善徳女王 56話#2 神国を救え!
『ソルォン公が敵に敗れた?!!!』
早馬の知らせに驚く善徳(ソンドク)女王
『推火(チュファ)郡に着く前に すでに陥落し 退却を余儀なくされたとか
現在 伊西(イソ)郡で戦闘中ですが そこも陥落寸前です!』
伊西(イソ)郡が陥落すれば 徐羅伐(ソラボル)が危ないのだ!
『チュジン公は直ちに援軍を連れて伊西(イソ)郡へ!』
『はい 陛下!』
そこへ ソルォン公が戻ったとの連絡が入る
高島(コド)も大風(テプン)も… 誰もかれもが傷だらけだった
沿道で出迎える民は 我が目を疑った
『天下のユシン軍が負けたのか!』
『百済(ペクチェ)軍は 一体どれだけ強いんだ!』
『このままじゃ 皆殺されちまう!ひどいやられようだ』
やられたのは兵士だけではない
ソルォンもまた重傷を負い帰還した
『ソルォン公!』
『一体何が?』
『申し訳ありません…百済(ペクチェ)に強力な遊軍がいます』
※遊軍:本隊の指示なく 戦場の状況で動く別動隊
『それほど強いのですか』
『はい その上 遊軍の機動力はすさまじく 神出鬼没なのです』
高島(コド)たちは すぐに牢のキム・ユシンのもとへ…
『何だと ソルォン公まで?』
『百済(ペクチェ)軍には… 鬼神がいます』
『鬼神?』
『赤い兜を被った奴で まいたと思ったらすぐに別の所から現れ…』
『一瞬でやられました』
皆 怯えきっている
『目を開けたら… 死体の山が!』
『まるで鬼神です 鬼神…』
ソルォンはすぐに寝込んでしまった
枕元で見守る毗曇(ピダム)
『申し訳ありません』
『……』
『毗曇(ピダム)公 セジュの… 最期のお言葉に… 従ってください
人を… 人を目標とするのは… 危険です
もっと… 大きな志を… もっと大きな夢を… 持つのです
さもなくば… 私のように… 2番手の道を… 歩むことになります』
虫の息の中から涙ながらに語るソルォン
いつしか毗曇(ピダム)の頬にも涙が…
『セジュの… ご遺志に… 従うのです…!』
『ソルォン公… ソルォン公!』
ミシルの戦友として 戦いの日々を送り
やがてミシルの情夫となり 生涯をミシルのために捧げたソルォンは
ミシルの遺志を毗曇(ピダム)に託し この世を去った
サンタクが 牢のキム・ユシンのもとへ…
『ソルォン公が 亡くなる前に書かれた手紙です お渡しするようにと』
ユシンは 沈痛な表情で受け取る
“ユシン公の計算は間違っていました
ユンチュンの騎兵は 1日に7里でなく8里を超える速さです
遊軍を率いる赤い兜の男にご用心を
信じられぬ速度で移動し 戦場をかき乱しました”
ソルォンの死に ミシルの一族は悲しみにくれる
『何だか… 嫌な予感がしていた』
『再び兵の指揮権を得て 勢力も拡大して…
権勢を取り戻せると思ったのに…』
『我々に何か書き残した言葉は?』
美生(ミセン)の質問に 泣き顔の宝宗(ポジョン)が答える
『“叔父上が賢明な方ゆえ心配ないが…”』
『つまり 私が心配だと?』
泣き顔のまま 夏宗(ハジョン)が目をむく
『いいえ 私です 父上は私の心配を…!』
『何だよ それじゃ私のことは?!いくら仲が悪かったとはいえ!
私のことを… 少しも気にかけてくれぬとは!なんて薄情な人だぁ…!
そんなに私が嫌いだったのか…』
ポロポロと涙をこぼす宝宗(ポジョン)に 夏宗(ハジョン)も号泣する
『兄上…』
『夏宗(ハジョン)公』
『あんまりですぅ… うっ…
気にかける言葉1つ残してくれないなんて…』
『ソルォン公まで敗れるとは 一体どうすればよいのか』
『ユシン軍の死傷者も増え続けています チュジン公まで敗れたら…』
万策尽きる大臣たちに ヨンチュン公が…
『ユシン軍もあんなに惨敗を喫したのです
ユシン公が軍を率いるしかありません!』
『何を言うのです!ユシン公は大罪人ですぞ』
『罪人に軍を任せると?』
『チュジン公が敗れたら 次は徐羅伐(ソラボル)です!
今は神国を救うことが第一では?』
万明(マンミョン)夫人から報告を受けたキム・ソヒョンは…
『ソルォン公が?ならばユシン軍が負けたというのか!
百済(ペクチェ)が強敵とはいえ ユシン軍までかなわぬとは』
『もはや増員できる兵もおらぬそうです
こんな時にユシンが投獄されているなんて…何とかできないでしょうか』
その頃司量部(サリャンブ)では 大臣たちの進言に憤る美生(ミセン)
『ユシンを出陣させるですと?!!!何を言い出すのです!!!』
『貴族や民の間で そういう声が上がっています』
『ユシンに軍を任せるというのですか』
『敵が破竹の勢いで迫っておりますゆえ ユシン公を…』
いきなり卓を叩きつけ 険しい表情の毗曇(ピダム)が…!
『罪人に国を預けると?!!!それが神国の臣下が言うことか!』
『司量部令(サリャンブリョン)!』
慌ててヨムジョンが駆け込んでくる
『ユシン公が司量部令(サリャンブリョン)にお話があると』
毗曇(ピダム)が牢の中に入って行くと ユシンは必死に考えた戦略を伝える
『次は金城(クムソン)山だ 伊西(イソ)郡を敵に突破されたら
金城(クムソン)山と飛鳳(ピホン)山の渓谷に弓部隊を潜ませ
敵を誘い込んだらすぐに攻撃して退路を塞げ!
険しい山ゆえ 連中も簡単には逃げられぬ
金城(クムソン)山を突破されたら 押梁州(アンニャンジュ)まで危険だ
押梁州(アンニャンジュ)は丘と平野だから 機動力の弱い我々に不利だ
金城(クムソン)山で勝負をつけねば…』
ユシンの必死さに 毗曇(ピダム)はクスッと笑い
その笑みに ユシンが激怒する
『毗曇(ピダム)!!!』
罪人が司量部令(サリャンブリョン)の胸ぐらをつかんだのだ
兵士が一斉に ユシンに向かって剣を構える
『私を殺したくば殺せ 軍事権も奪うがいい!
ただし 神国を救った後にしろ! それまで待て』
牢の中のキム・ユシンに なぜこうまで敗北感すら感じるのか…
毗曇(ピダム)は 腹立たしさに涙を滲ませる
金春秋(キム・チュンチュ)は 善徳(ソンドク)女王と向き合う
『陛下 ユシンを放っておくのですか』
『……』
『ユシンを出陣させるべきとの声が上がっています』
『……』
『陛下 手遅れとなる前に…』
そこへ 司量部令(サリャンブリョン)が訪ねて来たとの報告が入る
『金城(クムソン)山に防御陣を設置させ
飛鳳(ピホン)山との渓谷で敵を襲撃いたします』
『準備を進めよ』
『…はい 陛下』
『……』
『陛下 どうかご心配なく この私が必ずや神国を守ります』
『……』
何の言葉ももらえず 毗曇(ピダム)は退室する
『陛下』
『今夜だ』
月夜(ウォルヤ)との約束の夜だった
『新羅(シルラ)の王に 我々の兵と名簿を渡すなど断じてなりません!』
『だが それが条件なのだ』
『ミシルの弾圧にも耐えたのに 何が怖くて降伏など!』
『怖いからではない 陛下を信頼するからだ!』
『月夜(ウォルヤ)様は変わってしまわれた』
『おい 口を慎まぬか!』
『私が間違ったことを?』
『だが無礼ではないか! それに いつかは伽耶が復興できると思うのか?』
『貴様!何を言うのだ』
『お言葉が過ぎますぞ!』
『すべてを差し出し降伏しろと?』
『皆 戦で疲れ切っておる!それが分からぬか!』
部下たちの口論を 月夜(ウォルヤ)はいたたまれない思いで聞いていた
約束の場所には すでに善徳(ソンドク)女王と金春秋(キム・チュンチュ)が…
いっこうに現れない月夜(ウォルヤ)
『竹方(チュクパン)!竹方(チュクパン)はおらぬか!!!』
『はい 陛下!』
『これ以上待てません 場所は調べてありますね』
『はい』
連れて来た女の子に話しかける竹方(チュクパン)
『月夜(ウォルヤ)おじさんの所へ行けるよな?』
『うん 任せて』
『ですが陛下』
『陛下!』
兵士は連れてきていない
この状況で復耶会の砦に行くということは…
砦では
『いい加減にしろ!!!約束の時間を過ぎている!もう…』
『月夜(ウォルヤ)様! 大変です 来てください!』
砦に来た善徳(ソンドク)女王
守るのは 閼川(アルチョン)の剣だけだった
『陛下の前だぞ ひざまずかぬか!』
誰もひざまずこうとはしない
出てきた月夜(ウォルヤ)に対して礼を尽くす兵士たち
善徳(ソンドク)女王は 月夜(ウォルヤ)に向かって帳簿を差し出す
『お前たちが伽耶人であると示す戸籍だ』
差し出した帳簿を渡さず 善徳(ソンドク)女王はかがり火の中に放り込んだ
燃え出した帳簿を見て どよめきが起こる
春秋(チュンチュ)と竹方(チュクパン)は 兵士を集めていた
『侍衛府(シウィブ)か』
『はい』
※侍衛府(シウィブ);近衛隊
『皆 急ぐぞ 陛下の身が危ない!』
『はい!』
竹方(チュクパン)に向かって
『ヨンチュン公に言って兵を連れて来い!』
『はい!』
『これでも信じぬか』
『……』
『何をすれば信じるのだ!!!どうすれば!私の民になってくれる
対立し ユシンを殺し! お前たちを殺し!
お前たちは新羅(シルラ)人を殺す!そうしたいのか?』
『……』
『本当に! …それでいいのか』
そこへ 春秋(チュンチュ)が侍衛府(シウィブ)を引き連れて来た
たちまち侍衛府(シウィブ)が善徳(ソンドク)女王を警護する
『お怪我はありませんか』
善徳(ソンドク)女王は 再び月夜(ウォルヤ)に向き直る
『これが 私からの最後通告だ』
そして 春秋(チュンチュ)に向き直る
『お前はここに残り 月夜(ウォルヤ)を説得するのだ』
『……』
『失敗すれば 春秋(チュンチュ)そなたと…
ここにいるお前たち全員を 生かしてはおかぬ!』
侍衛府(シウィブ)に守られ 善徳(ソンドク)女王は去っていく
残された金春秋(キム・チュンチュ)と月夜(ウォルヤ)は
どちらとも同じく不安の表情で その後ろ姿を見送った
翌朝 竹方(チュクパン)が善徳(ソンドク)女王へ報告しに駆け込んでくる
『金城(クムソン)山の防御線まで崩れたと?!』
『チュジン公の部隊が撃破され 百済(ペクチェ)の大軍が
押梁州(アンニャンジュ)へ向かっております!』
『春秋(チュンチュ)と月夜(ウォルヤ)は?』
『まだでございます!』
『すぐに便殿会議を!』
『はい!』
司量部(サリャンブ)では
ヨムジョンが毗曇(ピダム)に報告している
『何だと?百済(ペクチェ)軍が押梁州(アンニャンジュ)へ?!』
『はい 2万人もの大軍です 徐羅伐(ソラボル)の陥落も時間の問題かと』
『移動するぞ!百済(ペクチェ)軍が迫っている! 皆 急げ!!!』
『何事だ!チュジン公の部隊はどうなった!!!』
牢の兵士までもが慌てて移動をはじめ キム・ユシンは動揺する
捕らわれの身では 状況さえ分からないのだ
便殿会議
『陛下 直ちに押梁州(アンニャンジュ)へ援軍を!』
『参良火停(サムニャンファジョン)と
伊火兮停(イファへジョン)の兵を動かさねば!』
『押梁州(アンニャンジュ)が突破されたら 次は徐羅伐(ソラボル)です』
『陛下!』
皆が善徳(ソンドク)女王の言葉を待ちかねていると
ヨムジョンが血相を変えて駆け込んでくる
『陛下!陛下ーーーっ! たった今 武芸道場に…』
武芸道場の玉座には金春秋(キム・チュンチュ)
復耶会だった者たちを従えて 月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)が…
皆 新羅(シルラ)の軍服に身を包んでいる
金春秋(キム・チュンチュ)の配下となるチュンチュ軍であった…!
月夜(ウォルヤ)が 服従の礼を尽くすと 兵士が一斉にひざまずく
『復耶会の長 月夜(ウォルヤ)は!
陛下と春秋(チュンチュ)公に兵を委ねます!』
報告を受けたヨンチュン公はじめ臣下たちは 訳が分からず…!
『どういうことです陛下!』
『復耶会ですと?!』
『連中が宮殿へ?』
『あやつらがなぜ?』
金春秋(キム・チュンチュ)が 善徳(ソンドク)女王の前に進み出る
『陛下 私春秋(チュンチュ)は 陛下の命を受け
復耶会の全員の名簿と 陛下への忠誠を得ました』
『ご苦労 ではユシンを呼べ』
すでに軍服を身にまとったキム・ユシンが現れた
『陛下!まさかユシンを出陣させるのですか?!ユシン軍は敗北を!』
『そのとおりです ユシンはなりません!』
『ユシンは大罪人です!お考え直しを!』
『お考え直し下さい!』
善徳(ソンドク)女王は立ち上がった
『ユシンが率いてこそユシン軍と言える 剣を持て』
『はい 陛下』
持ってこさせた剣を手に取る善徳(ソンドク)女王
『キム・ユシン』
『はい 陛下』
『そなたを上将軍(サンジャングン)に再任し
此度の戦における王の全権と 軍の統帥権を委任する
大神国の領土を守り 神国を救え』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
剣を賜るキム・ユシン
その光景を見つめる毗曇(ピダム)の目には涙が滲む
復耶会のことも ユシンのことも 何も知らされてはいなかった 何も…
陛下は 大事なことは何も話してはくれなかったのだ
『上将軍(サンジャングン)キム・ユシン 身命を賭して戦います!』
早馬の知らせに驚く善徳(ソンドク)女王
『推火(チュファ)郡に着く前に すでに陥落し 退却を余儀なくされたとか
現在 伊西(イソ)郡で戦闘中ですが そこも陥落寸前です!』
伊西(イソ)郡が陥落すれば 徐羅伐(ソラボル)が危ないのだ!
『チュジン公は直ちに援軍を連れて伊西(イソ)郡へ!』
『はい 陛下!』
そこへ ソルォン公が戻ったとの連絡が入る
高島(コド)も大風(テプン)も… 誰もかれもが傷だらけだった
沿道で出迎える民は 我が目を疑った
『天下のユシン軍が負けたのか!』
『百済(ペクチェ)軍は 一体どれだけ強いんだ!』
『このままじゃ 皆殺されちまう!ひどいやられようだ』
やられたのは兵士だけではない
ソルォンもまた重傷を負い帰還した
『ソルォン公!』
『一体何が?』
『申し訳ありません…百済(ペクチェ)に強力な遊軍がいます』
※遊軍:本隊の指示なく 戦場の状況で動く別動隊
『それほど強いのですか』
『はい その上 遊軍の機動力はすさまじく 神出鬼没なのです』
高島(コド)たちは すぐに牢のキム・ユシンのもとへ…
『何だと ソルォン公まで?』
『百済(ペクチェ)軍には… 鬼神がいます』
『鬼神?』
『赤い兜を被った奴で まいたと思ったらすぐに別の所から現れ…』
『一瞬でやられました』
皆 怯えきっている
『目を開けたら… 死体の山が!』
『まるで鬼神です 鬼神…』
ソルォンはすぐに寝込んでしまった
枕元で見守る毗曇(ピダム)
『申し訳ありません』
『……』
『毗曇(ピダム)公 セジュの… 最期のお言葉に… 従ってください
人を… 人を目標とするのは… 危険です
もっと… 大きな志を… もっと大きな夢を… 持つのです
さもなくば… 私のように… 2番手の道を… 歩むことになります』
虫の息の中から涙ながらに語るソルォン
いつしか毗曇(ピダム)の頬にも涙が…
『セジュの… ご遺志に… 従うのです…!』
『ソルォン公… ソルォン公!』
ミシルの戦友として 戦いの日々を送り
やがてミシルの情夫となり 生涯をミシルのために捧げたソルォンは
ミシルの遺志を毗曇(ピダム)に託し この世を去った
サンタクが 牢のキム・ユシンのもとへ…
『ソルォン公が 亡くなる前に書かれた手紙です お渡しするようにと』
ユシンは 沈痛な表情で受け取る
“ユシン公の計算は間違っていました
ユンチュンの騎兵は 1日に7里でなく8里を超える速さです
遊軍を率いる赤い兜の男にご用心を
信じられぬ速度で移動し 戦場をかき乱しました”
ソルォンの死に ミシルの一族は悲しみにくれる
『何だか… 嫌な予感がしていた』
『再び兵の指揮権を得て 勢力も拡大して…
権勢を取り戻せると思ったのに…』
『我々に何か書き残した言葉は?』
美生(ミセン)の質問に 泣き顔の宝宗(ポジョン)が答える
『“叔父上が賢明な方ゆえ心配ないが…”』
『つまり 私が心配だと?』
泣き顔のまま 夏宗(ハジョン)が目をむく
『いいえ 私です 父上は私の心配を…!』
『何だよ それじゃ私のことは?!いくら仲が悪かったとはいえ!
私のことを… 少しも気にかけてくれぬとは!なんて薄情な人だぁ…!
そんなに私が嫌いだったのか…』
ポロポロと涙をこぼす宝宗(ポジョン)に 夏宗(ハジョン)も号泣する
『兄上…』
『夏宗(ハジョン)公』
『あんまりですぅ… うっ…
気にかける言葉1つ残してくれないなんて…』
『ソルォン公まで敗れるとは 一体どうすればよいのか』
『ユシン軍の死傷者も増え続けています チュジン公まで敗れたら…』
万策尽きる大臣たちに ヨンチュン公が…
『ユシン軍もあんなに惨敗を喫したのです
ユシン公が軍を率いるしかありません!』
『何を言うのです!ユシン公は大罪人ですぞ』
『罪人に軍を任せると?』
『チュジン公が敗れたら 次は徐羅伐(ソラボル)です!
今は神国を救うことが第一では?』
万明(マンミョン)夫人から報告を受けたキム・ソヒョンは…
『ソルォン公が?ならばユシン軍が負けたというのか!
百済(ペクチェ)が強敵とはいえ ユシン軍までかなわぬとは』
『もはや増員できる兵もおらぬそうです
こんな時にユシンが投獄されているなんて…何とかできないでしょうか』
その頃司量部(サリャンブ)では 大臣たちの進言に憤る美生(ミセン)
『ユシンを出陣させるですと?!!!何を言い出すのです!!!』
『貴族や民の間で そういう声が上がっています』
『ユシンに軍を任せるというのですか』
『敵が破竹の勢いで迫っておりますゆえ ユシン公を…』
いきなり卓を叩きつけ 険しい表情の毗曇(ピダム)が…!
『罪人に国を預けると?!!!それが神国の臣下が言うことか!』
『司量部令(サリャンブリョン)!』
慌ててヨムジョンが駆け込んでくる
『ユシン公が司量部令(サリャンブリョン)にお話があると』
毗曇(ピダム)が牢の中に入って行くと ユシンは必死に考えた戦略を伝える
『次は金城(クムソン)山だ 伊西(イソ)郡を敵に突破されたら
金城(クムソン)山と飛鳳(ピホン)山の渓谷に弓部隊を潜ませ
敵を誘い込んだらすぐに攻撃して退路を塞げ!
険しい山ゆえ 連中も簡単には逃げられぬ
金城(クムソン)山を突破されたら 押梁州(アンニャンジュ)まで危険だ
押梁州(アンニャンジュ)は丘と平野だから 機動力の弱い我々に不利だ
金城(クムソン)山で勝負をつけねば…』
ユシンの必死さに 毗曇(ピダム)はクスッと笑い
その笑みに ユシンが激怒する
『毗曇(ピダム)!!!』
罪人が司量部令(サリャンブリョン)の胸ぐらをつかんだのだ
兵士が一斉に ユシンに向かって剣を構える
『私を殺したくば殺せ 軍事権も奪うがいい!
ただし 神国を救った後にしろ! それまで待て』
牢の中のキム・ユシンに なぜこうまで敗北感すら感じるのか…
毗曇(ピダム)は 腹立たしさに涙を滲ませる
金春秋(キム・チュンチュ)は 善徳(ソンドク)女王と向き合う
『陛下 ユシンを放っておくのですか』
『……』
『ユシンを出陣させるべきとの声が上がっています』
『……』
『陛下 手遅れとなる前に…』
そこへ 司量部令(サリャンブリョン)が訪ねて来たとの報告が入る
『金城(クムソン)山に防御陣を設置させ
飛鳳(ピホン)山との渓谷で敵を襲撃いたします』
『準備を進めよ』
『…はい 陛下』
『……』
『陛下 どうかご心配なく この私が必ずや神国を守ります』
『……』
何の言葉ももらえず 毗曇(ピダム)は退室する
『陛下』
『今夜だ』
月夜(ウォルヤ)との約束の夜だった
『新羅(シルラ)の王に 我々の兵と名簿を渡すなど断じてなりません!』
『だが それが条件なのだ』
『ミシルの弾圧にも耐えたのに 何が怖くて降伏など!』
『怖いからではない 陛下を信頼するからだ!』
『月夜(ウォルヤ)様は変わってしまわれた』
『おい 口を慎まぬか!』
『私が間違ったことを?』
『だが無礼ではないか! それに いつかは伽耶が復興できると思うのか?』
『貴様!何を言うのだ』
『お言葉が過ぎますぞ!』
『すべてを差し出し降伏しろと?』
『皆 戦で疲れ切っておる!それが分からぬか!』
部下たちの口論を 月夜(ウォルヤ)はいたたまれない思いで聞いていた
約束の場所には すでに善徳(ソンドク)女王と金春秋(キム・チュンチュ)が…
いっこうに現れない月夜(ウォルヤ)
『竹方(チュクパン)!竹方(チュクパン)はおらぬか!!!』
『はい 陛下!』
『これ以上待てません 場所は調べてありますね』
『はい』
連れて来た女の子に話しかける竹方(チュクパン)
『月夜(ウォルヤ)おじさんの所へ行けるよな?』
『うん 任せて』
『ですが陛下』
『陛下!』
兵士は連れてきていない
この状況で復耶会の砦に行くということは…
砦では
『いい加減にしろ!!!約束の時間を過ぎている!もう…』
『月夜(ウォルヤ)様! 大変です 来てください!』
砦に来た善徳(ソンドク)女王
守るのは 閼川(アルチョン)の剣だけだった
『陛下の前だぞ ひざまずかぬか!』
誰もひざまずこうとはしない
出てきた月夜(ウォルヤ)に対して礼を尽くす兵士たち
善徳(ソンドク)女王は 月夜(ウォルヤ)に向かって帳簿を差し出す
『お前たちが伽耶人であると示す戸籍だ』
差し出した帳簿を渡さず 善徳(ソンドク)女王はかがり火の中に放り込んだ
燃え出した帳簿を見て どよめきが起こる
春秋(チュンチュ)と竹方(チュクパン)は 兵士を集めていた
『侍衛府(シウィブ)か』
『はい』
※侍衛府(シウィブ);近衛隊
『皆 急ぐぞ 陛下の身が危ない!』
『はい!』
竹方(チュクパン)に向かって
『ヨンチュン公に言って兵を連れて来い!』
『はい!』
『これでも信じぬか』
『……』
『何をすれば信じるのだ!!!どうすれば!私の民になってくれる
対立し ユシンを殺し! お前たちを殺し!
お前たちは新羅(シルラ)人を殺す!そうしたいのか?』
『……』
『本当に! …それでいいのか』
そこへ 春秋(チュンチュ)が侍衛府(シウィブ)を引き連れて来た
たちまち侍衛府(シウィブ)が善徳(ソンドク)女王を警護する
『お怪我はありませんか』
善徳(ソンドク)女王は 再び月夜(ウォルヤ)に向き直る
『これが 私からの最後通告だ』
そして 春秋(チュンチュ)に向き直る
『お前はここに残り 月夜(ウォルヤ)を説得するのだ』
『……』
『失敗すれば 春秋(チュンチュ)そなたと…
ここにいるお前たち全員を 生かしてはおかぬ!』
侍衛府(シウィブ)に守られ 善徳(ソンドク)女王は去っていく
残された金春秋(キム・チュンチュ)と月夜(ウォルヤ)は
どちらとも同じく不安の表情で その後ろ姿を見送った
翌朝 竹方(チュクパン)が善徳(ソンドク)女王へ報告しに駆け込んでくる
『金城(クムソン)山の防御線まで崩れたと?!』
『チュジン公の部隊が撃破され 百済(ペクチェ)の大軍が
押梁州(アンニャンジュ)へ向かっております!』
『春秋(チュンチュ)と月夜(ウォルヤ)は?』
『まだでございます!』
『すぐに便殿会議を!』
『はい!』
司量部(サリャンブ)では
ヨムジョンが毗曇(ピダム)に報告している
『何だと?百済(ペクチェ)軍が押梁州(アンニャンジュ)へ?!』
『はい 2万人もの大軍です 徐羅伐(ソラボル)の陥落も時間の問題かと』
『移動するぞ!百済(ペクチェ)軍が迫っている! 皆 急げ!!!』
『何事だ!チュジン公の部隊はどうなった!!!』
牢の兵士までもが慌てて移動をはじめ キム・ユシンは動揺する
捕らわれの身では 状況さえ分からないのだ
便殿会議
『陛下 直ちに押梁州(アンニャンジュ)へ援軍を!』
『参良火停(サムニャンファジョン)と
伊火兮停(イファへジョン)の兵を動かさねば!』
『押梁州(アンニャンジュ)が突破されたら 次は徐羅伐(ソラボル)です』
『陛下!』
皆が善徳(ソンドク)女王の言葉を待ちかねていると
ヨムジョンが血相を変えて駆け込んでくる
『陛下!陛下ーーーっ! たった今 武芸道場に…』
武芸道場の玉座には金春秋(キム・チュンチュ)
復耶会だった者たちを従えて 月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)が…
皆 新羅(シルラ)の軍服に身を包んでいる
金春秋(キム・チュンチュ)の配下となるチュンチュ軍であった…!
月夜(ウォルヤ)が 服従の礼を尽くすと 兵士が一斉にひざまずく
『復耶会の長 月夜(ウォルヤ)は!
陛下と春秋(チュンチュ)公に兵を委ねます!』
報告を受けたヨンチュン公はじめ臣下たちは 訳が分からず…!
『どういうことです陛下!』
『復耶会ですと?!』
『連中が宮殿へ?』
『あやつらがなぜ?』
金春秋(キム・チュンチュ)が 善徳(ソンドク)女王の前に進み出る
『陛下 私春秋(チュンチュ)は 陛下の命を受け
復耶会の全員の名簿と 陛下への忠誠を得ました』
『ご苦労 ではユシンを呼べ』
すでに軍服を身にまとったキム・ユシンが現れた
『陛下!まさかユシンを出陣させるのですか?!ユシン軍は敗北を!』
『そのとおりです ユシンはなりません!』
『ユシンは大罪人です!お考え直しを!』
『お考え直し下さい!』
善徳(ソンドク)女王は立ち上がった
『ユシンが率いてこそユシン軍と言える 剣を持て』
『はい 陛下』
持ってこさせた剣を手に取る善徳(ソンドク)女王
『キム・ユシン』
『はい 陛下』
『そなたを上将軍(サンジャングン)に再任し
此度の戦における王の全権と 軍の統帥権を委任する
大神国の領土を守り 神国を救え』
※上将軍(サンジャングン):大将軍(テジャングン)の下の武官
剣を賜るキム・ユシン
その光景を見つめる毗曇(ピダム)の目には涙が滲む
復耶会のことも ユシンのことも 何も知らされてはいなかった 何も…
陛下は 大事なことは何も話してはくれなかったのだ
『上将軍(サンジャングン)キム・ユシン 身命を賭して戦います!』
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