善徳女王 54話#1 流刑
『陛下 上将軍(サンジャングン)ユシン!
処罰を受けに戻りました 罰をお与えください』
『何をしておる すぐにユシンを捕らえよ!!!』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
(ありがとう ユシン やはりあなたは そういう人です
策など通用しない だから信用できるし だから手強い)
捕らえられたキム・ユシンを尋問する毗曇(ピダム)
『月夜(ウォルヤ)に拉致されたなら 居場所が分かるな? 答えろ』
『……』
『何しに戻った!!!復耶会を売らないなら なぜ陛下のもとに戻った!』
そこへ 善徳(ソンドク)女王が現れ 2人とも起立して迎える
『外しなさい』
毗曇(ピダム)は 思いがけない命令に驚く
裏切られてもまだ キム・ユシンを信じるのかと…!
ユシンと向かい合う善徳(ソンドク)女王
『毗曇(ピダム)は正論を言った
復耶会の罪を認める一方 彼らを保護し
討伐を断る一方で 私の配下として残る
欲張りな話ですね』
ここまでの 善徳(ソンドク)女王の話を聞き 毗曇(ピダム)は満足して立ち去る
『利益も信義も守ろうとする気持ちは分かりますが 選択せねば!
この私も!!! どれほどつらい選択を迫られているか 分かりませんか?』
『……』
『王座が望みですか?』
『陛下!』
『なぜ そなたを王にしたがる復耶会をかばうのだ!
そんな組織を放っておく君主はいない』
『仰せのとおりです ですが!
復耶会を支持する伽耶人を説得しない限り
伽耶人と新羅(シルラ)は融合できません』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
『伽耶人を 排斥の憂き目に遭わせるのも!
陛下が彼らに憎まれるのも避けたいのです!
陛下 お願いします!』
『伽耶人は新羅(シルラ)人になれても 復耶会は無理です!
毗曇(ピダム)!!!』
すぐに現れる毗曇(ピダム)
『はい 陛下』
『司量部(サリャンブ)を総動員し 月夜(ウォルヤ)と復耶会を捕らえよ!!!』
※司量部(サリャンブ):王室のすべての部署を監察する部署
復耶会の砦では 雪地(ソルチ)の報告を受け 驚く月夜(ウォルヤ)
『死ぬかもしれないのに 宮殿へ戻ったというのか!』
『はい』
『……まったく 何て男だ!』
『どうします?』
『宮殿の状況を把握しろ』
『はい』
『何か異変があれば… 我々が救いに行く』
『……はい』
捕らえたキム・ユシンについて
金春秋(キム・チュンチュ)が 善徳(ソンドク)女王に尋ねる
『ユシンを どうなさいます?』
『……』
『ユシンが力を失えば 毗曇(ピダム)が台頭します それはいけません』
『復耶会が王に推しているユシンに 軍事権は預けられない』
『しかし毗曇(ピダム)1人が政務を掌握することに!』
『私が復耶会を根幹から排除する理由が分からないか?
私が王である限り ユシンは裏切らないだろう
それは月夜(ウォルヤ)も同じのはず 問題は私の死後だ
王の後継者が すべてを掌握できなければ
ユシンか毗曇(ピダム)か もしくは他の者が王座を狙う』
『……』
『そなたは真骨(チンゴル)だ 彼らを実質的に掌握しなければ…
天明(チョンミョン)王女の息子というだけでは王になれない』
※真骨(チンゴル):新羅(シルラ)の身分制度で 片方の親のみ王族である者
『そなたの手を汚してでも ユシンと毗曇(ピダム)を従わせるのだ』
『……』
『私を後ろ盾にし 楽をしようと思うな!』
あまりの厳しい言葉に 春秋(チュンチュ)はハッとする
『智證(チジュン)王から伝わる 三韓一統の大業は
簡単には達成できない だから私は 自分の身を切る思いで…』
※三韓一統:高句麗(コグリョ) 百済(ペクチェ) 新羅(シルラ)の三国統一
便殿会議が行われた
『上将軍(サンジャングン)ユシンの職を解き 流刑にします!』
『陛下!』
『どこへ流刑なさると?』
『本日 于山(ウサン)国に送ります』
驚くキム・ソヒョンとヨンチュン公に加え
虎才(ホジェ)とチュジン公が…
『陛下 塾考の上のご決断でしょうが 流刑とは…』
『上将軍(サンジャングン)の功績を考えても あまりに厳しい処分です』
『護送中に逃亡したとはいえ 戻ってきました』
『それと 復耶会との関係も不確かでございます』
『お考え直し下さい』
『上将軍(サンジャングン)でございます もっと取り調べが必要です』
かつての花郎(ファラン)仲間が 口々にキム・ユシンを擁護する
『これ以上の取り調べは無意味です
復耶会の掃討は 司量部(サリャンブ)の責任で進めなさい』
閼川(アルチョン)からこの知らせを受け ユシンは…
『流刑か』
『陛下はそなたを疑ってはいないが お怒りなのだ
陛下は そなたと毗曇(ピダム)を信じて 治世に専念されてきた
だが その構図が そなたの頑固さで崩れた』
『分かっている』
『それでも 月夜(ウォルヤ)を捨てられんのか』
『…陛下にも そしてそなたにも 面目が立たない』
『とんでもない!』
『上将軍(サンジャングン)ですぞ! 神国に貢献なさった方を!』
※神国:新羅(シルラ)の別称
『陛下との絆も深いお方だ』
『兵部(ピョンブ)が黙って見ていていいのですか?』
龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)として ユシンに従ってきた仲間は
流刑の処分決定に憤る
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
これを受け 林宗(イムジョン)が…
『兵部(ピョンブ)の下将軍(ハジャングン)たちが 陛下に上書を出すそうだ』
『そんなことより 陛下のお考えが理解できない!』
『謁見して進言すべきです』
『そのとおりだ 参りましょう!』
隊大監(テデガム)高島(コド)と 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)が
埒が明かないとばかりに 行動に出る
また ユシンの母 万明(マンミョン)夫人は 抗議の座り込みをする
チヌン大帝の姪であり 善徳(ソンドク)女王には従大叔母にあたる
『何です』
『陛下 酷い仕打ちです』
『お帰りを』
『流刑だなんて!あまりに酷です』
『陛下!!!』
高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)が駆け付けひざまずく
『これまでの情と 上将軍(サンジャングン)の功績をお忘れですか?』
『陛下を裏切るようなお方ではありません!』
『では私が上将軍(サンジャングン)を裏切ったとでも?!!!』
善徳(ソンドク)女王の剣幕に 万明(マンミョン)夫人は茫然とし
3人の勢いも弱まるが 高島(コド)が必死に懇願する
『いえ ただ処分が酷過ぎると…』
『酷いのは私ではなく 上将軍(サンジャングン)です!!!
私の情や性分を 上将軍(サンジャングン)は知っているはず
それなのに 上将軍(サンジャングン)は1歩も譲ろうとしない!
なぜ私にこんな処分を下させるのです?』
涙する万明(マンミョン)夫人と かつての仲間たちをギロリと睨みつけ
善徳(ソンドク)女王は 憤慨したまま去っていく
そんな善徳(ソンドク)女王の前に 毗曇(ピダム)が…
『ユシンを都に置きましょう』
『……』
『陛下がおつらいだけです』
その肩に そっと手を延ばす毗曇(ピダム)
徳曼(トンマン)と呼んでいた頃のように…
『やめろ』
ぴたりと止まる毗曇(ピダム)
キッと睨み 善徳(ソンドク)女王は立ち上がる
『復耶会の件で 官吏の人事を再考すべきだ 人事案を出せ』
『……はい』
行き場を失った3人は 内省(ネソン)の大舎(テサ)となった
竹方(チュクパン)のもとへ…!
『どうしたんだ』
『がっかりだ!!!』
聞かなくても 3人の憤りを十分に理解している竹方(チュクパン)
『仕方がない 陛下もつらいんだ』
『我々はユシン軍の兵です
ユシン公がいないなら兵部(ピョンブ)にいる理由はない!』
『いい加減にしろ!これ以上陛下を困らせるな』
『ユシン軍を離れてから変わったな!本当に冷たい人だ!!!』
矛先は 竹方(チュクパン)の方に向く
『待てよ』
『どいてくれ!!!』
司量部(サリャンブ)で会議を行う毗曇(ピダム)
『陛下が人事案を出せと言われたなら
司量部令(サリャンブリョン)が信頼されてるってことですね』
※司量部令(サリャンブリョン):司量部(サリャンブ)の長
『この機会に ご縁談をお勧めしてはどうですか』
『だが 何度進言しても陛下はお聞き入れにならない』
『人の心は 時期によって変わるもの 分かりませんよ』
一瞬の動揺を抑え 毗曇(ピダム)がソルォンに…
『…人事は計画通りに』
『兵部令(ピョンブリョン)にはチュジン公を
閼川(アルチョン)とピルタンも 上将軍(サンジャングン)に昇格させては?』
※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官
『我々を支援するトヨル公とソンチュン公も重用します』
『よろしい』
すると夏宗(ハジョン)公が…
『私も何かの役職を頂きたいですな
私もかつては財務を任されていた逸材です』
『な…何と言った? 逸材だと? なるほど逸材か よく分かった ハハハ…』
『何がおかしい』
毗曇(ピダム)ばかりか 美生(ミセン)までもが呆れた表情になる
母ミシルがいたからこその存在だったというのに…
夜になり 閼川(アルチョン)が…
『ユシンが出発を… 会われないのですか?』
『……』
『陛下 阿莫(アマク)城での戦いをご記憶ですか?
陛下の郎徒(ナンド)時代に 負傷兵を1人も見殺しにせず
切迫した状況でも諦めなかった 今のユシンも同じ心情では?』
『侍衛部令(シウィブリョン) おやめなさい』
『……分かりました』
そこへ 静かに竹方(チュクパン)が入ってくる
『陛下 ご命令通りにしました』
『そう』
『大丈夫ですか?』
『ええ』
『こんな時に 乳母殿がいてくれたら…』
『…竹方(チュクパン)兄貴がいます どこにも行かないでください』
竹方(チュクパン)を見つめるその目は 今にも涙があふれそうに潤む
善徳(ソンドク)女王であり続けるための 一瞬の心の安らぎだった…
『陛下 意地を張らずに ユシン公とご婚姻なさっては?
王様や真骨(チンゴル)の方たちは 3~4回 婚姻なさるのが普通です』
翌朝 毗曇(ピダム)が書簡を持って善徳(ソンドク)女王のもとへ
『私が練った人事案です
兵部令(ピョンブリョン)には チュジン公が適任かと
また 伽耶人を排除し 新たな人材を選びました』
『そう』
そこへ 上大等(サンデドゥン)ヨンチュン公の来訪を告げる声が…
金春秋(キム・チュンチュ) キム・ソヒョンも同席する
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
『陛下 お呼びですか』
『上将軍(サンジャングン)の問題を機に 人事の改編を行います
まずは沙梁宮(サリャングン)梁宮(ヤングン)大宮(テグン)の3つを
内省(ネソン)に統括し 内省私臣(ネソンサシン)には
春秋(チュンチュ)公を任命します 官位は伊飡(イチョン)に昇格を』
※内省私臣(ネソンサシン):内省(ネソン)の長官
※伊飡(イチョン):新羅(シルラ)における十七官位の2番目
目を向く毗曇(ピダム)…!
『はい陛下 誠心誠意を尽くします』
『それから兵部令(ピョンブリョン)は… ソヒョン公が留任を』
『陛下…』
当然 解任されるものと思っていたキム・ソヒョンは感激する
毗曇(ピダム)の表情は強張り 言葉もない
『月夜(ウォルヤ)とユシンの上官として 責任を問うべきですが
今は百済(ペクチェ)との前線が緊迫しています
そのため留任とする それを忘れぬように』
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『はい陛下 誠心誠意を尽くします!』
『司量部(サリャンブ)はしばらく 復耶会や周辺国の情勢に集中すること』
『……はい』
『今後 司量部令(サリャンブリョン)と兵部令(ピョンブリョン)は
ヨンチュン公と春秋(チュンチュ)公に報告しなさい』
さらに毗曇(ピダム)は凍りつく
ヨンチュン公が 怖れながら… という表情で聞く
『司量部(サリャンブ)は 陛下の直属機関では?』
『臣下の統制を図るために 直属機関にして来ました
そして 司量部(サリャンブ)の活躍で 多くのことを成し遂げました
よってこれからは 百済(ペクチェ)や高句麗(コグリョ)との前線に
力を注ぎなさい』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
善徳(ソンドク)女王を追いかける毗曇(ピダム)
『なぜです お答えください』
『言った通りだ 臣下の統制よりは…』
『私が信じられないのですか?!』
『……』
『悪いのはユシンなのに なぜ私を遠ざけるのですか
ユシンがいなければ 私もおそばにいられないのですか?
私の忠誠と 陛下に対する気持ちが… 見えませんか』
『見える』
善徳(ソンドク)女王は まっすぐに毗曇(ピダム)を見据えた
『私に対する欲望と 恋心が』
『ではなぜ?』
『ミシルを一番うらやましく思うことが何か分かるか?
ミシルが 王ではなかったことだ
ミシルは恋をし 婚姻すれば その相手を自分の勢力にできた
でも私が恋をして婚姻すれば 紛争の種となる 違うか?
私を得ることで 権力と神国を手にしたいのだろう?』
毗曇(ピダム)は 否定することも 肯定することもできない
『私にも…感情はある 誰かを頼りにして慰められ 愛され称賛されて生きたい
お前が触れても… 胸が躍らないと思うか?』
毗曇(ピダム)は 善徳(ソンドク)女王を引き寄せ抱きしめた
その背中に 手を触れようとして迷う善徳(ソンドク)女王
思いを切るように 突き放す
『だけどいけない 私は…』
『何がいけないのです』
『私は もう女ではない 今はただの王に過ぎない
私を捨ててまで王権を守った 父の真平(チンピョン)王
命を落とした 姉の天明(チョンミョン)王女
智證(チジュン)王に法興(ポップン)王 チヌン大帝
これらの方々が 私に与えた重要な任務は1つだ
新羅(シルラ)を滅亡させないこと 王権の強化 そして 三韓統一を成すこと
その時まで “私” は存在しない
私を手に入れようなどと思うな』
『愛とは 所有することです』
『毗曇(ピダム) お願いだから私に選択させるな
誰も私を手に入れることは出来ない 私が王である限り』
その目に涙を浮かべて 毗曇(ピダム)は退室する
人事の内容を知った司量部(サリャンブ)で 夏宗(ハジョン)が叫んでいる
『そんなバカな!司量部(サリャンブ)は格下げされたも同然だ!』
『陛下の許可を得る時も 報告をする時も 内省(ネソン)を通さねばならん』
『では何のために人事案を出させた? まったく!』
※内省(ネソン):王室内の仕事を取り仕切る官庁
ソルォンが 冷静にこの状況を分析する
『陛下は毗曇(ピダム)公の勢力を 把握したかったのでしょう
しかも 復耶会を掃討せよとの命令を下された
復耶会の件は 我々が責任を持てと?』
『掃討できない時は 司量部(サリャンブ)が責任を問われる』
『掃討できた時は…』
『ユシンを呼び戻されるはず』
執務室を出ると 夏宗(ハジョン)が 美生(ミセン)とヨムジョンに…
『何か手を打つべきでは?』
『確かに 陛下とユシンの関係は 容易には断ち切れない』
『こういう時 母上がいらしたら ひと言おっしゃるだけで…』
『あとはソルォン公が動いてくれたものだ』
思わせぶりに 美生(ミセン)がヨムジョンをつつく
ヨムジョンは 自分が何かをしなければならないのだと察し 部下に命じる
『ユシンを… 暗殺する 準備しろ』
『はい』
徐羅伐(ソラボル)を見渡す見張り台に ソルォンが佇んでいる
そこへ 善徳(ソンドク)女王が現れる
『セジュが よくいらした場所ですね』
『はい 陛下』
※セジュ:王の印を管理する役職
『私が政務を受け継いだ時 ソルォン公には助けられました』
『私がいなくても 問題なかったと思います』
『セジュは 多くの人材を抱えられていた …セジュが残した遺言は?』
『……』
『ソルォン公に伝えた遺志は?』
『……』
『何であれ 毗曇(ピダム)をそそのかさぬように
それが結果的に セジュの遺志に沿うはずです』
処罰を受けに戻りました 罰をお与えください』
『何をしておる すぐにユシンを捕らえよ!!!』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
(ありがとう ユシン やはりあなたは そういう人です
策など通用しない だから信用できるし だから手強い)
捕らえられたキム・ユシンを尋問する毗曇(ピダム)
『月夜(ウォルヤ)に拉致されたなら 居場所が分かるな? 答えろ』
『……』
『何しに戻った!!!復耶会を売らないなら なぜ陛下のもとに戻った!』
そこへ 善徳(ソンドク)女王が現れ 2人とも起立して迎える
『外しなさい』
毗曇(ピダム)は 思いがけない命令に驚く
裏切られてもまだ キム・ユシンを信じるのかと…!
ユシンと向かい合う善徳(ソンドク)女王
『毗曇(ピダム)は正論を言った
復耶会の罪を認める一方 彼らを保護し
討伐を断る一方で 私の配下として残る
欲張りな話ですね』
ここまでの 善徳(ソンドク)女王の話を聞き 毗曇(ピダム)は満足して立ち去る
『利益も信義も守ろうとする気持ちは分かりますが 選択せねば!
この私も!!! どれほどつらい選択を迫られているか 分かりませんか?』
『……』
『王座が望みですか?』
『陛下!』
『なぜ そなたを王にしたがる復耶会をかばうのだ!
そんな組織を放っておく君主はいない』
『仰せのとおりです ですが!
復耶会を支持する伽耶人を説得しない限り
伽耶人と新羅(シルラ)は融合できません』
※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
『伽耶人を 排斥の憂き目に遭わせるのも!
陛下が彼らに憎まれるのも避けたいのです!
陛下 お願いします!』
『伽耶人は新羅(シルラ)人になれても 復耶会は無理です!
毗曇(ピダム)!!!』
すぐに現れる毗曇(ピダム)
『はい 陛下』
『司量部(サリャンブ)を総動員し 月夜(ウォルヤ)と復耶会を捕らえよ!!!』
※司量部(サリャンブ):王室のすべての部署を監察する部署
復耶会の砦では 雪地(ソルチ)の報告を受け 驚く月夜(ウォルヤ)
『死ぬかもしれないのに 宮殿へ戻ったというのか!』
『はい』
『……まったく 何て男だ!』
『どうします?』
『宮殿の状況を把握しろ』
『はい』
『何か異変があれば… 我々が救いに行く』
『……はい』
捕らえたキム・ユシンについて
金春秋(キム・チュンチュ)が 善徳(ソンドク)女王に尋ねる
『ユシンを どうなさいます?』
『……』
『ユシンが力を失えば 毗曇(ピダム)が台頭します それはいけません』
『復耶会が王に推しているユシンに 軍事権は預けられない』
『しかし毗曇(ピダム)1人が政務を掌握することに!』
『私が復耶会を根幹から排除する理由が分からないか?
私が王である限り ユシンは裏切らないだろう
それは月夜(ウォルヤ)も同じのはず 問題は私の死後だ
王の後継者が すべてを掌握できなければ
ユシンか毗曇(ピダム)か もしくは他の者が王座を狙う』
『……』
『そなたは真骨(チンゴル)だ 彼らを実質的に掌握しなければ…
天明(チョンミョン)王女の息子というだけでは王になれない』
※真骨(チンゴル):新羅(シルラ)の身分制度で 片方の親のみ王族である者
『そなたの手を汚してでも ユシンと毗曇(ピダム)を従わせるのだ』
『……』
『私を後ろ盾にし 楽をしようと思うな!』
あまりの厳しい言葉に 春秋(チュンチュ)はハッとする
『智證(チジュン)王から伝わる 三韓一統の大業は
簡単には達成できない だから私は 自分の身を切る思いで…』
※三韓一統:高句麗(コグリョ) 百済(ペクチェ) 新羅(シルラ)の三国統一
便殿会議が行われた
『上将軍(サンジャングン)ユシンの職を解き 流刑にします!』
『陛下!』
『どこへ流刑なさると?』
『本日 于山(ウサン)国に送ります』
驚くキム・ソヒョンとヨンチュン公に加え
虎才(ホジェ)とチュジン公が…
『陛下 塾考の上のご決断でしょうが 流刑とは…』
『上将軍(サンジャングン)の功績を考えても あまりに厳しい処分です』
『護送中に逃亡したとはいえ 戻ってきました』
『それと 復耶会との関係も不確かでございます』
『お考え直し下さい』
『上将軍(サンジャングン)でございます もっと取り調べが必要です』
かつての花郎(ファラン)仲間が 口々にキム・ユシンを擁護する
『これ以上の取り調べは無意味です
復耶会の掃討は 司量部(サリャンブ)の責任で進めなさい』
閼川(アルチョン)からこの知らせを受け ユシンは…
『流刑か』
『陛下はそなたを疑ってはいないが お怒りなのだ
陛下は そなたと毗曇(ピダム)を信じて 治世に専念されてきた
だが その構図が そなたの頑固さで崩れた』
『分かっている』
『それでも 月夜(ウォルヤ)を捨てられんのか』
『…陛下にも そしてそなたにも 面目が立たない』
『とんでもない!』
『上将軍(サンジャングン)ですぞ! 神国に貢献なさった方を!』
※神国:新羅(シルラ)の別称
『陛下との絆も深いお方だ』
『兵部(ピョンブ)が黙って見ていていいのですか?』
龍華香徒(ヨンファヒャンド)の郎徒(ナンド)として ユシンに従ってきた仲間は
流刑の処分決定に憤る
※郎徒(ナンド):花郎(ファラン)である主に仕える構成員
これを受け 林宗(イムジョン)が…
『兵部(ピョンブ)の下将軍(ハジャングン)たちが 陛下に上書を出すそうだ』
『そんなことより 陛下のお考えが理解できない!』
『謁見して進言すべきです』
『そのとおりだ 参りましょう!』
隊大監(テデガム)高島(コド)と 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)が
埒が明かないとばかりに 行動に出る
また ユシンの母 万明(マンミョン)夫人は 抗議の座り込みをする
チヌン大帝の姪であり 善徳(ソンドク)女王には従大叔母にあたる
『何です』
『陛下 酷い仕打ちです』
『お帰りを』
『流刑だなんて!あまりに酷です』
『陛下!!!』
高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)が駆け付けひざまずく
『これまでの情と 上将軍(サンジャングン)の功績をお忘れですか?』
『陛下を裏切るようなお方ではありません!』
『では私が上将軍(サンジャングン)を裏切ったとでも?!!!』
善徳(ソンドク)女王の剣幕に 万明(マンミョン)夫人は茫然とし
3人の勢いも弱まるが 高島(コド)が必死に懇願する
『いえ ただ処分が酷過ぎると…』
『酷いのは私ではなく 上将軍(サンジャングン)です!!!
私の情や性分を 上将軍(サンジャングン)は知っているはず
それなのに 上将軍(サンジャングン)は1歩も譲ろうとしない!
なぜ私にこんな処分を下させるのです?』
涙する万明(マンミョン)夫人と かつての仲間たちをギロリと睨みつけ
善徳(ソンドク)女王は 憤慨したまま去っていく
そんな善徳(ソンドク)女王の前に 毗曇(ピダム)が…
『ユシンを都に置きましょう』
『……』
『陛下がおつらいだけです』
その肩に そっと手を延ばす毗曇(ピダム)
徳曼(トンマン)と呼んでいた頃のように…
『やめろ』
ぴたりと止まる毗曇(ピダム)
キッと睨み 善徳(ソンドク)女王は立ち上がる
『復耶会の件で 官吏の人事を再考すべきだ 人事案を出せ』
『……はい』
行き場を失った3人は 内省(ネソン)の大舎(テサ)となった
竹方(チュクパン)のもとへ…!
『どうしたんだ』
『がっかりだ!!!』
聞かなくても 3人の憤りを十分に理解している竹方(チュクパン)
『仕方がない 陛下もつらいんだ』
『我々はユシン軍の兵です
ユシン公がいないなら兵部(ピョンブ)にいる理由はない!』
『いい加減にしろ!これ以上陛下を困らせるな』
『ユシン軍を離れてから変わったな!本当に冷たい人だ!!!』
矛先は 竹方(チュクパン)の方に向く
『待てよ』
『どいてくれ!!!』
司量部(サリャンブ)で会議を行う毗曇(ピダム)
『陛下が人事案を出せと言われたなら
司量部令(サリャンブリョン)が信頼されてるってことですね』
※司量部令(サリャンブリョン):司量部(サリャンブ)の長
『この機会に ご縁談をお勧めしてはどうですか』
『だが 何度進言しても陛下はお聞き入れにならない』
『人の心は 時期によって変わるもの 分かりませんよ』
一瞬の動揺を抑え 毗曇(ピダム)がソルォンに…
『…人事は計画通りに』
『兵部令(ピョンブリョン)にはチュジン公を
閼川(アルチョン)とピルタンも 上将軍(サンジャングン)に昇格させては?』
※兵部令(ピョンブリョン):新羅(シルラ)の軍の長官
『我々を支援するトヨル公とソンチュン公も重用します』
『よろしい』
すると夏宗(ハジョン)公が…
『私も何かの役職を頂きたいですな
私もかつては財務を任されていた逸材です』
『な…何と言った? 逸材だと? なるほど逸材か よく分かった ハハハ…』
『何がおかしい』
毗曇(ピダム)ばかりか 美生(ミセン)までもが呆れた表情になる
母ミシルがいたからこその存在だったというのに…
夜になり 閼川(アルチョン)が…
『ユシンが出発を… 会われないのですか?』
『……』
『陛下 阿莫(アマク)城での戦いをご記憶ですか?
陛下の郎徒(ナンド)時代に 負傷兵を1人も見殺しにせず
切迫した状況でも諦めなかった 今のユシンも同じ心情では?』
『侍衛部令(シウィブリョン) おやめなさい』
『……分かりました』
そこへ 静かに竹方(チュクパン)が入ってくる
『陛下 ご命令通りにしました』
『そう』
『大丈夫ですか?』
『ええ』
『こんな時に 乳母殿がいてくれたら…』
『…竹方(チュクパン)兄貴がいます どこにも行かないでください』
竹方(チュクパン)を見つめるその目は 今にも涙があふれそうに潤む
善徳(ソンドク)女王であり続けるための 一瞬の心の安らぎだった…
『陛下 意地を張らずに ユシン公とご婚姻なさっては?
王様や真骨(チンゴル)の方たちは 3~4回 婚姻なさるのが普通です』
翌朝 毗曇(ピダム)が書簡を持って善徳(ソンドク)女王のもとへ
『私が練った人事案です
兵部令(ピョンブリョン)には チュジン公が適任かと
また 伽耶人を排除し 新たな人材を選びました』
『そう』
そこへ 上大等(サンデドゥン)ヨンチュン公の来訪を告げる声が…
金春秋(キム・チュンチュ) キム・ソヒョンも同席する
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
『陛下 お呼びですか』
『上将軍(サンジャングン)の問題を機に 人事の改編を行います
まずは沙梁宮(サリャングン)梁宮(ヤングン)大宮(テグン)の3つを
内省(ネソン)に統括し 内省私臣(ネソンサシン)には
春秋(チュンチュ)公を任命します 官位は伊飡(イチョン)に昇格を』
※内省私臣(ネソンサシン):内省(ネソン)の長官
※伊飡(イチョン):新羅(シルラ)における十七官位の2番目
目を向く毗曇(ピダム)…!
『はい陛下 誠心誠意を尽くします』
『それから兵部令(ピョンブリョン)は… ソヒョン公が留任を』
『陛下…』
当然 解任されるものと思っていたキム・ソヒョンは感激する
毗曇(ピダム)の表情は強張り 言葉もない
『月夜(ウォルヤ)とユシンの上官として 責任を問うべきですが
今は百済(ペクチェ)との前線が緊迫しています
そのため留任とする それを忘れぬように』
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『はい陛下 誠心誠意を尽くします!』
『司量部(サリャンブ)はしばらく 復耶会や周辺国の情勢に集中すること』
『……はい』
『今後 司量部令(サリャンブリョン)と兵部令(ピョンブリョン)は
ヨンチュン公と春秋(チュンチュ)公に報告しなさい』
さらに毗曇(ピダム)は凍りつく
ヨンチュン公が 怖れながら… という表情で聞く
『司量部(サリャンブ)は 陛下の直属機関では?』
『臣下の統制を図るために 直属機関にして来ました
そして 司量部(サリャンブ)の活躍で 多くのことを成し遂げました
よってこれからは 百済(ペクチェ)や高句麗(コグリョ)との前線に
力を注ぎなさい』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
善徳(ソンドク)女王を追いかける毗曇(ピダム)
『なぜです お答えください』
『言った通りだ 臣下の統制よりは…』
『私が信じられないのですか?!』
『……』
『悪いのはユシンなのに なぜ私を遠ざけるのですか
ユシンがいなければ 私もおそばにいられないのですか?
私の忠誠と 陛下に対する気持ちが… 見えませんか』
『見える』
善徳(ソンドク)女王は まっすぐに毗曇(ピダム)を見据えた
『私に対する欲望と 恋心が』
『ではなぜ?』
『ミシルを一番うらやましく思うことが何か分かるか?
ミシルが 王ではなかったことだ
ミシルは恋をし 婚姻すれば その相手を自分の勢力にできた
でも私が恋をして婚姻すれば 紛争の種となる 違うか?
私を得ることで 権力と神国を手にしたいのだろう?』
毗曇(ピダム)は 否定することも 肯定することもできない
『私にも…感情はある 誰かを頼りにして慰められ 愛され称賛されて生きたい
お前が触れても… 胸が躍らないと思うか?』
毗曇(ピダム)は 善徳(ソンドク)女王を引き寄せ抱きしめた
その背中に 手を触れようとして迷う善徳(ソンドク)女王
思いを切るように 突き放す
『だけどいけない 私は…』
『何がいけないのです』
『私は もう女ではない 今はただの王に過ぎない
私を捨ててまで王権を守った 父の真平(チンピョン)王
命を落とした 姉の天明(チョンミョン)王女
智證(チジュン)王に法興(ポップン)王 チヌン大帝
これらの方々が 私に与えた重要な任務は1つだ
新羅(シルラ)を滅亡させないこと 王権の強化 そして 三韓統一を成すこと
その時まで “私” は存在しない
私を手に入れようなどと思うな』
『愛とは 所有することです』
『毗曇(ピダム) お願いだから私に選択させるな
誰も私を手に入れることは出来ない 私が王である限り』
その目に涙を浮かべて 毗曇(ピダム)は退室する
人事の内容を知った司量部(サリャンブ)で 夏宗(ハジョン)が叫んでいる
『そんなバカな!司量部(サリャンブ)は格下げされたも同然だ!』
『陛下の許可を得る時も 報告をする時も 内省(ネソン)を通さねばならん』
『では何のために人事案を出させた? まったく!』
※内省(ネソン):王室内の仕事を取り仕切る官庁
ソルォンが 冷静にこの状況を分析する
『陛下は毗曇(ピダム)公の勢力を 把握したかったのでしょう
しかも 復耶会を掃討せよとの命令を下された
復耶会の件は 我々が責任を持てと?』
『掃討できない時は 司量部(サリャンブ)が責任を問われる』
『掃討できた時は…』
『ユシンを呼び戻されるはず』
執務室を出ると 夏宗(ハジョン)が 美生(ミセン)とヨムジョンに…
『何か手を打つべきでは?』
『確かに 陛下とユシンの関係は 容易には断ち切れない』
『こういう時 母上がいらしたら ひと言おっしゃるだけで…』
『あとはソルォン公が動いてくれたものだ』
思わせぶりに 美生(ミセン)がヨムジョンをつつく
ヨムジョンは 自分が何かをしなければならないのだと察し 部下に命じる
『ユシンを… 暗殺する 準備しろ』
『はい』
徐羅伐(ソラボル)を見渡す見張り台に ソルォンが佇んでいる
そこへ 善徳(ソンドク)女王が現れる
『セジュが よくいらした場所ですね』
『はい 陛下』
※セジュ:王の印を管理する役職
『私が政務を受け継いだ時 ソルォン公には助けられました』
『私がいなくても 問題なかったと思います』
『セジュは 多くの人材を抱えられていた …セジュが残した遺言は?』
『……』
『ソルォン公に伝えた遺志は?』
『……』
『何であれ 毗曇(ピダム)をそそのかさぬように
それが結果的に セジュの遺志に沿うはずです』
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