善徳女王 55話#1 時機

『陛下! 上将軍(サンジャングン)ユシンを捕らえました!』
『何ですって?』
『百済(ペクチェ)にいたユシンを 密偵の容疑で捕らえました』
『密偵だと?!!!!!何を言っているのだ!!!』

※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国

『なぜユシンが百済(ペクチェ)に!』
『我々が 百済(ペクチェ)の前線を偵察中に
比斯伐(ピサボル)の西方で ユシン公を発見しました
司量部(サリャンブ)に護送済みです』

※司量部(サリャンブ):王室のすべての部署を監察する部署

ユシンの所在に次々と疑問が…!

『于山(ウサン)国に流刑中のユシン公が なぜ百済(ペクチェ)に?!』
『今の報告が事実なら ユシンは王命に背き 流刑地から脱走を!』
『しかも無断で百済(ペクチェ)に入ったということは
密偵の疑いが十分にあります!』

ユシンの父キム・ソヒョンだけが 必死に訴える

『陛下!これは何かの間違いです』
『上将軍(サンジャングン)まで務めた者が
流刑地から脱走し 百済(ペクチェ)へ行くとは大問題です!』
『大逆罪で処罰すべきであり…』
『私が!』

抗議の声を 善徳(ソンドク)女王自らが遮った

『下した命令です
ユシンは命令を受け 百済(ペクチェ)で任務を遂行中でした』

ざわめきが広がり 場内は騒然となる

『王命ですと?!!!』

キム・ユシンを取り調べる毗曇(ピダム)

『何だと?大耶(テヤ)城が?』
『危険が迫っている 大規模な攻撃が始まるぞ!』
『何度も攻撃された城だ だが一度も陥落していない
情報収集のために百済(ペクチェ)へ侵入しただと? 苦しい言い訳だ』
『大耶(テヤ)城にいる密偵が門を開ける!』
『……密偵?』
『城門の衛兵たちの中に 黒で始まる名の者がいる』
『それが密偵だと?』
『そうだ 時間がない! 早く密偵を見つけて兵力を増強し…』
『ユシン!』
『……』
『心配すべきは大耶(テヤ)城ではなく 自分の命だろう
流刑地を脱走し敵国に入った これは大逆罪だ』

そこへ ヨムジョンが血相を変えて入ってくる

『司量部令(サリャンブリョン)!お話が!』
『何だ』

※司量部令(サリャンブリョン):司量部(サリャンブ)の長

ヨムジョンの耳打ちに 驚愕する毗曇(ピダム)

『何だと?陛下の命令?!!!』

忌々しき事態に司量部(サリャンブ)は騒然とする
宝宗(ポジョン)の報告に 美生(ミセン)が…!

『命令?どういうことだ!』
『百済(ペクチェ)との前線を偵察せよとのことでした』
『罪人に命令を下すなんて信じられない!何のための流刑だ!』

呆れ果てる夏宗(ハジョン)が叫ぶ
ソルォンが冷静に…

『とにかく 陛下が臣下たちの前でそう言われて
ユシンの密偵の容疑を問題化できない』
『どうしてこうなるのだ!』

ユシンを暗殺してしまおうと考えていただけに 衝撃を受ける一同

『陛下はユシンを守るために 偽りを仰せになったのでは?』
『実は 百済(ペクチェ)には月夜(ウォルヤ)や雪地(ソルチ)もいました』
『それは本当か?!!!』
『なぜその話をしなかったのだ!』
『どうしてだ!連中と一緒にいたこと自体が大逆じゃないか!!!』
『そのとおりだ 月夜(ウォルヤ)に会えとまでは 陛下も命令しないはず』
『ただそれが…』

皆に責められた宝宗(ポジョン)は…

『司量部令(サリャンブリョン)が その件は報告するなと』
『なぜだ!』
『よく分かりません』
『その事実を明かせば 陛下も苦境に立たされるのに なぜだ…』

兵部令(ピョンブリョン)キム・ソヒョンが さっそく作戦を練る

『大耶(テヤ)城の前方 加兮(カへ)城と知品川(チプムチョン)県に陣を置き
泉州(チョンジュ) 彌陀(ミダ)山城の兵を増員します
出来るだけ早く出兵いたします』
『ユシンの報告によると 3日 長くても4日以内に攻撃がある 急ぎなさい!』
『はい 陛下!』

善徳(ソンドク)女王は さらに金春秋(キム・チュンチュ)に命令を出す

『大耶(テヤ)城の密偵を捜し出しなさい 黒に始まる名前だ』
『まもなく林宗(イムジョン)公が城へ向かいます』
『上大等(サンデドゥン) 司量部令(サリャンブリョン)はどこです!』

※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理

『上将軍(サンジャングン)ユシンから 敵の作戦内容の聴取を』

毗曇(ピダム)が ユシンをどう扱うか…
善徳(ソンドク)女王は どうすることもかなわなかった

『ユンチュンが“速戦即決”と 兵糧と兵の数から見て兵站は3日分
つまり 3日以内に攻撃が行われると?』
『そうだ 間違いない』
『黒で始まる名の者が開門を?』
『そうだ』
『また手柄を立てたな 流刑地にいたら こんな情報は得られなかった
ただ… 事実であればの話だが』
『事実だとも』
『そうだとすれば そなたはこんな状況でも 再び神国を救ったことに』

※神国:新羅(シルラ)の別称

『事実だと確認できたら そなたを放免する
つらいだろうが しばらく辛抱しろ』

毗曇(ピダム)が執務室を出ると
金春秋(キム・チュンチュ)が 大耶(テヤ)城への使いとなる
林宗(イムジョン)を見送っている

『手がかりは 黒で始まる名だ 城主に会って王命を伝えろ
隠密に密偵を捜せ』
『はい 内省私臣(ネソンサシン)の命令を受け すぐに出発します!』

※内省私臣(ネソンサシン):内省(ネソン)の長官

兵部令(ピョンブリョン)キム・ソヒョンもまた 出兵の準備を急ぐ

『明日の早朝 大耶(テヤ)城へ向かう!
将軍たちは 花郎徒(ファランド)たちとともに出陣の準備をしろ!』

※花郎徒(ファランド):花郎(ファラン)を組織する集団を指す

兵たちを前に 善徳(ソンドク)女王が訓示を述べる

『ユシン公の情報では 敵の兵力は推定2万
大耶(テヤ)城に密偵がいる 密偵を捕らえて敵の勢いをくじけば
3日分の兵站しかない百済(ペクチェ)軍は 壊滅するだろう
必ずや百済(ペクチェ)軍を倒し 大耶(テヤ)城を守るのです!』
『はい 陛下!』

夜になり 毗曇(ピダム)はようやく善徳(ソンドク)女王の前に…

『それで?』
『流刑の罪人です なぜそんな者に命令を下し 国の重大事をお任せに?』
『重大事だからだ だから最も信用できる者に任せた』
『しかしながら罪人です』
『有能な罪人に 命懸けで罪を償ってもらうことが 大義に反するのか?』
『ユシンに… それほど信頼を?』
『お前は信じられないのか?』
『人を信じろとおっしゃるなら なぜ私を司量部令(サリャンブリョン)に?』
『違う ユシンではなく私を… 信じられないのか?
個人的な理由で 私がユシンを買いかぶっていると?』

(それほど信頼するユシンが 月夜(ウォルヤ)たちと会っていました)

『答えなさい』
『そのご質問については 後日お答えします』

執務室に戻った毗曇(ピダム)を 糾弾する夏宗(ハジョン)たち

『司量部令(サリャンブリョン) なぜ報告しないのです!』
『まったくです 流刑者が百済(ペクチェ)で
復耶会の長と一緒にいた これは一大事です』
『陛下も 何もなかったことにはできません
責任を取ることになります なのになぜ…』
『確かに見たか?』

ソルォンが 息子宝宗(ポジョン)に再確認する

『間違いありません 月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)でした』
『時機を待っている』
『時機?どういうことです!』
『神国を救うユシンの情報は貴重だ 今それを持ち出しても
相殺されて ユシンの罪はなかったことになってしまう
だから 時機を待つのだ』

復耶会の砦では 雪地(ソルチ)が武器の開発に燃える

『これはすごい!今度の蹶張弩(コルチャンノ)は性能が違う』
『正確さもさることながら ご覧を! 従来の矢より5寸は深く刺さります
200歩以上の射距離を確保できます』
『いいぞ 失われた大伽耶(テガヤ)の技術を取り戻した』

月夜(ウォルヤ)は ユシンの言葉を思い返し 深く考え込んでいる

「伽耶の王族として!伽耶人を抑圧から解放し 子孫を残せるようにせねば!
そうすれば 伽耶も新羅(シルラ)も越えて…
統一された三韓の中で 伽耶は永遠となる!」

※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一

そんな月夜(ウォルヤ)のもとへ 雪地(ソルチ)が…

『今回の蹶長弩(コルチャンノ)は大成功です』
『……』
『ユシンのことは忘れてください 一緒に歩む者ではなかったのです
原点に戻っただけです また新たに戦えばよいのです』
『我々が戦うのは正しいことか?』
『80年間 我々を虐げてきたのです!
数年配慮してくれただけで信じることなどできません!』
『抑圧さえ受けなければ 新羅(シルラ)人でも伽耶人でも
そもそも構わなかったはず』
『絶対に 弱気になってはいけません』

ユシンは 捕らわれている牢に閼川(アルチョン)を呼ぶ

『何だと?百済(ペクチェ)に月夜(ウォルヤ)たちが?』
『百済(ペクチェ)から逃げた時 攻撃を食い止めてくれた』
『そなたの尾行を?まさか宝宗(ポジョン)に見られていないだろうな!
だとすれば大変なことになる!』
『それより 大耶(テヤ)城から連絡は?』

大耶(テヤ)城からの連絡に 善徳(ソンドク)女王は…

『何だと?大耶(テヤ)城にそんな者はいない?!』
『はい 陛下 黒で始まる名の者は 数か月前に死んだそうです』

司量部(サリャンブ)では…

『いなかっただと?!!!』

『それは本当のことか?』
『では ユシンは嘘をついたのか!』
『とにかく ユシンの情報により軍まで編成され動いたのです
戦局を混乱させた罪は重い』

報告するヨムジョンの見解に納得する美生(ミセン)

『そのとおり いくら陛下の命令とはいえ 流刑の罪人が前線を越えた
おまけに嘘の情報を ハッハッハ…』
『好機ではありませんか?』

ソルォンに聞かれて毗曇(ピダム)は…

『ええ 思ったより早く時機が訪れた』

谷使欣(コクサフン)が 牢のユシンに報告する

『死んだ?他にはいないのか!黒のつく名前の者は?』
『確認しましたが 誰もおりません』
『兵や将校 将軍はもちろん 民まで調査しましたがいませんでした』
『“情報は嘘だ” と 皆が情報を深刻に受け取ってくれません』
『いかん!大耶(テヤ)城に必ず大きな攻撃がある!』
『しかし じきソヒョン公に撤退命令が』
『何だと?!!!』

便殿会議

『陛下 ユシンの情報が偽りと分かった以上 厳罰に処分すべきです!』
『いかにも!前線と軍に混乱をもたらしたのです その罰は軽くありません!』
『陛下は 情け深くも流刑者に恩恵を施し 重要任務を任せられました
その恩恵を忘れて 偽りの情報を報告するとは!何と非道でありましょう』
『戦局が混乱したのは事実ですが 単なる過失で
悪意はなかったはずです どうかご理解を!』

そこへ 毗曇(ピダム)が現れる

『陛下 そうです ユシンは偽りを申しません
ですが 司量部令(サリャンブリョン)毗曇(ピダム)が申し上げます
ユシンは 百済(ペクチェ)で捕らわれる前 月夜(ウォルヤ)たちと一緒でした』

これには さすがに驚きを隠せない善徳(ソンドク)女王
場内はまたもや騒然となる

『司量部令(サリャンブリョン) それは事実か!』
『陛下 あってはならぬことです!流刑地から脱走し復耶会と接触するとは!』
『今の話が事実なら ユシンは復耶会の密偵では?』
『ユシンを斬首の刑に処し神国の規律を正しましょう!』
『陛下の命令を受けながら ユシンは復耶会と接触していたのです!
許されることではありません!ユシンを斬首の刑に!』
『そのとおり!』
『ユシンを斬首に!』
『上将軍(サンジャングン)ユシンを斬首にすべきです!』
『陛下!斬首にすべきです!』
『陛下!ご決断くださいませ!』

善徳(ソンドク)女王は 毗曇(ピダム)の言葉を思い返していた

「そのご質問については 後日お答えします」

(毗曇(ピダム) これが答えなのか?)
(はい これが答えです 陛下)

執務室で 毗曇(ピダム)と向き合う善徳(ソンドク)女王

『本当に 先ほど調査を終えたのか
月夜(ウォルヤ)との接触を前から知っていたのでは?』
『偽りなど申すつもりもありません 知っていました』
『ではなぜ!!! 黙っていたのだ』
『ユシンの情報は貴重です その情報がかすんでしまうのが心配でした』
『……』
『ですから 情報をきちんと確認してから… ご報告をと』
『毗曇(ピダム)!!!それでうまく言い逃れたつもりか!
ユシンを追い詰めるために 時機を待っていたのだろう!』
『復耶会が新羅(シルラ)に逆らった以上 伽耶を受け入れられません』
『それで?』
『ですがユシンは 伽耶を捨てられない』
『それで!!!』
『方法は ユシンを捨てることだけです
私からの進言です ユシンをお捨てください』

牢の中の息子に会いに 万明(マンミョン)夫人が…

『どうしたらいいの お前の斬首を望む上書が来ている!』
『大耶(テヤ)城に何か変わったことは?』
『今そんなことは問題ではない!』
『大耶(テヤ)城こそが問題です
情報の真偽はともかく 必ず戦は起こるでしょう』
『大耶(テヤ)城が 本当に陥落すると?』
『事前に防衛を強化しなければ 必ず城は陥落します』

思い悩む善徳(ソンドク)女王の前に 金春秋(キム・チュンチュ)が現れる

『そなたも ユシンを捨てろと言いに?』
『いいえ』
『では 捨ててはならないと?』
『違います』
『では何?』
『伽耶を捨ててはなりません』

春秋(チュンチュ)の言葉に 驚く善徳(ソンドク)女王

『ユシンと伽耶を分けずとも 解決策はあります』
『私は伽耶人に数々の善政を施したが 彼らは信じず 復耶会を支援した
これ以上 私に何をしろと?!!!この私の問いに 答えられるか?!!!』

すぐに答えず 微笑んでいる春秋(チュンチュ)

『そなたに答えはあるのか?』
『はい陛下 その答えとは この私 金春秋(キム・チュンチュ)です』

牢の中のキム・ユシンは 百済(ペクチェ)で見聞きした情報のすべてを
床に書き記していた 速戦即決するというケベクの言葉が気になった

一夜明け 善徳(ソンドク)女王の前に現れる毗曇(ピダム)

『陛下 ユシンの処罰は?』
『それを聞きたくて ここへ来たのか?』
『……ユシンを捨てられぬなら…』
『何?』
『私がユシンを… 守ります ユシンを斬首しろとの上書は増え続け
一方で 花郎(ファラン)と武将たちが反対するでしょう』

※花郎(ファラン):美しく文武両道に秀でた青年の精鋭集団

『ですから この私が政治力を最大限に駆使し
彼らを黙らせます 私にご命令を!ユシンの命だけは救ってみせます』

善徳(ソンドク)女王は 悲しげに毗曇(ピダム)を見つめた

『ユシンの命? その代償として 私はお前と婚姻を?』
『陛下…』
『ユシンの命はそれほど価値があるのか お前の望みはそういうこと?違う?』

目に涙をためて 善徳(ソンドク)女王は聞いた
すべてを見透かされてうろたえる毗曇(ピダム)

『はい それが私の… 望みです
ですが 恋心を取引に使う気はありません』
『恋心? 温かくてのんびりした言葉だ』
『……ご命令を ユシンを救えと
私は陛下のためだけに ユシンの命を守ります』
『……』
『陛下』
『命令は… 出さない 下がりなさい!』

拒絶された毗曇(ピダム)は ユシンのもとへ…
牢の床いっぱいに書かれた百済(ペクチェ)の作戦図
それを踏みにじりながら 牢の中に入る毗曇(ピダム)

『そなたを処刑しろとの上書が 後を絶たないのは知っているか
なのに 大耶(テヤ)城が陥落すると まだ言っている
そなたの情報のせいで 陛下はお困りだ』
『毗曇(ピダム) そなたは私よりもはるかに聡明だ
なのに なぜ状況を把握できん』
『……』
『今日だ 今日中に大耶(テヤ)城に異変が起こる』
『やめろ』
『そなたが心配すべきなのは 私ではなく自分のことだ
陥落すれば 防げなかった司量部令(サリャンブリョン)にも責任がある』
『私にそんな策は通用しない』
『毗曇(ピダム) そなたの母君ならどうしたと思う?』
『母のことを言うな!!!』
『ミシルの半分でも洞察力があるなら私を見ろ!!!』

ユシンの前に仁王立ちになる毗曇(ピダム)
しかし ユシンは怯まない

『私に恐れが見えるか?私が策を巡らすと思うか?
黒で始まる名の密偵が なぜいないのかは分からん
だが 大耶(テヤ)城は今日中に必ず攻撃される!
“鹿を追う者は山を見ず” と言う そなたなら山が見えるはずだ!』

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