善徳女王 47話#2 女傑 ミシル

『まったく 何てこったぁ… 王女様ひどすぎます こんな人生が…
こんな人生があっていいのですか?
一生を… 人のためにひたすら捧げてきたのに…
こんなふうにあの世へ逝っちまうなんて』

徳曼(トンマン)の足元で 昭火(ソファ)の墓にすがり

泣き崩れる竹方(チュクパン)

『何となく妙な予感がしていたんです 俺ならとっくに逃げてた なのに…

なのにあの方ときたら か弱くて心がもろそうに見えるのに
こういう無茶なことをしちまうんだ…』

竹方(チュクパン)の言葉に 徳曼(トンマン)はただ涙を流している

『か弱くて… 心がもろい? 違う いつも私より強かった

砂漠でも 新羅(シルラ)でも… 私のせいで… 私のために強くなった』

※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一

竹方(チュクパン)が去っても 徳曼(トンマン)は1人で泣き続けていた

見かねた毗曇(ピダム)が声を掛けようとする
それを キム・ユシンが静かに止めた

『行くな』

『あんなに泣いているのに 見ているだけか?』
『人に見せたくないだろう 私は王女様に合わせる顔がない』
『そう言うな みんな命懸けで脱出したんだ』

2人の男がそんな話をしていると

泣きはらした徳曼(トンマン)が涙を拭い ふいに立ち上がった
振り向いた徳曼(トンマン)は すでに王女の顔に戻っていた
王女徳曼(トンマン)の前に 金春秋(キム・チュンチュ)と側近が集う

『我々は王女様を より安全な場所へお連れすべきだと考えます』

ヨムジョンの進言に月夜(ウォルヤ)が…

『この復耶会の砦の警備は二重三重となっており
抗戦用に建てられた最高の隠れ場所です
ただ徐羅伐(ソラボル)に近いことが問題かと』

※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)

『私はもう隠れません』

『王女様 何を言われるのです』
『私の生存を知らせ勢力を集めます 逃げずに前進するつもりです だから…』
『私は反対いたします』

ユシンが諌めても耳を貸さない徳曼(トンマン)に

春秋(チュンチュ)が反対の意を唱える

『ミシルは少なくとも3日以内に事態を収拾すべきでした

今や時間は 我々に味方しています
異例である戒厳令が長引けば 貴族も民もこの状況を怪しみます』
『それで?』
『だから王女様が当分隠れていれば我々は有利な状況に 今は待つべきです』
『皆も同じ意見ですか? 春秋(チュンチュ)公は正しいですが…

皆が徳曼(トンマン)の次の言葉に集中する

『待っている間 私が逃げている間の出来事に 私は耐えられそうにない

戒厳令のもとで苦しむ民たち
私に従うために 徐羅伐(ソラボル)でつらい目に遭う人々
私を守るために いつどこで死ぬかも分からぬこの場の者
これ以上何ひとつ 耐えられそうにない
これから徳曼(トンマン)は 逃げも隠れもしません』

そう宣言した徳曼(トンマン)に

会議後 ユシンが…

『いけません』

『ミシルには無理で 我々に可能なこと それが我々の強みです』
『王女様!』
『ミシルは私たちよりも強いけれど… ミシルは2つに分けられない
でも 私たちは分けられます 私たちには春秋(チュンチュ)がいる
私と春秋(チュンチュ)…』
『いけません 気を強くお持ちください』
『もう耐えられないと言ったはずです!』
『王は決してそうしてはなりません』
『決めたのです』
『王女様…』
『あと何人!私のために死ぬのですか?』
『王女様』
『春秋(チュンチュ)がいて幸いです』
『ですが… 危険すぎます』
『今日知った 生きていることほど危険なことはないと
それは私だけではなく ユシン郎(ラン)も同じことです』

偽装とはいえ 石品(ソクプム)に刺され療養している世宗(セジョン)

そこへ息子の夏宗(ハジョン)が 美生(ミセン)とともに訪ねてくる

『唐から使節が来る?』

『はい 今は堂項(タンハン)城にいます よりによってこんな時に!』

苛つく夏宗(ハジョン)

美生(ミセン)もまた苦々しく…

『かの地を新たに統一した唐は 建国してまだ10年ほど

初の使節です 気勢が上がっていることでしょう まったく!』
『こんな時に セジュは困ったことになったな
使節団についてセジュと話したか?』
『ご存じのはずですが 王女の件で多忙だし何も話していません』
『明日には宮殿に着くはずだ 面倒なことになった!』
『政変と戒厳令の件について使節に十分に説明して 了解を求めねばならん』
『相手の要望は聞き入れて 騒ぎを隠さずに送り返すのが最善の策です』

使節団の情報は 徳曼(トンマン)側にも伝わっていた

『ヨムジョンによれば 唐の使節団が明日 到着する

ミシルは使節団の前で衛国府令(ウィグクフリョン)の威勢を誇示するはずです
また戒厳令が一時解除されるかもしれません』

※衛国府令(ウィグクフリョン):衛国府(ウィグクフ)の責任者

『明日です 準備してください』

『王女様』
『はい』
『何でもありません 準備します』

キム・ユシンはこれ以上 何も言えなかった

逆に徳曼(トンマン)が…

『ユシン郎(ラン)』

『はい 王女様』
『もしも私に…何かあれば 春秋(チュンチュ)を頼みます』
『恐縮ですが聞かなかったことに 何も起こりません そうしてみせます』

仏頂面のミシル

ソルォンが同席し チルスクの報告を受けている

『王女から朴義郎(パグィラン)に文が

他の花郎(ファラン)たちも受け取ったはずです 内容はほぼ同じでしょう』

※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団

『貴族たちにも働きかけているはず そのうち彼らも動揺し始めます』

『王女の行方を捜してはいますが まだ何の情報も』

ソルォンとチルスクの言葉に 何の反応も示さないミシル

『セジュ 何を考えておられるのですか?』

『徳曼(トンマン)を 生きたまま徐羅伐(ソラボル)に連行してはならない
乱の首謀者として抵抗し 壮絶な最期を遂げる
歴史にはそのように残すべきです』

いよいよ唐の使節団が徐羅伐(ソラボル)に入った

随行する美生(ミセン)と夏宗(ハジョン)
見物の民が そのきらびやかさに見惚れていると…

『あれは何だ?』

『凧だ!』
『なぜ凧が揚がっている!』
『下に何かついてるぞ』

無数の凧が空に浮かんでいる

そしてその凧には袋がついていた
やがて袋が破れ 中から紙吹雪が舞い散る

『この紙は?』

『何だ』
『これは?』

民と同じく 紙を拾う美生(ミセン)と夏宗(ハジョン)

すると紙には何か文字が書かれている

『陛下を… “陛下を救え” だと?』
『そんな どうしよう…』

陛下を救えと書かれた紙吹雪を すでに使臣たちも拾い上げ読んでいた

“気概ある神国の民は 立ち上がり 陛下を救え

開陽者 徳曼(トンマン) 開陽者の子 春秋(チュンチュ)”

※神国:新羅(シルラ)の別称

この紙を読んだ花郎(ファラン)たちは…

『陛下を救え?』

『一体どういう意味だ?』
『陛下は徐羅伐(ソラボル)で軟禁されているのでは?』
『王女様はまだ捕まっていない』

朴義(パグィ)が虎才(ホジェ)に聞く

『上仙(サンソン) これからどうなるのでしょう』
『王女様が起こしたという政変に 不審な点があるのは事実だ』

※上仙(サンソン):風月主(プンウォルチュ)を務めた花郎(ファラン)

この発言に激昂する石品(ソクプム)

『不審な点?セジュが王女の政変を鎮圧したのです!』

『色々な噂が立ち 人々が動揺している』
『その上 王女様は“陛下を救え”と これは花郎(ファラン)への命令です』
『待て!戒厳令のもとでその話は危険だ』

石品(ソクプム)に咎められても 林宗(イムジョン)は主張する

『王女様は花郎(ファラン)の主だ』

『だが政変を起こした!』
『政変かどうかはまだ分からない』

発言したのは徳充(トクチュン)だ

ただ1人 石品(ソクプム)が世宗(セジョン)を刺すのを目撃したのだ
自分の中の信念と 目撃した事実の狭間で混乱していた

『お前たち 皆おかしいぞ

セジュの恩を忘れたのか? 皆 世話になったはずだ』
『確かにセジュには恩がある
しかし従っていたのは セジュが大義を守っていたからだ』
『確かに 我々は私欲のためにセジュに従ったことはない』
『正しかったから従った それはセジュ自身が一番お分かりのはずだ』

皆の意見に 石品(ソクプム)だけが頑なな表情になっていく

空から舞い降りた檄文に動揺したのは 花郎(ファラン)だけではない

『貴公もご覧になりましたか』

『一体 何事でしょうな セジュもお困りに違いない』
『しかも使節団が来た日に 民衆の前に落ちてきて噂が広がった』
『宮中も大騒ぎです 公言はしませんが
今後の行く末を 私に尋ねる貴族が多い』
『それで 何と返答されました』
『誰もが戒厳令のもとゆえ 口を慎んでいます』
『ええ そうすべきです ハッハッハ… では失礼』

ピルタンの父であり 上州停(サンジュジョン)の幢主(タンジュ)

チュジン公は 話を合わせながらも含む所があった

ミシルは 弟美生(ミセン)から見せられた紙を握りつぶす

『どこまで広がった?』

『使節団が入って来る時に降ってきたのです
兵士が回収しましたが 噂が広まるのは早い』
『…使節団もこれを見ましたか?』
『もちろんです!民衆のひそひそ声も聞こえました
王女が政変を起こし戒厳令が出されたと説明しましたが これを見られては…
ハッハ… 私も慌てました』
『使節団は今どこに?』
『朝元(チョウォン)殿です お出迎えをお願いします』
『ええ 行かなくては』

※朝元(チョウォン)殿:外国の使節と接見する場所

『ところで 政局は不安定で混乱しています』

『だから?』
『要求はすべて受け入れましょう』
『……』
『後日 取り返せばいいだけのことです いいですね』

使節団を出迎えるミシル

美生(ミセン)が通訳として間に立つ

<神国のセジュであり衛国府令(ウィグクフリョン)を務める

ミシル宮主(クンジュ)です>

※宮主(クンジュ):王に仕える後宮を表す称号

<ミシル宮主(クンジュ)の高名は 中国まで伝わっています

こうしてお会いできて光栄でございます>
『卑しい名で神国を汚していないか心配しております』
<ご謙遜を>
『長旅でお疲れのことでしょう どうぞ中に入ってお話を』

接見の席につき 使節団の要求を知った美生(ミセン)は…

<失礼ですが 何とおっしゃいました?>

<黄金千貫です>
『黄金千貫だと…』

美生(ミセン)の通訳で内容を知るミシルだが 笑顔を崩さない

<皇帝陛下は 鶏林と唐の友愛の証しとして進貢されたしと仰せです>

『黄金千貫を差し上げたら 唐は友愛の証しに何を下さいますか?』
<我が国は友愛を差し上げます>

通訳をしながら 美生(ミセン)はミシルに耳打ちする

『言う通りにしましょう ここは穏便にやり過ごすべきです』

受け入れる形で交渉しようとする美生

<千貫の黄金となると 感恩浦(カムンポ)と達川(タルチョン)の
一年の生産量を上回る量ですよ>

※感恩浦(カムンポ):砂鉄で有名な地

※達川(タルチョン):製鉄で有名な地

<はい ですから絶対に不可能なことです>

ミシルが中国語で言葉を加えた

『姉上…』

<来る途中で 実に興味深い物を目にしました>
<はい これは…>

目の前に差し出された紙を見て動揺する美生(ミセン)

しかしミシルは余裕の表情で目を閉じる

<確かに良からぬことが起こっていますが これは内政に関することです>

<ええ つまり貴国は内政において大国の力が必要なのでは?
我が国はそちらの国の内政について 非常に関心が高いのです>

無理な要求に収まらず 内政干渉の危険が迫っていた

『姉上 ここは穏便に… 差し出しましょう』

『失礼ながら聞いたところ 正使は神国の言葉がお得意だそうですね
もちろん 国の代表の方にこちら側の言葉を強いるのは失礼ですが
正使と2人でお話したいのです いかがです?』
『姉上 何を始める気です』
『内密にお話したいことがおありのようですな』

ミシルに促され 使臣も新羅(シルラ)の言葉で話し始めた

使臣の側近と美生(ミセン)が退席し ミシルと使臣2人になる
退席した美生(ミセン)は うろたえていた

(どうすればよいのだ 姉上のあの目… 目つきが…)

『これを読んだが 本当に陛下を軟禁し王女を逆賊に仕立て上げたのですか』

『だとしたら?』
『それは王位の略奪です』
『唐の皇帝は天下を力ずくで奪い取ったのでしょう?違いますか?』

卓上を拳で叩き 激昂する使臣

『無礼だぞ 奪い取っただと?!!!』

『隋から見れば 貴国の皇帝も略奪者です!』
『唐が天下を略奪したと言いたいのですか!』
『皇帝が国祖と呼ばれるには どのように大義を推し進めるかが鍵でしょう
私も先のことは分かりません まだ今は…』
『辺境の民の女が偉そうに 我が国の道理や大義を口にするとは!
お前に天下の大義の何が分かる!』
『お前こそ 私と天下や大義を論じる資格などない
もし私と論じたければ 李世民を連れて来い』

※李世民:唐の第2代皇帝

『無礼者め よくも言ったな!

唐の軍に鶏林を踏み潰されねば目を覚まさんのか!』
『使節の身で“鶏林を踏み潰す”と そう言いましたね
宣戦布告とも取れるご発言ですよ
宣戦布告を受けた側の外交的慣例をご存じ?』

使臣の顔色が変わった

『正使の首を撥ねて副使に持ち帰らせましょうか』

不敵な笑顔のミシルに 使臣は血の気が引く

『フハハハ… アーッハッハ… 国の陛下に伝えます

東の端の国 鶏林に 評判通りの女傑がいると
友愛を結び 唐の親友として不足はない』

使臣は立ち上がり ミシルに向かって深々と礼をする

『無礼な点はお許し願いたい』

『恐れ入ります』

接見を終えて出てきたミシルに 美生(ミセン)が…

『聞こえましたよ 姉上は実に大したお方です アーッハッハッハ…

姉上の感情の高ぶりに 私はハラハラしましたよ』

(ミシルセジュ…)

美生(ミセン)が興奮して話し続けていると

どこかでミシルを呼ぶ 微かな声が聞こえる

(セジュ…)

『喜んでいる場合ですか 徳曼(トンマン)は?

ソルォン公を呼んで』
『あ… はい』

『ミシルセジュ!!!!!』

突然 見張り兵の横の花瓶が落ちて割れる

その見張り兵を装った人物が 何歩か進み出た

『何だと?こいつめ!』

怪しい人物に対し 一斉に槍が向けられた

それは…

その姿に誰もが驚き言葉を失う

『お… 王女様?』

コメント

このブログの人気の投稿

善徳女王 62話(最終話)#1 明活(ミョンファル)山城 制圧!

善徳女王 57話#2 ユシンの策

善徳女王 59話#2 極楽浄土の仏