善徳女王 60話#2 政変の兆し

「本当に陛下がお前と 心が通じ合っていると思うか」

耳に残る春秋(チュンチュ)の言葉を 毗曇(ピダム)は必死に振り払う

善徳(ソンドク)女王に会うために…

司量部(サリャンブ)では ヨムジョンと全員が対立していた

『そうとも!お前1人の仕業であり 我々は無関係だ』
『そうとも!我々は部外者だ』
『そうでしたね ええ 確かに私が1人でやりました では結構!!!!!
陛下と春秋(チュンチュ)公に明かしなさい
唐の使臣と密約を結んだが 殺害未遂は無関係
“西国呼世尊 神国呼帝尊” 阿育王の船も捏造したが
春秋(チュンチュ)公は襲っていない
反乱を起こし陛下の廃位を画策したが 矢を放ったのはヨムジョンだと!!!
そう言ったらどうです?』

ヨムジョンに凄まれ 反論できる者は1人もいない

『陛下は 春秋(チュンチュ)公の負傷が偶然の事故だとご存じのはず

では なぜ殺害未遂として調査を命じたか…
決心されたからです 我々の粛清を』

ヨムジョンを責め立てていた夏宗(ハジョン)が 困ったように…

『では どうすれば?』

『調査で証拠が見つかる前に 先手を打ちます』
『先手を打つだと?!つまり政変を起こす気か!』
『その場合にも備えてきたでしょう 何か問題でも?』
『しかし政変はさすがに…』
『毗曇(ピダム)は?どうする?
政変なら名分が必要だが
姉上と真智(チンジ)王の息子である 毗曇(ピダム)以外に名分がない
毗曇(ピダム)の心を どう動かす?』
『それは この私が責任を持ってやります』

現れた毗曇(ピダム)に 善徳(ソンドク)女王は…

『お前が無関係なのは知っている』

『陛下』
『ただ お前は失敗した 勢力の掌握に』
『そうです もはやお手上げです
綿密な調査で真相を究明し 国法に従い厳罰を』
『それではお前にも被害が及ぶ!責任は免れないはずだ』
『構いません そうなさるべきです陛下 覚悟はできております』
『でも私は! …覚悟ができていない』
『陛下…』

善徳(ソンドク)女王の手の中に 指輪が…

『私たちは 同じ物を持っていなかったわね』

『なぜ このようなことを… まるでお別れのようです』
『推火(チュファ)郡の山城を建てる責任者に任命する すぐに行け
そして 私が徐羅伐(ソラボル)で問題を片づける その後呼び戻すわ』
『陛下…』

※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)

『徐羅伐(ソラボル)にいれば お前は巻き込まれる

私がすべて処理する 必ず解決してみせる 世論はすぐに鎮まるだろう
そうなれば お前を呼び戻せる』

毗曇(ピダム)の頭に 再び春秋(チュンチュ)の言葉が…

「本当に陛下がお前と 心が通じ合っていると思うか」

『私を信じられるか?』

『陛下 もちろんです 信じます』
『出発の支度をしなさい 位和府(ウィファブ)に王命を出す』

※位和府(ウィファブ):役人の人事を担当した部署

にぎり合った手を放そうとする善徳(ソンドク)女王

それをまた強く握りしめる毗曇(ピダム)

『行きなさい』

握りしめられた手を 自ら引き抜く善徳(ソンドク)女王

毗曇(ピダム)の目には涙が滲む

(そんなはずはない そんなはずは…)

手を引き抜こうとした善徳(ソンドク)女王の行為が 毗曇(ピダム)を迷わせる

去っていく毗曇(ピダム)の背中に語りかける善徳(ソンドク)女王

(毗曇(ピダム)しばらく待っていて 私が必ずこの問題を解決する)

ヨムジョンのもとへ 部下が…

『連れて来ました』

『信用できるか?』
『陛下の側近として潜入させていた者です』

1人の近衛兵が現れ ヨムジョンの前にひざまずく

『家族は一生面倒見てやる

お前の子供は 神国の人材として育てると約束しよう』
『覚悟はできていますが 相手が死ねば…』
『神国最高の剣術者だ 心配することはない
ただし 戦っている間ではなく 動きが止まった時を狙え』
『はい』

出された命令を…

それを言う時の善徳(ソンドク)女王を思い返す毗曇(ピダム)
振り払っても振り払っても 悪い考えだけが頭をよぎる

(仰せのとおり すべてお任せして行けばいいのですか?

あの者たちのことは 私の問題でもあります
陛下のご負担を 少しでも減らして差し上げたい
毗曇(ピダム)は その後に出発いたします)

剣を握りしめる毗曇(ピダム)の目に 輝きが戻る

以前のような鋭い眼光で 真っ直ぐに前を見る
春秋(チュンチュ)に言われた言葉がよみがえった

「昔のお前は怖かった でも今は違う」

(長い間 よく耐えたもんだ 全員 ぶっ殺してやる…!)

毗曇(ピダム)の心の変化を知るはずもなく

美生(ミセン)が全員に指示を出している

『チュジン公は今すぐ上州停(サンジュジョン)へ行ってください』

『承知した』
『宝宗(ポジョン) 私兵たちに連絡は?』
『戦線にいる将軍たちに伝えてあります』
『本当に政変を?』

スウルブ公の質問に 夏宗(ハジョン)が苛立つ

『今さら何を言われる!証拠が見つかれば終わりだ それでもいいと?』

『わ…分かりました 夜明けに鉱山へ集合でしたな』

そこへヨムジョンが…

『不穏な動きがあります 徐羅伐(ソラボル)を出ましょう!』

いよいよかと 不安に駆られる一同

その頃キム・ユシンをはじめとする側近が
善徳(ソンドク)女王に謁見していた

『私兵のいない今が捕らえる好機です ご許可を!』

『高島(コド)隊大監(テデガム)を筆頭に
谷使欣(コクサフン) 大風(テプン) ヤンギルたちが待機中です』

難色を示すのはヨンチュン公

『だが大等(テドゥン)たちが含まれている
大等(テドゥン)まで証拠もなく捕らえるのは…』

※大等(テドゥン):新羅(シルラ)の中央貴族の核心層

『“証拠が見つかる前に行動を起こすべきだ” と彼らは思っているはず』

『殺害未遂だけでなく 唐の使臣との密約や
阿育王の船を捏造し陛下を侮辱したこと
そのすべてに 責任と罪を問わねばなりません』
『ええ よって逮捕を許可します』

緊迫した事態になってきたことに まだ気づいていない美生(ミセン)たち

『何を言いだす 今すぐ徐羅伐(ソラボル)を出ろだと?!』

『部下から 兵部(ピョンブ)に動きがあるとの知らせです』
『兵部(ピョンブ)?今すぐ我々を捕らえるつもりなのか?』
『まずは身を隠しましょう 皆様は鉱山へ!』
『虎才(ホジェ)公 ソニョル公 ワンニュン公に伝えます!』

ヨムジョンに詰め寄る美生(ミセン)

『毗曇(ピダム)は?どこにいる』

『それが その…』
『毗曇(ピダム)が必要なのだ!!!このままでは名分が立たん!!!』
『政変を焚き付けておいて毗曇(ピダム)公の行方も知らんのか!』
『私が責任を持ってお連れします』

下将軍(ハジャングン)月夜(ウォルヤ)が兵士たちに指示を出す

『隊大監(テデガム)と少監(ソガム)たちは 小隊を率い罪人を捕らえろ

迅速かつ極秘に 事を進めねばならん!いいな?』
『はい!!!』

春秋(チュンチュ)が 善徳(ソンドク)女王を問い詰める

『毗曇(ピダム)は?なぜ逮捕令を出さないのです』

『毗曇(ピダム)が無関係なのは そなたも分かっているでしょう』
『ですが 一連の問題は毗曇(ピダム)がいなければ起こりませんでした』
『それで?』
『今 毗曇(ピダム)を粛正しなければ 近い将来大きな脅威に』
『毗曇(ピダム)が怖いのか』
『……』
『毗曇(ピダム)は勢力を失うのだ 脅威にはならない
何を恐れて罪なき者を切り捨てるのだ
私の命令なく 毗曇(ピダム)に手を出すな!』

高島(コド)谷使欣(コクサフン)大風(テプン)が兵を率い

ミシルの一族及び貴族たちの屋敷に進軍する

『一挙に突入して素早く制圧するぞ!』

しかし 高島(コド)たちは 誰一人捕らえることは出来なかった

すでに徐羅伐(ソラボル)を脱し すべての屋敷はもぬけの殻だったのだ

ムンノの弟子の頃の服に着替え 剣を握り 笠を被った毗曇(ピダム)が

この様子を物陰から見ている

(あの連中め ついに事を起こす気だな)

それぞれが戻り キム・ユシンに報告する

『もぬけの殻だった?!』

『誰もいませんでした』
『美生(ミセン)公の屋敷も 慌てて出発した形跡が』

『徐羅伐(ソラボル)にいる兵部(ピョンブ)の兵を

今すぐ宮殿に集めろ!急げ!!!』
『はい!!!』

洞窟に集結したミシルの一族と貴族たちは…

『あぁ!あいつのせいでひどい目に!』

『取りあえず徐羅伐(ソラボル)を出たが 次の策を考えねばならん』
『そろそろ兵部(ピョンブ)も気づいたはず』
『ヨムジョンの奴はどこだ!』
『毗曇(ピダム)公を捜しに』
『我々だけでは何もできない』
『何の名分もないのだ』
『本当に毗曇(ピダム)公は来るのですか?』

貴族たちの不安に 美生(ミセン)が答える

『おそらく来るだろう ヨムジョンは必ずやる』

『叔父上 なぜ確信できるのですか?』
『そうでないと 全員死ぬからだ』

部下を引き連れ 山中を歩いているヨムジョン

その背後を毗曇(ピダム)が追う

そしてその後方から 黒装束の怪しい影が…!

同じ時 善徳(ソンドク)女王のもとへ

林宗(イムジョン)と月夜(ウォルヤ)が報告に来る

『陛下戦線のスウルブ公の私兵が離脱したとの報告が!』

『伊西(イソ)郡にいた虎才(ホジェ)公の私兵も逃げたそうです』

ユシンが聞く

『他の貴族の私兵は?』

『まだ分からないが おそらく…』

閼川(アルチョン)が…

『陛下 これは反乱です 早く…』

『再び…徐羅伐(ソラボル)で政変が起こるのか』

(毗曇(ピダム)…)

ヨムジョンたちの前に飛び出る毗曇(ピダム)

『毗曇(ピダム)公 今までどこに? 捜して…』

投げられた笠に反応し ヨムジョンの部下たちが剣を抜く

『時間がない 早く来い』

『どうした やれ!!!』

ヨムジョンの命令で 毗曇(ピダム)に斬りかかる部下たち

しかし とてもかなう相手ではない
残忍さを剥き出しにして 毗曇(ピダム)は次々と斬り殺していく
最後に残ったヨムジョンににじり寄る
顔に血しぶきを浴びた形相は 以前の毗曇(ピダム)であった

『もっと早く お前を殺しておくべきだった』

『ククク… フハハハ… やはり腕は落ちていないな
お前は剣の鬼 まさしく剣の鬼だ!』
『昔を思い出すぜ …気になってたんだ
首を斬られても… 笑えるかどうか』

ヨムジョンの顔に 恐怖の色が滲む

その時!!!

毗曇(ピダム)目がけて吹き矢が飛んできた

咄嗟にかわし 背後を睨みつける毗曇(ピダム)
次の吹き矢も容易にかわし その黒い影に斬りかかる!

覆面を剥いだその顔に 毗曇(ピダム)は見憶えがあった

善徳(ソンドク)女王への謁見を断った近衛兵だ

『お前は… あの時の?』

『……』
『誰の命令だ 答えろ』
『……』
『誰の命令なのか言え!!!答えろ 早く…』

毗曇(ピダム)の頭の中を渦巻く 善徳(ソンドク)女王の言葉

「お前に謀反の心がないのは分かっている」

沸きあがってくる感情を振り払いながら 哀願するように…

『答えろ 誰だ』

次々に 善徳(ソンドク)女王の言葉が浮かんでは消えていく

「でも私は 覚悟ができていない」

『言え… 言えこの野郎!!!』

近衛兵の視線の先には うなずいているヨムジョンが…

意を決したように毗曇(ピダム)に視線を移す近衛兵

『神国の敵を刺殺しろ… 神国の敵を刺殺しろーーーっ!!!』

『……』
『女王陛下 万歳!!!』

近衛兵は 毗曇(ピダム)の剣に自らの首を押しつけ自害した
すべてはヨムジョンの差し金だった

何食わぬ顔で 驚きの表情を作り 毗曇(ピダム)に寄り添うヨムジョン

『そんな…こいつは侍衛府(シウィブ)の兵だ』

『……』
『ということは陛下が?』

※侍衛府(シウィブ):近衛隊

幼い日 ムンノの手を握った毗曇(ピダム)は そっと手を引き抜かれた

残忍さを隠さない毗曇(ピダム)を ムンノは決して愛してはくれなかった
あの時 善徳(ソンドク)女王もまた 握りしめた手を引き抜いた

「私を信じられるか?」

言葉では信じられても

引き抜かれた手が 毗曇(ピダム)の心をかき乱す

『あぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!』

コメント

このブログの人気の投稿

善徳女王 62話(最終話)#1 明活(ミョンファル)山城 制圧!

善徳女王 57話#2 ユシンの策

善徳女王 59話#2 極楽浄土の仏