善徳女王 55話#2 恋心
(ユシンが策を巡らすわけがない もしユシンの言う通りなら…)
考え込んでいるところへ ヨムジョンが通りかかる
『ユシンが墓穴を 不利な状況を打開するため出まかせを
司量部令(サリャンブリョン)の思いどおりです ユシンの件が片付きさえ…』
『本当に大耶(テヤ)城が攻撃されたら?』
『え?まさか アッハッハ…』
『大耶(テヤ)城の名簿を持ってこい!他の調査結果もすべて!!!』
『……分かりました』
毗曇(ピダム)は 急に不安に襲われた
ユシンの話が本当だったら… 本当だったら…
善徳(ソンドク)女王の前に現れたソルォン
『ご心痛のようで』
『数々の戦いを経験したあなたなら勘が働くはず
戦が始まるという 不吉な予感です』
『偽りの情報だったのに まだユシンを信じるのですか
確かにユシンはそういう男 どこにいようが常に陛下の忠臣です』
『……』
『ご心配なさるべき相手は ユシンではありません
毗曇(ピダム)を そそのかすなと 以前言われましたね
陛下こそ 毗曇(ピダム)をそそのかしています
毗曇(ピダム)のことは 陛下が責任を取るべきです
毗曇(ピダム)の行く末は 陛下にかかっています
毗曇(ピダム)の心に平穏を
そうすれば 毗曇(ピダム)は陛下の忠臣になります』
官僚たちが 美生(ミセン) 夏宗(ハジョン)たちと会議を開く
『すべて偽りでした
ユシンの情報も 復耶会とは無縁だという話も』
『陛下と神国の大臣たちを侮辱している』
『復耶会の罪を隠ぺいするために 我々を混乱させた』
『今やユシンは神国の敵です!見せしめのためにも厳罰を!』
『陛下が下した命令です どのように処分されることか』
『公明正大に処分なさるよう 強く進言しましょう』
『それにしても この大事な話し合いの場に…
なぜ司量部令(サリャンブリョン)はいないのです?』
毗曇(ピダム)は ヨムジョンと共に“大耶(テヤ)城兵士名簿”を調べている
『見当たらん ではユシンが見たものは何だ』
『やはり戯言では?』
『いいや それはない』
『どこにも載っていませんよ!』
インガン殿の前に座り込み 抗議する臣下たち
一方で ユシンの命乞いをする兵士たち
『陛下 上将軍(サンジャングン)ユシンを 斬首なさってください!』
『ユシン公の命をお助け願います!』
高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)の訴えは際立っていた
『陛下 なりません! ユシン公の言葉に偽りはありません!』
『大耶(テヤ)城を防備すべきです!』
『神国の前線が 絶体絶命の危機にさらされています!』
それらの声を聞く善徳(ソンドク)女王
そのそばには 常に侍衛府令(シウィブリョン)閼川(アルチョン)が付き添う
竹方(チュクパン)が 山のような書簡を差し出した
『陛下 今日届いた上書です
すべてユシン公の処罰に関するものです どうすればいいのでしょう』
善徳(ソンドク)女王が じっと目を閉じてうつむくと 竹方(チュクパン)が…
『ええ 陛下 そうやって目をおつむりください
耳も塞ぎ 考えることもおやめください』
『……』
『ユシン公をお助け下さい そうすべきです』
善徳(ソンドク)女王は 幼い頃から知っている竹方(チュクパン)の
真正直な言葉を聞きたくなった
閼川(アルチョン)もまた 竹方(チュクパン)を見つめる
『どうして?』
『大義や政治のことは分かりませんが 今 ユシン公を殺すのは…
出過ぎたことを言うようですが…
陛下! …悪いことです よくありません 悪いことに思えます』
臣下と兵士たちの訴えの声は ユシンの耳にも届いていた
そこへ 閼川(アルチョン)が駆け込んでくる
『上将軍(サンジャングン)!』
『大耶(テヤ)城から知らせか?』
『それよりも宮殿が大騒ぎだ そなたの処罰の件で』
『……』
『私はそなたを信じる だが戦局を混乱させた以上 その責任は取らねば』
『私のことはよい 閼川(アルチョン)公!戦は必ず起こる
百済(ペクチェ)軍を防がねば!』
『本当にそなたは 大耶(テヤ)城が陥落すると思うのか?』
『私の計算では 今日 襲撃がある』
『だが そなたが見たという名前は? 密偵が見当たらん』
『……』
『本当に黒の字だったのか?』
『次の字は隠れていたが 黒の字は確かに見た』
嘘を言うユシンではないと 閼川(アルチョン)は信じていた
しかし… 密偵を捜せなければ それを証明することは難しいのであった
一方 毗曇(ピダム)もまた ヨムジョンと一緒に名簿を確認していた
『ありませんね 地図は見ても 文字を全部は見ていないのでしょう
黒の字を持つ者などいません』
その時 毗曇(ピダム)の中に ある閃きが浮かんだ
『黒? …そうだ! 部首だ 部首かもしれん』
『……では?!』
黒で始まる名前はいなかったが
黒の部首の漢字で始まる名前なら…!
『“點陽(チョミャン)” “黔日(コミル)” 2人もいます! どちらかが?!』
『北門の門兵 黔日(コミル)』
百済(ペクチェ)のユンチュン将軍のもとへ 伝書鳩が飛んできた
“本日 北門を開けます 黔日(コミル)”
目星がついた毗曇(ピダム)は…
『我々が先手を!黔日(コミル)を捕らえ… いや始末する!』
『え?』
『極秘に宝宗(ポジョン)を行かせろ 一番の早馬で!』
『はい!』
部下を引き連れ 宝宗(ポジョン)が直ちに出発する
『密偵 黔日(コミル)を捕らえる 始末するのだ いいな』
『はい!』
百済(ペクチェ)軍 ユンチュン将軍の幕舎では…
『黔日(コミル)からの連絡だ
今夜 モチョクが兵糧倉庫に火を放ち 黔日(コミル)が門を開ける
大耶(テヤ)城を落とし 聖王(ソンワン)当時の領地を奪い返す!』
※聖王(ソンワン):百済(ペクチェ)の第26代王
『大耶(テヤ)城は始まりに過ぎん
我々の目標は新羅(シルラ)の都 徐羅伐(ソラボル)だ!いいな?』
『はい!』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
毗曇(ピダム)は 善徳(ソンドク)女王に呼び出された
『陛下 私にご命令でも?』
『……』
『お申し付けください 何のご命令でしょうか』
ジロリと毗曇(ピダム)を睨む善徳(ソンドク)女王
『陛下』
『ソルォン公は 私がお前をそそのかし 心の平穏を乱したと そうなのか?』
『…何のことでしょう』
『私に恋しているのか?』
真正面から聞かれて 毗曇(ピダム)はうろたえる
『答えなさい』
『はい… 陛下 恐れながら… そのとおりです』
『神国は?』
『はい?』
『神国には恋していないのか?』
その頃 兵部令(ピョンブリョン)キム・ソヒョンの部隊が進軍を続けていた
偵察の兵士が戻ってくる
『ユンチュンの部隊が動きました』
『位置は!』
『ソンムン峠を越え 星州(ソンジュ)の方へ向かっています!』
牢の中のキム・ユシンは…
『誰か来てくれ!!! 伝令は? まだなのか!!!』
『変わりありません お静かに!』
『兵部(ピョンブ)で状況を尋ねろ!』
『ここを離れられません』
『行くのだ!!!』
『申し訳ありません』
『おい!待たんか!!!』
大耶(テヤ)城の近くまで来た宝宗(ポジョン)は 目の前の光景に絶句する
サンタクが 悲鳴のような声で叫ぶ!
『大耶(テヤ)城が… 大耶(テヤ)城が燃えています!!!』
『すぐ徐羅伐(ソラボル)に知らせねば 行くぞ!!!』
大耶(テヤ)城の事態を知らない善徳(ソンドク)女王は…
『私がお前と婚姻しても それはユシンを救うためでも 恋心からでもない
ただ お前が必要だからだ しかしお前は 情によって動いている
権力を得るために 婚姻を望むのが普通であろう
なのに 婚姻が目的で権力を握ろうなどと…』
『陛下…』
『本当にお前は 子供のようだな
お前は この徐羅伐(ソラボル)で 最も純真な人間だ』
毗曇(ピダム)はふと 母ミシルの言葉を思い出す
「人の心は もろくて壊れやすい お前の夢はあまりに幼い
何とも魅力のないものだな 恋を成就させるために女を追う男とは」
『私に恋心を? 私は…味気ない話だけれど 神国だけに恋せねばならない』
『……』
『恋とは すべてを懸けるものよ だから私は 人に恋はできない』
『陛下 神国だけに恋するなら… 私が神国になります
私にとって陛下は 神国そのものです
陛下への恋心も 神国への恋心も 私にとっては同じなのです』
毗曇(ピダム)の一途な告白に 今度は善徳(ソンドク)女王が動揺する
そこへ…!
青ざめたヨムジョンが駆け込んできた
『陛下ーーーっ!!! 陛下… たった今!』
『まさか…』
牢の中のキム・ユシンのもとへも 報告が入る
『将軍! 大耶(テヤ)城が陥落したそうです!』
ヨムジョンは 善徳(ソンドク)女王への報告を続ける
『情報は真実でした
百済(ペクチェ)の密偵の黔日(コミル)が北門を開けたと!
またモチョクという者が倉庫に火をつけ合図を!
ソヒョン将軍が交戦中ですが 敵は破竹の勢いです』
キム・ソヒョン率いる兵部(ピョンブ)の兵士は 決死の防御も虚しく…!
重傷を負いながらも 善徳(ソンドク)女王の前に報告に来る伝令
『陛下!比斯伐(ピサボル)の防御線が崩されました!』
『百済(ペクチェ)の兵は増え すさまじい勢いです!』
ざわめく臣下たち
金春秋(キム・チュンチュ)が…!
『陛下 推火(チュファ)郡 伊西(イソ)郡を越え
押梁州(アンニャンジュ)まで来れば
徐羅伐(ソラボル)までは1日で到達します!』
ヨンチュン公が 涙ながらに進言する
『陛下 上将軍(サンジャングン)ユシンは正しかったのです 今からでも…!』
『ご心配なく』
毗曇(ピダム)が現れ ヨンチュン公の進言を遮る
皆の前を通り 善徳(ソンドク)女王のもとへ…
『負け知らずのユシン軍が 徐羅伐(ソラボル)にいるではありませんか』
『では 上将軍(サンジャングン)を出陣させると?』
『ユシン公は 牢にいる罪人です!』
反対の声を遮ったのは 金春秋(キム・チュンチュ)だ
『ユシン公なしで ユシン軍は動かせない!』
『しかし 罪人に軍を任せることはできません』
『ならば誰が軍の指揮を?!!!』
『まさか 司量部令(サリャンブリョン)が出陣なさるのですか?』
『司量部令(サリャンブリョン)は軍を率いたことがありません!』
紛糾する議論の中 毗曇(ピダム)は落ち着き払っている
『はい 他に適任者が
優れた知略で戦いを指揮し 神国を幾度も救ってきた ソルォン公です』
ハッとする善徳(ソンドク)女王
金春秋(キム・チュンチュ)が ヨンチュン公が 毗曇(ピダム)を見た
『ソルォン公が ユシン軍を指揮します』
勝ち誇った表情で 毗曇(ピダム)は道を開けるようにして身を引く
出陣の出で立ちで現れたソルォンは 善徳(ソンドク)女王の前にひざまずく
『陛下 この老将の出陣を お許しくださいませ
神国を救い 陛下の名を高められなければ このソルォンは帰還いたしません』
ニヤリと笑い 毗曇(ピダム)は善徳(ソンドク)女王を見上げた
ユシンがいる牢の前に駆け付ける 高島(コド)たち
『なぜソルォン公なのです!!!
ユシン軍を ソルォン公が指揮するなんて!』
『大耶(テヤ)城も 結局上将軍(サンジャングン)の言った通りに』
『上将軍(サンジャングン)が出陣すべきです 釈放を要請します!』
『ソルォン公の命令に従え
敵の部隊をよく知っているだろう 戦ってきたのだから』
ユシンの命令に 皆が意気消沈する
『ユンチュンの百済(ペクチェ)軍は 指揮官が倒れても列を崩さない
決して惑わされてはならない』
『はい…』
『ソルォン公は確かに名将だが すでに高齢だ
近年は 戦に出ていないのが心配だ
ここ数年で 百済(ペクチェ)軍は大きく変化したとお伝えしろ』
便殿会議を終え 再び善徳(ソンドク)女王と向き合う毗曇(ピダム)
『司量部(サリャンブ)が練った 大耶(テヤ)城や主な城の
襲撃への防御策です ソルォン公が草案を作られました
草案に基づき 策を立てました』
善徳(ソンドク)女王は 動揺していた
その手は微かに震え 作戦図の端を握りしめている
『陛下 私を選ぶとしたら 神国のために必要だからとおっしゃいましたね
誰かを選ぶ時は 神国の利益になる時だと』
『……』
『そうなります 必ず神国を救い 陛下と… 陛下と民と神国を救います』
善徳(ソンドク)女王は じっと毗曇(ピダム)を見据える
『神国を救った者に… すべての資格があるでしょう』
考え込んでいるところへ ヨムジョンが通りかかる
『ユシンが墓穴を 不利な状況を打開するため出まかせを
司量部令(サリャンブリョン)の思いどおりです ユシンの件が片付きさえ…』
『本当に大耶(テヤ)城が攻撃されたら?』
『え?まさか アッハッハ…』
『大耶(テヤ)城の名簿を持ってこい!他の調査結果もすべて!!!』
『……分かりました』
毗曇(ピダム)は 急に不安に襲われた
ユシンの話が本当だったら… 本当だったら…
善徳(ソンドク)女王の前に現れたソルォン
『ご心痛のようで』
『数々の戦いを経験したあなたなら勘が働くはず
戦が始まるという 不吉な予感です』
『偽りの情報だったのに まだユシンを信じるのですか
確かにユシンはそういう男 どこにいようが常に陛下の忠臣です』
『……』
『ご心配なさるべき相手は ユシンではありません
毗曇(ピダム)を そそのかすなと 以前言われましたね
陛下こそ 毗曇(ピダム)をそそのかしています
毗曇(ピダム)のことは 陛下が責任を取るべきです
毗曇(ピダム)の行く末は 陛下にかかっています
毗曇(ピダム)の心に平穏を
そうすれば 毗曇(ピダム)は陛下の忠臣になります』
官僚たちが 美生(ミセン) 夏宗(ハジョン)たちと会議を開く
『すべて偽りでした
ユシンの情報も 復耶会とは無縁だという話も』
『陛下と神国の大臣たちを侮辱している』
『復耶会の罪を隠ぺいするために 我々を混乱させた』
『今やユシンは神国の敵です!見せしめのためにも厳罰を!』
『陛下が下した命令です どのように処分されることか』
『公明正大に処分なさるよう 強く進言しましょう』
『それにしても この大事な話し合いの場に…
なぜ司量部令(サリャンブリョン)はいないのです?』
毗曇(ピダム)は ヨムジョンと共に“大耶(テヤ)城兵士名簿”を調べている
『見当たらん ではユシンが見たものは何だ』
『やはり戯言では?』
『いいや それはない』
『どこにも載っていませんよ!』
インガン殿の前に座り込み 抗議する臣下たち
一方で ユシンの命乞いをする兵士たち
『陛下 上将軍(サンジャングン)ユシンを 斬首なさってください!』
『ユシン公の命をお助け願います!』
高島(コド) 大風(テプン) 谷使欣(コクサフン)の訴えは際立っていた
『陛下 なりません! ユシン公の言葉に偽りはありません!』
『大耶(テヤ)城を防備すべきです!』
『神国の前線が 絶体絶命の危機にさらされています!』
それらの声を聞く善徳(ソンドク)女王
そのそばには 常に侍衛府令(シウィブリョン)閼川(アルチョン)が付き添う
竹方(チュクパン)が 山のような書簡を差し出した
『陛下 今日届いた上書です
すべてユシン公の処罰に関するものです どうすればいいのでしょう』
善徳(ソンドク)女王が じっと目を閉じてうつむくと 竹方(チュクパン)が…
『ええ 陛下 そうやって目をおつむりください
耳も塞ぎ 考えることもおやめください』
『……』
『ユシン公をお助け下さい そうすべきです』
善徳(ソンドク)女王は 幼い頃から知っている竹方(チュクパン)の
真正直な言葉を聞きたくなった
閼川(アルチョン)もまた 竹方(チュクパン)を見つめる
『どうして?』
『大義や政治のことは分かりませんが 今 ユシン公を殺すのは…
出過ぎたことを言うようですが…
陛下! …悪いことです よくありません 悪いことに思えます』
臣下と兵士たちの訴えの声は ユシンの耳にも届いていた
そこへ 閼川(アルチョン)が駆け込んでくる
『上将軍(サンジャングン)!』
『大耶(テヤ)城から知らせか?』
『それよりも宮殿が大騒ぎだ そなたの処罰の件で』
『……』
『私はそなたを信じる だが戦局を混乱させた以上 その責任は取らねば』
『私のことはよい 閼川(アルチョン)公!戦は必ず起こる
百済(ペクチェ)軍を防がねば!』
『本当にそなたは 大耶(テヤ)城が陥落すると思うのか?』
『私の計算では 今日 襲撃がある』
『だが そなたが見たという名前は? 密偵が見当たらん』
『……』
『本当に黒の字だったのか?』
『次の字は隠れていたが 黒の字は確かに見た』
嘘を言うユシンではないと 閼川(アルチョン)は信じていた
しかし… 密偵を捜せなければ それを証明することは難しいのであった
一方 毗曇(ピダム)もまた ヨムジョンと一緒に名簿を確認していた
『ありませんね 地図は見ても 文字を全部は見ていないのでしょう
黒の字を持つ者などいません』
その時 毗曇(ピダム)の中に ある閃きが浮かんだ
『黒? …そうだ! 部首だ 部首かもしれん』
『……では?!』
黒で始まる名前はいなかったが
黒の部首の漢字で始まる名前なら…!
『“點陽(チョミャン)” “黔日(コミル)” 2人もいます! どちらかが?!』
『北門の門兵 黔日(コミル)』
百済(ペクチェ)のユンチュン将軍のもとへ 伝書鳩が飛んできた
“本日 北門を開けます 黔日(コミル)”
目星がついた毗曇(ピダム)は…
『我々が先手を!黔日(コミル)を捕らえ… いや始末する!』
『え?』
『極秘に宝宗(ポジョン)を行かせろ 一番の早馬で!』
『はい!』
部下を引き連れ 宝宗(ポジョン)が直ちに出発する
『密偵 黔日(コミル)を捕らえる 始末するのだ いいな』
『はい!』
百済(ペクチェ)軍 ユンチュン将軍の幕舎では…
『黔日(コミル)からの連絡だ
今夜 モチョクが兵糧倉庫に火を放ち 黔日(コミル)が門を開ける
大耶(テヤ)城を落とし 聖王(ソンワン)当時の領地を奪い返す!』
※聖王(ソンワン):百済(ペクチェ)の第26代王
『大耶(テヤ)城は始まりに過ぎん
我々の目標は新羅(シルラ)の都 徐羅伐(ソラボル)だ!いいな?』
『はい!』
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
毗曇(ピダム)は 善徳(ソンドク)女王に呼び出された
『陛下 私にご命令でも?』
『……』
『お申し付けください 何のご命令でしょうか』
ジロリと毗曇(ピダム)を睨む善徳(ソンドク)女王
『陛下』
『ソルォン公は 私がお前をそそのかし 心の平穏を乱したと そうなのか?』
『…何のことでしょう』
『私に恋しているのか?』
真正面から聞かれて 毗曇(ピダム)はうろたえる
『答えなさい』
『はい… 陛下 恐れながら… そのとおりです』
『神国は?』
『はい?』
『神国には恋していないのか?』
その頃 兵部令(ピョンブリョン)キム・ソヒョンの部隊が進軍を続けていた
偵察の兵士が戻ってくる
『ユンチュンの部隊が動きました』
『位置は!』
『ソンムン峠を越え 星州(ソンジュ)の方へ向かっています!』
牢の中のキム・ユシンは…
『誰か来てくれ!!! 伝令は? まだなのか!!!』
『変わりありません お静かに!』
『兵部(ピョンブ)で状況を尋ねろ!』
『ここを離れられません』
『行くのだ!!!』
『申し訳ありません』
『おい!待たんか!!!』
大耶(テヤ)城の近くまで来た宝宗(ポジョン)は 目の前の光景に絶句する
サンタクが 悲鳴のような声で叫ぶ!
『大耶(テヤ)城が… 大耶(テヤ)城が燃えています!!!』
『すぐ徐羅伐(ソラボル)に知らせねば 行くぞ!!!』
大耶(テヤ)城の事態を知らない善徳(ソンドク)女王は…
『私がお前と婚姻しても それはユシンを救うためでも 恋心からでもない
ただ お前が必要だからだ しかしお前は 情によって動いている
権力を得るために 婚姻を望むのが普通であろう
なのに 婚姻が目的で権力を握ろうなどと…』
『陛下…』
『本当にお前は 子供のようだな
お前は この徐羅伐(ソラボル)で 最も純真な人間だ』
毗曇(ピダム)はふと 母ミシルの言葉を思い出す
「人の心は もろくて壊れやすい お前の夢はあまりに幼い
何とも魅力のないものだな 恋を成就させるために女を追う男とは」
『私に恋心を? 私は…味気ない話だけれど 神国だけに恋せねばならない』
『……』
『恋とは すべてを懸けるものよ だから私は 人に恋はできない』
『陛下 神国だけに恋するなら… 私が神国になります
私にとって陛下は 神国そのものです
陛下への恋心も 神国への恋心も 私にとっては同じなのです』
毗曇(ピダム)の一途な告白に 今度は善徳(ソンドク)女王が動揺する
そこへ…!
青ざめたヨムジョンが駆け込んできた
『陛下ーーーっ!!! 陛下… たった今!』
『まさか…』
牢の中のキム・ユシンのもとへも 報告が入る
『将軍! 大耶(テヤ)城が陥落したそうです!』
ヨムジョンは 善徳(ソンドク)女王への報告を続ける
『情報は真実でした
百済(ペクチェ)の密偵の黔日(コミル)が北門を開けたと!
またモチョクという者が倉庫に火をつけ合図を!
ソヒョン将軍が交戦中ですが 敵は破竹の勢いです』
キム・ソヒョン率いる兵部(ピョンブ)の兵士は 決死の防御も虚しく…!
重傷を負いながらも 善徳(ソンドク)女王の前に報告に来る伝令
『陛下!比斯伐(ピサボル)の防御線が崩されました!』
『百済(ペクチェ)の兵は増え すさまじい勢いです!』
ざわめく臣下たち
金春秋(キム・チュンチュ)が…!
『陛下 推火(チュファ)郡 伊西(イソ)郡を越え
押梁州(アンニャンジュ)まで来れば
徐羅伐(ソラボル)までは1日で到達します!』
ヨンチュン公が 涙ながらに進言する
『陛下 上将軍(サンジャングン)ユシンは正しかったのです 今からでも…!』
『ご心配なく』
毗曇(ピダム)が現れ ヨンチュン公の進言を遮る
皆の前を通り 善徳(ソンドク)女王のもとへ…
『負け知らずのユシン軍が 徐羅伐(ソラボル)にいるではありませんか』
『では 上将軍(サンジャングン)を出陣させると?』
『ユシン公は 牢にいる罪人です!』
反対の声を遮ったのは 金春秋(キム・チュンチュ)だ
『ユシン公なしで ユシン軍は動かせない!』
『しかし 罪人に軍を任せることはできません』
『ならば誰が軍の指揮を?!!!』
『まさか 司量部令(サリャンブリョン)が出陣なさるのですか?』
『司量部令(サリャンブリョン)は軍を率いたことがありません!』
紛糾する議論の中 毗曇(ピダム)は落ち着き払っている
『はい 他に適任者が
優れた知略で戦いを指揮し 神国を幾度も救ってきた ソルォン公です』
ハッとする善徳(ソンドク)女王
金春秋(キム・チュンチュ)が ヨンチュン公が 毗曇(ピダム)を見た
『ソルォン公が ユシン軍を指揮します』
勝ち誇った表情で 毗曇(ピダム)は道を開けるようにして身を引く
出陣の出で立ちで現れたソルォンは 善徳(ソンドク)女王の前にひざまずく
『陛下 この老将の出陣を お許しくださいませ
神国を救い 陛下の名を高められなければ このソルォンは帰還いたしません』
ニヤリと笑い 毗曇(ピダム)は善徳(ソンドク)女王を見上げた
ユシンがいる牢の前に駆け付ける 高島(コド)たち
『なぜソルォン公なのです!!!
ユシン軍を ソルォン公が指揮するなんて!』
『大耶(テヤ)城も 結局上将軍(サンジャングン)の言った通りに』
『上将軍(サンジャングン)が出陣すべきです 釈放を要請します!』
『ソルォン公の命令に従え
敵の部隊をよく知っているだろう 戦ってきたのだから』
ユシンの命令に 皆が意気消沈する
『ユンチュンの百済(ペクチェ)軍は 指揮官が倒れても列を崩さない
決して惑わされてはならない』
『はい…』
『ソルォン公は確かに名将だが すでに高齢だ
近年は 戦に出ていないのが心配だ
ここ数年で 百済(ペクチェ)軍は大きく変化したとお伝えしろ』
便殿会議を終え 再び善徳(ソンドク)女王と向き合う毗曇(ピダム)
『司量部(サリャンブ)が練った 大耶(テヤ)城や主な城の
襲撃への防御策です ソルォン公が草案を作られました
草案に基づき 策を立てました』
善徳(ソンドク)女王は 動揺していた
その手は微かに震え 作戦図の端を握りしめている
『陛下 私を選ぶとしたら 神国のために必要だからとおっしゃいましたね
誰かを選ぶ時は 神国の利益になる時だと』
『……』
『そうなります 必ず神国を救い 陛下と… 陛下と民と神国を救います』
善徳(ソンドク)女王は じっと毗曇(ピダム)を見据える
『神国を救った者に… すべての資格があるでしょう』
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