善徳女王 51話#1 チルスクの乱
ミシルの横に 毗曇(ピダム)が寄り添い 涙ぐんでいる
閉じられている目と 息づかいのない首筋 ひじ掛けを軽く握っている手
何ひとつとして もう動くことはないと徳曼(トンマン)は理解した
(ミシル あなたがいなければ 私は何もできなかったかもしれません
ミシル ミシルの時代よ 安らかに…)
先に部屋から出てきた毗曇(ピダム)
キム・ユシンと閼川(アルチョン)は なぜここに?と驚く
『なぜ ここにいる?』
泣き顔の毗曇(ピダム)が 答えようともせず立ち去っていく
間もなく中から徳曼(トンマン)が出てきた
『毗曇(ピダム)!!!』
『どうしました?』
『捕まえて!』
『はい?』
『話があるのです 早く!』
ユシンが毗曇(ピダム)を追いかけている間
徳曼(トンマン)はソルォンを呼びつけていた
『大耶(テヤ)城以外も武装解除しましたか』
『通達を出したので 混乱はないでしょう』
『チュジン公は大耶(テヤ)城内の兵をお願いします』
『はい』
『ソヒョン公は 大耶(テヤ)城周囲の兵をお願いします』
『春秋(チュンチュ) ここはそなたに任せる』
『ミシルは?』
『……自害した』
驚く春秋(チュンチュ)と閼川(アルチョン)
『チュジン公とソヒョン公が兵力を引き継ぐ間
閼川(アルチョン)と一緒にここを守りなさい
残党がいるかもしれない 油断するな』
『王女様は?』
『私は毗曇(ピダム)に会って話をする』
ようやく毗曇(ピダム)に追いついたユシンだったが
毗曇(ピダム)は人が変わったようになっていた
『どうした 王女様がお呼びだ どういうつもりだ』
振り払って行こうとする毗曇(ピダム)
止めようとするユシンの手を払おうとした毗曇(ピダム)だったが…
どちらからともなく攻撃の姿勢になり 剣を抜く2人
そこへ 徳曼(トンマン)が駆け付けた
『嘘をついたな お前を信じるために聞いたのだ
ミシルとは どんな関係なのだ? 教えろ』
構わず行ってしまう毗曇(ピダム)
その無礼さに憤るユシンを制し 徳曼(トンマン)が…
『待っていてください 話してきます』
その頃 ようやくミシルの死を知らされた夏宗(ハジョン)は…
『は…ははは 母上が?!!!』
『はい そうです』
『姉上が…!!! 姉上が…! 結局… 結局…!!!』
『母上… 何ということだ!』
『母上!』
『信じられない… どうしてこんなことに!』
ミシルと世宗(セジョン)の息子である夏宗(ハジョン)の悲しみは深く
ミシルの弟美生(ミセン)の驚きと悲しみもまた計り知れない
報告に来た春秋(チュンチュ)が 重々しく告げる
『王女様が 遺体は遺族が引き取るようにと』
『母上はどこにいるのですか?!!!!!』
『城主の部屋です』
『母上!母上ーーーっ!!!』
その頃徳曼(トンマン)は 去ろうとする毗曇(ピダム)を追いかけていた
『毗曇(ピダム)! 今 話してくれ
お前の返答が 今後私たちの関係の土台となると言ったはず』
『……』
『お前は 何の関係もないと言った
だが 自害したミシルを見て涙を流していた
このままでは 私たちの関係は終わりだ
教えてくれ なぜ泣いていたのだ』
毗曇(ピダム)はただ 話し続ける徳曼(トンマン)を悲しげに見つめている
『ミシルが政変を起こした日 なぜお前を遊山に行かせた?
ミシルが王になると決めた時 なぜお前が一緒にいた?
答えなさい!!!』
反応のない毗曇(ピダム)の胸ぐらを掴み 徳曼(トンマン)は叫んだ
『母です!』
『え?』
『母なんです』
『……何だと?』
『ミシルが私を……産んだのです』
チルスクと石品(ソクプム)のもとへも 徳曼(トンマン)からの伝令が来ていた
『武装解除して投降せよとの命令だ!兵力を引き渡すように!』
『…セジュはご無事なのか?』
『……』
『答えるんだ!』
『……亡くなられた』
『何だと? ……亡くなった?』
ミシルのために戦ってきた兵士たちは その場に泣き崩れる
まるで我が王が亡くなったかのように…
『どうして… なぜ亡くなったのだ?』
『自害されたと聞いています
詳しくは大耶(テヤ)城で聞け!まずは武装解除を!』
石品(ソクプム)は自らの剣をその場に捨てる
しかしチルスクは…
じっと目を閉じると 次の瞬間 伝令を斬り殺す…!
『私は 命令に従うつもりはない』
硬い意志を見せるチルスクを 兵士たちが取り囲んでいく
その事態を知らない徳曼(トンマン)は 毗曇(ピダム)の言葉に驚いていた
『母親だなんて… 信じられない』
『私もそうです 信じられないけれど
私は真智(チンジ)王とセジュの間に生まれた息子なんです』
『……』
『真智(チンジ)王を廃位させ 私は必要なくなった
だからセジュは私を捨てたんです いとも簡単に…
そんな私を ムンノ公が育ててくれた』
『信じられない…』
『ある時 その事実を知りました
でもセジュは最期まで… 息子と認めなかった
どんな関係か聞かれて どう答えれば?』
少年のように泣きながら 反対に毗曇(ピダム)が尋ねる
『母親が認めないのに…私が息子だと言えるはずがありません!
政変が起きた時に なぜ殺されなかったのか 私こそ知りたいです
いっそ殺そうとしたなら… もしそうしたなら…
その方が簡単だし 私も気が楽だった
こんなに苦しむこともなかったはずです』
泣きじゃくる毗曇(ピダム)を 徳曼(トンマン)はただ見つめている
伝令を殺したチルスクは 怒りの表情で兵たちに宣言する
『だから私は 今日初めてセジュの命令に背く!!!
その代わり セジュからの命令のうち これまで果たせなかった命令を!
やり遂げられずにいた唯一の命令を! 本日 決行するつもりだ!
徳曼(トンマン)王女を討ち取る!!!』
チルスクの言葉に 石品(ソクプム)は言葉もなく突っ立っている
兵士たちもまた ミシルの死を知ったばかりの状況で動揺している
『石品(ソクプム) 兵を連れて戻れ』
『……』
『ここが…私の死に場所だ この機会を逃さない
1人で… この乱を決行する チルスクの乱だ』
『いいえ… いけません』
『何だと?』
『チルスクと… 石品(ソクプム)の乱です! 一緒に命令を遂行します』
ようやく落ち着きを取り戻した徳曼(トンマン)と毗曇(ピダム)は…
『どうして話してくれなかった いいえ …話せないな 捨てられたなんて
言いたくない それは本当に嫌なことだ でも私には話してほしかった』
『でも… 話したとして 王女様にまで捨てられたら?』
悲しげに すがるように見つめる毗曇(ピダム)を
徳曼(トンマン)は涙ぐみながら抱き寄せた
『つらかったでしょう 苦しかっただろうに…』
大耶(テヤ)城では 決起したチルスクと石品(ソクプム)の反乱に
月夜(ウォルヤ)と閼川(アルチョン)が苦戦していた
『石品郎(ソクプムラン)!剣を置け!』
『もう戦は終わった!』
構わず石品(ソクプム)は 兵士たちに叫ぶ
『お前たちの忠誠心は!花郎(ファラン)の手本になるだろう!
全員!突撃せよーーーっ!!!!!』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
入り乱れる戦いの中で 石品(ソクプム)と閼川(アルチョン)の一騎打ちになる
『セジュの命令に従え!なぜ自ら命を捨てるのだ!』
『セジュのおかげで花郎(ファラン)になれた
セジュのために花郎(ファラン)として死ぬのが名誉だ!!!』
『本当にこのまま命を捨ててもいいのか?!!!』
『そなたも!!!主君のために命を懸けているだろう!』
決死の戦いの末 閼川(アルチョン)の剣が石品(ソクプム)を捉えた
一気に士気が下がる兵士たち
そこで閼川(アルチョン)は チルスクの姿がないことに気づく
『チルスク公がいない!』
『私の役目は…ここまでだ』
石品(ソクプム)は のど元に当てられている閼川(アルチョン)の剣に
自らもたれかかり喉を掻っ切って自害する
『王女様… 王女様!!!』
閼川(アルチョン)と月夜(ウォルヤ)は慌てる
この戦いが自分たちを足止めするためのもので
チルスクが間違いなく徳曼(トンマン)のもとへ向かっていると確信するのだった
ユシンのもとへ戻ろうと歩いている徳曼(トンマン)と毗曇(ピダム)
すると向こうから一頭の馬が…!
馬上のチルスクを見た徳曼(トンマン)が恐怖の表情になる
徳曼(トンマン)を必死にかばう毗曇(ピダム)
殺人鬼と化したチルスクの形相は 少女の頃に砂漠の街で見たあの顔だった
あの頃の恐怖がよみがえり 徳曼(トンマン)は動けなくなる
そこへユシンが駆け付け 馬上からチルスクを狙う
迎え撃つチルスクの剣で落馬するユシン!
徳曼(トンマン)を守り ユシンと毗曇(ピダム)が応戦するが
チルスクの武芸にはかなわず 徳曼(トンマン)は絶体絶命となる!
三つ巴の戦いの中 肩に 胸に 腹に…
2人の剣がチルスクに傷を負わせるが チルスクは怯まない
じわりじわりと距離を縮め 徳曼(トンマン)に迫っていく
次第に弱っていくチルスクに ユシンと毗曇(ピダム)の剣が向けられると
チルスクは その剣を自らの身に引きよせ突き刺す!
『これで…終わりだ 徳曼(トンマン) 私は… 昭火(ソファ)…』
(本当に終わった ミシル…)
すべての戦いが終わり 徳曼(トンマン)の前に忠臣が集まった
会議は キム・ソヒョンと春秋(チュンチュ)の報告から始まった
『ミシルの全兵力を引き継ぎました』
『武装解除の命令で すぐ投降してきたそうです』
キム・ユシンが報告する
その隣には毗曇(ピダム)が座っている
『世宗(セジョン)公 ソルォン公 美生(ミセン)公 夏宗(ハジョン)公は
全員 徐羅伐(ソラボル)に護送します』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
『急いでここの処理を…』
『王女様!!!王女様!陛下が…』
真平(チンピョン)王危篤の知らせが入り
徳曼(トンマン)は急遽徐羅伐(ソラボル)へ…!
『陛下…陛下! ご無事ですか?!!! 陛下 徳曼(トンマン)です
陛下 しっかりしてください ミシルは死にました! 起きてください』
『これから この世は… お前の時代だ』
『陛下…』
『あの世へ逝って… ミシルと決着をつける…
あの世には… 天明(チョンミョン)もいる…』
『陛下』
『すまない…』
『陛下… 父上!』
『不可能な夢は… お前が実現させるのだ… きっと… お前ならできる』
『父上…』
『三韓の… 主になるのだ』
新羅(シルラ)第26代国王 真平(チンピョン)王は その生涯を閉じた
思えばミシルによって迫害された一生だった
その結婚も 授かった我が子も 王の座までもが ミシルによって管理され
迫害され 守られてもいた
奇しくも ミシルの死から間もなく 自らの命も消えることとなった
真平(チンピョン)王の葬儀と同じ時
ミシルの葬儀もまた しめやかに行われた
『信じられない あの姉上が… あのミシルがどうして… 納得できない!
こんな形で見送ることになるなんて… 姉上ーーーっ!!!』
涙も枯れ果てたかと思われた美生(ミセン)の目から ふたたび涙がこぼれた
『我々は… どうなるのだろうか』
世宗(セジョン)は 我が身の行く末も分からぬまま ハラハラと泣いている
『母上… 母上…』
葬儀にも参列しないまま 夏宗(ハジョン)はミシルの部屋で泣き崩れていた
閉じられている目と 息づかいのない首筋 ひじ掛けを軽く握っている手
何ひとつとして もう動くことはないと徳曼(トンマン)は理解した
(ミシル あなたがいなければ 私は何もできなかったかもしれません
ミシル ミシルの時代よ 安らかに…)
先に部屋から出てきた毗曇(ピダム)
キム・ユシンと閼川(アルチョン)は なぜここに?と驚く
『なぜ ここにいる?』
泣き顔の毗曇(ピダム)が 答えようともせず立ち去っていく
間もなく中から徳曼(トンマン)が出てきた
『毗曇(ピダム)!!!』
『どうしました?』
『捕まえて!』
『はい?』
『話があるのです 早く!』
ユシンが毗曇(ピダム)を追いかけている間
徳曼(トンマン)はソルォンを呼びつけていた
『大耶(テヤ)城以外も武装解除しましたか』
『通達を出したので 混乱はないでしょう』
『チュジン公は大耶(テヤ)城内の兵をお願いします』
『はい』
『ソヒョン公は 大耶(テヤ)城周囲の兵をお願いします』
『春秋(チュンチュ) ここはそなたに任せる』
『ミシルは?』
『……自害した』
驚く春秋(チュンチュ)と閼川(アルチョン)
『チュジン公とソヒョン公が兵力を引き継ぐ間
閼川(アルチョン)と一緒にここを守りなさい
残党がいるかもしれない 油断するな』
『王女様は?』
『私は毗曇(ピダム)に会って話をする』
ようやく毗曇(ピダム)に追いついたユシンだったが
毗曇(ピダム)は人が変わったようになっていた
『どうした 王女様がお呼びだ どういうつもりだ』
振り払って行こうとする毗曇(ピダム)
止めようとするユシンの手を払おうとした毗曇(ピダム)だったが…
どちらからともなく攻撃の姿勢になり 剣を抜く2人
そこへ 徳曼(トンマン)が駆け付けた
『嘘をついたな お前を信じるために聞いたのだ
ミシルとは どんな関係なのだ? 教えろ』
構わず行ってしまう毗曇(ピダム)
その無礼さに憤るユシンを制し 徳曼(トンマン)が…
『待っていてください 話してきます』
その頃 ようやくミシルの死を知らされた夏宗(ハジョン)は…
『は…ははは 母上が?!!!』
『はい そうです』
『姉上が…!!! 姉上が…! 結局… 結局…!!!』
『母上… 何ということだ!』
『母上!』
『信じられない… どうしてこんなことに!』
ミシルと世宗(セジョン)の息子である夏宗(ハジョン)の悲しみは深く
ミシルの弟美生(ミセン)の驚きと悲しみもまた計り知れない
報告に来た春秋(チュンチュ)が 重々しく告げる
『王女様が 遺体は遺族が引き取るようにと』
『母上はどこにいるのですか?!!!!!』
『城主の部屋です』
『母上!母上ーーーっ!!!』
その頃徳曼(トンマン)は 去ろうとする毗曇(ピダム)を追いかけていた
『毗曇(ピダム)! 今 話してくれ
お前の返答が 今後私たちの関係の土台となると言ったはず』
『……』
『お前は 何の関係もないと言った
だが 自害したミシルを見て涙を流していた
このままでは 私たちの関係は終わりだ
教えてくれ なぜ泣いていたのだ』
毗曇(ピダム)はただ 話し続ける徳曼(トンマン)を悲しげに見つめている
『ミシルが政変を起こした日 なぜお前を遊山に行かせた?
ミシルが王になると決めた時 なぜお前が一緒にいた?
答えなさい!!!』
反応のない毗曇(ピダム)の胸ぐらを掴み 徳曼(トンマン)は叫んだ
『母です!』
『え?』
『母なんです』
『……何だと?』
『ミシルが私を……産んだのです』
チルスクと石品(ソクプム)のもとへも 徳曼(トンマン)からの伝令が来ていた
『武装解除して投降せよとの命令だ!兵力を引き渡すように!』
『…セジュはご無事なのか?』
『……』
『答えるんだ!』
『……亡くなられた』
『何だと? ……亡くなった?』
ミシルのために戦ってきた兵士たちは その場に泣き崩れる
まるで我が王が亡くなったかのように…
『どうして… なぜ亡くなったのだ?』
『自害されたと聞いています
詳しくは大耶(テヤ)城で聞け!まずは武装解除を!』
石品(ソクプム)は自らの剣をその場に捨てる
しかしチルスクは…
じっと目を閉じると 次の瞬間 伝令を斬り殺す…!
『私は 命令に従うつもりはない』
硬い意志を見せるチルスクを 兵士たちが取り囲んでいく
その事態を知らない徳曼(トンマン)は 毗曇(ピダム)の言葉に驚いていた
『母親だなんて… 信じられない』
『私もそうです 信じられないけれど
私は真智(チンジ)王とセジュの間に生まれた息子なんです』
『……』
『真智(チンジ)王を廃位させ 私は必要なくなった
だからセジュは私を捨てたんです いとも簡単に…
そんな私を ムンノ公が育ててくれた』
『信じられない…』
『ある時 その事実を知りました
でもセジュは最期まで… 息子と認めなかった
どんな関係か聞かれて どう答えれば?』
少年のように泣きながら 反対に毗曇(ピダム)が尋ねる
『母親が認めないのに…私が息子だと言えるはずがありません!
政変が起きた時に なぜ殺されなかったのか 私こそ知りたいです
いっそ殺そうとしたなら… もしそうしたなら…
その方が簡単だし 私も気が楽だった
こんなに苦しむこともなかったはずです』
泣きじゃくる毗曇(ピダム)を 徳曼(トンマン)はただ見つめている
伝令を殺したチルスクは 怒りの表情で兵たちに宣言する
『だから私は 今日初めてセジュの命令に背く!!!
その代わり セジュからの命令のうち これまで果たせなかった命令を!
やり遂げられずにいた唯一の命令を! 本日 決行するつもりだ!
徳曼(トンマン)王女を討ち取る!!!』
チルスクの言葉に 石品(ソクプム)は言葉もなく突っ立っている
兵士たちもまた ミシルの死を知ったばかりの状況で動揺している
『石品(ソクプム) 兵を連れて戻れ』
『……』
『ここが…私の死に場所だ この機会を逃さない
1人で… この乱を決行する チルスクの乱だ』
『いいえ… いけません』
『何だと?』
『チルスクと… 石品(ソクプム)の乱です! 一緒に命令を遂行します』
ようやく落ち着きを取り戻した徳曼(トンマン)と毗曇(ピダム)は…
『どうして話してくれなかった いいえ …話せないな 捨てられたなんて
言いたくない それは本当に嫌なことだ でも私には話してほしかった』
『でも… 話したとして 王女様にまで捨てられたら?』
悲しげに すがるように見つめる毗曇(ピダム)を
徳曼(トンマン)は涙ぐみながら抱き寄せた
『つらかったでしょう 苦しかっただろうに…』
大耶(テヤ)城では 決起したチルスクと石品(ソクプム)の反乱に
月夜(ウォルヤ)と閼川(アルチョン)が苦戦していた
『石品郎(ソクプムラン)!剣を置け!』
『もう戦は終わった!』
構わず石品(ソクプム)は 兵士たちに叫ぶ
『お前たちの忠誠心は!花郎(ファラン)の手本になるだろう!
全員!突撃せよーーーっ!!!!!』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
入り乱れる戦いの中で 石品(ソクプム)と閼川(アルチョン)の一騎打ちになる
『セジュの命令に従え!なぜ自ら命を捨てるのだ!』
『セジュのおかげで花郎(ファラン)になれた
セジュのために花郎(ファラン)として死ぬのが名誉だ!!!』
『本当にこのまま命を捨ててもいいのか?!!!』
『そなたも!!!主君のために命を懸けているだろう!』
決死の戦いの末 閼川(アルチョン)の剣が石品(ソクプム)を捉えた
一気に士気が下がる兵士たち
そこで閼川(アルチョン)は チルスクの姿がないことに気づく
『チルスク公がいない!』
『私の役目は…ここまでだ』
石品(ソクプム)は のど元に当てられている閼川(アルチョン)の剣に
自らもたれかかり喉を掻っ切って自害する
『王女様… 王女様!!!』
閼川(アルチョン)と月夜(ウォルヤ)は慌てる
この戦いが自分たちを足止めするためのもので
チルスクが間違いなく徳曼(トンマン)のもとへ向かっていると確信するのだった
ユシンのもとへ戻ろうと歩いている徳曼(トンマン)と毗曇(ピダム)
すると向こうから一頭の馬が…!
馬上のチルスクを見た徳曼(トンマン)が恐怖の表情になる
徳曼(トンマン)を必死にかばう毗曇(ピダム)
殺人鬼と化したチルスクの形相は 少女の頃に砂漠の街で見たあの顔だった
あの頃の恐怖がよみがえり 徳曼(トンマン)は動けなくなる
そこへユシンが駆け付け 馬上からチルスクを狙う
迎え撃つチルスクの剣で落馬するユシン!
徳曼(トンマン)を守り ユシンと毗曇(ピダム)が応戦するが
チルスクの武芸にはかなわず 徳曼(トンマン)は絶体絶命となる!
三つ巴の戦いの中 肩に 胸に 腹に…
2人の剣がチルスクに傷を負わせるが チルスクは怯まない
じわりじわりと距離を縮め 徳曼(トンマン)に迫っていく
次第に弱っていくチルスクに ユシンと毗曇(ピダム)の剣が向けられると
チルスクは その剣を自らの身に引きよせ突き刺す!
『これで…終わりだ 徳曼(トンマン) 私は… 昭火(ソファ)…』
(本当に終わった ミシル…)
すべての戦いが終わり 徳曼(トンマン)の前に忠臣が集まった
会議は キム・ソヒョンと春秋(チュンチュ)の報告から始まった
『ミシルの全兵力を引き継ぎました』
『武装解除の命令で すぐ投降してきたそうです』
キム・ユシンが報告する
その隣には毗曇(ピダム)が座っている
『世宗(セジョン)公 ソルォン公 美生(ミセン)公 夏宗(ハジョン)公は
全員 徐羅伐(ソラボル)に護送します』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
『急いでここの処理を…』
『王女様!!!王女様!陛下が…』
真平(チンピョン)王危篤の知らせが入り
徳曼(トンマン)は急遽徐羅伐(ソラボル)へ…!
『陛下…陛下! ご無事ですか?!!! 陛下 徳曼(トンマン)です
陛下 しっかりしてください ミシルは死にました! 起きてください』
『これから この世は… お前の時代だ』
『陛下…』
『あの世へ逝って… ミシルと決着をつける…
あの世には… 天明(チョンミョン)もいる…』
『陛下』
『すまない…』
『陛下… 父上!』
『不可能な夢は… お前が実現させるのだ… きっと… お前ならできる』
『父上…』
『三韓の… 主になるのだ』
新羅(シルラ)第26代国王 真平(チンピョン)王は その生涯を閉じた
思えばミシルによって迫害された一生だった
その結婚も 授かった我が子も 王の座までもが ミシルによって管理され
迫害され 守られてもいた
奇しくも ミシルの死から間もなく 自らの命も消えることとなった
真平(チンピョン)王の葬儀と同じ時
ミシルの葬儀もまた しめやかに行われた
『信じられない あの姉上が… あのミシルがどうして… 納得できない!
こんな形で見送ることになるなんて… 姉上ーーーっ!!!』
涙も枯れ果てたかと思われた美生(ミセン)の目から ふたたび涙がこぼれた
『我々は… どうなるのだろうか』
世宗(セジョン)は 我が身の行く末も分からぬまま ハラハラと泣いている
『母上… 母上…』
葬儀にも参列しないまま 夏宗(ハジョン)はミシルの部屋で泣き崩れていた
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