善徳女王 59話#1 春秋(チュンチュ)の思い

“唐の使臣が女王否定論を 神国の朝廷に訴えれば
唐と高句麗(コグリョ)の戦時に 新羅(シルラ)は3万の兵を送る
唐の使臣 正使ソ・ジェヨン 新羅(シルラ)上大等(サンデドゥン)毗曇(ピダム)”

※神国:新羅(シルラ)の別称

※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理

『毗曇(ピダム)… 毗曇(ピダム)が…』

『謀反です!唐の皇帝の言葉を利用し 即位する気でしょう!』
『春秋(チュンチュ)!』
『それ以外に この密約の説明がつきません!』
『……』
『政務から退くなどと陛下に誓いながら 陰では陛下を裏切った!!!』

女王としての屈辱と 女としての悲しみが 同時に善徳(ソンドク)女王を襲う

『決して許せません!毗曇(ピダム)を国法で裁かねば!』

『先走るな!』
『陛下!!!』

金春秋(キム・チュンチュ)には 毗曇(ピダム)に対する恋心から

善徳(ソンドク)女王が 冷静な判断が出来なくなっているように思われた
怒りに任せて退席する春秋(チュンチュ)
キム・ユシンと閼川(アルチョン)が後を追った

毗曇(ピダム)は 目の前のものが何もかも崩れていくことを実感していた

『つまり 私を窮地に追い詰めた機に乗じ 謀反を起こすと?』

『先に裏切ったのは毗曇(ピダム)公です』
『何だと?!!!』

毗曇(ピダム)が声を荒げても もう誰も怯えたりしなかった

強い口調でチュジン公が訴える

『私やスウルブ公は 陛下の即位を後押しした

その後 毗曇(ピダム)公を信じ 陛下の政策に同調してきたが
今の我々の状態は何なのです?!!!』
『陛下に欺かれて私兵を奪われ 身動きできぬ状態です!』
『それなのに毗曇(ピダム)公は 我々を見捨てても同然の盟約を交わされた』
『ひと言の断りもなしに!』
『これは裏切りです!』

『私は 王になるとお前たちに宣言した覚えはない』

『それは毗曇(ピダム)公が判断されることではありません』

『何だと?!!!』
『使節団は王命により監禁されています』
『彼らと毗曇(ピダム)公の密約が 陛下に知られるのは時間の問題です』
『何?』
『毗曇(ピダム)公と使節団の密約が陛下に知れたら どうなるか…』
『明白な証拠がある謀反人は 必ず殺されるでしょう』

朝元(チョウォン)殿の前に立つ毗曇(ピダム)を 見張り兵が止める

『使節団に会う』

『陛下が中に誰も入れるなと』
『…ッハハ 私を知らぬのか?
神国の上大等(サンデドゥン)だ!!!事態の悪化を防ぎに来た! どけ…』
『無理です お許しください』

毗曇(ピダム)に怯えながらも 見張り兵はその役割を立派に果たした

一方 怒って飛び出した春秋(チュンチュ)に追いつき
説得するキム・ユシンと閼川(アルチョン)

『急いではなりません』

『陛下が適切に処理なさいます』

そこへ 毗曇(ピダム)が使節団に会いたがっているとの知らせが入る

『会わせてやれ』

『春秋(チュンチュ)公!陛下に報告もせずに?』
『陛下の判断を促すためだ』

春秋(チュンチュ)の判断により 使臣ソ・ジェヨンは

毗曇(ピダム)の前に引きずり出された

『いつまで我々を放っておく気だ!!!』

『烏羽扇を渡してほしい』
『烏羽扇?』
『礼部令(イェブリョン)美生(ミセン)と交わした密約のことだ』

※烏羽扇:カラスの羽根で作った扇
※礼部令(イェブリョン):外交および儀式を司る礼部(イェブ)の長官

『今になって言い逃れをなさるのか!』

『言っておくが 礼部令(イェブリョン)との密約は 私と無関係だ
今よりひどい目に遭う前に 烏羽扇を渡せ!』
『何を言っている!烏羽扇はもう渡した!だから来たのでは?!』

ヨムジョンが貴族たちに…

『お集まりですね 今毗曇(ピダム)公が唐の使臣と話を』

『毗曇(ピダム)公もどうすることもできますまい』
『騒ぎになれば 最も大きな打撃を受ける』
『幸いでした てっきり陛下に弁明するかと』
『誰でも窮地に陥れば まず保身に走るものです』
『毗曇(ピダム)に早く気づいてもらいたいものですね
もう他に道はないということを…』

毗曇(ピダム)は 朝元(チョウォン)殿の見張り兵に剣を突きつけ…

『答えろ 誰に烏羽扇を渡した!』

『知りません!』
『唐の使臣が お前に渡したと言ったぞ!誰に渡したのだ 言え!!!』
『……』
『死にたいのか?』
『陛下… 陛下に… お渡ししたのです』

剣を取り落すほどの衝撃を受ける毗曇(ピダム)

ふと 幼い日のことを思い返す

「私が全員殺しました」

「何だと?」
「草烏を使って毒殺しました」

※草烏:トリカブトの根

得意気に話す自分を 師匠ムンノは悲しげに見つめていた

「本当にお前が… 全員殺したのか?」

「私を殴って 荷物を奪った悪い奴らです だから皆殺しにしました」

それ以来 ムンノは毗曇(ピダム)と距離を置くようになった

どんなに手を差し伸べても いつの間にかその手は振り払われた
あの時の孤独感が ふたたび毗曇(ピダム)を襲う
手に入れたと思った善徳(ソンドク)女王の心は…
自分を包んではくれぬようだ

『どんな場合でも毗曇(ピダム)公は必要です』

『我々は毗曇(ピダム)公を前面に立たせなければ』
『真智(チンジ)王とミシルセジュのご子息です』

※セジュ:王の印を管理する役職

『しかも上大等(サンデドゥン)です 陛下には世継ぎもいない』

『長い間 司量部令(サリャンブリョン)として権力を』

※司量部令(サリャンブリョン):司量部(サリャンブ)の長

『それにセジュの命令により勢力を引き継いできました』

『そのとおりです 母上の命令だからこそ我々は彼に従った』
『上大等(サンデドゥン)もはっきり悟ったはずです
頼りにすべきは 陛下ではなく我々だと』
『確かに』

そこへ 毗曇(ピダム)を見張っていたヨムジョンの部下が飛び込んでくる

『上大等(サンデドゥン)が! 上大等(サンデドゥン)が…』

毗曇(ピダム)は インガン殿に向かったのだ

『まさか…陛下にすべて話すつもりか?』

『大変です 本人も無事ではいられない!』
『どうやら毗曇(ピダム)は 正気を失っているらしい』
『どうすればいいのだ!』
『逮捕令が出されるはず』
『宝宗(ポジョン)公 すぐに兵を!』

インガン殿では 善徳(ソンドク)女王が

毗曇(ピダム)の行動についての報告を受けている

『毗曇(ピダム)が使臣に?』

『はい 王命に背いて面会したそうです 容疑を認めたも同じです』
『……』

そこへ 毗曇(ピダム)が来たとの知らせが入る

閼川(アルチョン)が…

『陛下 私が会ってまいります』

『いいえ 必要ありません 毗曇(ピダム)をここへ通しなさい』
『陛下!』
『通して!』

善徳(ソンドク)女王をはじめ 春秋(チュンチュ) ユシン 閼川(アルチョン)

皆の様子が 明らかに違っていることを察する毗曇(ピダム)
一方 宝宗(ポジョン)は着々と兵を集結させていた

『馬を準備し チピョン門 クィジョン門 ソニュ門で待て!いいな?!!!』

『はい!!!』

いつもの席に座った毗曇(ピダム)

善徳(ソンドク)女王は 烏羽扇をその目の前に置いた

『正使が上大等(サンデドゥン)に渡せと言った品だ』

『……』
『救い出してもらうための賄賂ではないかと…』
『陛下!』

外では美生(ミセン)たちが 落ち着かない様子で動向を見守っている

『兵たちは待機を 何か動きは?』

『ありません』
『まったく 毗曇(ピダム)の奴め!』
『毗曇(ピダム) 考え直すのだ やめろ…』

毗曇(ピダム)は真っ直ぐに善徳(ソンドク)女王を見つめて話す

『密約書です 私の名で使節団に渡された密約書です

陛下のご崩御後に 私が政務から退くことが… 知られたのです
美生(ミセン)公 夏宗(ハジョン)公 チュジン公 スウルブ公も知っています
彼らはそれを 危機と感じたようです』
『つまりこれは彼らの策略で 自分は無関係だと?』

問いただしたのは金春秋(キム・チュンチュ)

『はい』

『扇に上大等(サンデドゥン)の名が書いてあることも
使節団の侮辱的な発言も すべては配下たちの陰謀!それを信じろと?!』

『私は… 信じる』

『陛下』

善徳(ソンドク)女王の言葉に驚いたのは 毗曇(ピダム)自身だった

『陛下!』

『疑いません』
『ですが今回の謀反は事実で…』

どこまでも糾弾する春秋(チュンチュ)を遮る毗曇(ピダム)

『私が解決します! 事の発端が私である以上 必ず収拾します

何卒この毗曇(ピダム)にお任せください!』

インガン殿を出た毗曇(ピダム)の心は晴れ晴れとしていた

誰がどう言おうと 善徳(ソンドク)女王の心だけがすべてだった

しかし 歩いて行く毗曇(ピダム)の前に 異様な光景が…!

ヨムジョンを先頭に 美生(ミセン)夏宗(ハジョン)宝宗(ポジョン)が続き

その後ろには兵士が整列し こちらに突き進んでくる

『陛下に会われたのですか?』

『なぜインガン殿に?』
『まさか 無謀な行動に出ていませんよね?』
『ハッハッハ… あり得ない 陛下が誤解されていた事柄を
ご説明していただけですよね?違いますか?毗曇(ピダム)公?』
『……皆を集めてほしい』

言葉通り この事態を収拾できるのか…

毗曇(ピダム)は ミシルの一族と貴族たちを招集した

『烏羽扇は陛下のお手元に』

『それでは 陛下は内容をすべて…!』
『いいや まだ陛下はご存じない』

ホッとする一同

『解読できておらず ただの賄賂だと思われている しかし…

また勝手な真似をすれば!陛下とは関係なくその時は!
お前たちを全員この手で殺す!!!分かったか…』
『ですが我々の知らぬ間に 毗曇(ピダム)公は陛下と盟約を』
『ハッハッハ…盟約?盟約だと?
陛下の崩御後に政務から退く?この毗曇(ピダム)が?』
『ではつまり…』
『燃やせば消える紙切れなどにこの私が 縛られるとでも?』
『我々を安心させるための言い逃れでは?』
『信じられないなら!私から去ればいい お前たちを率いる者を他に見つけろ』

今さら どこにも行きようがない者たちだった

ミシルの一族たちも 貴族たちも…

『頼る当てがないなら私を信じ 指示に従え!

今後 私の知らない陰謀や 私の行動に対する憶測は
どんなものも許さない 分かったな?』

毗曇(ピダム)が退室したインガン殿では

春秋(チュンチュ)が…

『毗曇(ピダム)は解決できません

陛下との密約で 毗曇(ピダム)は大きく信用を失った
我々とは違って 毗曇(ピダム)の勢力は彼を信じないでしょう
よって 毗曇(ピダム)とその一派を始末すべきです』
『私の命令で 毗曇(ピダム)は悪役に
今回も私のために 自ら悪役に徹したのだ 私は胸が痛い
利用する気はなかったが 政治だから 王である私を慕うから…
毗曇(ピダム)の恋心は 徹底的に利用されている
それなのに 少しも哀れみを感じないのか?
私と毗曇(ピダム)は 意図しようがしまいが そなたたちのため
三韓一統の大業のため 犠牲になったとなぜ認めぬ!』

※三韓一統:高句麗(コグリョ)百済(ペクチェ)新羅(シルラ)の三国統一

『認めます ですが哀れとは思いません』

『……』

いつになく頑なに意志を通す春秋(チュンチュ)に

善徳(ソンドク)女王はハッとする

『毗曇(ピダム)… 彼の母親は… 私の祖父と… 私の父と…
私の母を殺した人物です 毗曇(ピダム)が庇護している勢力は
ミシルの勢力です!』
『春秋(チュンチュ)…』
『確かに毗曇(ピダム)は陛下の忠臣ですが
私の政敵であるのも 動かせぬ事実です』

ヨムジョンと2人きりになる毗曇(ピダム)

『兵まで動かしたのか』

『万一に備えて』
『縛り付けられたから 私もお前たちを縛り付ける』
『何の話です』
『私に対する忠誠の盟約書を 彼らからもらってこい
ともに進むべき道なら ともに参ろう』
『…承知しました』

ヨムジョンが行くと 毗曇(ピダム)はサンタクを呼びつける

『本日 戌の刻に 極秘に司量部(サリャンブ)の武将10人を集めろ』

『極秘に?』
『誰にも知られるな』
『承知しました!』

※戌の刻:午後7時~9時

夕刻 善徳(ソンドク)女王の寝所に医官が入って行く

『陛下 脈を診るお時間です』

帰り際の医官を 閼川(アルチョン)が見咎め 詰問する

『最近 なぜ頻繁に来る?』

『陛下が夜 眠られぬそうで 毎日診察しております』
『それだけか?』
『は…はい そうです』

戌の刻…

集まった部将10人に それぞれ書状を渡す毗曇(ピダム)

『宛名は記した 必ず極秘に渡さねばならん』

『はい 上大等(サンデドゥン)!』

10人が出て行くと 入れ替わりにサンタクが入ってくる

『兵たちも集めました』

『10人連れて彼らを1人ずつ追え 寄った先を確かめろ』
『承知しました』

とある鉱山では 労働者を募っている

『名前は?』

『イルトです』
『身長は?』
『6尺です』

“可”と書かれ ホッとするイルトという名の男

『金井(クムジョン)山の鉱山で仕事を?』

『そうだ 次の者!』

さっそくヨムジョンから報告を受ける貴族たち

『何?署名入りの盟約書?』

『毗曇(ピダム)公も確実にしておきたいのでしょう』
『しかし あの方の言葉を信じていいのか…』
『ひとまず我々と意を同じくするようですが』
『もしも毗曇(ピダム)公が 本当は我々と違う考えなら…』
『危険です 毗曇(ピダム)公を即位させねば
次の王は春秋(チュンチュ)公です』
『万一そうなれば 我々の命はないも同然』
『チルスクの乱の時に 陛下は我々を助けましたが
春秋(チュンチュ)公は反対を』
『そのとおり 天明(チョンミョン)王女への復讐を持ち出し 我々を処刑せよと』
『そう言っていましたな 春秋(チュンチュ)公が即位すれば
真っ先に殺されるのは我々に違いない!』

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