善徳女王 51話#2 司量部令(サリャンブリョン)

『陛下の国葬を終え 初七日に即位式を行います』
『王女様 その前にミシルの一族を始末せねば』

ヨンチュン公の言葉に加えて キム・ソヒョンが進言する

キム・ユシン 閼川(アルチョン) 月夜(ウォルヤ)が
そろって徳曼(トンマン)の決定を見守っている

『国葬中ゆえ軟禁していますが 兵部(ピョンブ)に渡すべきです』

『さらし首にして国の根本を立て直さなくては』
『いいえ そうはしません 彼らを処刑しないつもりです』

その席にいない毗曇(ピダム)は 夏宗(ハジョン)の前にいた

『貴様 ここへ何しに来た? 出て行け さっさと出て行け!!!』

興奮する夏宗(ハジョン)と毗曇(ピダム)の間に割って入ったのはソルォン

『母上に会いに来たのか?』

ソルォンは毗曇(ピダム)を ミシルの葬儀の祭壇の前に連れて行く

『セジュを殺せというチヌン大帝の勅書が なぜ残っていたのか

あの勅書は お前に渡そうとしていたのだ セジュは…』
『私に渡そうと?なぜ?勅書が公開されればすべてが終わる なのになぜ?』
『お前に大義を譲るため 功績を立てさせるためだ』
『……』
『セジュは政変を起こす前に もう決心されていた 失敗した場合 その後は…』
『つまり私に 母親が失敗した夢の後始末をしろと?』

ソルォンは毗曇(ピダム)の胸ぐらを掴む その目には涙が滲んでいる

『母君の志を侮辱するな!

セジュ すなわちお前の母君は お前に大義を託して命を絶たれた
屈辱に耐えて このお前を! 王にせよと言い残された お前をな!!!』
『私を… 王に? なぜだ…』
『お前が あの勅書を公開できなかった理由 それと同じだ』

徳曼(トンマン)の決定に マヤ王妃と万明(マンミョン)夫人は激怒する

『逆賊を生かしておくなんて!!!』

『王女様 情に流されてはなりません!』
『彼らが逆賊なら 数千人を処刑せねばなりません
ミシルの配下の数千… いえ数万の人材を皆殺しにしなければなりません』
『歴史を整理するためにやるしかありません!』

同席する春秋(チュンチュ)は反論する

『彼らの恨みを買っては前進できない!』

『生かしておいても味方にはなりません』
『努力はする』
『……』
『恨みを抑える努力よりも 味方にする努力の方が価値があるのだ』

徳曼(トンマン)が 逆賊を殺さない理由とは…

側近たちにその意志を伝えた時間にさかのぼる

「そのつもりはない ミシルは私との合従に応じたうえで

無条件で投降するように 兵に命じました
しかし 最後まで抵抗して死んだ者もいます」

※合従:春秋戦国時代に 奏に対抗した六国の連合

「もしかして 王女様」

「はい チルスクと石品(ソクプム)です
チルスクと石品(ソクプム)の乱として公表します
そうすれば ミシルの配下を殺す理由がなくなります」

毗曇(ピダム)は ミシルの祭壇の前にたたずんでいた

(なぜだ… どうして今になって… なぜなんだ)

徳曼(トンマン)の真意を聞いてもなお キム・ソヒョンら側近たちは反対する

『お考え直し下さい』

『歴史に偽りの記録を残すのですか?』
『事実を公表して残党を掃討すべきです』
『いつまた神国を脅かすか』
『処刑してください!』
『王女様は… ミシルが憎くないのですか!!!』

感極まった春秋(チュンチュ)の叫びに 徳曼(トンマン)も声を荒げる

『ここに!私より深い恨みを持つ者がいますか?!!!

私はミシルのせいで人生を奪われました
そして母を失い 姉を失いました
もちろん私も 母や姉の分まで恨みを晴らしたいと思っています
しかしもうミシルはいない 残ったのは新羅(シルラ)…新羅(シルラ)なのです』

こうして 逆賊たちは徳曼(トンマン)の前に引きずり出された

『お前たちは 新羅(シルラ)を脅かし王室を踏みにじった大罪人だ

すべての私兵と武器 それから
建福(コンボク)16年と40年に賜った土地も没収する』

※建福(コンボク):真平(チンピョン)王時代の年号

『そして 今後10年間は兵部(ピョンブ)がお前たちの屋敷を監視する』

美生(ミセン) 夏宗(ハジョン) 世宗(セジョン) ソルォン 宝宗(ポジョン)が

一斉に徳曼(トンマン)の方を見た

『お前たちを 殺しはしない

チルスクと石品(ソクプム)をさらし首にし罪を着せる
神国に命を捧げることで 罪を償いなさい』

ソルォンがひざまずき ならって世宗(セジョン)が

続いて美生(ミセン) 夏宗(ハジョン) 宝宗(ポジョン)がひざまずいた

『王女様の寛大なる処置に 命懸けで報います』

ミシルの勢力を裁いた後

金春秋(キム・チュンチュ)を訪ねたヨムジョンは…

『王女様は器の大きな方です

私だったら疑い深くて あんな決断はできません』
『私兵と財産を没収したので 当分は基盤を築くのは無理だ』
『はい 春秋(チュンチュ)公にとっては いろいろと残念でしたね』
『……』
『母上の恨みを晴らせないうえに 地位も…』

春秋(チュンチュ)は フッと笑う

『私は 今からが勝負だ』

一方 竹方(チュクパン)たち侍衛府(シウィブ)はサンタクを取り囲み

その手から位牌を奪い取っていた

『思った通りだ』

『違うんだ 俺はただ…』
『お前は逆賊だ!
花祠堂(ファサダン)に石品郎(ソクプムラン)の位牌を置くなんて』

※花祠堂(ファサダン):大功をたてた花郎(ファラン)の位牌を納める所

『違うよ』

『捕らえろ』
『俺はただ…聞いてくれ!
死んだ石品郎(ソクプムラン)は…花郎(ファラン)であることを誇りに思っていた
花祠堂(ファサダン)に祀られるのが石品郎(ソクプムラン)の夢だったんだ…』

男泣きするサンタクを見て 皆の目にも光るものが…

竹方(チュクパン)もまた涙ぐみながら サンタクのおでこを叩く

『しっかりしろよ!だからってこんなことしていいのか? 
バレたら殺されるぞ』

高島(コド)と大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)も竹方(チュクパン)を促す

『見逃してやろうよ』

『罪を憎んで…』
『正直言えば人も憎いけど』

主亡きミシルの執務室では 世宗(セジョン)たちが

ソルォンの報告に愕然としている

『毗曇(ピダム)だと?どういうことだ』

『何だと?姉上が毗曇(ピダム)を?!!!』
『はい セジュが 王女は我々を殺さないだろうと』
『そして生き残った後 毗曇(ピダム)に従えと?』

世宗(セジョン)はしみじみと答えた

『私は徐羅伐(ソラボル)を離れる』

『父上 どういうことです?』
『兄上!』
『セジュを失くしたのに こうして生きていていいのか そう思っていた
そなたがセジュの遺志を継ぎ やり遂げてくれ』

夜も更けて 徳曼(トンマン)は毗曇(ピダム)を呼び出した

『何でしょうか』

『ミシルに あの勅書を渡したのか?
それともミシルに勅書を見せて 公開すると脅したのか? 答えなさい』
『……』
『結局のところ ミシルの心を変えさせたのは お前だったのか
勅書があるのに 世間に公開しない息子の気持ち
勅書を見せて 母親を脅かす息子の気持ち それがミシルの心を変えた』
『……』
『自分を責めているのだな』
『……』
『礼を言う 私のためだろう? ありがとう』

徳曼(トンマン)は側近を招集し さらなる決定を発表する

『司量部(サリャンブ)を新設します』

『司量部(サリャンブ)とは?』
『すべての組織を監視する部署で 私の直属機関です』
『ミシルが動かしてきた組織を掌握するためですね』

春秋(チュンチュ)が意見を述べる

『王室は長い間 ミシルに支配されていた

部署を新設するだけで うまくいくでしょうか?』
『そのとおりです だからよく知る者たちで構成します』
『まさか…』
『そうだ ソルォンや宝宗(ポジョン) 夏宗(ハジョン)やヨムジョンを
司量部(サリャンブ)に配置する』
『信用できますか?』
『彼らをまとめる 信用できる長を立てます』

徳曼(トンマン)がよせる信頼と 亡き母ミシルの遺志との間で

毗曇(ピダム)の心は揺れていた

「お前に大義を託して 命を絶たれた 屈辱に耐えてこのお前を お前を!

王にせよと言い残した お前をな!」

「お前が私に見せた信頼を 大きなもので返そう」

さらには 生前のミシルが言っていたことを思い返す

「愛というものを何だと思っている?愛というのは容赦なく奪い取るもの

それが愛だ 徳曼(トンマン)を愛するならそうしなさい」

司量部(サリャンブ)が開設され 不満顔の一同がそろった

『こんな商人と一緒に仕事をするなんて!』

『司量部令(サリャンブリョン)になるのは誰でしょうか』

※司量部令(サリャンブリョン):司量部(サリャンブ)の長

『我々もまだ知らない』

『まったく!一体いつまで待たせる気なんだ!』

扉が開き 扇で顔を隠した人物が入ってくる

長の空席の前に立つと 扇をたたみ その顔を現した

『司量部令(サリャンブリョン)毗曇(ピダム)がご挨拶を』

言葉もない一同を前に 毗曇(ピダム)はニヤリと笑う

徳曼(トンマン)の執務室でも ユシンをはじめとして質問が乱れ飛ぶ

『なぜ毗曇(ピダム)を司量部令(サリャンブリョン)に?』

『ミシルの息子なら なおさらいけません そんな要職に…』
『要職だからです
毗曇(ピダム)に要職を任せるのは象徴的な意味があります』
『ミシル派の不安を払拭するためですね』
『そうだ 2つ目の理由は
ミシル派を管理できるのは 毗曇(ピダム)だけだからです』
『ミシルの血筋ならば 信頼されますね』
『それに私の味方となって ミシルを排除した功績もあります
毗曇(ピダム)の忠誠心が信用できませんか? 最後の理由は… 何でもない』

最後の理由を言いかけてやめた徳曼(トンマン)

そこにいる一同が 怪訝な顔になる
徳曼(トンマン)の真意がまだ すべて明らかにはされていないようだった

毗曇(ピダム)は これからのことについて皆に説明する

『今後は 皆さんにすべての部署の情報を収集してもらいます

毎日巳の刻に報告し…』

※巳の刻:午前9時~11時

『おい毗曇(ピダム) 王女が我々を監視しろと?

父上と母上以外 ミシル一族が全員集まった』
『夏宗(ハジョン)公』
『何か文句でも?』
『ミシルの名前は 私の前では出すな』
『何だと?こいつ!!!』
『夏宗(ハジョン)公 落ち着いて!』

興奮する夏宗(ハジョン)を 美生(ミセン)が必死になだめる

『目の前にいるのはミシルか? 違う 私は毗曇(ピダム)だ

今後はミシルではなく 毗曇(ピダム)に従え』

異様な空気を感じ取り さすがに夏宗(ハジョン)も黙り込んだ

毗曇(ピダム)には ミシルとは違うが 確かに周囲を威圧する雰囲気があった

『私のやり方と意向を尊重し!!!私だけに従ってもらう 分かったか?』

『……』

夜の風に当たりながら ユシンと春秋(チュンチュ)が語り合う

『毗曇(ピダム)に力添えをしているのだ』

『どういうことですか?』
『王女様が言いかけてやめた 最後の理由だ
お前と私と閼川(アルチョン) この3人の勢力を牽制するために
わざと毗曇(ピダム)を要職に任命したのだ』
『競い合えと?』
『本当に優れた方だ』
『毗曇(ピダム)を信用していいのでしょうか』
『信じてはおられぬ 今までは信頼していたかもしれないが
今は毗曇(ピダム)ばかりか 誰も信頼していないだろう 王の道を歩み始めた』
『…お気の毒です 人を信じて親しくするのがお好きな方なのに
心を開いて人を受け入れる方なのに もうそれができないとは』

即位式を前日に控え マヤ王妃が徳曼(トンマン)に会いに来る

『いよいよ明日だ』

『はい』
『天明(チョンミョン)が見たら さぞかし喜ぶだろうに』
『……』
『即位式を見たら 私はここを離れる』
『どちらへ?』
『そなたの父君を あの世へひとり寂しく寺に置くわけにいかない
仏門に帰依する』
『母上』
『徳曼(トンマン) これからは誰もそばで守ってくれない
お前は1人で 新羅(シルラ)と大切な民を… 愛する人々を守るのだ
お前の代わりに戦ってくれる人も 苦しんでくれる人もいない
人を信じても 人を信じないのも許されない できるか?
孤独を恐れずに 立ち向かえるか?』
『…はい 母上 大丈夫です やり遂げます』

短い間の 母と娘であった

それでも絆は 深く徳曼(トンマン)の心に刻まれていた

ふと ミシルが言い放った言葉を思い出す

「このミシルは 天を利用するがこれを恐れない

余の非情を知るがこれに頭を下げない
人を治めるがこれに頼らない」

(これからは 誰を信じるのも 信じないのも許されないのですか?

人に頼ってはいけないのですか?
本当に1人で歩む道に入ったのか これからは…)

即位式 当日

花郎(ファラン)たちの華麗な演舞が披露された後

ヨンチュン公が声高らかに言い放った

『陛下の おなり!』

一同が立ち上がって新しい陛下を迎える

王冠を被り 王の服に身を包み 徳曼(トンマン)が現れた

『新たな神国を導く 我らの陛下である!!!』

『女王様 万歳!』
『万歳!』

大歓声の中 徳曼(トンマン)が右手を挙げ

それを合図に一斉に皆がひざまずき 忠誠の意思を表す
キム・ユシンが 毗曇(ピダム)が 心で徳曼(トンマン)に語りかける

(女王様 惜しみなく私のすべてを捧げます)

(女王様 容赦なくすべてを奪い取ります)

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