善徳女王 56話#1 出陣

ユシン軍を率いるソルォンを中心に 作戦会議が開かれる
善徳(ソンドク)女王は 詳細の報告を受ける

『ユンチュン率いる百済(ペクチェ)軍は 大徳(テドク)山を通るはずです

ここを第一防御線として 柵を立て防御します
戦う間 クァンシク将軍の部隊が退路を封じ
尾根に潜ませた弓部隊の2000人が攻撃を
この戦闘の目的は 連中に打撃を与えること
城で戦う前に 敵の士気をくじけば 我々に有利になります
この地では激戦が予想されます
万が一 第一防御線が突破されたら
第二防御線は命懸けで戦わないと神国を守れません
私を信じてついてくるなら この戦を必ず勝利へ導く
力を合わせ 何としても神国を守ろう』

会議から戻り ソルォンは毗曇(ピダム)に会う

『この戦を勝利へ導けば 我々は力を得られます

推火(チュファ)郡で終わらせるのです いいですね』

もとは龍華香徒(ヨンファヒャンド)だった高島(コド)たち

なおもキム・ユシンの牢の前で訴え続ける

『我々はユシン軍です』

『ユシン軍ではない! 我々は陛下の軍だ!』
『……』
『ソルォン公の命令に従うように 分かったか』
『…承知しました』
『ソルォン公に お会いしたいと伝えろ』

ソルォンは 善徳(ソンドク)女王と対面していた

『兵部(ピョンブ)の全権を渡せと?』

『はい 私が勝利して戻ってきたらです』
『そなたは 神国を盾に取り引きしようというのですか』
『私の最後の機会です』
『再び権力を握ろうと?』
『…不可能な夢 三韓一統』

※三韓一統:高句麗(コグリョ)・百済(ペクチェ)・新羅(シルラ)の三国統一

『陛下が成そうとする大業に この私も一役買いたいのです』

『ソルォン公の望みはそれだけですか?』
『三韓一統を手伝います ですから私が勝利して戻ったら
毗曇(ピダム)と… ご婚姻を! 陛下』
『……毗曇(ピダム)の 私への恋心が 私は怖いのです
チヌン大帝は 我々の栄光を神国にもたらしましたが
1つだけ過ちを犯しました
人です 信頼していたご自分の配下を 皆 ミシルに奪われました』
『……』
『神国ではなく ミシルに忠誠を誓う者たちに阻まれ
後継者を立てられなかった! 違いますか』
『……』
『私の死後も 毗曇(ピダム)は神国に忠誠を誓い
神国の大業に全精力を傾けるでしょうか どう思いますか』

浮かない表情で出てきたソルォンの前に大風(テプン)が…

『何事だ』

『ユシン公がお呼びです』
『ユシンが?』

牢の前に立つソルォン

『機動力ですと?』

『百済(ペクチェ)軍はこの10年で変わりました
陛下が穀物の生産に力を入れる間 百済(ペクチェ)は兵力の増強に
心血を注いでいたのです 兵の動きや武器 すべてが変わりました
特に 騎兵の速さは 1日に7里を進むほどです』

さすがにソルォンも表情を変える

『防御の際は 弓部隊との距離にご注意ください

機動力を避けるなら 平野ではなく山での戦いに持ち込むのです それと…』
『私に 戦に勝てと?』
『……』
『私が勝って帰れば ユシン公の命が危うくなります』
『勝ってください 私自身の事は その後考えます
ソルォン公は 敗者の人生を生きてこられた
ずいぶん前に 私もその道を選びました 1番になれないなら 2番でも3番でも
あるいは100番でも構わぬと… 数々の戦功をあげた私です
陛下が私を死なせる時は 戦場で死なせるでしょう』

ミシルの弟 美生(ミセン)

ミシルと世宗(セジョン)の息子 夏宗(ハジョン)
ミシルとソルォンの息子 宝宗(ポジョン)
3人が集って語り合っている

『あのお年で戦へ出て大丈夫だろうか』

『問題ありません これはまたとない機会です
ソルォン公が戦に勝てば兵権が手に入り 多くの勢力を味方にできます』
『そうはいっても ソルォン公はもう何年も戦に出ていません』
『数々の戦を経験してきた人です
年老いたとはいえ その実力は変わりません アッハハハ…』

そこへ ソルォンが入ってくる

『出陣の準備は整いましたか』

『はい』
『大丈夫なのですか 父上は…』

息子宝宗(ポジョン)が心配そうに尋ねる

『大丈夫だ 支度は終えたのか』

『はい』

何かを言いたそうにする宝宗(ポジョン)

ソルォンは 視線でその言動を止めた
外に出て2人きりになると 宝宗(ポジョン)が…

『なぜお隠しになるのです』

『狭心症のことか 私も年には勝てぬな』
『しかしいくら母上の頼みとはいえ
毗曇(ピダム)のために父上が命を懸けることは…』
『私は 骨の髄まで武将だったようだ
毗曇(ピダム)のためでも この胸は高鳴っておる
再び私が 神国を救えるとは』
『……』
『百済(ペクチェ)のユンチュンが優れていても
かつては私の足元にも及ばなかった ハッハッハ…』

ソルォンはひとり ミシルの祭壇の前に座る

『セジュ どうやら毗曇(ピダム)は私と同じようです

誰かを恋する心が似ています』

※セジュ:王の印を管理する役職

『恋心など捨ててしまえとおっしゃった セジュに似るべきでしたのに
しかし セジュの最期の頼みゆえ 私は従います
この戦に勝ち 必ずや毗曇(ピダム)に 好機を与えてみせます
…お会いしたいです セジュ…』

そしていよいよ 出陣の時が来た

『我らの地を侵した百済(ペクチェ)を破り!必ずや勝利するぞ!!!』

『おーーーーっ!』

ソルォンの宣言に続き 宝宗(ポジョン)が…

『準備はいいか!神国の兵たちよ!

これより推火(チュファ)郡へ進軍を開始する!!!』
『おーーーっ!!!』

進軍の兵を見送る毗曇(ピダム)と金春秋(キム・チュンチュ)

『ソルォン公はすごい意気込みです

あの気迫で 何としても百済(ペクチェ)に勝ってもらわねば』
『……』
『そうすれば 司量部令(サリャンブリョン)も
お望みのものを手にできましょう』

※司量部令(サリャンブリョン);司量部(サリャンブ)の長

ソルォン率いるユシン軍と ユンチュン率いる百済(ペクチェ)軍は

それぞれに進軍し 戦いの時に近づいて行った

善徳(ソンドク)女王に付き添い 言葉をかける竹方(チュクパン)

『陛下 ご安心ください 無敗を誇るユシン軍です

ソルォン公が率いても問題ありません』
『侍衛府令(シウィブリョン)にユシンの報告書を検討するように伝えよ!』
『…承知いたしました』

※侍衛府令(シウィブリョン):近衛隊の長

『それと… 先日頼んだ件の準備を』

『はい… かしこまりました』

竹方(チュクパン)は沈痛な表情で退出する

善徳(ソンドク)女王もまた 厳しい表情で押し黙った

『例の件を頼む!』

竹方(チュクパン)が手を引き ひと気のない所で話す相手はサンタク

『例の件?』

『前に話したろ 今頼む』
『今?!こんな戦の最中に… ですか』
『皆 慌ただしくて警備が手薄になってるだろ』
『嫌です!』
『分かったよ こいつめ!』
『え?え?』
『いいから取っておけ!』

サンタクの懐に 金の巾着を入れると…

『外へ連れ出したりしませんね?話だけですよ』

『分かってるよ!』
『ついてきてください』

サンタクの後について 竹方(チュクパン)が入って行ったのは尋問室

『少しだけですよ』

『分かった』

竹方(チュクパン)が入った尋問室にいるのは 復耶会の一味として捕まった

かつての龍華香徒(ヨンファヒャンド)の仲間だった

『兄貴!』

『兄貴だと?本当に俺を兄貴だと思っているのか』
『もちろん』
『なら… 俺の言うことを聞け』

真夜中 黒い網傘に黒装束の竹方(チュクパン)が 山中に現れる

竹方(チュクパン)は 復耶会への連絡方法を尋問室で聞きだしたのだ

「こうやって石を置いておくんだな?」

「はい これで月夜(ウォルヤ)将軍に連絡が行きます」
「時と場所は?」
「石に書くんです」

竹方(チュクパン)が立ち去って間もなく 復耶会の見張り番がやって来た

復耶会の砦では 雪地(ソルチ)が月夜(ウォルヤ)に報告している

『百済(ペクチェ)軍が伊西(イソ)郡に?』

『この勢いでは押梁州(アンニャンジュ)が落ちるのも時間の問題です
我々も避難せねば 押梁州(アンニャンジュ)が崩れたら
すぐ徐羅伐(ソラボル)です』

※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)

『徐羅伐(ソラボル)か…』

『何を悩むことが?』
『……』
『迷っているのですか!』
『伽耶の民の命を 私は預かっているのだ
私の大義とユシンの大義 どちらが正しいのか』

※伽耶:6世紀半ばに滅亡 朝鮮半島南部にあった国

そこへ 部下が駆け込んでくる

『将軍!何者かが将軍に会いたいと合図を』

『私に?』
『はい』

城内の復耶会の仲間は すべて捕えられたはず

この合図の方法を知っているのは復耶会だけだったが
雪地(ソルチ)は警戒し 部下を引き連れ月夜(ウォルヤ)の警護をする

『配置は完了か?』

『はい 山道の入り口から配置しました
何かあればすぐに知らせが』
『相手は何人で来る』
『3人です』

見張りの部下が こちらに向かう3人を確認し 報告に来た

『3人で間違いないか』

『はい 確かです』
『何者だ』
『分かりません 1人は剣を持ち 残り2人は丸腰です』
『分かった 持ち場に戻れ』

3人は たちまち復耶会に取り囲まれてしまう

ただ1人剣を持っているのは 閼川(アルチョン)だ

『何者だ!』

『侍衛府令(シウィブリョン)私が会いに来た者たちだ 剣を下ろせ』
『何をおっしゃるんですか 陛下!』

“陛下”と聞き 復耶会の兵たちは動揺する

もう1人が笠をとると それは金春秋(キム・チュンチュ)だった

『侍衛府令(シウィブリョン) すまぬ

陛下が そなたに言えば反対されると言われた』
『なぜこのような危険な場所へ?』
『月夜(ウォルヤ)!』

叫んだのは春秋(チュンチュ)

『見張っていたなら分かるだろう 
閼川(アルチョン)公以外に兵はいない
姿を現せ!早く出て来ぬか!陛下だ!』

善徳(ソンドク)女王も その顔をあらわにした

ゆっくりと前に進み出る月夜(ウォルヤ)
その隣に 雪地(ソルチ)

『陛下…』

善徳(ソンドク)女王と金春秋(キム・チュンチュ)

月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)が 向かい合った

『手短に言う 伽耶人に対する陛下の政策は知っておろう それが1つ目だ』

『……』
『2つ目は 伽耶出身者の戸籍文書を すべて廃棄する』
『つまり私の死後も お前たちが伽耶出身だと分かる文書は存在しない
3つ目は この内容を私の死後も永続させるよう 勅書を残す』
『陛下が勅書を残せば いかなる王もその内容は変更できぬ』
『ゆえに ユシンを利用した復耶会は解体せよ』

善徳(ソンドク)女王と金春秋(キム・チュンチュ)の言葉を

じっと聞いていた月夜(ウォルヤ)が…

『それで 我々に何をお望みですか?』

『復耶会の名簿全部 蹶張弩(クォルチャンノ)部隊が武装解除し…
『私の配下となること』

善徳(ソンドク)女王の言葉を受け継ぎ 口を開く春秋(チュンチュ)

女王の配下ではなく キム・ユシンでもなく
金春秋(キム・チュンチュ)の配下になる…!
月夜(ウォルヤ)は驚きの表情で春秋(チュンチュ)に向き直る

『ユシンではなく この私だ』

『3日 猶予を与えよう 3日後のこの時刻 この場所で待つ』
『もしもその提案を拒んだら どうなるのです?』
『お前のせいで ユシンが死ぬ
お前のせいで!伽耶の民も死ぬ
これが 私が施す最大の情けだ 一国の王として約束は必ず守る』

話し合いが終わり 宮殿に戻ると 閼川(アルチョン)が…

『陛下!なぜあのようなことを!』

『そなたには すまぬことをしました』
『謝って済む問題ですか!
陛下の安全を預かる私に何の相談もなく このような危険な真似を!』
『相談すれば止めたであろう』

閼川(アルチョン)の怒りの矛先は春秋(チュンチュ)に…

『春秋(チュンチュ)公まで…! 陛下の安全が第一です!』

『私も陛下を説得した!』
『ならばなぜ?!』
『逆に私が説得されたのだ』
『説得された?陛下を危険にさらしてまで 一体何なのです?!!!』

春秋(チュンチュ)が助けを求めるように 善徳(ソンドク)女王を見る

閼川(アルチョン)の忠誠心を拒まれた怒りは収まらない

『ユシンです 伽耶や月夜(ウォルヤ)を切り捨てれば

ユシンを得ることは出来ない』

ようやく善徳(ソンドク)女王の真意を理解し 閼川(アルチョン)は涙ぐむ

『月夜(ウォルヤ)もこれくらい度胸を見せねば 従わぬ』

『ユシンのためとはいえ…』
『困難なことだからこそ 人を得る者は天を得られるのです』
『陛下…』

善徳(ソンドク)女王の執務室を退席してもまだ

閼川(アルチョン)の怒りは収まり切っていない

『本当に困ったお方です』

『私に教えているのだ』
『何をです』
『“頭で考えるだけでは人を得られぬ
大業を成すことは こんなにも大変なのだ” と
そして 私と復耶会をつないでくださった』
『それは どういうことです』
『陛下の死後に不安を抱く彼らと 陛下の死後 王位を狙う私
復耶会と私は 利害が一致している
ユシンの代わりに王に据える者として 私を示したのだ』

考え込む月夜(ウォルヤ)

雪地(ソルチ)は心配そうに…

『将軍…』

『よく… 考えねばならぬ』

夜の闇に どこからか子供の泣き声がする

部下が声の方に駆け寄る

『おい どうした 泣くな なぜここに?』

『お母さんがいなくなった お腹がすいたよ… うわ~ん…』

宮殿では…

『復耶会の砦は突き止められますか?』

『連中に尾行をつけてあります』
『尾行が通じると?』
『私は真面目ではありませんが 仕事はしっかりこなします』
『兄貴は切れ者ですものね』

善徳(ソンドク)女王は 竹方(チュクパン)に向かって 久々に笑顔を見せた

『実は 私より賢い7歳の子供を送り込みました』
『子供を?』

コメント

このブログの人気の投稿

善徳女王 62話(最終話)#1 明活(ミョンファル)山城 制圧!

善徳女王 57話#2 ユシンの策

善徳女王 59話#2 極楽浄土の仏