善徳女王 52話#1 司量部(サリャンブ)の猛威
『新たな神国を導く 我らの陛下である!』
『女王様 万歳!』
『万歳!』
(女王様 惜しみなく私のすべてを捧げます)
(女王様 容赦なくすべてを奪い取ります)
キム・ユシンと毗曇(ピダム)の 異なる意志と思いが
同時に徳曼(トンマン)に向けられた
徳曼(トンマン)はこの瞬間から 善徳(ソンドク)女王となった
『内省私臣(ネソンサシン)キム・ヨンチュンを上大等(サンデドゥン)に任命する
大等(テドゥン)の代表として国政を統括するように』
『光栄に存じます 誠心誠意 務めます』
※内省私臣(ネソンサシン):内省(ネソン)の長官
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
※大等(テドゥン):新羅(シルラ)の中央貴族の核心層
『また兵部弟監(ピョンブチェガム)キム・ソヒョンを
兵部令(ピョンブリョン)に昇格させ
武官の最高職 大将軍(テジャングン)の位を与える
神国をしっかり守るように』
『光栄に存じます』
※弟監(チェガム):新羅(シルラ)の兵部(ピョンブ)の官職
※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官
※神国:新羅(シルラ)の別称
『皆 聞け 神国で起きた忌まわしき事件は 過去の過ちとして歴史の闇に葬る
今後は皆が心を一つにして 新たな夢と時代を切り開いていかねばならぬ』
『心身ともに尽くします 陛下』
便殿会議が終わり 執務室に側近のみが集まった
キム・ユシンが口火を切る
『陛下 新たな時代を切り開くとは どういう意味です
“徳業日新(とくぎょうにっしん) 網羅四方(もらしほう)”という
チヌン大帝の遺志を継ぐ時では?』
『ええ もちろんです』
閼川(アルチョン)が聞く
『それならなぜ 国防費を増やさないのです』
『鉄製の農具を増やすためです』
『鉄製の農具を?』
『陛下 お考えは分かりますが…』
『磨雲嶺(マウルリョン) 黄草嶺(ファンチョリョン) 堂項(タンハン)城
チヌン大帝はこれらの土地を どう広げたと思いますか?
武器を使ってですか? いえ 違います 人の力です』
『ええ そうです』
金春秋(キム・チュンチュ)が同意を示す
『陛下が言う“人”とは 守るべきものがある者のことですね』
『ええ 神国の利と己の利が一致する人です』
毗曇(ピダム)が聞く
『では 土地を持つ人のことですか?』
『ああ そうだ』
『しかしながら小作農や奴婢は 神国を守りたいとは思わないでしょう
すべての民に花郎(ファラン)のような忠誠は望めません』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
『守るべき自身の土地 民の大義はここから始まります
国の富強が己の暮らしを豊かにすると 民に信じさせねば
三韓一統の道は進めません』
※三韓一統:高句麗(コグリョ) 百済(ペクチェ) 新羅(シルラ)の三国統一
『国中の民に 守るべき土地を持たせてみせます いつか必ず』
あまりにも壮大な 善徳(ソンドク)女王の計画であった
会議を終え 善徳(ソンドク)女王はキム・ユシンと語り合う
『“徳業日新(とくぎょうにっしん) 網羅四方(もうらしほう)”
まず最初に抱き込むべきは何だと思いますか?
私は 伽耶勢力だと思います』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
『はい 陛下 長年差別や迫害に苦しんできた伽耶人を
陛下の民として受け入れなくては』
『ええ そうするつもりです あらゆる差別を法律で禁じ伽耶人を重用します
月夜(ウォルヤ)と復耶会は 私の力となり大きな功績を立てました
彼らの期待の大きさも分かっています』
感慨深い表情で善徳(ソンドク)女王を見つめるユシン しかし…
『ですが 復耶会は… 解体させなくては
復耶会は その名自体が反逆です』
『月夜(ウォルヤ)と話はつけました
復耶会を解体し 兵を兵部(ピョンブ)に組み入れ
伽耶の人材を 神国の発展に尽力させます ご心配は無用です』
それでも 善徳(ソンドク)女王の表情は晴れない
『陛下 何か気がかりなことでも?』
『…ユシン公 月夜(ウォルヤ)の考えは… 違います』
『え?』
『私の力となってくれた者たちの中で 月夜(ウォルヤ)だけは
利害が異なるのです』
『一致させます 国の利害と民の利害を一致させるのと同様に
私が 月夜(ウォルヤ)や伽耶人たちの利害と我々の利害を一致させます』
『もしそうできなければ 月夜(ウォルヤ)は逆心を抱くことに
皆に同じ夢を持たせねばなりません 今はまだ 私とユシン公をはじめ
少数の者しか持っていませんが 新羅(シルラ)の臣下や民はもちろん
伽耶の人々にまで同じ夢を持たせるのです』
ユシンは 月夜(ウォルヤ)と話し合う
『復耶会と伽耶出身の者を 新羅(シルラ)の民として受け入れる』
『復耶会は 陛下と神国の兵となろう』
『これからは 伽耶という小さい枠を超え もっと大きな夢を見なければ
統一された三韓の地で 国を問わず皆が大きな夢を見るのだ』
『その夢の真ん中に そなたの名を残さねば』
『なに?』
ユシンの表情が強張る
『陛下も王につかれたことだし そなたも次なる野望を目指す時ではないか』
『月夜(ウォルヤ) 私に逆心はない』
『そういう意味ではない
そなたが陛下と婚姻し共に新羅(シルラ)を治めれば…』
『月夜(ウォルヤ)!』
『それこそ神国と伽耶が 真に1つとなる道だ』
『私にも陛下にも そんなつもりはない 余計なことは考えるな』
明らかに 月夜(ウォルヤ)の利害は違っていた
善徳(ソンドク)女王の言った通りだった
ユシンは愕然としてその場を離れた
女王の執務室
毗曇(ピダム)は言われた言葉を聞き返す
『剣とおっしゃいましたか』
『そう 剣だ 私の剣になれ 不正と腐敗を断ち切るそんな剣に』
生前のムンノに言われた言葉が頭をよぎる
「お前は言わば柄のない剣も同然 触れる者は手をケガするだけだ
誰かがお前の柄になってくれればと願ってきた
だが誰にも無理なら 私の手で その剣を折るしかない」
『はい陛下 いつでも陛下の剣となります』
『改革はすべて上層部から行う』
『買い占めや高利貸しなど
貴族や既得権層の不正を徹底的に取り締まれと?』
『それから 国内外の情報を管理して 私に報告せよ それがお前の仕事だ』
『承知しました 精一杯務めます』
『頼んだぞ 重要な役目だ』
『私のことは 誰が監視し牽制するのです?』
『私がお前に目を光らせている この私が』
市場の通りを 荷物を一杯に積んだ荷車の行列が通る
『これは?』
『王室に納める米だ 今回で返済も全て終わる』
『あんたら 国から荒れ地を与えられた人たちか』
『荒れ地なら 返済が精一杯で何も残らんだろ?』
『それがな 開墾した土地をもらえるんだよ』
『そうさ 俺は今日から土地持ちだ』
『今じゃ荒れ地も肥えた土地に変わった』
『うまいことやったな』
『うらやましいこった』
納められた米の確認をする虎才(ホジェ)
そこへ善徳(ソンドク)女王が現れる
『どうなりました?』
『はい 荒れ地の収穫分も含め 全部で300石です 見てください』
随行してきたヨンチュン公が
『顔を上げよ ポンギというのは?』
『私です』
『荒れ地で最も多くの収穫を上げたそうだな』
女王じきじきに声を掛けられ 恐縮するポンギという青年は
『陛下から頂いた よい農具のおかげです』
『お前を供奉開師(コンボンケサ)に任命する』
※供奉開師(コンボンケサ):農業や開墾の指導に当たる官吏
『供奉開師(コンボンケサ)とは…』
『これから他の地域も開墾事業を推し進める
皆がより多くの荒れ地を耕せるよう指導せよ』
『あ…ありがたき幸せにございます!』
ヨンチュン公が皆に向けて宣言する
『毎年 収穫量の多かった者を供奉開師(コンボンケサ)として引き立てる
皆も精進せよ!』
『ありがたき幸せにございます!』
『女王陛下 万歳!』
徐羅伐(ソラボル)に早馬で 善徳(ソンドク)女王のもとへ駆け付けたのは
金春秋(キム・チュンチュ)だ
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
『どうなりましたか?』
『大勝です 上将軍(サンジャングン)キム・ユシンが
百済(ペクチェ)軍を大破しました!』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『陛下 お祝い申し上げます』
『しかしなぜ 伝令よりも先にそなたが?』
『それが…』
善徳(ソンドク)女王に耳打ちする竹方(チュクパン)
『近頃 春秋(チュンチュ)公は乗馬に夢中で…』
『キム・ユシンの部隊が まもなく徐羅伐(ソラボル)へ帰還します』
凱旋するキム・ユシンの行列を 民が歓喜の声で迎える
ユシンに並んでいるのは月夜(ウォルヤ)
『民からの人気が高まっていますね』
『将軍の名誉は 町ではなく戦場にある
隊大監(テデガム)雪地(ソルチ)の姿が見えないな 誰より先に来るはず』
※隊大監(テデガム):軍営の武官職
『戦に同行できず いじけているのでしょう』
司量部(サリャンブ) 尋問室に 雪地(ソルチ)の姿はあった
大声で叫び続けている
『誰か来ぬか!おい!来いと言っているだろう!!!
この私を無視するのか!!!』
司量部(サリャンブ)では サンタクが兵を整列させている
『司量部(サリャンブ)!乙組12名!全員揃いました!』
※司量部(サリャンブ):王室のすべての部署を監察する部署
そこへ 宝宗(ポジョン)が走ってくる
『司量部令(サリャンブリョン)!
黒歯(こくし)国の使臣が訪問した時に領客府(ヨンゲクフ)が出した報告書です』
※黒歯(こくし)国:フィリピン
※領客府(ヨンゲクフ):使臣の応接や外交業務を担当した部署
『もてなしの費用や場所 参加者などが記録されています』
『スウルブ公は?』
『お連れしました 大等(テドゥン)ゆえ司量部令(サリャンブリョン)が
直接お取調べください』
『いいだろう 行こう』
雪地(ソルチ)とは別の尋問室に捕らわれているスウルブ公
毗曇(ピダム)は司量部令(サリャンブリョン)としてスウルブ公の前に座る
『賞賜署(サンサソ)で内容の異なる帳簿が2つ見つかりました
大正(テジョン)は何もご存じないとおっしゃるのですね?』
※賞賜署(サンサソ):国家功労者への報償と賞勲業務を担当
※大正(テジョン):賞賜署(サンサソ)の長官
『戦死した兵の身元確認は困難ゆえ 記録に手違いが生じることもあります』
『遺体を掘り起こしてでも把握すべきです 誰に与えるべきか
はっきりしないからと 戦死者の褒賞金を官吏たちで山分けするとは』
『山分けですと?!とんでもない』
『名誉の死を遂げた兵には相応の補償がなされるべきです
それでこそ 神国の兵たちが国へ忠誠を誓うのです』
『……』
『改革は上から行い 救済は下から行う
それが陛下のお考えです お分かりですね』
『し…承知しました』
執務室に戻った毗曇(ピダム)を待っていたのは
ソルォン 宝宗(ポジョン) ヨムジョンだ
『新たに建立する感恩(カムン)寺と奉徳(ポンドク)寺に
成典(ソンジョン)が設置され 上堂(サンダン)が2人配置されました』
※成典(ソンジョン):王室の寺院や宮殿の建設の担当部署
『建築資材の記録を報告するよう指示を』
『承知しました』
『高句麗(コグリョ)から伝書鳩は戻ってきたか』
『はい 高句麗(コグリョ)の政情が不安定です
大對盧(テデロ)の地位にある将軍が政変を起こす可能性も』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※大對顱(テデロ):高句麗(コグリョ)の国政を管理する最高位の官職
『その話は後で聞くとしよう 雪地(ソルチ)は何か自白を?』
『まだ口を割りません』
宝宗(ポジョン)の答えに補足するソルォンとヨムジョン
『上将軍(サンジャングン)ユシンが帰還したので すぐに知れるかと』
『まだ証拠もなく全容がつかめておりません』
『ユシンはどこですか 戦勝を祝ってやらなくては』
『陛下が祝勝会を設けられたので そこかと存じます
ユシン軍の凱旋で 町は盛り上がりでした “ユシン軍 万歳” と歓声まで』
『ユシン軍だと?』
ヨムジョンの何気ない発言に ソルォンと宝宗(ポジョン)は凍りつく
『神国にユシン軍など存在しない 兵はすべて陛下のものだ』
キム・ユシンを出迎える毗曇(ピダム)
『ご苦労だった』
『そなたも苦労が多いと聞いたが』
『とんでもない 宮中にいながら苦労など
戦場へ赴かぬ私を皮肉っているのか』
『ハッハッハ… まさか』
『ユンチュン率いる百済(ペクチェ)軍は?』
『優れた武将だった 百済(ペクチェ)との前線が不安だ』
『陛下には?』
『今 お会いしてきた そなたもか』
『うん 近いうちに戦勝祝いの酒をおごる』
『ああ』
ユシンが立ち去った後の毗曇(ピダム)は 凍りつくような無表情になる
その足で 善徳(ソンドク)女王の執務室へ
『百済(ペクチェ)王プヨ・ジャンの病状が悪化しているようです
戦に出た太子の義慈(ウィジャ)が王位を継ぐでしょう』
『ユシン公も懸念している 戦線に補充できる兵の最大数と最小数を調べ
増えた兵力の軍事品の確保を』
『はい 次は監察事項です
スウルブ公とチャヨン公 伊飡(イチャン)のスムンに横領の疑いが』
※伊飡(イチャン):新羅(シルラ)における十七官位の2番目
『証拠は?』
『見つかっていません 警告したのでやめるでしょう』
『俸禄の1割までは目をつぶるが それを超えたらすぐに捕えよ』
『はい それから次は… 例の問題です どうしますか』
祝勝祝いの宴では 皆が口々に苦労話や自慢話を繰り広げる
『ヨンジョン山の絶壁の上から 岩が落ちて来た時は焦ったよ』
『高島(コド)が盾になって守ってくれた』
『危うく下敷きになるところだったな』
『高島(コド)隊大監(テデガム) ご苦労だった 酒を注ごう』
『恐れ入ります』
『それにしても こうも人が変わるとはな』
そこへ 今は内省(ネソン)の大舎(テサ)となった竹方(チュクパン)が
サンタクを連れて現れる
※大舎(テサ):内省(ネソン)の3番目の官職
『あの日を境に変わったんですよ』
『来たのか』
『はい上将軍(サンジャングン) 戦は大勝だったとか』
『お祝い申し上げます』
『やめてくれ』
着席するように促され 宴席に座る竹方(チュクパン)
しかし サンタクが座るべき場所がない
『おい 大舎(テサ)殿だけかよ 司量部(サリャンブ)の俺の席は?』
『司量部(サリャンブ)が何だ』
『司量部(サリャンブ)は陛下直属の機関で 皆を監視する重要な部署だ!
俺は下っ端だが せっかく来てやったんだ 座らせろ!』
無反応な一同に激怒し サンタクは高島(コド)に噛みつく
『お前もあいさつくらいしたらどうだ!』
『兵部(ピョンブ)の隊大監(テデガム)が司量部(サリャンブ)の下っ端に?』
『な…何だと?偉そうな口を利くようになったもんだ!何でこうなった?!!!』
『あの日からさ』
『あの日?』
物知り顔で“あの日”と言う竹方(チュクパン)だが
それについては誰も知らないようだ
『おい いや失礼 隊大監(テデガム)殿
あの日 隊大監(テデガム)殿を目覚めさせたのは誰でしたかな?
陛下を宮殿から脱出させた日 丸太を持たせてやったのは?』
『うぉっほん! …つまらない昔話だ』
『“つまらない昔話だ”って まったく… 調子に乗るなよ』
どっしり構えて威厳させ感じさせる高島(コド)が 竹方(チュクパン)の威嚇に
一瞬の怯えを見せる
『見たか びっくりしてよけたぞ アッハッハ…』
『ところで 月夜(ウォルヤ)はどこに?』
宴席に顔を見せない月夜(ウォルヤ)を心配するキム・ユシンに
谷使欣(コクサフン)が答える
『雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)を捜しに行きました』
雪地(ソルチ)が司量部(サリャンブ)に捕らわれていることも
司量部(サリャンブ)の矛先が自分に向かいつつあることも
この時まだ ユシンは知らなかった
執務室の善徳(ソンドク)女王と毗曇(ピダム)は…
『ユシンを疑うのか?』
『私は 皆を疑わねばなりません 私自身のことさえも それが私の仕事です』
『……』
『ご許可を』
『この件は 慎重に進めなくては』
『人を疑い 調査するのだから当然です』
『確証はあるのか』
『いいえ まだ』
『ならば 許可できぬ ただし… 調査は続けよ』
一方 仕事もせず呑んだくれている夏宗(ハジョン)を
美生(ミセン)がなだめている
『もうそれくらいにしたらどうだ』
『叔父上は腹が立たぬのですか …立つわけないか
礼部令(イェブリョン)を続けているし 何も変わっていない』
※礼部令(イェブリョン):外交および儀式を司る礼部(イェブ)の長官
『好きで続けていると? 子が100人もいては 迂闊に死ねんのだ』
『我々は生きるしかないのです
父上の命日にこうして酒も飲めるわけですしね
うぅ… どうしてこんなことに… 情けなくて仕方ありません!
考えてもみてください 毗曇(ピダム)や宝宗(ポジョン)は弟で
私は兄なんですよ!』
『栄枯盛衰というでしょう』
『それにしたって!私より格下だった連中が皆…』
一番能力のない夏宗(ハジョン)が 一番上の地位にいたことが
そもそも問題だったのだと… 美生(ミセン)はやれやれという表情で聞く
『それにユシンまでが上将軍(サンジャングン)とかいうのになって
勢いづいているんですよ!』
『分かったから さあ飲め まったく… 心行くまで飲むがいい』
夜更けに 兵士を招集する毗曇(ピダム)
『全員 捕らえるのだ 各自 確認は済んだか』
『はい!』
『情報を知り隠れる恐れもある 皆一斉に捕らえよ!』
兵士を率いるのは宝宗(ポジョン)
各部署に立ち入り 司量(サリャン)の札を見せつける
『司量部(サリャンブ)です ご同行願います』
『な…なぜ司量部(サリャンブ)が…』
男を連行していく宝宗(ポジョン)を かつての花郎(ファラン)仲間が見ている
『宝宗(ポジョン)ではないか』
『ああ 今度は何事だ』
『近頃の司量部(サリャンブ)は飛ぶ鳥落とす勢いだ
陛下を後ろ盾にして毗曇(ピダム)が勢いづいている』
『おい!言葉に気をつけろ 聞かれたら大変だ』
『その通りだ 用心した方がいい』
『そうだな』
その頃ようやく ユシンは雪地(ソルチ)が捕らわれたことを知った
『何だと 雪地(ソルチ)が司量部(サリャンブ)に?!』
『はい 捕らわれた理由は不明です』
『あいつら 無理矢理引っ張って行きますからね』
『偉そうに司量部(サリャンブ)の札を突きつけるだけです』
『口を慎め!陛下の直属機関だぞ 疑いが晴れればすぐに放免される』
『雪地(ソルチ)は兵部(ピョンブ)の人間です
毗曇(ピダム)公に事情を聞きに行かれては?』
『そうしてください 兵部(ピョンブ)の士気にかかわります
司量部(サリャンブ)は 我々を見くびっています』
『そのとおりだ 調子づきやがって!』
そこへ 兵部(ピョンブ)でもっとも下っ端の兵士チャンギが戻ってきた
険悪な雰囲気に…
(何事ですか?)
(雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)が司量部(サリャンブ)に連行された)
『えぇ?!雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)が?!!!』
『何か知っているのか?』
あまりにも大声で驚くチャンギを ユシンが訝しむ
『い…いいえ きっと何かの間違いでしょう』
そのチャンギも会議の後 司量部(サリャンブ)に待ち伏せされ連行された
宝宗(ポジョン)が連行した男は ヨムジョンの前に引きずり出された
『一体どういうことですか 何の罪か教えるべきでしょう!』
『それはこれから調べます 罪がないなら心配せずにご協力ください』
『女王様 万歳!』
『万歳!』
(女王様 惜しみなく私のすべてを捧げます)
(女王様 容赦なくすべてを奪い取ります)
キム・ユシンと毗曇(ピダム)の 異なる意志と思いが
同時に徳曼(トンマン)に向けられた
徳曼(トンマン)はこの瞬間から 善徳(ソンドク)女王となった
『内省私臣(ネソンサシン)キム・ヨンチュンを上大等(サンデドゥン)に任命する
大等(テドゥン)の代表として国政を統括するように』
『光栄に存じます 誠心誠意 務めます』
※内省私臣(ネソンサシン):内省(ネソン)の長官
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
※大等(テドゥン):新羅(シルラ)の中央貴族の核心層
『また兵部弟監(ピョンブチェガム)キム・ソヒョンを
兵部令(ピョンブリョン)に昇格させ
武官の最高職 大将軍(テジャングン)の位を与える
神国をしっかり守るように』
『光栄に存じます』
※弟監(チェガム):新羅(シルラ)の兵部(ピョンブ)の官職
※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官
※神国:新羅(シルラ)の別称
『皆 聞け 神国で起きた忌まわしき事件は 過去の過ちとして歴史の闇に葬る
今後は皆が心を一つにして 新たな夢と時代を切り開いていかねばならぬ』
『心身ともに尽くします 陛下』
便殿会議が終わり 執務室に側近のみが集まった
キム・ユシンが口火を切る
『陛下 新たな時代を切り開くとは どういう意味です
“徳業日新(とくぎょうにっしん) 網羅四方(もらしほう)”という
チヌン大帝の遺志を継ぐ時では?』
『ええ もちろんです』
閼川(アルチョン)が聞く
『それならなぜ 国防費を増やさないのです』
『鉄製の農具を増やすためです』
『鉄製の農具を?』
『陛下 お考えは分かりますが…』
『磨雲嶺(マウルリョン) 黄草嶺(ファンチョリョン) 堂項(タンハン)城
チヌン大帝はこれらの土地を どう広げたと思いますか?
武器を使ってですか? いえ 違います 人の力です』
『ええ そうです』
金春秋(キム・チュンチュ)が同意を示す
『陛下が言う“人”とは 守るべきものがある者のことですね』
『ええ 神国の利と己の利が一致する人です』
毗曇(ピダム)が聞く
『では 土地を持つ人のことですか?』
『ああ そうだ』
『しかしながら小作農や奴婢は 神国を守りたいとは思わないでしょう
すべての民に花郎(ファラン)のような忠誠は望めません』
※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団
『守るべき自身の土地 民の大義はここから始まります
国の富強が己の暮らしを豊かにすると 民に信じさせねば
三韓一統の道は進めません』
※三韓一統:高句麗(コグリョ) 百済(ペクチェ) 新羅(シルラ)の三国統一
『国中の民に 守るべき土地を持たせてみせます いつか必ず』
あまりにも壮大な 善徳(ソンドク)女王の計画であった
会議を終え 善徳(ソンドク)女王はキム・ユシンと語り合う
『“徳業日新(とくぎょうにっしん) 網羅四方(もうらしほう)”
まず最初に抱き込むべきは何だと思いますか?
私は 伽耶勢力だと思います』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
『はい 陛下 長年差別や迫害に苦しんできた伽耶人を
陛下の民として受け入れなくては』
『ええ そうするつもりです あらゆる差別を法律で禁じ伽耶人を重用します
月夜(ウォルヤ)と復耶会は 私の力となり大きな功績を立てました
彼らの期待の大きさも分かっています』
感慨深い表情で善徳(ソンドク)女王を見つめるユシン しかし…
『ですが 復耶会は… 解体させなくては
復耶会は その名自体が反逆です』
『月夜(ウォルヤ)と話はつけました
復耶会を解体し 兵を兵部(ピョンブ)に組み入れ
伽耶の人材を 神国の発展に尽力させます ご心配は無用です』
それでも 善徳(ソンドク)女王の表情は晴れない
『陛下 何か気がかりなことでも?』
『…ユシン公 月夜(ウォルヤ)の考えは… 違います』
『え?』
『私の力となってくれた者たちの中で 月夜(ウォルヤ)だけは
利害が異なるのです』
『一致させます 国の利害と民の利害を一致させるのと同様に
私が 月夜(ウォルヤ)や伽耶人たちの利害と我々の利害を一致させます』
『もしそうできなければ 月夜(ウォルヤ)は逆心を抱くことに
皆に同じ夢を持たせねばなりません 今はまだ 私とユシン公をはじめ
少数の者しか持っていませんが 新羅(シルラ)の臣下や民はもちろん
伽耶の人々にまで同じ夢を持たせるのです』
ユシンは 月夜(ウォルヤ)と話し合う
『復耶会と伽耶出身の者を 新羅(シルラ)の民として受け入れる』
『復耶会は 陛下と神国の兵となろう』
『これからは 伽耶という小さい枠を超え もっと大きな夢を見なければ
統一された三韓の地で 国を問わず皆が大きな夢を見るのだ』
『その夢の真ん中に そなたの名を残さねば』
『なに?』
ユシンの表情が強張る
『陛下も王につかれたことだし そなたも次なる野望を目指す時ではないか』
『月夜(ウォルヤ) 私に逆心はない』
『そういう意味ではない
そなたが陛下と婚姻し共に新羅(シルラ)を治めれば…』
『月夜(ウォルヤ)!』
『それこそ神国と伽耶が 真に1つとなる道だ』
『私にも陛下にも そんなつもりはない 余計なことは考えるな』
明らかに 月夜(ウォルヤ)の利害は違っていた
善徳(ソンドク)女王の言った通りだった
ユシンは愕然としてその場を離れた
女王の執務室
毗曇(ピダム)は言われた言葉を聞き返す
『剣とおっしゃいましたか』
『そう 剣だ 私の剣になれ 不正と腐敗を断ち切るそんな剣に』
生前のムンノに言われた言葉が頭をよぎる
「お前は言わば柄のない剣も同然 触れる者は手をケガするだけだ
誰かがお前の柄になってくれればと願ってきた
だが誰にも無理なら 私の手で その剣を折るしかない」
『はい陛下 いつでも陛下の剣となります』
『改革はすべて上層部から行う』
『買い占めや高利貸しなど
貴族や既得権層の不正を徹底的に取り締まれと?』
『それから 国内外の情報を管理して 私に報告せよ それがお前の仕事だ』
『承知しました 精一杯務めます』
『頼んだぞ 重要な役目だ』
『私のことは 誰が監視し牽制するのです?』
『私がお前に目を光らせている この私が』
市場の通りを 荷物を一杯に積んだ荷車の行列が通る
『これは?』
『王室に納める米だ 今回で返済も全て終わる』
『あんたら 国から荒れ地を与えられた人たちか』
『荒れ地なら 返済が精一杯で何も残らんだろ?』
『それがな 開墾した土地をもらえるんだよ』
『そうさ 俺は今日から土地持ちだ』
『今じゃ荒れ地も肥えた土地に変わった』
『うまいことやったな』
『うらやましいこった』
納められた米の確認をする虎才(ホジェ)
そこへ善徳(ソンドク)女王が現れる
『どうなりました?』
『はい 荒れ地の収穫分も含め 全部で300石です 見てください』
随行してきたヨンチュン公が
『顔を上げよ ポンギというのは?』
『私です』
『荒れ地で最も多くの収穫を上げたそうだな』
女王じきじきに声を掛けられ 恐縮するポンギという青年は
『陛下から頂いた よい農具のおかげです』
『お前を供奉開師(コンボンケサ)に任命する』
※供奉開師(コンボンケサ):農業や開墾の指導に当たる官吏
『供奉開師(コンボンケサ)とは…』
『これから他の地域も開墾事業を推し進める
皆がより多くの荒れ地を耕せるよう指導せよ』
『あ…ありがたき幸せにございます!』
ヨンチュン公が皆に向けて宣言する
『毎年 収穫量の多かった者を供奉開師(コンボンケサ)として引き立てる
皆も精進せよ!』
『ありがたき幸せにございます!』
『女王陛下 万歳!』
徐羅伐(ソラボル)に早馬で 善徳(ソンドク)女王のもとへ駆け付けたのは
金春秋(キム・チュンチュ)だ
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
『どうなりましたか?』
『大勝です 上将軍(サンジャングン)キム・ユシンが
百済(ペクチェ)軍を大破しました!』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『陛下 お祝い申し上げます』
『しかしなぜ 伝令よりも先にそなたが?』
『それが…』
善徳(ソンドク)女王に耳打ちする竹方(チュクパン)
『近頃 春秋(チュンチュ)公は乗馬に夢中で…』
『キム・ユシンの部隊が まもなく徐羅伐(ソラボル)へ帰還します』
凱旋するキム・ユシンの行列を 民が歓喜の声で迎える
ユシンに並んでいるのは月夜(ウォルヤ)
『民からの人気が高まっていますね』
『将軍の名誉は 町ではなく戦場にある
隊大監(テデガム)雪地(ソルチ)の姿が見えないな 誰より先に来るはず』
※隊大監(テデガム):軍営の武官職
『戦に同行できず いじけているのでしょう』
司量部(サリャンブ) 尋問室に 雪地(ソルチ)の姿はあった
大声で叫び続けている
『誰か来ぬか!おい!来いと言っているだろう!!!
この私を無視するのか!!!』
司量部(サリャンブ)では サンタクが兵を整列させている
『司量部(サリャンブ)!乙組12名!全員揃いました!』
※司量部(サリャンブ):王室のすべての部署を監察する部署
そこへ 宝宗(ポジョン)が走ってくる
『司量部令(サリャンブリョン)!
黒歯(こくし)国の使臣が訪問した時に領客府(ヨンゲクフ)が出した報告書です』
※黒歯(こくし)国:フィリピン
※領客府(ヨンゲクフ):使臣の応接や外交業務を担当した部署
『もてなしの費用や場所 参加者などが記録されています』
『スウルブ公は?』
『お連れしました 大等(テドゥン)ゆえ司量部令(サリャンブリョン)が
直接お取調べください』
『いいだろう 行こう』
雪地(ソルチ)とは別の尋問室に捕らわれているスウルブ公
毗曇(ピダム)は司量部令(サリャンブリョン)としてスウルブ公の前に座る
『賞賜署(サンサソ)で内容の異なる帳簿が2つ見つかりました
大正(テジョン)は何もご存じないとおっしゃるのですね?』
※賞賜署(サンサソ):国家功労者への報償と賞勲業務を担当
※大正(テジョン):賞賜署(サンサソ)の長官
『戦死した兵の身元確認は困難ゆえ 記録に手違いが生じることもあります』
『遺体を掘り起こしてでも把握すべきです 誰に与えるべきか
はっきりしないからと 戦死者の褒賞金を官吏たちで山分けするとは』
『山分けですと?!とんでもない』
『名誉の死を遂げた兵には相応の補償がなされるべきです
それでこそ 神国の兵たちが国へ忠誠を誓うのです』
『……』
『改革は上から行い 救済は下から行う
それが陛下のお考えです お分かりですね』
『し…承知しました』
執務室に戻った毗曇(ピダム)を待っていたのは
ソルォン 宝宗(ポジョン) ヨムジョンだ
『新たに建立する感恩(カムン)寺と奉徳(ポンドク)寺に
成典(ソンジョン)が設置され 上堂(サンダン)が2人配置されました』
※成典(ソンジョン):王室の寺院や宮殿の建設の担当部署
『建築資材の記録を報告するよう指示を』
『承知しました』
『高句麗(コグリョ)から伝書鳩は戻ってきたか』
『はい 高句麗(コグリョ)の政情が不安定です
大對盧(テデロ)の地位にある将軍が政変を起こす可能性も』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※大對顱(テデロ):高句麗(コグリョ)の国政を管理する最高位の官職
『その話は後で聞くとしよう 雪地(ソルチ)は何か自白を?』
『まだ口を割りません』
宝宗(ポジョン)の答えに補足するソルォンとヨムジョン
『上将軍(サンジャングン)ユシンが帰還したので すぐに知れるかと』
『まだ証拠もなく全容がつかめておりません』
『ユシンはどこですか 戦勝を祝ってやらなくては』
『陛下が祝勝会を設けられたので そこかと存じます
ユシン軍の凱旋で 町は盛り上がりでした “ユシン軍 万歳” と歓声まで』
『ユシン軍だと?』
ヨムジョンの何気ない発言に ソルォンと宝宗(ポジョン)は凍りつく
『神国にユシン軍など存在しない 兵はすべて陛下のものだ』
キム・ユシンを出迎える毗曇(ピダム)
『ご苦労だった』
『そなたも苦労が多いと聞いたが』
『とんでもない 宮中にいながら苦労など
戦場へ赴かぬ私を皮肉っているのか』
『ハッハッハ… まさか』
『ユンチュン率いる百済(ペクチェ)軍は?』
『優れた武将だった 百済(ペクチェ)との前線が不安だ』
『陛下には?』
『今 お会いしてきた そなたもか』
『うん 近いうちに戦勝祝いの酒をおごる』
『ああ』
ユシンが立ち去った後の毗曇(ピダム)は 凍りつくような無表情になる
その足で 善徳(ソンドク)女王の執務室へ
『百済(ペクチェ)王プヨ・ジャンの病状が悪化しているようです
戦に出た太子の義慈(ウィジャ)が王位を継ぐでしょう』
『ユシン公も懸念している 戦線に補充できる兵の最大数と最小数を調べ
増えた兵力の軍事品の確保を』
『はい 次は監察事項です
スウルブ公とチャヨン公 伊飡(イチャン)のスムンに横領の疑いが』
※伊飡(イチャン):新羅(シルラ)における十七官位の2番目
『証拠は?』
『見つかっていません 警告したのでやめるでしょう』
『俸禄の1割までは目をつぶるが それを超えたらすぐに捕えよ』
『はい それから次は… 例の問題です どうしますか』
祝勝祝いの宴では 皆が口々に苦労話や自慢話を繰り広げる
『ヨンジョン山の絶壁の上から 岩が落ちて来た時は焦ったよ』
『高島(コド)が盾になって守ってくれた』
『危うく下敷きになるところだったな』
『高島(コド)隊大監(テデガム) ご苦労だった 酒を注ごう』
『恐れ入ります』
『それにしても こうも人が変わるとはな』
そこへ 今は内省(ネソン)の大舎(テサ)となった竹方(チュクパン)が
サンタクを連れて現れる
※大舎(テサ):内省(ネソン)の3番目の官職
『あの日を境に変わったんですよ』
『来たのか』
『はい上将軍(サンジャングン) 戦は大勝だったとか』
『お祝い申し上げます』
『やめてくれ』
着席するように促され 宴席に座る竹方(チュクパン)
しかし サンタクが座るべき場所がない
『おい 大舎(テサ)殿だけかよ 司量部(サリャンブ)の俺の席は?』
『司量部(サリャンブ)が何だ』
『司量部(サリャンブ)は陛下直属の機関で 皆を監視する重要な部署だ!
俺は下っ端だが せっかく来てやったんだ 座らせろ!』
無反応な一同に激怒し サンタクは高島(コド)に噛みつく
『お前もあいさつくらいしたらどうだ!』
『兵部(ピョンブ)の隊大監(テデガム)が司量部(サリャンブ)の下っ端に?』
『な…何だと?偉そうな口を利くようになったもんだ!何でこうなった?!!!』
『あの日からさ』
『あの日?』
物知り顔で“あの日”と言う竹方(チュクパン)だが
それについては誰も知らないようだ
『おい いや失礼 隊大監(テデガム)殿
あの日 隊大監(テデガム)殿を目覚めさせたのは誰でしたかな?
陛下を宮殿から脱出させた日 丸太を持たせてやったのは?』
『うぉっほん! …つまらない昔話だ』
『“つまらない昔話だ”って まったく… 調子に乗るなよ』
どっしり構えて威厳させ感じさせる高島(コド)が 竹方(チュクパン)の威嚇に
一瞬の怯えを見せる
『見たか びっくりしてよけたぞ アッハッハ…』
『ところで 月夜(ウォルヤ)はどこに?』
宴席に顔を見せない月夜(ウォルヤ)を心配するキム・ユシンに
谷使欣(コクサフン)が答える
『雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)を捜しに行きました』
雪地(ソルチ)が司量部(サリャンブ)に捕らわれていることも
司量部(サリャンブ)の矛先が自分に向かいつつあることも
この時まだ ユシンは知らなかった
執務室の善徳(ソンドク)女王と毗曇(ピダム)は…
『ユシンを疑うのか?』
『私は 皆を疑わねばなりません 私自身のことさえも それが私の仕事です』
『……』
『ご許可を』
『この件は 慎重に進めなくては』
『人を疑い 調査するのだから当然です』
『確証はあるのか』
『いいえ まだ』
『ならば 許可できぬ ただし… 調査は続けよ』
一方 仕事もせず呑んだくれている夏宗(ハジョン)を
美生(ミセン)がなだめている
『もうそれくらいにしたらどうだ』
『叔父上は腹が立たぬのですか …立つわけないか
礼部令(イェブリョン)を続けているし 何も変わっていない』
※礼部令(イェブリョン):外交および儀式を司る礼部(イェブ)の長官
『好きで続けていると? 子が100人もいては 迂闊に死ねんのだ』
『我々は生きるしかないのです
父上の命日にこうして酒も飲めるわけですしね
うぅ… どうしてこんなことに… 情けなくて仕方ありません!
考えてもみてください 毗曇(ピダム)や宝宗(ポジョン)は弟で
私は兄なんですよ!』
『栄枯盛衰というでしょう』
『それにしたって!私より格下だった連中が皆…』
一番能力のない夏宗(ハジョン)が 一番上の地位にいたことが
そもそも問題だったのだと… 美生(ミセン)はやれやれという表情で聞く
『それにユシンまでが上将軍(サンジャングン)とかいうのになって
勢いづいているんですよ!』
『分かったから さあ飲め まったく… 心行くまで飲むがいい』
夜更けに 兵士を招集する毗曇(ピダム)
『全員 捕らえるのだ 各自 確認は済んだか』
『はい!』
『情報を知り隠れる恐れもある 皆一斉に捕らえよ!』
兵士を率いるのは宝宗(ポジョン)
各部署に立ち入り 司量(サリャン)の札を見せつける
『司量部(サリャンブ)です ご同行願います』
『な…なぜ司量部(サリャンブ)が…』
男を連行していく宝宗(ポジョン)を かつての花郎(ファラン)仲間が見ている
『宝宗(ポジョン)ではないか』
『ああ 今度は何事だ』
『近頃の司量部(サリャンブ)は飛ぶ鳥落とす勢いだ
陛下を後ろ盾にして毗曇(ピダム)が勢いづいている』
『おい!言葉に気をつけろ 聞かれたら大変だ』
『その通りだ 用心した方がいい』
『そうだな』
その頃ようやく ユシンは雪地(ソルチ)が捕らわれたことを知った
『何だと 雪地(ソルチ)が司量部(サリャンブ)に?!』
『はい 捕らわれた理由は不明です』
『あいつら 無理矢理引っ張って行きますからね』
『偉そうに司量部(サリャンブ)の札を突きつけるだけです』
『口を慎め!陛下の直属機関だぞ 疑いが晴れればすぐに放免される』
『雪地(ソルチ)は兵部(ピョンブ)の人間です
毗曇(ピダム)公に事情を聞きに行かれては?』
『そうしてください 兵部(ピョンブ)の士気にかかわります
司量部(サリャンブ)は 我々を見くびっています』
『そのとおりだ 調子づきやがって!』
そこへ 兵部(ピョンブ)でもっとも下っ端の兵士チャンギが戻ってきた
険悪な雰囲気に…
(何事ですか?)
(雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)が司量部(サリャンブ)に連行された)
『えぇ?!雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)が?!!!』
『何か知っているのか?』
あまりにも大声で驚くチャンギを ユシンが訝しむ
『い…いいえ きっと何かの間違いでしょう』
そのチャンギも会議の後 司量部(サリャンブ)に待ち伏せされ連行された
宝宗(ポジョン)が連行した男は ヨムジョンの前に引きずり出された
『一体どういうことですか 何の罪か教えるべきでしょう!』
『それはこれから調べます 罪がないなら心配せずにご協力ください』
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