善徳女王 54話#2 密偵

ヨムジョンは 手下と供にキム・ユシンの流刑先 于山(ウサン)国にやって来た

『流刑者の住まいは?』

『ユシンという男が来たはず』
『誰かは知りませんが 村とは離れています 向こうです』

ユシンが住んでいるはずのあばら屋に着いた

『なぜ見張りがいない? ユシン公? 上将軍(サンジャングン)!』

毒の吹き矢を構える手下たち
しかし 中に人が住んでいる気配はなく ユシンの姿はどこにもなかった

『どうなってる!!!!!』

キム・ユシンがいる場所へ 谷使欣(コクサフン)が訪ねてきていた

『何だと 陛下が?』

ユシンは 善徳(ソンドク)女王からの書状を受け取った

“ユシン公 八良(パルリャン)峠より南の
百済(ペクチェ)の動向を 極秘に調査してください”

『陛下は 百済(ペクチェ)との前線について お尋ねになられました』
『不穏な状況を知って 陛下はご心配の様子です』
『高島(コド)隊大監(テデガム)と大風(テプン)が
八良(パルリャン)峠周辺で待機中です』

※隊大監(テデガム):軍営の武官職

『ただ 任務が終われば 流刑地に戻るようにと仰せです』

ユシンを監視している復耶会にも この情報が届く
雪地(ソルチ)が 月夜(ウォルヤ)に報告する

『ユシンが百済(ペクチェ)に潜入した?』
『はい 変装していましたが 兵部(ピョンブ)の少監(ソガム)も一緒です』

※少監(ソガム):武官の8番目の等級

『後を追わせているか!』
『部下たちに尾行させています 居場所の連絡が入るはず』
『ユシン…』

毗曇(ピダム)は 百済(ペクチェ)との前線の対策を急いでいた
サンタクが報告に来ている

『刺客を使い百済(ペクチェ)の偵察団を編成しました!』
『宝宗(ポジョン)と出発しろ』
『はい』

そこへ 血相を変えたヨムジョンが飛び込んでくる

『司量部令(サリャンブリョン) 大変です!!! 流刑地に… 流刑地に!』
『何事だ?』
『ユシンがおりません 着いた様子もなく…』
『つまり 途中で逃げたのか? だがどうして分かった』
『そ…それは』
『理由を聞いているのだ!!!』

答えあぐねるヨムジョンの胸ぐらをつかむ毗曇(ピダム)

『答えろ なぜ分かった!』
『流刑地まで行きました』
『流刑地へ? なぜだ』
『くっ…くっ…』
『言え! 何をしに行った!!!』
『ククク… この機会にユシンを殺そうと思ったのさ』

(ユシンが消えた? 月夜(ウォルヤ)か それとも… 陛下?)

ユシンは 谷使欣(コクサフン)らと共に百済(ペクチェ)に向かう
百済(ペクチェ)に向かう兵士を襲った

『どの部隊の者だ』
『…衛士府(ウィサブ)のトヨルだ』
『到着時の暗号は?』
『……』
『答えろ!!!』
『砲車… 砲車です』
『何を伝えに?』
『陛下は……』

答えようとする兵士を もう1人の兵士が斬り殺し 口を封じた
暗号は聞き出せたものの 伝令の目的が分からないまま
ユシンたちは 伝令として潜入する

百済(ペクチェ)の将軍ケベクと対面するユシン

『暗号は?』
『……砲車です』
『来い』

ケベクはユシンたちを もう1人の将軍ユンチュンのもとへ連れて行く

『見慣れない顔だな 名前は?』
『衛士府(ウィサブ)のトヨルです』
『…先日の乗馬大会で優勝したのはお前か?』

明らかに ユシンたちが本物かどうか探っている

『はい』
『それで どんな命令で来たのだ』
『作戦計画を把握して来いとのご命令です』
『…陛下が作戦計画を?』

ケベクとユンチュンが 目配せをした

『上党(サンタン)山城のクァンピョン将軍が陛下に報告したはずだ』
『……』

クァンピョンという名の将軍がいるのかどうか…
ユシンは 落ち着き払って聞き返す

『上党(サンタン)山城は ヨンウン将軍では?』
『…フハハ そうだったな 私の勘違いだった
計画は順調に進み 作戦図を作成中だ
それによって兵の支援要請をするので しばらく待て』
『はい』
『ケベク 伝令の者たちに食事と新しい馬を与えてやれ』
『はい』

休憩の場所に案内される途中 ユシンは陣営の様子を細かに目に焼き付ける

『ここで待て』
『はい』

作戦室のような場所で待たされる
ケベクは 奥の方で作戦図らしきものを確認している
何とかそれを見ようと ユシンはジリジリと近づいて行く

“大耶(テヤ)城” の文字がはっきりと見えた
その下の方には “開 門 黒…”

(黒?)

開門に続く “黒”の文字の続きが見えない
気配に気づいたケベクが 警戒して作戦図を隠す…!!!

『何だ』
『その… 外にある山積みの土や砂は 何に使うのです』
『以前の禿山(トクサン)城の戦いの 防御施設を応用する』
『三叉槍型の通路のことですか?』
『詳しいな』
『…誰が考案したものですか』
『なぜ聞く』
『…瞬く間に防御施設を築き退却路を確保したと聞き 感心したものですから』
『私だ』
『では 今回も城攻めが中心に?』

ギロリとユシンを睨むケベク

『この戦いには 陛下も期待を』
『そうだろうな 大耶(テヤ)城は要塞地だ』

(やはり?)

『大耶(テヤ)城は地形的な利点があり 難攻不落の城です
長期戦になるでしょう』
『いかにも』
『先制攻撃すれば 補給路が長くなり輸送が困難に…』
『速戦即決で終わらせる!』

一方 善徳(ソンドク)女王は 小作農の農地を視察していた

『トウキビよりも小麦が多く収穫できました』
『トクチョン博士(パクサ)によれば 豆は大地を回復させるそうだ
休閑地で豆を育てなさい』
『同じ畑が毎年使えれば 収穫量は2倍3倍に増えます』

同行している閼川(アルチョン)が…

『陛下 収穫量や自作農の数が増えているのに 嬉しくないのですか』
『嬉しいが その一方で なぜか不安を感じるのだ』

金春秋(キム・チュンチュ)とヨンチュン公がいる場所へ
毗曇(ピダム)が駆け込んでくる

『何事です』
『…陛下はどちらに?』
『供奉開師(コンボングサ)が謁見を申し入れ 外出されています』

※供奉開師(コンボングサ):農業や開墾の指導に当たる官吏

『では失礼』
『司量部令(サリャンブリョン)』

善徳(ソンドク)女王がいないと知り 退室しようとする毗曇(ピダム)
それを春秋(チュンチュ)が引き止める

『陛下にご報告があるのでは?』
『……』
『私に報告することになったはずだ』

今では自由に善徳(ソンドク)女王に会えない毗曇(ピダム)だった

『上将軍(サンジャングン)が 流刑地から消えたそうです
到着すらしていないのか 現地で逃げたかは不明です』
『分かった 陛下が戻られたら私より報告する』

善徳(ソンドク)女王に直接報告したかった
そして 2人の間で策を練りたかった…

『ところで 王命も下らぬのに なぜ流刑地へ行った?』

それは 毗曇(ピダム)がヨムジョンに詰問したことだった
ヨムジョンが答えたと同じ理由をいうわけにはいかない

『陛下が司量部(サリャンブ)に命じたのは 復耶会の掃討だろう
月夜(ウォルヤ)を捜しているか?』
『月夜(ウォルヤ)がユシンを狙うはず
ゆえに ユシンの流刑地を監視していました』

平然と言い放つ毗曇(ピダム)を見据える春秋(チュンチュ)
今はまだ この毗曇(ピダム)に立ち向かえる春秋(チュンチュ)ではなかった

百済(ペクチェ)の陣営では…

『将軍がお呼びだ』
『はい』

再びユンチュン将軍に呼ばれるユシンたち

『いいか 必ず陛下に直接お渡ししろ いいな?』
『はい』
『これを』

山積みにされた書簡が差し出される
それぞれに色が違っている
その書簡のどれを選べばいいのか…
ユシンは 金の刺繍がほどこされた書簡を取る

『貴様!!!』

激怒して立ち上がるユンチュン将軍
ケベクがユシンののど元に剣を突きつけた!

『王室への書状は黒だ!それを知らぬ伝令はおらん 何者だ!』

一瞬の隙を突き ユシンは反撃に出る
黒い書簡をつかみ 一目散に走る!!!

『密偵だーーーっ!!!』

たった3人で この兵士たちの中を脱出できるのか?!!!

『追えーーーっ!』
『南西の方だ 門を閉めろ!!!』

陣営の中では 容易に突破できるはずがない
それでもユシンはあきらめず 立ち向かっていく

そこへ 黒装束の一団がなだれ込み ユシンを加勢し応戦し始めた
何事かと驚く谷使欣(コクサフン)たち

この騒ぎの中 潜入していた宝宗(ポジョン)とサンタクが…

『あ! あれはまさか…』
『ユシンではないか!』
『ええ!そばに月夜(ウォルヤ)将軍も!』
『なぜユシンと月夜(ウォルヤ)が百済(ペクチェ)にいるのだ』

キム・ユシン 月夜(ウォルヤ) 雪地(ソルチ)が 馬を奪い逃走する
それを逃がすまいと ケベクが矢を放った

矢は ユシンの背中に命中し ユシンは書簡を落としてしまう!

『お急ぎください!』
『ユシン 早く来い!』
『お急ぎください!!!』

逃げなければ 月夜(ウォルヤ)たちが救出しに来た意味がない
しかし 書簡を手に入れなければ 潜入した意味がない!

高島(コド)たちが待つ八良(パルリャン)峠に辿りついたユシンたち

『どうなりました』
『密書を落としました』
『まずは傷の手当てを』

洞窟で傷の手当てを受けるユシン

『大耶(テヤ)城に密偵がいる』
『なぜそれが?!』
『“開門”の次は?』

谷使欣(コクサフン)が答える

『“黒”と書いてあるのだけは読めました』
『私も見ました 黒で始まる名前でしょう』
『そいつが密偵だ 開門の任務 つまり防御を担当する者だ
だからケベクは速戦即決と言ったのだ 大耶(テヤ)城は簡単に落とせはしない
それから百済(ペクチェ)軍の兵糧だが 大耶(テヤ)城を狙うには少なすぎる
それに今日 伝書鳩を2羽も見た 新羅(シルラ)の方角から飛んできた』

ユシンは 先に到着していた高島(コド)に聞く

『飯釜の数は?』
『2千です』
『つまり兵力は2万以上だ 私が数えたところ 兵糧は3日分
3日で城を落とす気だ! 今すぐ徐羅伐(ソラボル)に向かってくれ!』

※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)

『休まず走れ 今夜中には到着しろ!』
『はい 将軍!』

高島(コド)たちが出発し
洞窟の中は ユシン 月夜(ウォルヤ) 雪地(ソルチ)の3人になった

それを待ったかのように 宝宗(ポジョン)とサンタクが現れる

『追いますか』
『いや 目標はユシンと月夜(ウォルヤ)だ
ここで騒ぎを起こすと危険だ 新羅(シルラ)に入るところを襲う』

洞窟の中では…

『ユシン そなたは新羅(シルラ)人か?伽耶人か?』
『……』
『決めろ』
『……』
『決めるんだ!!!』
『伽耶は… 滅亡した』
『何だと』
『認めろ いつまで伽耶人の命を担保に 無駄な夢を見るのだ』

ユシンの言葉に激怒する雪地(ソルチ)

『ついに本心を吐いたな!自分の出世のために伽耶を捨てるのか!』
『恋心か?』

月夜(ウォルヤ)は じっとユシンを見つめて聞いた

『陛下をお慕いしているからか』
『……』
『陛下を慕う そなたの愚直な性分のせいか?』
『違う 冷酷な現実を見ているだけだ
新羅(シルラ)は700年続いてきた
伽耶の王?そんなことが可能だと思うか?』
『それで?』
『方法は1つ 脇役に徹する それが生きる道だ』
『貴様ーーーっ!!!』

叫ぶ雪地(ソルチ)を抑える月夜(ウォルヤ)

『伽耶の王族として!
伽耶人を抑圧から解放し!子孫を残せるようにせねば!
伽耶のキム一族が!滅びぬようにしなければ!!!』

雪地(ソルチ)は 涙ぐんでユシンを凝視する
月夜(ウォルヤ)もまた ユシンを見つめている

『そのために 三韓一統の… 先頭に伽耶人が立たねば!』
『脇役? 三韓一統? それがそなたの選んだ大義か…
キム・ユシン 我々の同盟は… 終わりだ』

月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)は 去って行った
ユシンの思いは 通じなかった

ひとり洞窟を出たユシンは 宝宗(ポジョン)率いる兵に取り囲まれる

その頃 徐羅伐(ソラボル)に着いた高島(コド)たちは
善徳(ソンドク)女王に危急を知らせる

『何だと?どういうことだ!』
『百済(ペクチェ)との戦です!』
『大耶(テヤ)城が危険です!』
『兵部令(ピョンブリョン)や毗曇(ピダム) 春秋(チュンチュ)たちには?!』
『便殿に集まるよう知らせました』
『大耶(テヤ)城の防衛の強化を! 比斯伐(ピサボル) 伊西(イソ)郡
大伽耶(テガヤ)の兵を大耶(テヤ)城に移動させなさい!』
『承知しました!』

状況も分からずに 便殿に集まる官僚たち

『一体どういうことです!』
『なぜ急に集まれと?』
『戦です!』

現れた善徳(ソンドク)女王の言葉に 動揺する一同

『戦ですって?!!!』
『どういうことです!』

金春秋(キム・チュンチュ)とキム・ソヒョンでさえ驚きを隠せない

『百済(ペクチェ)が大耶(テヤ)城に進軍を!』
『え?!!!』
『大耶(テヤ)城に?』
『心配はご無用です 百済(ペクチェ)の攻撃なら何度も受けてきました』
『密偵が城門を開けるそうです!!!』

のん気な官僚に向かい 叫ぶ善徳(ソンドク)女王

『一体 司量部令(サリャンブリョン)はどこにいるのだ!!!』

便殿会議の場に現れない毗曇(ピダム)に 善徳(ソンドク)女王は苛立つ
毗曇(ピダム)は 密かに捕えたキム・ユシンと向き合っていた…!

便殿に駆け付け 報告する宝宗(ポジョン)

『陛下! 上将軍(サンジャングン)ユシンを捕らえました!』
『何ですって?』
『百済(ペクチェ)にいたユシンを 密偵の容疑で捕らえました』
『密偵だと?!!!!!何を言っているのだ!!!』

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