善徳女王 50話#2 最後の命令
『風月主(プンウォルチュ)と侍衛府令(シウィブリョン)は東門を』
『はい』
※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長
『チュジン公は北門を』
『はい 王女様』
『毗曇(ピダム)とヨムジョンは 部下と兵5000人を率い
草八兮(チョパルへ)県を掌握せよ』
『はい』
『月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)は 城の南方から遺民兵を潜入させかく乱を』
『はい』
『水路を止め毒を流すという噂で 大耶(テヤ)城は混乱する
最初の攻撃が失敗したとしても 圧倒的な力を見せつけて
敵の戦意を喪失させるのです』
戦いが目前に迫り 大耶(テヤ)城から脱出しようとする兵士が…
『あそこを抜ければ大耶(テヤ)城の外に出られる』
『ここにいたら 皆死ぬ 早く出よう』
『ちょっと待った!やっぱり行かないことにする』
最後まで決心がつかないサンタク
『水路を止められ毒を流されたんだぞ!』
『そうだけど… やっぱり逃げちゃダメだ 戻ってセジュを守る!』
『おい!そんなの無理だ』
『そうか?そんなら自尊心だけでも守るよ じゃあな』
ひとり 来た道を引き返すサンタクだった
ソルォンは ミシルの胸中を思い そばにいた
『何をお考えですか?お話し下さい』
『仕上げ… 仕上げです』
『セジュ…』
『母上!いますか
速含(ソッカム)城軍営の幢主(タンジュ)ヨ・ギルチャンが
全兵力を率いて大耶(テヤ)城に向かっています!!!アハハハ…
母上を助けるため駆け付けてくれるのです』
※幢主(タンジュ):郡に派遣された地方官
援軍が来ると大喜びする夏宗(ハジョン)
しかし ミシルとソルォンは顔を見合わせて考え込む
国境の兵を動かしてはいないのだ だとすれば…
しかしこれは ヨ・ギルチャン自らの決定だった
『恩知らずは獣と同然だ セジュを守らずして神国の男と言えるか!
神国の武人と言えるか!大耶(テヤ)城に向かう!そしてセジュを守るのだ!』
『おぉーーーっ!!!』
この動きをつかんだ月夜(ウォルヤ)が徳曼(トンマン)に報告する
『ヨ・ギルチャンが全兵力を率いて大耶(テヤ)城へ』
『速含(ソッカム)城はどうした 百済(ペクチェ)との隣接地域だぞ!』
『王女様 速含(ソッカム)城の兵は2万の精鋭兵です』
『王女様!』
徳曼(トンマン)は動揺する
『速含(ソッカム)城付近の百済(ペクチェ)軍の動向を把握してください』
『そのような場合では!2日で到着します!』
『国境を守るのが最優先です!!!』
事態を理解できない夏宗(ハジョン)は浮かれるばかり
『こうなると思っていました ヨ・ギルチャンの一族は母上に恩がある
アッハハハ… これで大丈夫です』
『速含(ソッカム)城の軍が参戦すれば戦局は逆転します
ですが王女も 国境の兵を呼ぶ可能性が』
『その前に攻め込めばいい 徐羅伐(ソラボル)を占領しましょう』
夏宗(ハジョン)の軽率さにも ソルォンの見解にも反応しないミシル
『セジュ どうなさいますか?』
『速含(ソッカム)城の百済(ペクチェ)軍はコンチュン率いる精鋭軍です
百済(ペクチェ)軍の動きを探るように』
『はい』
夏宗(ハジョン)は不可解な表情になる
『なぜです?重要なことですか?』
『重要ですっ』
まったく…!という顔で夏宗(ハジョン)を睨むが 今は叱っている時ではない
徳曼(トンマン)の本陣も慌ただしい動きを見せていた
毗曇(ピダム)が徳曼(トンマン)に
『速含(ソッカム)城の軍が動いたのですか?』
『そうだ』
『どうしますか?後退するか総攻撃するかしないと』
『もしかしたらの話だが…』
徳曼(トンマン)は 会談の時のミシルの言葉を思い出していた
「井泉(チョンチョン)郡 道薩(トサル)城 韓多沙(ハンダサ)郡
速含(ソッカム)城 どんな場所かご存じで?
この私の血を注いだ土地だ!それが新羅(シルラ)だ」
『ヨ・ギルチャンの兵は 引き返す可能性が』
『はい?』
『なぜです?』
ミシルのもとへ 今度は宝宗(ポジョン)が報告に飛び込んでくる
『母上!国境の兵がいなくなった途端 百済(ペクチェ)軍が攻め込み
八良(パルリャン)峠の西に陣取っています』
『何だと?!!!』
『まったく…生きるか死ぬかの時にそんなの知るか!』
『はい まずは大耶(テヤ)城の包囲を解かねば 敵の攻撃を遅らせ…』
『今すぐ一番早い馬で人を送って下さい』
『はい?どこにですか?』
『ヨ・ギルチャンに伝えるのです すぐに引き返し速含(ソッカム)城を守るように』
『はい?』
『セジュ!』
『何を言っているのです?今に王女の軍が攻めてきます!!!
ヨ・ギルチャンが来るまで持ちこたえれば…!』
『セジュ 何をお考えなのですか?!!!』
もはや夏宗(ハジョン)だけではない
宝宗(ポジョン)にも… ソルォンにさえ理解しがたいミシルの思いだった
『もう終わりにします』
毗曇(ピダム)もまた 徳曼(トンマン)の考えを理解できずにいた
『なぜヨ・ギルチャンが引き返すと?』
『私の思い違いかもしれない でも可能性はあると思う』
『なぜです?』
それは 徳曼(トンマン)だけが聞いた ミシルの思いがあるからだった
「サダハムを慕う心で この神国に恋をした それが新羅(シルラ)だ
チヌン大帝と私が築き上げた神国の国境だ!」
『ほんの一瞬だけ見えた ミシルの中に王を見た 真の王の姿を…』
ミシルの言葉に ソルォンは耳を疑い 夏宗(ハジョン)が…
『何を終わりにするのです?母上!』
『すべてです』
『母上…』
ソルォンはじっと目を閉じ ミシルは退室した
『ど…どういうことだ 今のはどういう意味だ!何を終わりにすると言うのだ!』
ヨ・ギルチャンのもとにミシルの書状が届く
『これは本当に セジュが下した命令なのか?
速含(ソッカム)城に戻って防衛に専念せよと』
『はい セジュのお言葉では これが最後の命令とのことです』
『セジュ…』
執務室を離れ ミシルは大耶(テヤ)城内の玉座に座る
そこへソルォンが…
『セジュ なぜ速含(ソッカム)城に戻らせたのです?』
『私のせいで国境の前線を崩せば
徳曼(トンマン)に完全に負けることになります』
『それで どうします?』
『だからもう 終わりにします』
『セジュ…』
『そんなに重く考えないでください
花郎(ファラン)時代のあの歌を覚えていますか?』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
『“戦える日は戦えばいい 戦えない日は守ればいい
守れない日は後退すればいい 後退できない日は降伏すればいい”』
『“降伏できない日は… 降伏できない日は… その日は死ねばいい”』
『セジュ』
『今日が その日です あとのことはお願いします』
『それはできません ご一緒します』
『今からの命令や行動 そして約束はすべて最後です 従ってください』
『……』
『私に従った者たちを守り 導いてください』
『なぜこのような状況で そのように人の心配をするのですか?
なぜ弱気になるのです?』
『弱気ではありません
あらゆる段階の計画を立て 最後の段階を実行するだけです
ソルォン公には… 申し訳ありません』
その昔 共に戦った同志であり 側近であり 情夫でもある
ミシルとの間に 宝宗(ポジョン)という息子もいる
チヌン大帝から ミシル殺害の勅書を受けてもいた
そのソルォンが今 ミシルからの最後の命令書を受け取った
その頃 徳曼(トンマン)の陣営では…
『引き返した?ヨ・ギルチャンが?』
『速含(ソッカム)城に向かっている』
『コンチュンの百済(ペクチェ)軍を食い止めるためだろう』
『なぜ大耶(テヤ)城の近くまで来て戻ったのだ?』
『これは計略では?』
『いいえ違うでしょう ミシルはおそらく… おそらく…』
徳曼(トンマン)には その答えが分かっていた
毗曇(ピダム)もまた胸騒ぎがして その場から走り去る
玉座に座ったまま ミシルはソルォンに なおも命令を出し続けた
『私を助けに来た貴族を皆 帰してください
草八兮(チョパルへ)県にいるチルスクにも撤収命令を』
『はい』
『そして次の準備をお願いします』
毗曇(ピダム)は 大耶(テヤ)城の前に来ていた
すると突然 見張りの兵士が叫ぶ
『あれを見ろ!』
『どういうことだ!』
『あれは何だ?』
城門に掲げられていた旗が すべて下ろされ
代わりに 白旗が…!
草八兮(チョパルへ)県でミシルの命令書を受け取ったチルスク
『セジュの命令か?』
『はい そうです』
チルスクは茫然とし 石品(ソクプム)は不可解な表情でチルスクに聞く
『撤収とは… 何事でしょう』
『セジュは終わらせようとしている』
『終わらせる?』
ヨ・ギルチャンが引き返したことで徳曼(トンマン)が考え込んでいると
金春秋(キム・チュンチュ)が…
『王女様 兵が引き返したなら 本来の作戦を実行すべきでは?』
『ええ王女様 急がなければ』
『王女様!』
そこへ月夜(ウォルヤ)が動転した様子で帰ってくる
『大耶(テヤ)城で… 大耶(テヤ)城で今…!』
報告を受けた徳曼(トンマン)は すべての側近を伴い大耶(テヤ)城へ…
無数の白旗を前に言葉を失くす徳曼(トンマン)
城門が静かに開き 中から死に装束を身にまとったソルォンが現れた
ひとり進み出た徳曼(トンマン)の前に ソルォンがひざまずくと
それに習い 後方の兵士が一斉にひざまずいた
『無条件で王女様に降伏します すべて武装解除しました』
『セジュはどちらですか?』
『……お待ちです』
同じ時 毗曇(ピダム)はすでに ミシルの前にいた
玉座のミシルの足元には数個の小瓶が転がっている
それが毒の小瓶だと気づいた毗曇(ピダム)は動揺する
『こういうことか だったらなぜ… なぜ!!!!!』
『大きな声を出すな まだ少し時間が残っている』
『それでは 母上とお呼びしましょうか?』
『ふっ…』
『捨てて悪かったと 謝る気は?
でなければ!!!心の底では愛していたとか』
『私の中にそんな気持ちはない 母上と呼ぶ必要もない 謝るつもりもない
愛だと?愛というものを何だと思っている?愛というのは容赦なく奪い取るもの
それが愛だ 徳曼(トンマン)を愛するならそうしなさい
恋心 大義 そして新羅(シルラ) 何ひとつ分け合うことは出来ない
ユシンとも 春秋(チュンチュ)とも 誰とも分け合えない 分かったか?』
ソルォンに導かれ 徳曼(トンマン)はユシンと閼川(アルチョン)とともに
待っているというミシルのもとに向かっていた
『自分の愛は 自分で叶えます』
『心配だから言った 私は人を得てこの国を得ようとした
しかしお前は国を得て人を得ようとしている
人を目的とすることは危険なことだ』
『王女様は 人であり神国そのものです 私がそうさせます』
『人の心は もろくて壊れやすい お前の夢はあまりに幼い』
突然ぐらりと体勢を崩すミシル
思わず駆け寄る毗曇(ピダム)の手を ミシルは拒む
『徳曼(トンマン)は… まだ来ないのか?』
その部屋の前までソルォンが案内してきた
『こちらです』
『ここで待て』
1人入って行く徳曼(トンマン)
すると 玉座に座り目を閉じているミシルの横に 毗曇(ピダム)がいた
毗曇(ピダム)はポロポロと涙を流している
徳曼(トンマン)は 泣いている毗曇(ピダム)と動かないミシルを交互に見た
『セジュ』
閉じられている目と 息づかいのない首筋 ひじ掛けを軽く握っている手
何ひとつとして もう動くことはないと徳曼(トンマン)は理解した
(ミシル あなたがいなければ 私は何もできなかったかもしれません
ミシル ミシルの時代よ 安らかに…)
『はい』
※風月主(プンウォルチュ):花郎(ファラン)の首長
『チュジン公は北門を』
『はい 王女様』
『毗曇(ピダム)とヨムジョンは 部下と兵5000人を率い
草八兮(チョパルへ)県を掌握せよ』
『はい』
『月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)は 城の南方から遺民兵を潜入させかく乱を』
『はい』
『水路を止め毒を流すという噂で 大耶(テヤ)城は混乱する
最初の攻撃が失敗したとしても 圧倒的な力を見せつけて
敵の戦意を喪失させるのです』
戦いが目前に迫り 大耶(テヤ)城から脱出しようとする兵士が…
『あそこを抜ければ大耶(テヤ)城の外に出られる』
『ここにいたら 皆死ぬ 早く出よう』
『ちょっと待った!やっぱり行かないことにする』
最後まで決心がつかないサンタク
『水路を止められ毒を流されたんだぞ!』
『そうだけど… やっぱり逃げちゃダメだ 戻ってセジュを守る!』
『おい!そんなの無理だ』
『そうか?そんなら自尊心だけでも守るよ じゃあな』
ひとり 来た道を引き返すサンタクだった
ソルォンは ミシルの胸中を思い そばにいた
『何をお考えですか?お話し下さい』
『仕上げ… 仕上げです』
『セジュ…』
『母上!いますか
速含(ソッカム)城軍営の幢主(タンジュ)ヨ・ギルチャンが
全兵力を率いて大耶(テヤ)城に向かっています!!!アハハハ…
母上を助けるため駆け付けてくれるのです』
※幢主(タンジュ):郡に派遣された地方官
援軍が来ると大喜びする夏宗(ハジョン)
しかし ミシルとソルォンは顔を見合わせて考え込む
国境の兵を動かしてはいないのだ だとすれば…
しかしこれは ヨ・ギルチャン自らの決定だった
『恩知らずは獣と同然だ セジュを守らずして神国の男と言えるか!
神国の武人と言えるか!大耶(テヤ)城に向かう!そしてセジュを守るのだ!』
『おぉーーーっ!!!』
この動きをつかんだ月夜(ウォルヤ)が徳曼(トンマン)に報告する
『ヨ・ギルチャンが全兵力を率いて大耶(テヤ)城へ』
『速含(ソッカム)城はどうした 百済(ペクチェ)との隣接地域だぞ!』
『王女様 速含(ソッカム)城の兵は2万の精鋭兵です』
『王女様!』
徳曼(トンマン)は動揺する
『速含(ソッカム)城付近の百済(ペクチェ)軍の動向を把握してください』
『そのような場合では!2日で到着します!』
『国境を守るのが最優先です!!!』
事態を理解できない夏宗(ハジョン)は浮かれるばかり
『こうなると思っていました ヨ・ギルチャンの一族は母上に恩がある
アッハハハ… これで大丈夫です』
『速含(ソッカム)城の軍が参戦すれば戦局は逆転します
ですが王女も 国境の兵を呼ぶ可能性が』
『その前に攻め込めばいい 徐羅伐(ソラボル)を占領しましょう』
夏宗(ハジョン)の軽率さにも ソルォンの見解にも反応しないミシル
『セジュ どうなさいますか?』
『速含(ソッカム)城の百済(ペクチェ)軍はコンチュン率いる精鋭軍です
百済(ペクチェ)軍の動きを探るように』
『はい』
夏宗(ハジョン)は不可解な表情になる
『なぜです?重要なことですか?』
『重要ですっ』
まったく…!という顔で夏宗(ハジョン)を睨むが 今は叱っている時ではない
徳曼(トンマン)の本陣も慌ただしい動きを見せていた
毗曇(ピダム)が徳曼(トンマン)に
『速含(ソッカム)城の軍が動いたのですか?』
『そうだ』
『どうしますか?後退するか総攻撃するかしないと』
『もしかしたらの話だが…』
徳曼(トンマン)は 会談の時のミシルの言葉を思い出していた
「井泉(チョンチョン)郡 道薩(トサル)城 韓多沙(ハンダサ)郡
速含(ソッカム)城 どんな場所かご存じで?
この私の血を注いだ土地だ!それが新羅(シルラ)だ」
『ヨ・ギルチャンの兵は 引き返す可能性が』
『はい?』
『なぜです?』
ミシルのもとへ 今度は宝宗(ポジョン)が報告に飛び込んでくる
『母上!国境の兵がいなくなった途端 百済(ペクチェ)軍が攻め込み
八良(パルリャン)峠の西に陣取っています』
『何だと?!!!』
『まったく…生きるか死ぬかの時にそんなの知るか!』
『はい まずは大耶(テヤ)城の包囲を解かねば 敵の攻撃を遅らせ…』
『今すぐ一番早い馬で人を送って下さい』
『はい?どこにですか?』
『ヨ・ギルチャンに伝えるのです すぐに引き返し速含(ソッカム)城を守るように』
『はい?』
『セジュ!』
『何を言っているのです?今に王女の軍が攻めてきます!!!
ヨ・ギルチャンが来るまで持ちこたえれば…!』
『セジュ 何をお考えなのですか?!!!』
もはや夏宗(ハジョン)だけではない
宝宗(ポジョン)にも… ソルォンにさえ理解しがたいミシルの思いだった
『もう終わりにします』
毗曇(ピダム)もまた 徳曼(トンマン)の考えを理解できずにいた
『なぜヨ・ギルチャンが引き返すと?』
『私の思い違いかもしれない でも可能性はあると思う』
『なぜです?』
それは 徳曼(トンマン)だけが聞いた ミシルの思いがあるからだった
「サダハムを慕う心で この神国に恋をした それが新羅(シルラ)だ
チヌン大帝と私が築き上げた神国の国境だ!」
『ほんの一瞬だけ見えた ミシルの中に王を見た 真の王の姿を…』
ミシルの言葉に ソルォンは耳を疑い 夏宗(ハジョン)が…
『何を終わりにするのです?母上!』
『すべてです』
『母上…』
ソルォンはじっと目を閉じ ミシルは退室した
『ど…どういうことだ 今のはどういう意味だ!何を終わりにすると言うのだ!』
ヨ・ギルチャンのもとにミシルの書状が届く
『これは本当に セジュが下した命令なのか?
速含(ソッカム)城に戻って防衛に専念せよと』
『はい セジュのお言葉では これが最後の命令とのことです』
『セジュ…』
執務室を離れ ミシルは大耶(テヤ)城内の玉座に座る
そこへソルォンが…
『セジュ なぜ速含(ソッカム)城に戻らせたのです?』
『私のせいで国境の前線を崩せば
徳曼(トンマン)に完全に負けることになります』
『それで どうします?』
『だからもう 終わりにします』
『セジュ…』
『そんなに重く考えないでください
花郎(ファラン)時代のあの歌を覚えていますか?』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
『“戦える日は戦えばいい 戦えない日は守ればいい
守れない日は後退すればいい 後退できない日は降伏すればいい”』
『“降伏できない日は… 降伏できない日は… その日は死ねばいい”』
『セジュ』
『今日が その日です あとのことはお願いします』
『それはできません ご一緒します』
『今からの命令や行動 そして約束はすべて最後です 従ってください』
『……』
『私に従った者たちを守り 導いてください』
『なぜこのような状況で そのように人の心配をするのですか?
なぜ弱気になるのです?』
『弱気ではありません
あらゆる段階の計画を立て 最後の段階を実行するだけです
ソルォン公には… 申し訳ありません』
その昔 共に戦った同志であり 側近であり 情夫でもある
ミシルとの間に 宝宗(ポジョン)という息子もいる
チヌン大帝から ミシル殺害の勅書を受けてもいた
そのソルォンが今 ミシルからの最後の命令書を受け取った
その頃 徳曼(トンマン)の陣営では…
『引き返した?ヨ・ギルチャンが?』
『速含(ソッカム)城に向かっている』
『コンチュンの百済(ペクチェ)軍を食い止めるためだろう』
『なぜ大耶(テヤ)城の近くまで来て戻ったのだ?』
『これは計略では?』
『いいえ違うでしょう ミシルはおそらく… おそらく…』
徳曼(トンマン)には その答えが分かっていた
毗曇(ピダム)もまた胸騒ぎがして その場から走り去る
玉座に座ったまま ミシルはソルォンに なおも命令を出し続けた
『私を助けに来た貴族を皆 帰してください
草八兮(チョパルへ)県にいるチルスクにも撤収命令を』
『はい』
『そして次の準備をお願いします』
毗曇(ピダム)は 大耶(テヤ)城の前に来ていた
すると突然 見張りの兵士が叫ぶ
『あれを見ろ!』
『どういうことだ!』
『あれは何だ?』
城門に掲げられていた旗が すべて下ろされ
代わりに 白旗が…!
草八兮(チョパルへ)県でミシルの命令書を受け取ったチルスク
『セジュの命令か?』
『はい そうです』
チルスクは茫然とし 石品(ソクプム)は不可解な表情でチルスクに聞く
『撤収とは… 何事でしょう』
『セジュは終わらせようとしている』
『終わらせる?』
ヨ・ギルチャンが引き返したことで徳曼(トンマン)が考え込んでいると
金春秋(キム・チュンチュ)が…
『王女様 兵が引き返したなら 本来の作戦を実行すべきでは?』
『ええ王女様 急がなければ』
『王女様!』
そこへ月夜(ウォルヤ)が動転した様子で帰ってくる
『大耶(テヤ)城で… 大耶(テヤ)城で今…!』
報告を受けた徳曼(トンマン)は すべての側近を伴い大耶(テヤ)城へ…
無数の白旗を前に言葉を失くす徳曼(トンマン)
城門が静かに開き 中から死に装束を身にまとったソルォンが現れた
ひとり進み出た徳曼(トンマン)の前に ソルォンがひざまずくと
それに習い 後方の兵士が一斉にひざまずいた
『無条件で王女様に降伏します すべて武装解除しました』
『セジュはどちらですか?』
『……お待ちです』
同じ時 毗曇(ピダム)はすでに ミシルの前にいた
玉座のミシルの足元には数個の小瓶が転がっている
それが毒の小瓶だと気づいた毗曇(ピダム)は動揺する
『こういうことか だったらなぜ… なぜ!!!!!』
『大きな声を出すな まだ少し時間が残っている』
『それでは 母上とお呼びしましょうか?』
『ふっ…』
『捨てて悪かったと 謝る気は?
でなければ!!!心の底では愛していたとか』
『私の中にそんな気持ちはない 母上と呼ぶ必要もない 謝るつもりもない
愛だと?愛というものを何だと思っている?愛というのは容赦なく奪い取るもの
それが愛だ 徳曼(トンマン)を愛するならそうしなさい
恋心 大義 そして新羅(シルラ) 何ひとつ分け合うことは出来ない
ユシンとも 春秋(チュンチュ)とも 誰とも分け合えない 分かったか?』
ソルォンに導かれ 徳曼(トンマン)はユシンと閼川(アルチョン)とともに
待っているというミシルのもとに向かっていた
『自分の愛は 自分で叶えます』
『心配だから言った 私は人を得てこの国を得ようとした
しかしお前は国を得て人を得ようとしている
人を目的とすることは危険なことだ』
『王女様は 人であり神国そのものです 私がそうさせます』
『人の心は もろくて壊れやすい お前の夢はあまりに幼い』
突然ぐらりと体勢を崩すミシル
思わず駆け寄る毗曇(ピダム)の手を ミシルは拒む
『徳曼(トンマン)は… まだ来ないのか?』
その部屋の前までソルォンが案内してきた
『こちらです』
『ここで待て』
1人入って行く徳曼(トンマン)
すると 玉座に座り目を閉じているミシルの横に 毗曇(ピダム)がいた
毗曇(ピダム)はポロポロと涙を流している
徳曼(トンマン)は 泣いている毗曇(ピダム)と動かないミシルを交互に見た
『セジュ』
閉じられている目と 息づかいのない首筋 ひじ掛けを軽く握っている手
何ひとつとして もう動くことはないと徳曼(トンマン)は理解した
(ミシル あなたがいなければ 私は何もできなかったかもしれません
ミシル ミシルの時代よ 安らかに…)
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