしてはどうでしょう』
外では サンタクがチルスクに状況報告をしている
『動きはありません』
『よし突入する 全員 攻撃の準備をしろ』
『はい!』
中では 昭火(ソファ)の提案に徳曼(トンマン)が…
『だめです それは絶対にいけません!』
『お聞き入れください 他に手はありません』
『いいえ 危険すぎます なりません!』
『危険なのは皆 同じです!』
徳曼(トンマン)と昭火(ソファ)の押し問答に月夜(ウォルヤ)が…
『確かにその方法しか 手はないかと』
『月夜郎(ウォルヤラン)! だめです 認められません!』
頑なな徳曼(トンマン)に昭火(ソファ)は涙ぐんで訴える
『他に方法がないでしょう?』
『考え出します!!!』
『時間がりません!急がなくては!!!』
『だめです』
『王女様!』
『絶対に許しません!!!』
『やるべきです』
『それ以上言わないで…』
昭火(ソファ)は席を立ち 徳曼(トンマン)を正面から見据えた
『徳曼(トンマン)!母さんの言うことを聞いて』
『……母さん』
侍女の昭火(ソファ)ではない
母として 昭火(ソファ)は徳曼(トンマン)に言い聞かせる
『母さんの言葉に従いなさい… いいわね?』
母と娘の決断に ユシンと月夜(ウォルヤ)は口を挟むことはできなかった
外では チルスクが突入の準備を整えている
『王女は捕らえない 殺すのだ
王女の死の責任は誰にも負わせない 顔を隠せ』
赤装束に覆面姿の突入部隊が 合図とともに行動を開始する
次々と突入していくと 中から剣のぶつかる音と悲鳴が…!
激しい戦い そして血しぶきが飛び 中から傷ついた赤装束の兵士が出てくる
チルスクと共にこれを見ていた石品(ソクプム)とサンタクが息を飲む
『あっという間にやられました
どうします 2組目を行かせますか?』
『誰かがいる すご腕の誰かが…
ユシン郎(ラン)は負傷を おそらく別の人物だ』
『では2組目を同時に突入させますか?』
『広い空間なら多人数が有利だが
狭い場所に多数で突入しても結果は同じだ』
『ではどうしましょう』
『私が行く 2組は私に続け』
チルスク自らが突入するという
中では負傷した体で息も絶え絶えのキム・ユシンを 月夜(ウォルヤ)が気遣う
『私がおとりになる』
『私のはずだ!』
『何としても生き延びろ』
『しかし…』
『そなたの命は伽耶のものだ!』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
月夜(ウォルヤ)は 何としてもユシンを生かすために説得する
『我らの大業のために生き延びてくれ そなたが王女様をお守りしろ
王女様の安否よりもそなたが大事だ 連中は任せろ』
『だめだ』
建物の中に入り 1つ1つの部屋を捜索していくチルスク
しかし中には誰もいないかのように気配がない
いくつめかの部屋で ようやく対面したのは キム・ユシンだ…!
他の兵たちを倒したユシンは 部屋にチルスクをおびき入れ鍵をかける
そこでチルスクは気がつくのだった
(王女がいない)
負傷しているユシンは 死に物狂いでチルスクと戦う
奥の部屋へ奥の部屋へとチルスクを誘い込む
すると…
そこでチルスクが目にしたのは 赤装束を剥ぎ取られた部下の遺体だった
『まさか…』
『元上花(ウォンサンファ) だまされましたね』
最初の突入部隊が中で戦った時 一斉に飛び出してきた兵士たち
その中に 赤装束に身を包み仲間の方へ駆け寄る人物が…
負傷者だと思い助け起こした兵士は すぐに仲間ではないと気づく
しかし 後ろからこれもまた赤装束に身を包んだ月夜(ウォルヤ)が現れ
この人物を守りながら逃げていったのだ
石品(ソクプム)は慌ててこれを追う!
『王女か?!』
外の騒ぎを聞いたチルスクは ユシンに構わず外に出ようとする
ユシンはチルスクを追いかけ少しでも足止めしようと必死だった
やっとのことでユシンを振り切り外に出たチルスク
サンタクがうろたえて報告する
『何者かが逃走を』
『追え 王女だ!!!』
『はい!!!』
皆が行ってしまうと ユシンはフラフラと歩きだし 一番奥の扉を開けた
そこには 徳曼(トンマン)がいた…!
王女と見せかけ逃げたのは昭火(ソファ)なのだ
それを守るようにして一緒に逃げた月夜(ウォルヤ)
キム・ユシンは 月夜(ウォルヤ)との約束通り徳曼(トンマン)を守ったのだった
『今です お急ぎを!』
ユシンと共に逃げる徳曼(トンマン)
王女に成りすまし逃げる昭火(ソファ)
それを追いかけるチルスク
「徳曼(トンマン)には 追いかける過程で死んでもらう
国法に背き 逮捕に抵抗して死亡 それが徳曼(トンマン)の最期です」
チルスクは 赤装束の2人を追い詰めた
そして ミシルの筋書き通りに事を進めるため 剣を握り直す
(さらばだ 徳曼(トンマン)…)
積年の思いを込めて剣を振りかざすチルスク…!!!
その時 ユシンと逃げている徳曼(トンマン)が突然胸を抑えて倒れ込む
『王女様 大丈夫ですか? どうなさいました 何です』
『何かが… 起こったようです』
おびただしい血が チルスクの剣からしたたり落ちる
小刻みに震えている チルスクの足元の 赤装束に身を包んだ人物
かばいきれなかった月夜(ウォルヤ)が呼びかける
『乳母殿… 乳母殿!!!』
この呼びかけに驚いたのはチルスクだった
徳曼(トンマン)だと信じて斬ったのは…!
『昭火(ソファ)… 昭火(ソファ)!』
『チルスク郎(ラン)…』
『昭火(ソファ)…』
『私たちは結局… こうなる運命だったのですね』
『昭火(ソファ)…』
『この30年… 回り回って結局… 元通りに…』
『昭火(ソファ)しっかりしろ! 昭火(ソファ)…!』
徳曼(トンマン)は 胸の痛みに苦しみながらヨムジョンの根城へ辿りつく
春秋(チュンチュ)が…
『王女様 何があったのです!』
同席している竹方(チュクパン)とヨムジョンも言葉が出ない
毗曇(ピダム)が…
『王女様』
その頃チルスクは 自らの手で昭火(ソファ)を斬り殺してしまった衝撃に耐え
ミシルのもとへ報告しに戻る
『逃がした?またしても?!!!』
『本拠地を襲撃したのに?』
『王女がいたのでは?』
『どうして逃げられたのだ!』
美生(ミセン)夏宗(ハジョン) そしてソルォン宝宗(ポジョン)父子が責め立てる
しかしミシルはひと言も言葉を発しない
同じ時 万明(マンミョン)夫人がインガン殿に来ていた
『王女様はご無事のようです』
『そうか なぜ分かった』
『元上花(ウォンサンファ)が兵を率いて出ましたが
先ほど成果もなく戻ってきました』
『よかった よくインガン殿に入れましたね』
『ここの内官を買収したのです ミシルが知っても何もできないはず
私に手出しすれば 陛下を軟禁していると認めることに』
一方 厳しい拷問に耐えかね気を失っていた閼川(アルチョン)は
誰かが呼ぶ声で意識を取り戻す
同じく拷問されていたヨンチュン公とキム・ソヒョンが同室に移されたのだ
『閼川郎(アルチョンラン) 気がついたか? 王女様を追っていた兵が戻った』
『……王女様は?』
『お逃げになったようだ ユシンも無事らしい』
牢の中の高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)も…
『王女様はご無事のようだ』
『兵たちの話が聞こえた』
『ユシン郎(ラン)に王女様を守っていただきたい』
『毎日 生きた心地がしない』
自分のおとりとなった育ての母昭火(ソファ)を按ずる徳曼(トンマン)
そこへ月夜(ウォルヤ)1人だけが現れる
『王女様』
『母さんは?』
『……』
『月夜郎(ウォルヤラン)!』
ユシンが促す
『どうした なぜ黙っている』
『月夜郎(ウォルヤラン) 母さんは?』
『……』
それでも何も答えない様子に 竹方(チュクパン)が…
『月夜郎(ウォルヤラン) どうしたんです 早く話してください!』
『王女様 お許しを…』
ミシルへの報告は続いている
チルスクに代わり 石品(ソクプム)が話す内容に驚く美生(ミセン)
『何だと おとりだった?』
『はい 我々が王女と思い込み襲った相手は 別人でした
その隙に 本物の王女は逃げました』
『情けない そんな調子だから毎回逃げられるんだ!』
ここで初めてミシルが口を開く
『もしや 乳母だったのでは?死んだのは昭火(ソファ)か?』
『はい セジュ』
※セジュ:王の印を管理する役職
『母さん こんなの嫌… こんなのひどすぎる 母さん 私のために…
本当に母さんはバカよ どんな母親にも真似できない!
二度も命を捨てた 私のために… 母さん… 母さん…
母さんお願いだから目を覚まして… 母さん起きてよぉ…』
月夜(ウォルヤ)が連れて来た昭火(ソファ)の遺体に取りすがり
泣き続ける徳曼(トンマン)だった
やり切れずヨムジョンは毗曇(ピダム)と中に入る
『俺たちも同じさ 人の世話ばかり焼いてあんなふうに死ぬんだ 嫌な運命だ』
ミシルは 位牌堂にいるチルスクのもとへ
『ここで何をしているのだ』
『イファ郎 モ郎 キサン郎 サダハム郎
彼らのように 私の名もここに残るでしょうか?』
『名を残したいのか?』
『何か希望がなければ生きられません
私は16歳の時 高句麗(コグリョ)軍の捕虜になり 生き埋めにされました
その敵陣へセジュが攻め入り 瀕死の私を救い出してくれました
それ以来私は セジュに命をささげてきました』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
『それで?』
『その後も 数多くの戦いを経験しました
ムンノとの死闘も タクラマカン砂漠で砂嵐にも遭いました』
『幾度も生死の危機を乗り越えてきた』
『よく生き延びられたと いつも思っていましたが』
『何だ』
『ただ 死ぬ機会を逃がしていたのです 次の機会は逃しません』
『そうか そうなさい』
そう言いながらミシルはチルスクに背を向けた
そして細かなことは聞かず 要点だけを聞いた
『なぜそのまま行かせた』
『遺体を渡す者がいないので』
『そう よくやったわ』
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