善徳女王 52話#2 復耶会の暗躍
『雪地(ソルチ)をよく知っているだろう 何の疑いで捕らえたのだ』
『……』
『なあ 毗曇(ピダム)』
『悪いが 私は司量部令(サリャンブリョン)ゆえ
陛下以外の者には一切事情を話せぬのだ
だが心配は無用だ 無実の者に濡れ衣を着せたりはしない』
『分かっている』
『特別な場合を除き 拷問することもない
調査をして無罪と分かればすぐに放免する』
『…私情を挟み出過ぎた真似をした 部下を思ってのことだ 許してくれ』
『私も心苦しいと思うことが だが これはこの国のための仕事だ』
『悪かったな 調査に励んでくれ』
司量部(サリャンブ)を出るキム・ユシンを引き止める声
『上将軍(サンジャングン)』
『侍衛府令(シウィブリョン)』
久々に会うユシンと閼川(アルチョン)
『侍衛府(シウィブ)の務めはどうだ』
『退屈だ 特に苦労もない』
『戦場へ戻りたいようだな』
『当然だ 百済(ペクチェ)との戦局が緊迫している
なのに宮中の警備とは 血が騒いでならんよ』
『侍衛府令(シウィブリョン)が職務に不満があると 陛下にご報告せねば』
『こいつ!』
『アハハハ…冗談だ 行こう』
ヨムジョンが 執務室の毗曇(ピダム)のもとへ
『全員捕らえ 準備が整いました』
『ひとりは牢に入れたか』
『はい しかし一体どうやって… それは何です?』
『久しぶりで 思い出すのにひと苦労だ』
毗曇(ピダム)が紙に書いているのは
絵のような文字のような 不思議なものだが…
『できた 何だと思う?』
『……暗号では?』
『ああ そうだ 伽耶人のな』
『なぜご存じなのです?』
『私も使っていた』
『え?』
『さあ 始めるか』
かつて 復耶会の行動を探っていた時 毗曇(ピダム)は気づいたのだ
師匠ムンノに教えられた暗号が 復耶会のものだと…
毗曇(ピダム)はまず 自ら書いた復耶会の暗号文を持ち
兵部(ピョンブ)で捕らえたチョングムのいる尋問室へ
『チャンギを知ってるな』
『……』
『お前たちの組織では お互いを知らないか』
『な…何の話です』
『それは チャンギが書いたものだ』
『え? あ… い…一体何なのです?』
『読めるだろ とぼけるな 読めよ』
続いて隣の尋問室にいるチャンギのもとへ
『チョングムがすべて吐いたぞ』
『……』
『お前たちの組織では お互いを知らないか
チョングムが書いたものだ もう終わりだ 白状しろ』
『何をおっしゃっているのか… アハハ…』
『さっきチョングムが言っていたな
暗号の意味は 伽・耶・一・存 “伽耶はひとつ”だ』
善徳(ソンドク)女王の前に立つキム・ユシン
『お見事です 皆がユシン公とユシン軍を称えています』
『郎徒(ナンド)時代からの同志が 軍の主軸となり頑張っています
皆のおかげです』
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
『皆 本当に変わりました 特に高島(コド)があのように変貌するとは』
『ええ 私も驚いております 戦でも大いに活躍を』
『下将軍(ハジャングン)月夜(ウォルヤ)と
隊大監(テデガム)の雪地(ソルチ)は?』
『あの2人は 兵を率いる力があります
上将軍(サンジャングン)に昇格させ別部隊を作ってもいいかと』
善徳(ソンドク)女王は ユシンから視線を外した
『皆を 固く信じているのですね』
『当然です 信じねば戦場で命を預けられません』
『…そうですか』
ユシンは その視線を逸らさない
『陛下は違うのですか?』
『そんなことはありません
徳曼(トンマン)は ユシン公を固く信じています』
敢えて“徳曼(トンマン)”の名を持ち出す善徳(ソンドク)女王
含みを持たせた言い方をした本意は…
尋問室に入れられた者たちは 毗曇(ピダム)の巧みな話術で
その正体が暴かれていった
宝宗(ポジョン)が連行した男だけが ひとり牢に入れられている
そこにもう1人 男が入れられた
『そこで待ってろ 伽耶人め!』
伽耶人と聞いた男が反応する
『もしや…』
『シッ…』
後から入れられた男は辺りを窺い 床に指で六角形の暗号を書き示す
『六卵亀(ユンナングィ)?』
※六卵亀(ユンナングィ):伽耶を象徴する6つの卵を持つ亀
『どういうことです?』
『復耶会のどの支部ですか?』
『東市(トンシ)です 何が起こっているのですか』
『分かりません 捕まっていない仲間に知らせないと』
『ここを抜け出さねば …こうしてみては?』
後から入って来た男は 耳打ちされ納得する
『やってみます』
立ち上がった男は 外に向かって声高らかに…
『済みました!開けてください』
男は出て行き 入れ替わりに牢の前には毗曇(ピダム)とヨムジョンが…!
『何も知らぬだと?調べ直しだな』
その頃善徳(ソンドク)女王は 去っていくキム・ユシンの姿を見送っていた
傍らに仕える閼川(アルチョン)が…
『頼もしいでしょう
ユシンがこうして 軍の主軸になったのですから
阿莫(アマク)城の戦いを思えば感無量です』
『司量部(サリャンブ)へ行きます』
『……司量部(サリャンブ)へ?寝所ではなく なぜ…』
『毗曇(ピダム)公に会わなくては』
毗曇(ピダム)の指示通りに動いているヨムジョンだが…
『あの…これからどうするのです』
『陛下にお会いせねば』
翌日 久々に両親を訪ねるキム・ユシン
大将軍(テジャングン)である父キム・ソヒョンと
母万明(マンミョン)夫人が迎え入れる
『宮殿の内外が司量部(サリャンブ)の噂でもちきりだ』
『耳にするのは不満の声ばかりです』
『陛下が毗曇(ピダム)を司量部(サリャンブ)に任じた理由は
ミシル勢力の牽制です』
『牽制になっているのか?連中が毗曇(ピダム)の味方についたか分からない』
『任務の性格上 誤解があるようですが
毗曇(ピダム)によからぬ考えはありません』
そこへ ユシンを訪ねて隊大監(テデガム)高島(コド)が
大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)を引き連れて現れる
『上将軍(サンジャングン)!少監(ソガム)のチャンギが
司量部(サリャンブ)へ連行されました』
『何だと?!』
※少監(ソガム):武官の8番目の等級
『まだ戦から戻ったばかりだというのに あんまりではありませんか!』
『黙って見ているのですか』
『兵部(ピョンブ)だけではなく 他の部署も末端まで容赦ありません』
大将軍(テジャングン)キム・ソヒョンが…
『宮殿へ行き 事の次第を確認せよ!』
『はい』
月夜(ウォルヤ)が 報告の者と言葉を交わしている
『チャンギ チョングム イルチュ トゴン ヨンハ 全員が?』
『はい 今 司量部(サリャンブ)で取り調べを』
『何の容疑だ?』
『分かりません ですが連行された面々は…』
『雪地(ソルチ)の時は誤解だと思ったが』
『はい 連中は何かつかんでいるのでは?』
『お前も用心しろ』
『はい』
報告の者が立ち去ってまもなく
月夜(ウォルヤ)はヨムジョン率いる兵士に取り囲まれた…!
執務室に戻ったキム・ユシンを 各部署の者たちが待っていた
『兵部令(ピョンブリョン)!相談があり参りました』
『司量部(サリャンブ)の件か』
『はい 連中の横暴さは度を越えています』
『おそらく上将軍(サンジャングン)の勢いを恐れ牽制するためでしょう』
『陛下にもご報告すべきです 上将軍(サンジャングン)が進言してください』
『事が大きくなる前に何とかせねば』
執務室を出たユシンは 言い合う声に足を止める
『お前たち 何の真似だ!』
『司量部(サリャンブ)の札を無視しますか?』
『私は兵部(ピョンブ)の下将軍(ハジャングン)だ
捕らえたければ司量部令(サリャンブリョン)が自ら来い!』
『調査にご協力ください』
『一体何事だ!』
月夜(ウォルヤ)とヨムジョンの間に ユシンが割って入る
『司量部(サリャンブ)にお連れするよう司量部令(サリャンブリョン)の命令です』
『月夜(ウォルヤ)に何の疑いが?』
『それはお話しできません』
『上将軍(サンジャングン)これではあんまりです』
『国法に逆らうと?陛下にご迷惑がかかりますよ
無実の者に濡れ衣を着せたことはございません
疑いが晴れればすぐに放免します』
竹方(チュクパン)が 金春秋(キム・チュンチュ)を訪問している
『昨夜 連行される者が各部で続出し 宮中は大騒ぎです
特に兵部(ピョンブ)の者が多数連行されました
司量部(サリャンブ)と兵部(ピョンブ)との間に 不穏な空気が流れています』
『司量部(サリャンブ)とて陛下の許可なく 勝手な真似はできぬ』
『ええ 陛下もご承知の上ということです』
『ならば司量部(サリャンブ)は 義には背いておらぬことに
問題は ユシンも同じ立場だということ
不義を働いた者はおらぬのに なぜこんな事態に?』
『陛下は どういうお考えで許可を与えたのでしょう』
『毗曇(ピダム)とユシン… どちらをより信頼しておられるのか…』
月夜(ウォルヤ)を連行していくヨムジョンの前に
林宗(イムジョン) 高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)が…!
ヨムジョンの合図でさらに兵士があらわれ4人を取り囲む
『連行の理由を申せ!』
『任務を妨害する気ですか 林宗(イムジョン)公』
『連行の理由を聞いているのだ
兵部(ピョンブ)の者や雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)
ついには月夜(ウォルヤ)下将軍(ハジャングン)まで 何を企んでいる!』
『企む?』
『さっさと連行の理由を言え!!!』
『おい その口の利き方は何だ』
声を荒げる高島(コド)を睨みつけるヨムジョン
『隊大監(テデガム)だぞ! 位の高さはそう変わらん!』
『無礼者!!!』
今にもヨムジョンにつかみかかりそうな高島(コド)
それを止めたのは キム・ユシンだ
『私が司量部令(サリャンブリョン)に事情を聞いてくる 行くんだ!』
毗曇(ピダム)に会い 直談判するキム・ユシン
『皆が司量部(サリャンブ)への不満を口にしている』
『司量部(サリャンブ)は監察機関だ 恨みを買うのも当然』
『なぜ月夜(ウォルヤ)を?』
『どの機関にも公平に対処している
そなたと親しいから 兵部(ピョンブ)を大目に見ろと?』
『皆 戦から戻ったばかりなのだ 軍の士気を下げる気か!』
『軍の士気?ユシン軍ではなく?』
『司量部令(サリャンブリョン)!』
『陛下の許可は得ている 訳を知りたくば陛下に直接お聞きしろ』
広く徐羅伐(ソラボル)を見渡す位置に 善徳(ソンドク)女王は座している
以前はミシルが座していたその玉座に…
深く目を閉じ考え込んでいる善徳(ソンドク)女王に声をかける閼川(アルチョン)
『陛下 上将軍(サンジャングン)が謁見を願いたいと』
『…分かりました 通しなさい』
通されたキム・ユシンに 善徳(ソンドク)女王は表情を変えることなく…
『どうしましたか』
『陛下 下将軍(ハジャングン)月夜(ウォルヤ)が
司量部(サリャンブ)に拘束されました
司量部令(サリャンブリョン)は “陛下の許可を得た” と
怖れながらお尋ねいたします 月夜(ウォルヤ)に何の罪が?』
『……』
『部下が罪を犯したなら 私にも責任がございます
罪名をお告げになり 私に責任を問うてください
戦から戻ったばかりの神国の武将を なぜ…』
『月夜(ウォルヤ)を 捨てなさい いいえ 伽耶を… 伽耶を捨てるのです』
『……どういう意味ですか?』
善徳(ソンドク)女王は立ち上がり 真正面からユシンを見据えた
『ユシン公 私は伽耶人に対する差別を律令で禁じ
伽耶出身の人々を要職に就かせました 伽耶人の土地を返し
これまでの苦難を考慮して税も減免しました ご存じですね』
『もちろんです しかしそのことが一体…』
『伽耶人も神国の民として平等に扱ってきました
私の在位中は ずっとそうするつもりです それなのになぜ なぜ…』
善徳(ソンドク)女王の目には涙が滲んでいる
『まさか そんな… 陛下!』
『なのになぜ!!! 復耶会が活動を?
解体して兵部(ピョンブ)に組み入れたはずでは?』
『それでは 昨夜連行された者たちは…』
『そうです 隠密に活動していた復耶会の者たちです
組織の長は!!! 月夜(ウォルヤ)です』
『陛下!』
『ユシン公 伽耶を… 捨てるのです』
この事実を知った夏宗(ハジョン)と美生(ミセン) ソルォンは…
『本当に捨てたら?』
『ユシンは伽耶を捨てられません』
『ユシンを育てたのは伽耶勢力です
切り捨てることも 月夜(ウォルヤ)を見捨てることも
ユシンの性分からいって難しいでしょう』
『伽耶はユシンの武器でしたが その武器で己を傷つけることに』
『なぜ復耶会の存続が分かった?』
『長年 迫害されてきたのです 待遇が改善しても不安は拭えぬはず
その不安に打ち勝ち 組織を解体するのは無理です』
『毗曇(ピダム)も恐ろしい奴だ 復耶会の暗躍は安保に関わる問題
大義に背くことなく政敵のユシンを排除できる
ハハハ… そっくりだ 懐かしいあのお方に』
『ええ 実によく似ています あのお方に…』
『この計画は成功すると思いますか』
『“ユシンに伽耶は捨てられぬ” 毗曇(ピダム)の計画はそれが前提
ユシンがどう出るか それ次第でしょう』
復耶会の暗躍の事実を告げられたキム・ユシンは
善徳(ソンドク)女王の前にひざまずく
『納得しましたか ユシン公』
『陛下!それが事実なら月夜(ウォルヤ)は大逆罪を犯したことに!
ですが伽耶人は長年迫害されてきました 不安が拭えなかっただけです
よからぬ考えはないはずです!』
『……』
『陛下 怖れながら申し上げます 伽耶の民は…!』
自らの口からこぼれた言葉に驚くユシン
善徳(ソンドク)女王は この一言に激怒する
『伽耶の民?!!! この世のどこに伽耶の民がいる!!!
すべて神国の民であり この私の民だ!』
『陛下…!』
『毗曇(ピダム)!』
『お呼びでございますか』
『調査の… 結果は?』
チラとユシンを見る毗曇(ピダム)は
いまだ怒りに震えている善徳(ソンドク)女王の前に立ち報告する
『復耶会の綱領が見つかり 月夜(ウォルヤ)が長だと判明しました
今 各界に潜む密偵を割り出しています』
ユシンを睨みつける善徳(ソンドク)女王
『陛下 司量部令(サリャンブリョン)毗曇(ピダム)が進言いたします
月夜(ウォルヤ)が長である以上 ユシンとの関係も調べねば
上将軍(サンジャングン)ユシンの取り調べを ご許可ください』
『……』
『なあ 毗曇(ピダム)』
『悪いが 私は司量部令(サリャンブリョン)ゆえ
陛下以外の者には一切事情を話せぬのだ
だが心配は無用だ 無実の者に濡れ衣を着せたりはしない』
『分かっている』
『特別な場合を除き 拷問することもない
調査をして無罪と分かればすぐに放免する』
『…私情を挟み出過ぎた真似をした 部下を思ってのことだ 許してくれ』
『私も心苦しいと思うことが だが これはこの国のための仕事だ』
『悪かったな 調査に励んでくれ』
司量部(サリャンブ)を出るキム・ユシンを引き止める声
『上将軍(サンジャングン)』
『侍衛府令(シウィブリョン)』
久々に会うユシンと閼川(アルチョン)
『侍衛府(シウィブ)の務めはどうだ』
『退屈だ 特に苦労もない』
『戦場へ戻りたいようだな』
『当然だ 百済(ペクチェ)との戦局が緊迫している
なのに宮中の警備とは 血が騒いでならんよ』
『侍衛府令(シウィブリョン)が職務に不満があると 陛下にご報告せねば』
『こいつ!』
『アハハハ…冗談だ 行こう』
ヨムジョンが 執務室の毗曇(ピダム)のもとへ
『全員捕らえ 準備が整いました』
『ひとりは牢に入れたか』
『はい しかし一体どうやって… それは何です?』
『久しぶりで 思い出すのにひと苦労だ』
毗曇(ピダム)が紙に書いているのは
絵のような文字のような 不思議なものだが…
『できた 何だと思う?』
『……暗号では?』
『ああ そうだ 伽耶人のな』
『なぜご存じなのです?』
『私も使っていた』
『え?』
『さあ 始めるか』
かつて 復耶会の行動を探っていた時 毗曇(ピダム)は気づいたのだ
師匠ムンノに教えられた暗号が 復耶会のものだと…
毗曇(ピダム)はまず 自ら書いた復耶会の暗号文を持ち
兵部(ピョンブ)で捕らえたチョングムのいる尋問室へ
『チャンギを知ってるな』
『……』
『お前たちの組織では お互いを知らないか』
『な…何の話です』
『それは チャンギが書いたものだ』
『え? あ… い…一体何なのです?』
『読めるだろ とぼけるな 読めよ』
続いて隣の尋問室にいるチャンギのもとへ
『チョングムがすべて吐いたぞ』
『……』
『お前たちの組織では お互いを知らないか
チョングムが書いたものだ もう終わりだ 白状しろ』
『何をおっしゃっているのか… アハハ…』
『さっきチョングムが言っていたな
暗号の意味は 伽・耶・一・存 “伽耶はひとつ”だ』
善徳(ソンドク)女王の前に立つキム・ユシン
『お見事です 皆がユシン公とユシン軍を称えています』
『郎徒(ナンド)時代からの同志が 軍の主軸となり頑張っています
皆のおかげです』
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
『皆 本当に変わりました 特に高島(コド)があのように変貌するとは』
『ええ 私も驚いております 戦でも大いに活躍を』
『下将軍(ハジャングン)月夜(ウォルヤ)と
隊大監(テデガム)の雪地(ソルチ)は?』
『あの2人は 兵を率いる力があります
上将軍(サンジャングン)に昇格させ別部隊を作ってもいいかと』
善徳(ソンドク)女王は ユシンから視線を外した
『皆を 固く信じているのですね』
『当然です 信じねば戦場で命を預けられません』
『…そうですか』
ユシンは その視線を逸らさない
『陛下は違うのですか?』
『そんなことはありません
徳曼(トンマン)は ユシン公を固く信じています』
敢えて“徳曼(トンマン)”の名を持ち出す善徳(ソンドク)女王
含みを持たせた言い方をした本意は…
尋問室に入れられた者たちは 毗曇(ピダム)の巧みな話術で
その正体が暴かれていった
宝宗(ポジョン)が連行した男だけが ひとり牢に入れられている
そこにもう1人 男が入れられた
『そこで待ってろ 伽耶人め!』
伽耶人と聞いた男が反応する
『もしや…』
『シッ…』
後から入れられた男は辺りを窺い 床に指で六角形の暗号を書き示す
『六卵亀(ユンナングィ)?』
※六卵亀(ユンナングィ):伽耶を象徴する6つの卵を持つ亀
『どういうことです?』
『復耶会のどの支部ですか?』
『東市(トンシ)です 何が起こっているのですか』
『分かりません 捕まっていない仲間に知らせないと』
『ここを抜け出さねば …こうしてみては?』
後から入って来た男は 耳打ちされ納得する
『やってみます』
立ち上がった男は 外に向かって声高らかに…
『済みました!開けてください』
男は出て行き 入れ替わりに牢の前には毗曇(ピダム)とヨムジョンが…!
『何も知らぬだと?調べ直しだな』
その頃善徳(ソンドク)女王は 去っていくキム・ユシンの姿を見送っていた
傍らに仕える閼川(アルチョン)が…
『頼もしいでしょう
ユシンがこうして 軍の主軸になったのですから
阿莫(アマク)城の戦いを思えば感無量です』
『司量部(サリャンブ)へ行きます』
『……司量部(サリャンブ)へ?寝所ではなく なぜ…』
『毗曇(ピダム)公に会わなくては』
毗曇(ピダム)の指示通りに動いているヨムジョンだが…
『あの…これからどうするのです』
『陛下にお会いせねば』
翌日 久々に両親を訪ねるキム・ユシン
大将軍(テジャングン)である父キム・ソヒョンと
母万明(マンミョン)夫人が迎え入れる
『宮殿の内外が司量部(サリャンブ)の噂でもちきりだ』
『耳にするのは不満の声ばかりです』
『陛下が毗曇(ピダム)を司量部(サリャンブ)に任じた理由は
ミシル勢力の牽制です』
『牽制になっているのか?連中が毗曇(ピダム)の味方についたか分からない』
『任務の性格上 誤解があるようですが
毗曇(ピダム)によからぬ考えはありません』
そこへ ユシンを訪ねて隊大監(テデガム)高島(コド)が
大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)を引き連れて現れる
『上将軍(サンジャングン)!少監(ソガム)のチャンギが
司量部(サリャンブ)へ連行されました』
『何だと?!』
※少監(ソガム):武官の8番目の等級
『まだ戦から戻ったばかりだというのに あんまりではありませんか!』
『黙って見ているのですか』
『兵部(ピョンブ)だけではなく 他の部署も末端まで容赦ありません』
大将軍(テジャングン)キム・ソヒョンが…
『宮殿へ行き 事の次第を確認せよ!』
『はい』
月夜(ウォルヤ)が 報告の者と言葉を交わしている
『チャンギ チョングム イルチュ トゴン ヨンハ 全員が?』
『はい 今 司量部(サリャンブ)で取り調べを』
『何の容疑だ?』
『分かりません ですが連行された面々は…』
『雪地(ソルチ)の時は誤解だと思ったが』
『はい 連中は何かつかんでいるのでは?』
『お前も用心しろ』
『はい』
報告の者が立ち去ってまもなく
月夜(ウォルヤ)はヨムジョン率いる兵士に取り囲まれた…!
執務室に戻ったキム・ユシンを 各部署の者たちが待っていた
『兵部令(ピョンブリョン)!相談があり参りました』
『司量部(サリャンブ)の件か』
『はい 連中の横暴さは度を越えています』
『おそらく上将軍(サンジャングン)の勢いを恐れ牽制するためでしょう』
『陛下にもご報告すべきです 上将軍(サンジャングン)が進言してください』
『事が大きくなる前に何とかせねば』
執務室を出たユシンは 言い合う声に足を止める
『お前たち 何の真似だ!』
『司量部(サリャンブ)の札を無視しますか?』
『私は兵部(ピョンブ)の下将軍(ハジャングン)だ
捕らえたければ司量部令(サリャンブリョン)が自ら来い!』
『調査にご協力ください』
『一体何事だ!』
月夜(ウォルヤ)とヨムジョンの間に ユシンが割って入る
『司量部(サリャンブ)にお連れするよう司量部令(サリャンブリョン)の命令です』
『月夜(ウォルヤ)に何の疑いが?』
『それはお話しできません』
『上将軍(サンジャングン)これではあんまりです』
『国法に逆らうと?陛下にご迷惑がかかりますよ
無実の者に濡れ衣を着せたことはございません
疑いが晴れればすぐに放免します』
竹方(チュクパン)が 金春秋(キム・チュンチュ)を訪問している
『昨夜 連行される者が各部で続出し 宮中は大騒ぎです
特に兵部(ピョンブ)の者が多数連行されました
司量部(サリャンブ)と兵部(ピョンブ)との間に 不穏な空気が流れています』
『司量部(サリャンブ)とて陛下の許可なく 勝手な真似はできぬ』
『ええ 陛下もご承知の上ということです』
『ならば司量部(サリャンブ)は 義には背いておらぬことに
問題は ユシンも同じ立場だということ
不義を働いた者はおらぬのに なぜこんな事態に?』
『陛下は どういうお考えで許可を与えたのでしょう』
『毗曇(ピダム)とユシン… どちらをより信頼しておられるのか…』
月夜(ウォルヤ)を連行していくヨムジョンの前に
林宗(イムジョン) 高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)が…!
ヨムジョンの合図でさらに兵士があらわれ4人を取り囲む
『連行の理由を申せ!』
『任務を妨害する気ですか 林宗(イムジョン)公』
『連行の理由を聞いているのだ
兵部(ピョンブ)の者や雪地(ソルチ)隊大監(テデガム)
ついには月夜(ウォルヤ)下将軍(ハジャングン)まで 何を企んでいる!』
『企む?』
『さっさと連行の理由を言え!!!』
『おい その口の利き方は何だ』
声を荒げる高島(コド)を睨みつけるヨムジョン
『隊大監(テデガム)だぞ! 位の高さはそう変わらん!』
『無礼者!!!』
今にもヨムジョンにつかみかかりそうな高島(コド)
それを止めたのは キム・ユシンだ
『私が司量部令(サリャンブリョン)に事情を聞いてくる 行くんだ!』
毗曇(ピダム)に会い 直談判するキム・ユシン
『皆が司量部(サリャンブ)への不満を口にしている』
『司量部(サリャンブ)は監察機関だ 恨みを買うのも当然』
『なぜ月夜(ウォルヤ)を?』
『どの機関にも公平に対処している
そなたと親しいから 兵部(ピョンブ)を大目に見ろと?』
『皆 戦から戻ったばかりなのだ 軍の士気を下げる気か!』
『軍の士気?ユシン軍ではなく?』
『司量部令(サリャンブリョン)!』
『陛下の許可は得ている 訳を知りたくば陛下に直接お聞きしろ』
広く徐羅伐(ソラボル)を見渡す位置に 善徳(ソンドク)女王は座している
以前はミシルが座していたその玉座に…
深く目を閉じ考え込んでいる善徳(ソンドク)女王に声をかける閼川(アルチョン)
『陛下 上将軍(サンジャングン)が謁見を願いたいと』
『…分かりました 通しなさい』
通されたキム・ユシンに 善徳(ソンドク)女王は表情を変えることなく…
『どうしましたか』
『陛下 下将軍(ハジャングン)月夜(ウォルヤ)が
司量部(サリャンブ)に拘束されました
司量部令(サリャンブリョン)は “陛下の許可を得た” と
怖れながらお尋ねいたします 月夜(ウォルヤ)に何の罪が?』
『……』
『部下が罪を犯したなら 私にも責任がございます
罪名をお告げになり 私に責任を問うてください
戦から戻ったばかりの神国の武将を なぜ…』
『月夜(ウォルヤ)を 捨てなさい いいえ 伽耶を… 伽耶を捨てるのです』
『……どういう意味ですか?』
善徳(ソンドク)女王は立ち上がり 真正面からユシンを見据えた
『ユシン公 私は伽耶人に対する差別を律令で禁じ
伽耶出身の人々を要職に就かせました 伽耶人の土地を返し
これまでの苦難を考慮して税も減免しました ご存じですね』
『もちろんです しかしそのことが一体…』
『伽耶人も神国の民として平等に扱ってきました
私の在位中は ずっとそうするつもりです それなのになぜ なぜ…』
善徳(ソンドク)女王の目には涙が滲んでいる
『まさか そんな… 陛下!』
『なのになぜ!!! 復耶会が活動を?
解体して兵部(ピョンブ)に組み入れたはずでは?』
『それでは 昨夜連行された者たちは…』
『そうです 隠密に活動していた復耶会の者たちです
組織の長は!!! 月夜(ウォルヤ)です』
『陛下!』
『ユシン公 伽耶を… 捨てるのです』
この事実を知った夏宗(ハジョン)と美生(ミセン) ソルォンは…
『本当に捨てたら?』
『ユシンは伽耶を捨てられません』
『ユシンを育てたのは伽耶勢力です
切り捨てることも 月夜(ウォルヤ)を見捨てることも
ユシンの性分からいって難しいでしょう』
『伽耶はユシンの武器でしたが その武器で己を傷つけることに』
『なぜ復耶会の存続が分かった?』
『長年 迫害されてきたのです 待遇が改善しても不安は拭えぬはず
その不安に打ち勝ち 組織を解体するのは無理です』
『毗曇(ピダム)も恐ろしい奴だ 復耶会の暗躍は安保に関わる問題
大義に背くことなく政敵のユシンを排除できる
ハハハ… そっくりだ 懐かしいあのお方に』
『ええ 実によく似ています あのお方に…』
『この計画は成功すると思いますか』
『“ユシンに伽耶は捨てられぬ” 毗曇(ピダム)の計画はそれが前提
ユシンがどう出るか それ次第でしょう』
復耶会の暗躍の事実を告げられたキム・ユシンは
善徳(ソンドク)女王の前にひざまずく
『納得しましたか ユシン公』
『陛下!それが事実なら月夜(ウォルヤ)は大逆罪を犯したことに!
ですが伽耶人は長年迫害されてきました 不安が拭えなかっただけです
よからぬ考えはないはずです!』
『……』
『陛下 怖れながら申し上げます 伽耶の民は…!』
自らの口からこぼれた言葉に驚くユシン
善徳(ソンドク)女王は この一言に激怒する
『伽耶の民?!!! この世のどこに伽耶の民がいる!!!
すべて神国の民であり この私の民だ!』
『陛下…!』
『毗曇(ピダム)!』
『お呼びでございますか』
『調査の… 結果は?』
チラとユシンを見る毗曇(ピダム)は
いまだ怒りに震えている善徳(ソンドク)女王の前に立ち報告する
『復耶会の綱領が見つかり 月夜(ウォルヤ)が長だと判明しました
今 各界に潜む密偵を割り出しています』
ユシンを睨みつける善徳(ソンドク)女王
『陛下 司量部令(サリャンブリョン)毗曇(ピダム)が進言いたします
月夜(ウォルヤ)が長である以上 ユシンとの関係も調べねば
上将軍(サンジャングン)ユシンの取り調べを ご許可ください』
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