善徳女王 53話#2 神国の敵キム・ユシン


『もしや わざと復耶会をおびきよせ…』
『それも考えられるが もしそうでなければ…』
『そうでなければ?』

金春秋(キム・チュンチュ)は竹方(チュクパン)を残し 慌てて出て行く

移送中のキム・ユシン
並んで歩く兵士が 突然その腕枷をはずす

『何を…』

何も知らないユシンが驚くと同時に 枯葉の中から復耶会の兵士が躍り出る!
予想していたとはいえ 宝宗(ポジョン)たちにも緊張が走る
遅れて現れた雪地(ソルチ)が…

『助けに来ました』
『どういうことだ!』
『後で説明します!』
『月夜(ウォルヤ)はどこだ』
『まずは逃げてください!』
『……』
『急いでください!!!』

雪地(ソルチ)と共に走り去るユシンを確認し 宝宗(ポジョン)はほくそ笑む

『待て!』

宮殿内を慌ただしく走り回る兵士を呼び止める春秋(チュンチュ)
立ち止まったのはサンタクだ

『緊急事態が発生し 呼ばれております!』
『何があった』
『あ…司量部(サリャンブ)の問題なので申し上げられません』
『もしや ユシンが逃亡を?』
『えぇ?!!! なぜお分かりで? あ…しまった!言っちゃいけないのに…』

戻った宝宗(ポジョン)が 毗曇(ピダム)に報告する

『計画通りです』
『ご苦労だった 陛下にも伝わる頃だろう』

善徳(ソンドク)女王のもとへ報告に来たのは竹方(チュクパン)だった

『なぜそんなことが?』
『その… ユシン公を移送する途中で 復耶会に襲われました
移送についた司量部(サリャンブ)の者の中に 復耶会がいたそうです
密偵が3人も紛れていたとか そんなことも起きますよ』
『復耶会の者がそんなに?任務に就いた者のうち3人も復耶会だったとは!
どういうことですか!!!』
『ええ 確かにおかしいと思います』
『毗曇(ピダム)…』
『はい?』
『毗曇(ピダム)はどこですか!!!』

ニヤリと笑いながら 毗曇(ピダム)はさらなる指示を出している

『上将軍(サンジャングン)ユシンを 神国の敵だと公表すべきです』
『復耶会との関係を示す物証はありませんが
ユシンを連れ去り 関係は明白です』
『覆水盆に返らず 取り返しがつかない状況になりました』
『これ以上確かな証拠はありませんよ』
『素晴らしい策でしたね ご立派ですよ』

幾分酔いが醒めた夏宗(ハジョン)が 投げやりに賛辞する

『例の件は進んでいますか?』
『美生(ミセン)公が今晩にも会合を開くそうです』

ヨムジョンの商団内において 会合が開かれた

『司量部令(サリャンブリョン)の毗曇(ピダム)公がお見えです ご起立を』
『お集まりくださり感謝いたします 復耶会の件で神国が危機に瀕しています
神国の英雄の上将軍(サンジャングン)まで関わっていたとは
嘆かわしい限りです 上将軍(サンジャングン)ユシン
下将軍(ハジャングン)月夜(ウォルヤ) 隊大監(テデガム)雪地(ソルチ)
兵部(ピョンブ)を拠点に活動していました
司量部令(サリャンブリョン)として責任を感じます
今こそ 神国を担う皆様の 特別な努力が必要です
そこで これを機に朝廷の各部を改変します
チュジン公が兵部(ピョンブ)の立て直しを
新たな兵部令(ピョンブリョン)として 陛下に推薦します』
『…司量部令(サリャンブリョン)に感謝いたします』
『明日 便殿会議が開かれます
皆様は 事態の深刻さを陛下に訴えてください
皆様の 国への忠誠心には 私が必ず応えます』

便殿会議

『逆賊です 上将軍(サンジャングン)キム・ユシンは
兵部(ピョンブ)内で私兵を抱え 復耶会を養成しました』
『さらに司量部(サリャンブ)の役人と兵を殺し逃亡しました これは謀反です
今までの功績が偉大でも この件は別問題です』

皆の意見を取りまとめるように 美生(ミセン)が…

『陛下 上将軍(サンジャングン)ユシンを 神国の敵として宣布しましょう』
『……』
『またユシンの父ソヒョン公に 兵部(ピョンブ)を任せられません
罷免すべきかと存じます』
『賛成です 官職に登用してきた伽耶人も退かせるべきです』
『逆賊です』
『神国の敵です』
『そのとおりです!』
『陛下 ご決断を!』

今まさに神国の敵に仕立て上げられようとしているキム・ユシンは
月夜(ウォルヤ)の胸ぐらをつかんでいた

『月夜(ウォルヤ)!なぜこんなことを?』
『だましたことは謝る』
『謝るだと?!!!』
『上将軍(サンジャングン)…』

月夜(ウォルヤ)を殴りつけるユシンを 雪地(ソルチ)が止めに入る
その雪地(ソルチ)をも ユシンは殴り倒した

『私はお前たちに 仁義と真心で接してきた 同盟だと?
こんな偽りに満ちた同盟があるか!!!』
『60万の命が懸かっている!!!
自分の子を抱いたことがあれば 1人の命の重さが分かるはず
伽耶人は60万人だ!』
『だから何だ』
『私は60万の命を背負っているのだ
その60万の民は 80年も迫害されてきた 私はすべてに備える必要があった』
『陛下が伽耶人に与えた恩恵を忘れたか!』
『陛下はいつか亡くなる!陛下の心が変わらないとも限らない
私1人なら陛下を固く信じた しかし!!!
私が信じて失敗すれば 60万の民が地獄を味わう』

月夜(ウォルヤ)の目から ハラハラと涙がこぼれる

『陛下に対して反逆心はない 私はただ備えただけだ』
『この先どうする』
『他の解決策はない 伽耶人の王が必要だ』
『それが私だというのか』
『そなたしかいない』
『何度も言ったはずだ!私の気持ちは変わらない』

今度は ユシンの目から涙がこぼれそうになる
雪地(ソルチ)が懇願するように説得する

『気持ちは変わらずとも 状況は変化します』
『どういうことだ』
『ユシン公は もう宮殿には戻れません!』
『部下が復耶会だと発覚し そなたは復耶会と逃亡した
すでに逆賊だ 神国の敵となった!』
『……』
『決心してくれ 復耶会の兵は準備できている』
『兵部(ピョンブ)と各界各層に信望が厚いユシン公が立ち上がれば…』
『何を言っている!!!!!』
『他に方法はない!!!』
『皆でもう一度宮殿に戻るのだ 復耶会を解体し相応の罰を受け
神国の兵としてやり直そう!』
『そんなことができると思っているのか!』

我が息子ユシンの事態を知ったキム・ソヒョンと万明(マンミョン)夫人は…

『ユシンが復耶会を養成するわけがありません』
『それは誰より私がよく分かっている 陛下もよくご存じだろう
しかし復耶会がユシンを逃亡させ すでに逆賊となった 二度と戻れないだろう』
『では ユシンは復耶会と志をともにすることに?』
『結局 伽耶はこうなる運命なのか 長年努力してきたのに…』

キム・ユシンがいなくなった兵部(ピョンブ)では

『隊大監(テデガム) なぜこんなことに!』
『伽耶であれ何であれ 上将軍(サンジャングン)は
神国のために命を懸けてきた! それなのに…』

谷使欣(コクサフン)の問いに 隊大監(テデガム)高島(コド)が声を荒げた

『復耶会とユシン公は 本当に無関係だろうな』
『何を言う 上将軍(サンジャングン)を疑うのか!!!』
『心配しているのだ!』
『無罪を証明するためにも 早く戻られるべきだ』
『だけど戻ればおしまいだ 神国の敵と言われている』
『このまま逆賊にされてたまるか!』

ユシンとともに命懸けで戦場を生き抜いてきた
高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)の思いは特別だった
怒りに震え宿所を出る高島(コド)を サンタクが呼び止める

『待たれよ! 高島(コド)隊大監(テデガム) どちらまで?』
『用を足したら悪いか!』

それでも行く手を阻む兵士に 高島(コド)は今にもキレそうになる

『何だ ついて来る気か? お前らと仲良く連れ小便する気はない!!!』

便殿会議の決議を受け 毗曇(ピダム)が善徳(ソンドク)女王と向き合う

『陛下 多くの者が意を同じくしております
私もユシンが惜しいですが 国の安全に関わる問題です』
『ユシンを神国の敵として宣布せよと?』
『即位式の前日 聖君について話されたことを覚えていますか?』

それはまだ 司量部令(サリャンブリョン)となる以前の毗曇(ピダム)と
善徳(ソンドク)女王になる前の徳曼(トンマン)との会話だった

「聖君ですか?」
「側近にはいつも厳格に接し 民には慈悲の心で接するのが聖君だ」
「では 側近に甘く民に厳しく接したら 暴君ですね」
「そして 側近にも民にも優しいだけでは無能な王だ」
「王女様 分かりました いえ これからは陛下とお呼びしなくては
つまり王として 私にも厳しく接するから 覚悟しろということですね」
「そうだ 覚悟しておきなさい」
「かしこまりました 陛下に誠意を尽くします」

目の前の毗曇(ピダム)が何を言わんとしているのか…
善徳(ソンドク)女王は 無表情でただ一点を見つめていた

『側近に厳しくしてこそ聖君だとおっしゃいました
ユシン公が一番の側近なのは 周知の事実です
ユシン公に厳正な処置を取らねば 民も臣下も納得させることができません』
『お前の言うことは正しい 大義そのものだ』
『恐れ入ります』
『しかし』

毗曇(ピダム)が顔を上げると 善徳(ソンドク)女王がまっすぐに見つめている

『お前の私利私欲とも合致する』
『……』
『それに ユシンを牽制する貴族たちの利益にも合致する どう思う?』
『…自分の利益と大義が一致するのならば 何よりだと思います』

毗曇(ピダム)は明らかに狼狽した
善徳(ソンドク)女王は その微かに見せた動揺を見逃さなかった

毗曇(ピダム)が不在の司量部(サリャンブ)では 美生(ミセン)が…

『毗曇(ピダム)は確かにすごい奴ですよ
ユシンが戦勝を重ね勢力を築いていた間に
毗曇(ピダム)は人々の裏を探り 陰の任務をしていました
だがこれで 一気に形勢逆転です』

美生(ミセン)の持論に納得するソルォンと夏宗(ハジョン)

『大義に背くことなく すべて有利に進めています』
『やはり 血は争えないものだ』

かつての花郎(ファラン)仲間が 善徳(ソンドク)女王の前にひざまずく

『陛下 上将軍(サンジャングン)を反逆者にしてはなりませぬ』
『復耶会と無関係なのは 陛下が一番ご存じのはずです』
『罪は配下の謀反に気づかなかったことだけです』
『その罪だけで神国の敵とはひどすぎます』

この進言に 善徳(ソンドク)女王は不快感をあらわにする

『下がりなさい』
『陛下!多くの功績を立てた上将軍(サンジャングン)を捨てれば
軍の士気も低下します!』
『寛大な処置をお願いいたします!』
『陛下 お願い申し上げます!』
『軍の士気を考えたら 上将軍(サンジャングン)を捨ててはなりません!』
『処置についてどうかご再考を!』
『陛下 お願いいたします!』

竹方(チュクパン)は 再び金春秋(キム・チュンチュ)のもとへ

『考えられません ユシン公がどんな人かご存じでしょう?
ユシン公が逆賊?謀反?神国の敵?!!!
ユシン公を知ってる人を 皆 集めて聞いてみてください
そんなとんでもない話を誰が信じますか?』
『復耶会の襲撃でユシンが宮殿から逃亡した
その際に役人と兵士が死んだのだ それだけで容疑としては十分だ』
『だから悔しくてたまらないのです!
何年も戦場で過ごし 神国を救った英雄ですよ!』
『毗曇(ピダム)の罠に まんまとはめられたのだ』
『春秋(チュンチュ)公が陛下に 進言してくださいませんか?』
『復耶会は反逆集団 ユシンが関係したのも事実だ
毗曇(ピダム)は仕事をしているだけで 罠だという証拠もない』
『本当に無念でなりませんよ!
ユシン公はずる賢い策とは無縁の方です 真心を尽くしてきました!
戦いでも訓練でも 人にも真心を尽くしてきました!』
『真心…』
『そうです 真心です!』
『真心か 真心…』

竹方(チュクパン)の訴えに 春秋(チュンチュ)はあるひらめきを見出した
その足ですぐに 善徳(ソンドク)女王に謁見する

『そなたはどう思う?』
『何をですか?』
『今 起きていることだ』
『まず 是非から述べましょうか それとも情勢の分析を?』
『是非を聞かせてくれ』
『神国の安全と綱紀に関することです
臣下たちと毗曇(ピダム)の主張は妥当です』
『それで?』
『しかし ユシンは数年にわたり数々の功績を残した将軍です
兵部(ピョンブ)はもちろんのこと 朝廷の各部と多くの民から信望があります
そんな将軍を神国の敵と宣布した場合 大変な分裂と混乱が起こるでしょう』
『…情勢の分析を』
『ユシンが信望を得ているから 臣下たちは不安なのです
毗曇(ピダム)に従っているのではなく ユシンの成長を警戒しています』
『……』
『しかし ユシンが失脚すれば毗曇(ピダム)を牽制する勢力が消えます』
『解決策を言ってみよ』
『ありません』

即答する春秋(チュンチュ)の方に向き直る善徳(ソンドク)女王

『なぜだ』
『このまま戻らなければ ユシンは神国の敵となります
ですが戻れば 逆賊となって捕まってしまう ゆえに戻るはずがありません
これは毗曇(ピダム)の金剛計です』
『金剛計?』
『金剛石は最も硬い石です』

※金剛石:ダイヤモンド

『破れない策を例え そう呼ぶそうです』
『どうしても 打ち破れないのだろうか』
『ユシンなら 1つ希望がありますが
ユシンも将来を計る人間ゆえ とても難しいでしょう』
『それは何だ?』

自分の中の狼狽を隠しきれなかった毗曇(ピダム)
ただ1つの希望があると聞いた 善徳(ソンドク)女王

(ユシン 打つ手はないのか…)

ふたたびの便殿会議において 善徳(ソンドク)女王が皆に向かって口を開く

『かつて智證(チジュン)王は 徳業日新 網羅四方という旗印を掲げられた
チヌン大帝はそのご遺志を継がれ 平安の世を実現させるため
神国と伽耶は1つになった
そこで私も これまで伽耶人を 神国の民として受け入れるため
差別を撤廃し 彼らの土地を返しました
しかし彼らは復耶会を養成し 神国に背き 反逆の大罪を犯しました!』

激昂する善徳(ソンドク)女王
これまで見たこともないその怒りに 誰もが表情を変えた

『復耶会に関係する下将軍(ハジャングン)月夜(ウォルヤ)と
隊大監(テデガム)雪地(ソルチ) 上将軍(サンジャングン)ユシンを
神国の… 神国の敵として…』

『陛下! 陛下ーーーっ!!!』

善徳(ソンドク)女王の言葉を遮って 閼川(アルチョン)が駆け込んでくる

『たった今 インガン殿に… インガン殿に…!』

その知らせは 毗曇(ピダム)のもとへも…
ヨムジョンが血相を変えて飛び込んできた

『ユシンが自ら戻ってきました!!!』
『ユシン…』

宮殿に乗り込むキム・ユシンを取り囲む兵士たち
ユシンを守るようにして 高島(コド)大風(テプン)谷使欣(コクサフン)たちが
円陣を組み 威嚇しながらインガン殿に進んでいく
ユシンはひざまずき 善徳(ソンドク)女王に対し口上を述べ始めた

『陛下!上将軍(サンジャングン)ユシンは 処罰を受ける前に
陛下にお目にかかりたく存じます!』
『お願いいたします!』
『陛下!』

金春秋(キム・チュンチュ)と閼川(アルチョン)を従え
善徳(ソンドク)女王がその場に現れた
たった今 神国の敵として宣布しようとしていた
そのキム・ユシンが目の前に…

(どうしても 打ち破れないのだろうか…)

「ユシンなら 1つ希望がありますが ユシンも将来を計る人間ゆえ
とても難しいでしょう」
「それは何だ」
「真心です ユシンの真心です」
「真心?」
「後先を考えず 正しいことを追求するのが真心です」

春秋(チュンチュ)は竹方(チュクパン)の言葉を思い返す

「ユシン公は ずる賢い策とは無縁の方です!真心を尽くしてきました」

(策に惑わされず 正しい道を進もうとする真心)
(策が通用しない 決して揺らぐことのない真心)

『陛下 上将軍(サンジャングン)ユシン
処罰を受けに戻りました 罰をお与えください』
『何をしておる すぐにユシンを捕らえよ!!!』

善徳(ソンドク)女王の命令に 臣下たちの方がうろたえる
絶望の表情のユシンに背を向け 立ち去る善徳(ソンドク)女王
しかしその目の奥には 安堵の色が…

(ありがとう ユシン…)

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