善徳女王 60話#1 天意の一助
『極楽浄土の仏の名を持つ者が 神国の王になると?!!!』
『極楽浄土の仏?』
※神国:新羅(シルラ)の別称
(曇(ダム)か? 毗曇(ピダム)が… 即位する?)
便殿会議が終わり ヨンチュン公は…
キム・ソヒョン 林宗(イムジョン) 朴義(パグィ) 徳充(トクチュン)と会談する
『“西国呼世尊”が指す人物は 毗曇(ピダム)しかいない』
『仏教において“西国”とは 西方極楽浄土を意味する』
『西方極楽浄土の世尊とは“仏”』
『“曇(ダム)”は西国では仏の俗名の一部』
『阿毘達磨の別称は毘曇(ピダム)』
『“西国呼世尊”つまり毗曇(ピダム)が “神国呼帝尊”
神国の皇帝になるとの文言です』
『そんな…』
この事実は またたくまに民の間にも広まった
『船に積まれていた文書では
“上大等(サンデドゥン)の毗曇(ピダム)が王になる” と』
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
『チヌン大帝の時も阿育王の船というのは吉事の兆しだったそうよ』
『ありえない 陛下がいらっしゃるのに毗曇(ピダム)公が王に?』
※阿育王:アショカ王
『唐の使臣が言ったらしい
“陛下は女性だから新羅(シルラ)は何度も侵略されるのだ” と』
『言葉に気をつけろ!死にたいのか?』
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
金春秋(キム・チュンチュ)は兵を招集した
『陛下と王室への冒涜であり 神国を根本から揺るがす罪悪だ!
必ず犯人を捕らえ 国法で厳しく処罰する!分かったか!!!』
『はい!』
『隊大監(テデガム)雪地(ソルチ)は 船府(ソンブ)とともに調査を!
隊大監(テデガム)高島(コド)は 絲浦(サポ)流域で船を出した者を捕らえろ』
※船府(ソンブ):船舶業務を担当する部署
※隊大監(テデガム):軍営の武官職
『直ちに屈阿火(クラファ)県へ向かう!』
『はい!』
善徳(ソンドク)女王のもとへ キム・ユシンが…
茫然と徐羅伐(ソラボル)を眺めている善徳(ソンドク)女王
その隣には 閼川(アルチョン)がじっと見守っている
『春秋(チュンチュ)公が 軍を率いて屈阿火(クラファ)県へ』
『ええ 私が許可しました これは即位に関する重大な問題です』
『春秋(チュンチュ)公には許しがたいことでしょう
今回の件のせいで 春秋(チュンチュ)公と毗曇(ピダム)公が
後継者争いの様相を呈しました 毗曇(ピダム)公は…』
『毗曇(ピダム)は この件と無関係です!
王位を狙うならこんな真似はしない かえって彼自身の首を絞めるだけ』
『だから問題は深刻なのです
毗曇(ピダム)は自分の勢力を統制できていません 陰に大臣たちも…』
『毗曇(ピダム)を捨てろというのですか?』
『陛下…』
『善悪や状況などは私にも判断できます
皆 捨てろとか決断を下せとか 言うのは簡単なことです
人を得ることは 天下を得るよりも困難です
でも 人を得るより困難なのは 人を… 捨てること』
『はい だから陛下は私をお救いになった』
『配下の扱いを 今後も変える気はありません!
簡単に諦めたり捨てたりしない 何ひとつ… 誰一人…』
善徳(ソンドク)女王とキム・ユシンのやりとりを
じっとそばで聞いている閼川(アルチョン)は
常に女王のそばで見守って来た経緯から 誰よりもその心を理解していた
毗曇(ピダム)は ミシルの一族と貴族たちを前にして…
『私の許可なく よくもこんなことを!!!私を信じろと言ったのに!』
『信じさせてくれませんでした』
『上大等(サンデドゥン)志を同じくしていただきたかっただけです』
『皆様が毗曇(ピダム)公に従ってきた理由とは?
信頼?忠誠?フハハ…それとも恋心?』
『ヨムジョン!死にたいのか!』
『我々は生きるために従ってきました』
『ですが 毗曇(ピダム)公のせいで我々は危機に陥りました』
『上大等(サンデドゥン)は最後まで我々に責任を取るべきです』
『そう要求する資格が我々にはある』
『上大等(サンデドゥン) 我々と共に参りましょう!』
『民も この件を機に上大等(サンデドゥン)を支持するはずです』
チュジン公が 皆を代表して…
『戦の責任を女王に負わせる絶好の機会では?
上大等(サンデドゥン) ご決断ください』
怒りの表情から 苦悩の表情に変わる毗曇(ピダム)
一方 屈阿火(クラファ)県の船着場には
春秋(チュンチュ)率いる兵部(ピョンブ)の兵士が集結していた
『船への接近を禁じ 怪しい者はすぐ捕らえろ
こんな船を造れる者はそういない 造った者を突き止めろ
絲浦(サポ)流域の捜索は?』
『高島(コド)隊大監(テデガム)が行っております!』
この様子を偵察しているヨムジョン
『この辺りであんな船を造れる者は?』
『漂着した船を造った者は?』
各地で兵部(ピョンブ)が聞き込みを開いているとの報告を受けるヨムジョン
『兵部(ピョンブ)がそんな所にまで?!!!
決して見つかってはならん!始末しろ!!!』
遠い日の 善徳(ソンドク)女王との会話を思い返す毗曇(ピダム)
「なぜ突然 敬語を?」
「王女様は私の主君になるからです
我が主君!徳曼(トンマン)王女様にご挨拶を!」
当時の徳曼(トンマン)王女に対し 毗曇(ピダム)は初めてひざまずいたのだ
あの日を思い 心を落ち着かせ 善徳(ソンドク)女王のもとへ…
『陛下に会う』
『誰も入れるなと』
『お伺いを』
『侍衛府令(シウィブリョン)が外されているので無理です』
※侍衛府令(シウィブリョン):近衛隊の長
近衛兵に拒まれる毗曇(ピダム)
『私は上大等(サンデドゥン)だ 早くしろ!!!』
そこへ閼川(アルチョン)が戻ってきた
『陛下に会う』
『それはできない また今度にしろ』
『陛下に直接断られたら下がるつもりだ お伺いを』
毗曇(ピダム)の熱意により 善徳(ソンドク)女王の前に…
『毗曇(ピダム) お前に謀反の心がないのは分かっている
しかし お前の勢力はどうするのだ』
『……』
『彼らは私の死後を恐れている つまり後継者の問題だ
彼らにとって 春秋(チュンチュ)は政敵だ
復耶会のように春秋(チュンチュ)が抱き込める勢力ではない
彼らの出す“答え”はお前しかない お前が切り捨てねば…! うっ…!』
『どうされました!陛下! 医官を!』
出て行こうとする毗曇(ピダム)の手をつかむ善徳(ソンドク)女王
『大丈夫だ…』
『どうしました ご病気では?』
『大丈夫 無理がたたったようだ』
高島(コド)の報告を受ける春秋(チュンチュ)
『蔚珍(ウルチン)か』
『はい 船はそこから出たようです
海風の影響を受けています 蔚珍(ウルチン)の松の木でしょう
しかも 蔚珍(ウルチン)には有名な船大工が』
『名前は?』
『ユチョクです』
『すぐ出発だ!』
『はい!』
兵部(ピョンブ)の兵が船大工ユチョクの家を取り囲んだ
家の中には すでに何者かに殺害された何人かの遺体があった…!
部下の報告を受けるヨムジョン
『全員 始末したか?』
『ユチョクだけ逃がしてしまいました 追跡中です!』
『何だと?しくじるとは!手段を選ばず必ずユチョクを殺せ!』
遺体の中にユチョクがいないことを 春秋(チュンチュ)も把握していた
『この一帯を包囲し 必ず捜しだすのだ!』
『はい!』
逃走しているユチョクは ヨムジョンの部下に見つかり 必死に逃げ
偶然にも兵部(ピョンブ)の兵と鉢合わせになり 助けを求める
『お願いです!!!』
『何事だ』
『私を殺そうと…お助け下さい!お助けを!!!』
そこへ 民の案内で春秋(チュンチュ)が現れる
『あれがユチョクです』
『捕らえろ!』
その瞬間!!!
矢に打たれ 次々と倒れていく兵士たち
ユチョクを守ろうとするが叶わず
ユチョクと春秋(チュンチュ)が射られる惨事となった…!
閼川(アルチョン)から報告を受ける善徳(ソンドク)女王
『何ですって 春秋(チュンチュ)が?!春秋(チュンチュ)は無事なのですか?』
『幸い急所を外れ命に別状はないと』
『………』
『陛下 どうされました』
『……春秋(チュンチュ)に会います』
キム・ソヒョンと万明(マンミョン)夫人は…
『何てことだ』
『王室に不敬なことばかり起き どうすればいいのか』
『決して見過ごせぬ問題だ すぐ宮殿に行き状況を調べなければ』
王室の人間を矢で攻撃するという事態は
ミシルの一族と貴族たちにとっても衝撃の出来事だった
こぞってヨムジョンを責め立てる一同
『何だと 春秋(チュンチュ)公が?!』
『どうしてそんな事態に!船を出す前にユチョクを始末すべきだ』
『困ったことになった まったく!』
『どうも申し訳ない』
『“申し訳ない”で済む問題か?』
『いっそあの方の命を奪うべきでした』
『何だと?正気なのか?』
『恐ろしい発言を!』
『春秋(チュンチュ)公さえいなければ 事はより簡単になります』
『こ…こいつめ 何てことを!よくもそんなことが言えるな!
命を奪うだと? 貴様 偉くなったもんだ
昔なら私がお前を始末したのに!!!』
同じ時 毗曇(ピダム)はサンタクから報告を受ける
『何だと?春秋(チュンチュ)公が殺されかけた?!!!誰の仕業だ!!!』
『わ…私は存じません!!!本当です!!!知りません…』
傷の痛みに苦しむ春秋(チュンチュ)を 善徳(ソンドク)女王が見舞う
『春秋(チュンチュ)!具合は?』
『急所は外れ 傷も深くはありません』
『ユチョクは?』
『死にました』
『その者が 阿育王の船を造ったのか』
『はい あの者の自白を恐れる誰かが暗殺を』
『目星は?』
『蔚珍(ウルチン)港はヨムジョンの商団の拠点で
ユチョクも ヨムジョンの仕事を何度も』
『……』
『私も 毗曇(ピダム)が首謀者だとは思えません
彼には何の利益にもならない
しかし 彼の勢力の所業は 度を越えています』
『私の忍耐も もう限界だ! …矢はそなたを狙っていたか?』
『いいえ ユチョクの口を封じるためでしょう』
『違う そなたを… 狙ったのだ』
そう言い切る善徳(ソンドク)女王の真意とは…!
春秋(チュンチュ)を見舞った後の善徳(ソンドク)女王は深刻な表情になる
見かねて閼川(アルチョン)が…
『陛下 あまりご心配なさらずに 安静にすれば回復されます』
『便殿会議を開く』
『インガン殿には戻られないので?』
『直ちに臣下たちを便殿に集めなさい!
毗曇(ピダム)には欠席するよう 極秘に伝えてください
会議の後に 毗曇(ピダム)の所へ』
便殿会議の玉座に座る善徳(ソンドク)女王は ギロリを一同を睨みつける
『陛下 驚くべき災難が王室に降りかかりましたな』
『ですが天の助けにより 春秋(チュンチュ)公は事故から無事に…』
『今 事故と言いましたか?!
内省私臣(ネソンサシン)であり王族である者が襲われたのに!』
※内省私臣(ネソンサシン):内省(ネソン)の長官
『陛下…』
『私は!必ず黒幕を捕らえる
そして厳罰に処し 神国の規律を正します!
ヨンチュン公!事件を調査し すべての真相を明らかに!』
『はい 陛下 必ず真相を解明いたします』
春秋(チュンチュ)を見舞う竹方(チュクパン)が 状況を知らせる
『何だと 陛下が?』
『臣下たちは皆 集められました
陛下は事件の調査を命じたそうです』
起き上がろうとする春秋(チュンチュ)
『いけません もう少しお休みに』
『毗曇(ピダム)は会議に出たか?』
『それが…上大等(サンデドゥン)は出席していません
ところで 本当に毗曇(ピダム)公が事件の首謀者ですかね?』
『毗曇(ピダム)が首謀者かは問題ではない
天意が陛下と毗曇(ピダム)に 何かを促しているのだ』
『え?何を考えておられるのです?』
『行かねば… 支度を』
『どちらへ?』
『毗曇(ピダム)に会う 私が天意の一助となろう』
毗曇(ピダム)と向き合う春秋(チュンチュ)
『危ないところでした あんなことが起きるとは』
『上大等(サンデドゥン)が仕組んだことでは?』
『そんな大それた真似を?とんでもない』
『フフ… 昔のように話してみようか
陛下のご崩御後に都から去るだって?無理だな』
『何をおっしゃっているのか分かりません』
『私の母は お前の母親のせいで死んだ』
毗曇(ピダム)の表情が変わる
『その息子が今 私を殺そうとした だが私も黙ってはいない』
『本当に何のお話でしょうか』
『実は私には秘密がある 教えてやろうか?』
『……』
『私は 頭はいいが体が弱い だから人々は私を愚鈍でのろまだと
だがな 私はどんな小さなことも放置しない』
『……』
『例えば些細なことだが 大男甫(テナムボ)はなぜ行方不明になったか?』
『……』
『楽しかったです これで失礼』
『お前… 成長したな
昔は俺を怖がってよく震えていたのに 違うか?』
昔の口調に戻る毗曇(ピダム)
立ち上がり帰りかけた春秋(チュンチュ)が 振り向き座り直す
『そうだ 昔のお前は怖かった でも今は違う なぜか?
昔のお前は 予測がつかない男だった
恐怖は 知らないことからくるものだ だが… 今はすべてがよく見える
自分の勢力を抑えきれず 恋心のせいで先が見えていない!』
『……』
『本当に陛下がお前と… 心が通じ合っていると思うか
昔のお前は 本当に怖かった』
今 何を言われたのか…
毗曇(ピダム)は狼狽する
出てきた春秋(チュンチュ)を心配する竹方(チュクパン)
『どうでしたか 首謀者は毗曇(ピダム)公でしたか?』
春秋(チュンチュ)は答えず じっと考え込む…
(すまない毗曇(ピダム)
お前は事件と無関係のはずだ 陛下への恋心も本物だろう
だが お前とその勢力が大業の妨げになる …消えてもらう)
『春秋(チュンチュ)公 どうなさいました』
『いいや 行こう』
(毗曇(ピダム) お前にはすまないが
情だけで働く者に 歴史は居場所を与えないものだ)
便殿会議を終えたミシルの一族と貴族たちは…
『大変なことになった… ヨムジョンのせいだ!!!
調査すれば必ず証拠が出てくる』
『ヨムジョンの失態で大変な結果になりかねん!』
『陛下だけでなく 皆が我々を疑っている』
『皆さん 落ち着きましょう 今後の対策を練るべきです』
『何をしているのです!』
ヨムジョンが現れる
『兵の準備を!』
『何だと?!!!』
『兵の準備?!!!政変でも起こす気か?』
『調査が本格的に始まれば…』
『そうなれば捕まるのは貴様だ!!!我々ではない!』
『そうですか?!!!』
『極楽浄土の仏?』
※神国:新羅(シルラ)の別称
(曇(ダム)か? 毗曇(ピダム)が… 即位する?)
便殿会議が終わり ヨンチュン公は…
キム・ソヒョン 林宗(イムジョン) 朴義(パグィ) 徳充(トクチュン)と会談する
『“西国呼世尊”が指す人物は 毗曇(ピダム)しかいない』
『仏教において“西国”とは 西方極楽浄土を意味する』
『西方極楽浄土の世尊とは“仏”』
『“曇(ダム)”は西国では仏の俗名の一部』
『阿毘達磨の別称は毘曇(ピダム)』
『“西国呼世尊”つまり毗曇(ピダム)が “神国呼帝尊”
神国の皇帝になるとの文言です』
『そんな…』
この事実は またたくまに民の間にも広まった
『船に積まれていた文書では
“上大等(サンデドゥン)の毗曇(ピダム)が王になる” と』
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の最高官職 現在の国務総理
『チヌン大帝の時も阿育王の船というのは吉事の兆しだったそうよ』
『ありえない 陛下がいらっしゃるのに毗曇(ピダム)公が王に?』
※阿育王:アショカ王
『唐の使臣が言ったらしい
“陛下は女性だから新羅(シルラ)は何度も侵略されるのだ” と』
『言葉に気をつけろ!死にたいのか?』
※新羅(シルラ):朝鮮半島南東部から発展し 後に三国を統一
金春秋(キム・チュンチュ)は兵を招集した
『陛下と王室への冒涜であり 神国を根本から揺るがす罪悪だ!
必ず犯人を捕らえ 国法で厳しく処罰する!分かったか!!!』
『はい!』
『隊大監(テデガム)雪地(ソルチ)は 船府(ソンブ)とともに調査を!
隊大監(テデガム)高島(コド)は 絲浦(サポ)流域で船を出した者を捕らえろ』
※船府(ソンブ):船舶業務を担当する部署
※隊大監(テデガム):軍営の武官職
『直ちに屈阿火(クラファ)県へ向かう!』
『はい!』
善徳(ソンドク)女王のもとへ キム・ユシンが…
茫然と徐羅伐(ソラボル)を眺めている善徳(ソンドク)女王
その隣には 閼川(アルチョン)がじっと見守っている
『春秋(チュンチュ)公が 軍を率いて屈阿火(クラファ)県へ』
『ええ 私が許可しました これは即位に関する重大な問題です』
『春秋(チュンチュ)公には許しがたいことでしょう
今回の件のせいで 春秋(チュンチュ)公と毗曇(ピダム)公が
後継者争いの様相を呈しました 毗曇(ピダム)公は…』
『毗曇(ピダム)は この件と無関係です!
王位を狙うならこんな真似はしない かえって彼自身の首を絞めるだけ』
『だから問題は深刻なのです
毗曇(ピダム)は自分の勢力を統制できていません 陰に大臣たちも…』
『毗曇(ピダム)を捨てろというのですか?』
『陛下…』
『善悪や状況などは私にも判断できます
皆 捨てろとか決断を下せとか 言うのは簡単なことです
人を得ることは 天下を得るよりも困難です
でも 人を得るより困難なのは 人を… 捨てること』
『はい だから陛下は私をお救いになった』
『配下の扱いを 今後も変える気はありません!
簡単に諦めたり捨てたりしない 何ひとつ… 誰一人…』
善徳(ソンドク)女王とキム・ユシンのやりとりを
じっとそばで聞いている閼川(アルチョン)は
常に女王のそばで見守って来た経緯から 誰よりもその心を理解していた
毗曇(ピダム)は ミシルの一族と貴族たちを前にして…
『私の許可なく よくもこんなことを!!!私を信じろと言ったのに!』
『信じさせてくれませんでした』
『上大等(サンデドゥン)志を同じくしていただきたかっただけです』
『皆様が毗曇(ピダム)公に従ってきた理由とは?
信頼?忠誠?フハハ…それとも恋心?』
『ヨムジョン!死にたいのか!』
『我々は生きるために従ってきました』
『ですが 毗曇(ピダム)公のせいで我々は危機に陥りました』
『上大等(サンデドゥン)は最後まで我々に責任を取るべきです』
『そう要求する資格が我々にはある』
『上大等(サンデドゥン) 我々と共に参りましょう!』
『民も この件を機に上大等(サンデドゥン)を支持するはずです』
チュジン公が 皆を代表して…
『戦の責任を女王に負わせる絶好の機会では?
上大等(サンデドゥン) ご決断ください』
怒りの表情から 苦悩の表情に変わる毗曇(ピダム)
一方 屈阿火(クラファ)県の船着場には
春秋(チュンチュ)率いる兵部(ピョンブ)の兵士が集結していた
『船への接近を禁じ 怪しい者はすぐ捕らえろ
こんな船を造れる者はそういない 造った者を突き止めろ
絲浦(サポ)流域の捜索は?』
『高島(コド)隊大監(テデガム)が行っております!』
この様子を偵察しているヨムジョン
『この辺りであんな船を造れる者は?』
『漂着した船を造った者は?』
各地で兵部(ピョンブ)が聞き込みを開いているとの報告を受けるヨムジョン
『兵部(ピョンブ)がそんな所にまで?!!!
決して見つかってはならん!始末しろ!!!』
遠い日の 善徳(ソンドク)女王との会話を思い返す毗曇(ピダム)
「なぜ突然 敬語を?」
「王女様は私の主君になるからです
我が主君!徳曼(トンマン)王女様にご挨拶を!」
当時の徳曼(トンマン)王女に対し 毗曇(ピダム)は初めてひざまずいたのだ
あの日を思い 心を落ち着かせ 善徳(ソンドク)女王のもとへ…
『陛下に会う』
『誰も入れるなと』
『お伺いを』
『侍衛府令(シウィブリョン)が外されているので無理です』
※侍衛府令(シウィブリョン):近衛隊の長
近衛兵に拒まれる毗曇(ピダム)
『私は上大等(サンデドゥン)だ 早くしろ!!!』
そこへ閼川(アルチョン)が戻ってきた
『陛下に会う』
『それはできない また今度にしろ』
『陛下に直接断られたら下がるつもりだ お伺いを』
毗曇(ピダム)の熱意により 善徳(ソンドク)女王の前に…
『毗曇(ピダム) お前に謀反の心がないのは分かっている
しかし お前の勢力はどうするのだ』
『……』
『彼らは私の死後を恐れている つまり後継者の問題だ
彼らにとって 春秋(チュンチュ)は政敵だ
復耶会のように春秋(チュンチュ)が抱き込める勢力ではない
彼らの出す“答え”はお前しかない お前が切り捨てねば…! うっ…!』
『どうされました!陛下! 医官を!』
出て行こうとする毗曇(ピダム)の手をつかむ善徳(ソンドク)女王
『大丈夫だ…』
『どうしました ご病気では?』
『大丈夫 無理がたたったようだ』
高島(コド)の報告を受ける春秋(チュンチュ)
『蔚珍(ウルチン)か』
『はい 船はそこから出たようです
海風の影響を受けています 蔚珍(ウルチン)の松の木でしょう
しかも 蔚珍(ウルチン)には有名な船大工が』
『名前は?』
『ユチョクです』
『すぐ出発だ!』
『はい!』
兵部(ピョンブ)の兵が船大工ユチョクの家を取り囲んだ
家の中には すでに何者かに殺害された何人かの遺体があった…!
部下の報告を受けるヨムジョン
『全員 始末したか?』
『ユチョクだけ逃がしてしまいました 追跡中です!』
『何だと?しくじるとは!手段を選ばず必ずユチョクを殺せ!』
遺体の中にユチョクがいないことを 春秋(チュンチュ)も把握していた
『この一帯を包囲し 必ず捜しだすのだ!』
『はい!』
逃走しているユチョクは ヨムジョンの部下に見つかり 必死に逃げ
偶然にも兵部(ピョンブ)の兵と鉢合わせになり 助けを求める
『お願いです!!!』
『何事だ』
『私を殺そうと…お助け下さい!お助けを!!!』
そこへ 民の案内で春秋(チュンチュ)が現れる
『あれがユチョクです』
『捕らえろ!』
その瞬間!!!
矢に打たれ 次々と倒れていく兵士たち
ユチョクを守ろうとするが叶わず
ユチョクと春秋(チュンチュ)が射られる惨事となった…!
閼川(アルチョン)から報告を受ける善徳(ソンドク)女王
『何ですって 春秋(チュンチュ)が?!春秋(チュンチュ)は無事なのですか?』
『幸い急所を外れ命に別状はないと』
『………』
『陛下 どうされました』
『……春秋(チュンチュ)に会います』
キム・ソヒョンと万明(マンミョン)夫人は…
『何てことだ』
『王室に不敬なことばかり起き どうすればいいのか』
『決して見過ごせぬ問題だ すぐ宮殿に行き状況を調べなければ』
王室の人間を矢で攻撃するという事態は
ミシルの一族と貴族たちにとっても衝撃の出来事だった
こぞってヨムジョンを責め立てる一同
『何だと 春秋(チュンチュ)公が?!』
『どうしてそんな事態に!船を出す前にユチョクを始末すべきだ』
『困ったことになった まったく!』
『どうも申し訳ない』
『“申し訳ない”で済む問題か?』
『いっそあの方の命を奪うべきでした』
『何だと?正気なのか?』
『恐ろしい発言を!』
『春秋(チュンチュ)公さえいなければ 事はより簡単になります』
『こ…こいつめ 何てことを!よくもそんなことが言えるな!
命を奪うだと? 貴様 偉くなったもんだ
昔なら私がお前を始末したのに!!!』
同じ時 毗曇(ピダム)はサンタクから報告を受ける
『何だと?春秋(チュンチュ)公が殺されかけた?!!!誰の仕業だ!!!』
『わ…私は存じません!!!本当です!!!知りません…』
傷の痛みに苦しむ春秋(チュンチュ)を 善徳(ソンドク)女王が見舞う
『春秋(チュンチュ)!具合は?』
『急所は外れ 傷も深くはありません』
『ユチョクは?』
『死にました』
『その者が 阿育王の船を造ったのか』
『はい あの者の自白を恐れる誰かが暗殺を』
『目星は?』
『蔚珍(ウルチン)港はヨムジョンの商団の拠点で
ユチョクも ヨムジョンの仕事を何度も』
『……』
『私も 毗曇(ピダム)が首謀者だとは思えません
彼には何の利益にもならない
しかし 彼の勢力の所業は 度を越えています』
『私の忍耐も もう限界だ! …矢はそなたを狙っていたか?』
『いいえ ユチョクの口を封じるためでしょう』
『違う そなたを… 狙ったのだ』
そう言い切る善徳(ソンドク)女王の真意とは…!
春秋(チュンチュ)を見舞った後の善徳(ソンドク)女王は深刻な表情になる
見かねて閼川(アルチョン)が…
『陛下 あまりご心配なさらずに 安静にすれば回復されます』
『便殿会議を開く』
『インガン殿には戻られないので?』
『直ちに臣下たちを便殿に集めなさい!
毗曇(ピダム)には欠席するよう 極秘に伝えてください
会議の後に 毗曇(ピダム)の所へ』
便殿会議の玉座に座る善徳(ソンドク)女王は ギロリを一同を睨みつける
『陛下 驚くべき災難が王室に降りかかりましたな』
『ですが天の助けにより 春秋(チュンチュ)公は事故から無事に…』
『今 事故と言いましたか?!
内省私臣(ネソンサシン)であり王族である者が襲われたのに!』
※内省私臣(ネソンサシン):内省(ネソン)の長官
『陛下…』
『私は!必ず黒幕を捕らえる
そして厳罰に処し 神国の規律を正します!
ヨンチュン公!事件を調査し すべての真相を明らかに!』
『はい 陛下 必ず真相を解明いたします』
春秋(チュンチュ)を見舞う竹方(チュクパン)が 状況を知らせる
『何だと 陛下が?』
『臣下たちは皆 集められました
陛下は事件の調査を命じたそうです』
起き上がろうとする春秋(チュンチュ)
『いけません もう少しお休みに』
『毗曇(ピダム)は会議に出たか?』
『それが…上大等(サンデドゥン)は出席していません
ところで 本当に毗曇(ピダム)公が事件の首謀者ですかね?』
『毗曇(ピダム)が首謀者かは問題ではない
天意が陛下と毗曇(ピダム)に 何かを促しているのだ』
『え?何を考えておられるのです?』
『行かねば… 支度を』
『どちらへ?』
『毗曇(ピダム)に会う 私が天意の一助となろう』
毗曇(ピダム)と向き合う春秋(チュンチュ)
『危ないところでした あんなことが起きるとは』
『上大等(サンデドゥン)が仕組んだことでは?』
『そんな大それた真似を?とんでもない』
『フフ… 昔のように話してみようか
陛下のご崩御後に都から去るだって?無理だな』
『何をおっしゃっているのか分かりません』
『私の母は お前の母親のせいで死んだ』
毗曇(ピダム)の表情が変わる
『その息子が今 私を殺そうとした だが私も黙ってはいない』
『本当に何のお話でしょうか』
『実は私には秘密がある 教えてやろうか?』
『……』
『私は 頭はいいが体が弱い だから人々は私を愚鈍でのろまだと
だがな 私はどんな小さなことも放置しない』
『……』
『例えば些細なことだが 大男甫(テナムボ)はなぜ行方不明になったか?』
『……』
『楽しかったです これで失礼』
『お前… 成長したな
昔は俺を怖がってよく震えていたのに 違うか?』
昔の口調に戻る毗曇(ピダム)
立ち上がり帰りかけた春秋(チュンチュ)が 振り向き座り直す
『そうだ 昔のお前は怖かった でも今は違う なぜか?
昔のお前は 予測がつかない男だった
恐怖は 知らないことからくるものだ だが… 今はすべてがよく見える
自分の勢力を抑えきれず 恋心のせいで先が見えていない!』
『……』
『本当に陛下がお前と… 心が通じ合っていると思うか
昔のお前は 本当に怖かった』
今 何を言われたのか…
毗曇(ピダム)は狼狽する
出てきた春秋(チュンチュ)を心配する竹方(チュクパン)
『どうでしたか 首謀者は毗曇(ピダム)公でしたか?』
春秋(チュンチュ)は答えず じっと考え込む…
(すまない毗曇(ピダム)
お前は事件と無関係のはずだ 陛下への恋心も本物だろう
だが お前とその勢力が大業の妨げになる …消えてもらう)
『春秋(チュンチュ)公 どうなさいました』
『いいや 行こう』
(毗曇(ピダム) お前にはすまないが
情だけで働く者に 歴史は居場所を与えないものだ)
便殿会議を終えたミシルの一族と貴族たちは…
『大変なことになった… ヨムジョンのせいだ!!!
調査すれば必ず証拠が出てくる』
『ヨムジョンの失態で大変な結果になりかねん!』
『陛下だけでなく 皆が我々を疑っている』
『皆さん 落ち着きましょう 今後の対策を練るべきです』
『何をしているのです!』
ヨムジョンが現れる
『兵の準備を!』
『何だと?!!!』
『兵の準備?!!!政変でも起こす気か?』
『調査が本格的に始まれば…』
『そうなれば捕まるのは貴様だ!!!我々ではない!』
『そうですか?!!!』
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