善徳女王 61話#2 崩れた信頼
『女王を廃位させます』
『え?戦線を長く維持させるはずでは?』
『兵が集まれば 都城に進軍するのですか』
『いいえ』
ミシルの一族と貴族たちは 毗曇(ピダム)の考えがまったくつかめない
『多くの貴族が我々の味方についています
それに チュジン公やスウルブ公 虎才(ホジェ)公もいる
私まで含めれば 和白(ファベク)会議の大等(テドゥン)10人中7人になります』
※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議
『ということは…』
『そうです 私は上大等(サンデドゥン)として和白(ファベク)会議を招集します』
推火(チュファ)郡に行くべきはずの毗曇(ピダム)は
明活(ミョンファル)山城を掌握し さらには和白(ファベク)会議を招集した
『今回の議題は 女王の廃位についてです
女王徳曼(トンマン)は チヌン大帝の残した領土を守れず
高句麗(コグリョ)と百済(ペクチェ)の侵攻を許し 大耶(テヤ)城を奪われた』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『女性の君主として 唐の使節団に見下され 神国の品位と基盤を揺るがした
また 阿育王の暗示が女王の衰運を示し 新王の到来を示唆した
これは天の啓示ではないか』
※阿育王:アショカ王
『以上の3つの理由により
上大等(サンデドゥン)毗曇(ピダム)と和白(ファベク)会議は
女王の廃位を決議した
女王が政務から手を引き 自ら退位することが
苦しみにあえぐ神国を救う 唯一の方法である
神国和白(ファベク)会議 上大等(サンデドゥン) 毗曇(ピダム)』
至る所に貼られた掲示物の文面に 民は驚く
竹方(チュクパン)とサンタクも 民に紛れ困惑する
『廃位だなんて一体どういうことだ?
本当に毗曇(ピダム)公が首謀者か?』
『これは反乱だぞ』
『待てよ 毗曇(ピダム)は明活(ミョンファル)山城に? これを渡さなきゃ!
でも明活(ミョンファル)山城は反乱軍の拠点だ』
『行ったら殺される』
『それは分かってるけど 渡さないと どうしよう…』
竹方(チュクパン)は恐怖に怯えながらも
善徳(ソンドク)女王の言葉を思い出す
「必ず毗曇(ピダム)に渡すのです」
『殺されますよ 何を悩んでるんだ!
兄貴が得意なことでしょ まず逃げる!ん?』
『明活(ミョンファル)山城に行こう』
『行けば殺される!』
『お前が必要だ ついて来い』
王室の会議では ヨンチュン公とキム・ソヒョンが激怒している
『勝手に集まって和白(ファベク)会議で決議だと?!!!どういうことだ』
『中小貴族と民を動揺させる汚い手口です!』
『上大等(サンデドゥン)が不在の和白(ファベク)会議は無効です
和白(ファベク)会議を開く権限は 上大等(サンデドゥン)だけが持っています』
毗曇(ピダム)は推火(チュファ)郡に行ったと信じたい善徳(ソンドク)女王だが
万明(マンミョン)夫人が…
『しかし決議文には上大等(サンデドゥン)の名が書かれています』
『確認するまでは断定できません
上大等(サンデドゥン)がいなければ 和白(ファベク)会議は無効です』
『でも… 上大等(サンデドゥン)がいたら?
本人が決議案を出して この署名が有効だとしたら?』
挑戦的に金春秋(キム・チュンチュ)が聞く
『もしそうなら… 私は上大等(サンデドゥン)を決して許しません!』
『陛下!外においでください 今 インガン殿の前に…!』
閼川(アルチョン)が慌てた様子で善徳(ソンドク)女王を呼びに来た
インガン殿の前には一頭の馬が…
その背には 遺体がくくりつけられている
『ここ数日 姿を消していた侍衛府(シウィブ)のフクサンです』
『王室を護衛する侍衛府(シウィブ)の兵が なぜこのような目に?』
『王室への脅しでしょう』
ヨンチュン公の疑問に キム・ソヒョンが答えた
遺体の首に 光る物を見つけるヨンチュン公
『陛下の指輪です なぜここに?』
善徳(ソンドク)女王が蒼ざめる
それは 唯一の心の証しとして毗曇(ピダム)に渡した物だった
(本当に毗曇(ピダム)が…)
同じ時 ようやく明活(ミョンファル)山城に着いた竹方(チュクパン)が
毗曇(ピダム)に直接 善徳(ソンドク)女王からの書状を渡していた
文面に目を通すと 毗曇(ピダム)は激しく動揺した
『毗曇(ピダム)公 落ち着いてください!』
『誰からの文だ?』
『え?陛下から渡すよう言われたのですが…』
『お前は春秋(チュンチュ)の腹心だ!春秋(チュンチュ)の仕業だろ!』
『ち…違います 本当に陛下が書かれたのです
毗曇(ピダム)公 信じてください!何か誤解があるんです
王命だからこそ 命を懸けてここに来たのです!』
同行したサンタクも 声を震わせて…
『そ…そうです 信じてください!昨日の夜に推火(チュファ)郡に着いて
毗曇(ピダム)公が来るのを待っていたんです』
『それから張り紙を見て急いで来ました
これを渡すために 命懸けで来たんですよ』
愕然とする毗曇(ピダム)
しかし…
『ハハハ… アーッハッハッハ… また騙されるところだった』
『はい?』
『春秋(チュンチュ)と徳曼(トンマン)に伝えよ!“私は生きている”と!!!』
『は…はい?!!!』
『“あれほど殺したかった毗曇(ピダム)は まだ生きている”
そう伝えろ 分かったな!』
ここは引き下がるしかない竹方(チュクパン)とサンタクであった
自分のもとに戻ってきた指輪を握りしめ 善徳(ソンドク)女王は考え込む
「私より先に陛下が他界された時は 盟約書に従います
朝廷のすべての政務と権力から手を引き 俗世を離れます」
「毗曇(ピダム)」
「誓いを立てるまでもなく 私にとっては簡単なことです」
あの時の毗曇(ピダム)の言葉が 嘘だったとは思えない
しかし事態は深刻だった
金春秋(キム・チュンチュ)をはじめとして
キム・ソヒョン ヨンチュン公が…
『陛下 決断をしてください』
『決議文が広まっています 上大等(サンデドゥン)の参加で
決議文が名分を持てば 彼らの勢力が強まります』
『陛下!』
『どうかご決断を!』
『王命を下してください!』
『毗曇(ピダム)から…
上大等(サンデドゥン)の地位を剥奪し 神国の敵として宣布します!
すべての民に 反乱勢力を鎮圧し 反逆者を殺し
神国の偉業を達成するよう 告げてください』
ついに このような王命を下さざるを得なかった善徳(ソンドク)女王
『侍衛府令(シウィブリョン)』
『はい 陛下』
『侍衛府(シウィブ)のフクサンについて調査しなさい』
竹方(チュクパン)を追い返した毗曇(ピダム)は サンタクだけを呼ぶ
『昨夜 竹方(チュクパン)が来たのか』
『はい 本当のことです』
『私を殺そうとしたのは 侍衛府(シウィブ)の兵だ』
『……』
『その者を調べろ』
『はい 承知しました』
このやり取りを ヨムジョンの部下が盗み聞きしていた
『上大等(サンデドゥン)がフクサンの調査を?』
『はい サンタクに指示していました』
『まずい 刺客を集めろ!』
『はい!』
フクサンの家に向かう閼川(アルチョン)
しかし すでに家族は皆殺しにされていた
ふと気配がして振り向くと そこには少女が震えながら隠れていた
『大丈夫 侍衛府(シウィブ)の者だ 安心しなさい ケガは?』
『あ…ありません だけど… 父さんと母さんが…』
『何があった?』
『フクサン兄さんが大きな仕事をしたから… 早くここを離れるべきだと』
『大きな仕事?何のことだ』
『司量部(サリャンブ)の ヨム… ヨムジョンという人が…』
『ヨムジョン?』
毗曇(ピダム)の命令を受け 調査に来たサンタクが
この会話を聞き 慌てて走り去る
一方 戻った竹方(チュクパン)から報告を受ける善徳(ソンドク)女王
『本当に明活(ミョンファル)山城に毗曇(ピダム)が?』
『はい… 陛下』
『自分の目で見たのですね』
『はい… しかし陛下 毗曇(ピダム)公は
陛下が自分を殺そうとしたと思っておられます』
『何ですって?』
『文をまったく信じようとせずに 策略だと思われたようです
陛下に… “私はまだ生きている” そう伝えるよう言われました』
『……』
『どういうことでしょう』
そこへ 閼川(アルチョン)が駆け込んでくる
『何か分かりましたか?』
『ヨムジョンの仕業でした』
絶句する善徳(ソンドク)女王
ようやく事態を把握する竹方(チュクパン)
『毗曇(ピダム)を殺そうとし 陛下の仕業のように見せかけたのは
ヨ…ヨムジョンだということですか?』
『そうだ』
善徳(ソンドク)女王は 放心してつぶやく
『人と人との信頼は 何ともろいものか』
『陛下』
『人の心を頼ることが こんなに虚しいとは…』
『まずは何としてでも誤解を解かねばなりません!』
必死に訴える竹方(チュクパン)だが…
『すべてが無駄に終わりました
毗曇(ピダム)のために… もう何もしてやれないのです』
そう言うと 胸を押さえ苦しみだす善徳(ソンドク)女王
『陛下!!!』
『…大丈夫だから下がりなさい』
『医官を呼びます』
竹方(チュクパン)を下がらせる閼川(アルチョン)
善徳(ソンドク)女王の心痛のほどを推し量れる者は
閼川(アルチョン)だけだったのだ
サンタクは 明活(ミョンファル)山城の門前に辿りついたが…
そこでヨムジョンに出くわし 一瞬の隙を突き逃げ出す
サンタクの様子から 何かをつかんだとみて部下に追跡させるヨムジョン
崖の淵まで追い詰められたサンタクは 決死の覚悟で飛び降りる…!!!
サンタクの帰りを待ちながら 落ち着かない様子の毗曇(ピダム)は
善徳(ソンドク)女王からの文を読み返す
文末に書かれた“徳曼(トンマン)”の文字が 毗曇(ピダム)を苦しめる
そこへ チュジン公が貴族を連れて入ってくる
後ろから 美生(ミセン)と夏宗(ハジョン)もついて来た
『いい知らせですヨンジン公も賛同されました』
『私も何かお役に立てれば』
『よく決断してくださいました』
毗曇(ピダム)は 善徳(ソンドク)女王からの文を 後ろ手に握りつぶした
この文の真意がどうであろうと もはや取り返しのつかない事態なのだ
そんなこととも知らず 夏宗(ハジョン)と美生(ミセン)がはしゃいだ声で…
『それに コウン様の父君であるホユン公も 協力してくださるとの知らせです』
『屈阿火(クラファ)県の城主も 軍を率いてきます』
『屈阿火(クラファ)県の軍なら大規模だ』
『あとは軍さえ到着すれば 何の心配もありません』
『お祝い申し上げます』
『たくさんの貴族たちが 上大等(サンデドゥン)の大義を固く信じています』
『…ありがたいことです』
『ありがたいだなんて… アーッハッハ… 我々の思いどおりです』
『はい 順調に進んでいます』
なかなか戻って来ないサンタクに 毗曇(ピダム)は外に出ようとするが
行く手をヨムジョンが阻む
『どちらへ?』
『サンタクは来ていないか』
『…見ていませんが どうしました?』
『仕事を頼んだのだ 来たら連れて来い』
『はい 皆が集合したので上大等(サンデドゥン)から激励を』
『分かった』
そこへ 危急を知らせる伝令が到着する
善徳(ソンドク)女王のもとへには キム・ユシンが報告に来ている
『各城とすべての民に 毗曇(ピダム)とその一派の殺害命令を』
『……はい』
『私兵廃止は貴族にとって大問題なので 怪しい動きがあります』
『都で戦をすることになるのですね』
『準備は整っています』
『……』
『陛下 大丈夫ですか?
ヨムジョンに仕組まれた誤解だそうですね』
『…策略でも誤解でも関係ありません
偶然がいくつも重なっていけば 必然になります
歴史はいつも そうやって作られるのです
私も毗曇(ピダム)も もう後戻りはできません
でも 私に確認すらしない毗曇(ピダム)が残念です
一方で 毗曇(ピダム)に申し訳なく思っています』
『申し訳ないとは どういうことですか?』
『思い返してみると 貴族から私兵を奪うため
急に彼を好きになったのか… よく分かりません
彼の勢力を排除するために 婚姻を選んだのかもしれない
それも分かりません ただ王座を譲って 毗曇(ピダム)と静かに暮らしたい
それは最後の夢で… 私の本心でした』
毗曇(ピダム)は 伝令が持ち帰った告示文を読み絶句する
それを拾い上げるヨムジョン
“毗曇(ピダム)を上大等(サンデドゥン)から罷免し
新羅(シルラ)の敵として宣布する
神国を愛する民ならば誰であれ 毗曇(ピダム)を刺殺せよ”
告示文を読み上げたヨムジョンは 伝令を詰問する
『どういうことだ!』
『陛下は各地に勅書を出して 掲示しています』
『結局…』
ヨムジョンは 顔色を窺うように毗曇(ピダム)に視線を移す
毗曇(ピダム)の表情は 絶望に打ちのめされたように暗い
(陛下は王座を譲って 私と余生を過ごしたかったのでは?)
毗曇(ピダム)の絶望に追い打ちをかけるように
善徳(ソンドク)女王の宣布の告示文が…
『この反乱を機に反逆者を掃討し 三韓一統の基盤を作るのです』
※三韓一統:高句麗(コグリョ)百済(ペクチェ)新羅(シルラ)の三国統一
善徳(ソンドク)女王は 三韓一統の夢に向かい迷いを捨てる覚悟だった
そこへ 閼川(アルチョン)が…
『陛下と神国を反逆者から守るために 民が武芸道場に集まっています』
『民が自発的に集まったのか?』
それは意外だという表情の金春秋(キム・チュンチュ)
『はい』
『今すぐ武芸道場に行きます』
決起して集まった民の前に立つ善徳(ソンドク)女王
明活(ミョンファル)山城においては 毗曇(ピダム)が決起の声を張り上げる
互いが それぞれの立場と思いで集まった者たちに呼びかける
『神国は泣いています!無能な女王のせいです!』
『神国の危機です 欲にまみれた貴族のせいです』
『戦には負けて 他国に見下されています』
『民は多くを搾取され 他国に頼る状態です このように…』
『このように神国は苦境に陥っています!』
『神国は危機に直面しています』
『これ以上 見ていられません!』
『もう黙っていられません!』
『女王を廃位し!』
『反乱勢力を制圧し!』
『新たな神国を!』
『神国の偉業を!』
『偉大な神国を築くのです!』
『網羅四方を目指すのです!』
『女王陛下 万歳!』
『毗曇(ピダム)公 万歳!』
『え?戦線を長く維持させるはずでは?』
『兵が集まれば 都城に進軍するのですか』
『いいえ』
ミシルの一族と貴族たちは 毗曇(ピダム)の考えがまったくつかめない
『多くの貴族が我々の味方についています
それに チュジン公やスウルブ公 虎才(ホジェ)公もいる
私まで含めれば 和白(ファベク)会議の大等(テドゥン)10人中7人になります』
※和白(ファベク)会議:新羅(シルラ)の貴族会議
『ということは…』
『そうです 私は上大等(サンデドゥン)として和白(ファベク)会議を招集します』
推火(チュファ)郡に行くべきはずの毗曇(ピダム)は
明活(ミョンファル)山城を掌握し さらには和白(ファベク)会議を招集した
『今回の議題は 女王の廃位についてです
女王徳曼(トンマン)は チヌン大帝の残した領土を守れず
高句麗(コグリョ)と百済(ペクチェ)の侵攻を許し 大耶(テヤ)城を奪われた』
※高句麗(コグリョ):三国時代に朝鮮半島北部で栄えた国
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『女性の君主として 唐の使節団に見下され 神国の品位と基盤を揺るがした
また 阿育王の暗示が女王の衰運を示し 新王の到来を示唆した
これは天の啓示ではないか』
※阿育王:アショカ王
『以上の3つの理由により
上大等(サンデドゥン)毗曇(ピダム)と和白(ファベク)会議は
女王の廃位を決議した
女王が政務から手を引き 自ら退位することが
苦しみにあえぐ神国を救う 唯一の方法である
神国和白(ファベク)会議 上大等(サンデドゥン) 毗曇(ピダム)』
至る所に貼られた掲示物の文面に 民は驚く
竹方(チュクパン)とサンタクも 民に紛れ困惑する
『廃位だなんて一体どういうことだ?
本当に毗曇(ピダム)公が首謀者か?』
『これは反乱だぞ』
『待てよ 毗曇(ピダム)は明活(ミョンファル)山城に? これを渡さなきゃ!
でも明活(ミョンファル)山城は反乱軍の拠点だ』
『行ったら殺される』
『それは分かってるけど 渡さないと どうしよう…』
竹方(チュクパン)は恐怖に怯えながらも
善徳(ソンドク)女王の言葉を思い出す
「必ず毗曇(ピダム)に渡すのです」
『殺されますよ 何を悩んでるんだ!
兄貴が得意なことでしょ まず逃げる!ん?』
『明活(ミョンファル)山城に行こう』
『行けば殺される!』
『お前が必要だ ついて来い』
王室の会議では ヨンチュン公とキム・ソヒョンが激怒している
『勝手に集まって和白(ファベク)会議で決議だと?!!!どういうことだ』
『中小貴族と民を動揺させる汚い手口です!』
『上大等(サンデドゥン)が不在の和白(ファベク)会議は無効です
和白(ファベク)会議を開く権限は 上大等(サンデドゥン)だけが持っています』
毗曇(ピダム)は推火(チュファ)郡に行ったと信じたい善徳(ソンドク)女王だが
万明(マンミョン)夫人が…
『しかし決議文には上大等(サンデドゥン)の名が書かれています』
『確認するまでは断定できません
上大等(サンデドゥン)がいなければ 和白(ファベク)会議は無効です』
『でも… 上大等(サンデドゥン)がいたら?
本人が決議案を出して この署名が有効だとしたら?』
挑戦的に金春秋(キム・チュンチュ)が聞く
『もしそうなら… 私は上大等(サンデドゥン)を決して許しません!』
『陛下!外においでください 今 インガン殿の前に…!』
閼川(アルチョン)が慌てた様子で善徳(ソンドク)女王を呼びに来た
インガン殿の前には一頭の馬が…
その背には 遺体がくくりつけられている
『ここ数日 姿を消していた侍衛府(シウィブ)のフクサンです』
『王室を護衛する侍衛府(シウィブ)の兵が なぜこのような目に?』
『王室への脅しでしょう』
ヨンチュン公の疑問に キム・ソヒョンが答えた
遺体の首に 光る物を見つけるヨンチュン公
『陛下の指輪です なぜここに?』
善徳(ソンドク)女王が蒼ざめる
それは 唯一の心の証しとして毗曇(ピダム)に渡した物だった
(本当に毗曇(ピダム)が…)
同じ時 ようやく明活(ミョンファル)山城に着いた竹方(チュクパン)が
毗曇(ピダム)に直接 善徳(ソンドク)女王からの書状を渡していた
文面に目を通すと 毗曇(ピダム)は激しく動揺した
『毗曇(ピダム)公 落ち着いてください!』
『誰からの文だ?』
『え?陛下から渡すよう言われたのですが…』
『お前は春秋(チュンチュ)の腹心だ!春秋(チュンチュ)の仕業だろ!』
『ち…違います 本当に陛下が書かれたのです
毗曇(ピダム)公 信じてください!何か誤解があるんです
王命だからこそ 命を懸けてここに来たのです!』
同行したサンタクも 声を震わせて…
『そ…そうです 信じてください!昨日の夜に推火(チュファ)郡に着いて
毗曇(ピダム)公が来るのを待っていたんです』
『それから張り紙を見て急いで来ました
これを渡すために 命懸けで来たんですよ』
愕然とする毗曇(ピダム)
しかし…
『ハハハ… アーッハッハッハ… また騙されるところだった』
『はい?』
『春秋(チュンチュ)と徳曼(トンマン)に伝えよ!“私は生きている”と!!!』
『は…はい?!!!』
『“あれほど殺したかった毗曇(ピダム)は まだ生きている”
そう伝えろ 分かったな!』
ここは引き下がるしかない竹方(チュクパン)とサンタクであった
自分のもとに戻ってきた指輪を握りしめ 善徳(ソンドク)女王は考え込む
「私より先に陛下が他界された時は 盟約書に従います
朝廷のすべての政務と権力から手を引き 俗世を離れます」
「毗曇(ピダム)」
「誓いを立てるまでもなく 私にとっては簡単なことです」
あの時の毗曇(ピダム)の言葉が 嘘だったとは思えない
しかし事態は深刻だった
金春秋(キム・チュンチュ)をはじめとして
キム・ソヒョン ヨンチュン公が…
『陛下 決断をしてください』
『決議文が広まっています 上大等(サンデドゥン)の参加で
決議文が名分を持てば 彼らの勢力が強まります』
『陛下!』
『どうかご決断を!』
『王命を下してください!』
『毗曇(ピダム)から…
上大等(サンデドゥン)の地位を剥奪し 神国の敵として宣布します!
すべての民に 反乱勢力を鎮圧し 反逆者を殺し
神国の偉業を達成するよう 告げてください』
ついに このような王命を下さざるを得なかった善徳(ソンドク)女王
『侍衛府令(シウィブリョン)』
『はい 陛下』
『侍衛府(シウィブ)のフクサンについて調査しなさい』
竹方(チュクパン)を追い返した毗曇(ピダム)は サンタクだけを呼ぶ
『昨夜 竹方(チュクパン)が来たのか』
『はい 本当のことです』
『私を殺そうとしたのは 侍衛府(シウィブ)の兵だ』
『……』
『その者を調べろ』
『はい 承知しました』
このやり取りを ヨムジョンの部下が盗み聞きしていた
『上大等(サンデドゥン)がフクサンの調査を?』
『はい サンタクに指示していました』
『まずい 刺客を集めろ!』
『はい!』
フクサンの家に向かう閼川(アルチョン)
しかし すでに家族は皆殺しにされていた
ふと気配がして振り向くと そこには少女が震えながら隠れていた
『大丈夫 侍衛府(シウィブ)の者だ 安心しなさい ケガは?』
『あ…ありません だけど… 父さんと母さんが…』
『何があった?』
『フクサン兄さんが大きな仕事をしたから… 早くここを離れるべきだと』
『大きな仕事?何のことだ』
『司量部(サリャンブ)の ヨム… ヨムジョンという人が…』
『ヨムジョン?』
毗曇(ピダム)の命令を受け 調査に来たサンタクが
この会話を聞き 慌てて走り去る
一方 戻った竹方(チュクパン)から報告を受ける善徳(ソンドク)女王
『本当に明活(ミョンファル)山城に毗曇(ピダム)が?』
『はい… 陛下』
『自分の目で見たのですね』
『はい… しかし陛下 毗曇(ピダム)公は
陛下が自分を殺そうとしたと思っておられます』
『何ですって?』
『文をまったく信じようとせずに 策略だと思われたようです
陛下に… “私はまだ生きている” そう伝えるよう言われました』
『……』
『どういうことでしょう』
そこへ 閼川(アルチョン)が駆け込んでくる
『何か分かりましたか?』
『ヨムジョンの仕業でした』
絶句する善徳(ソンドク)女王
ようやく事態を把握する竹方(チュクパン)
『毗曇(ピダム)を殺そうとし 陛下の仕業のように見せかけたのは
ヨ…ヨムジョンだということですか?』
『そうだ』
善徳(ソンドク)女王は 放心してつぶやく
『人と人との信頼は 何ともろいものか』
『陛下』
『人の心を頼ることが こんなに虚しいとは…』
『まずは何としてでも誤解を解かねばなりません!』
必死に訴える竹方(チュクパン)だが…
『すべてが無駄に終わりました
毗曇(ピダム)のために… もう何もしてやれないのです』
そう言うと 胸を押さえ苦しみだす善徳(ソンドク)女王
『陛下!!!』
『…大丈夫だから下がりなさい』
『医官を呼びます』
竹方(チュクパン)を下がらせる閼川(アルチョン)
善徳(ソンドク)女王の心痛のほどを推し量れる者は
閼川(アルチョン)だけだったのだ
サンタクは 明活(ミョンファル)山城の門前に辿りついたが…
そこでヨムジョンに出くわし 一瞬の隙を突き逃げ出す
サンタクの様子から 何かをつかんだとみて部下に追跡させるヨムジョン
崖の淵まで追い詰められたサンタクは 決死の覚悟で飛び降りる…!!!
サンタクの帰りを待ちながら 落ち着かない様子の毗曇(ピダム)は
善徳(ソンドク)女王からの文を読み返す
文末に書かれた“徳曼(トンマン)”の文字が 毗曇(ピダム)を苦しめる
そこへ チュジン公が貴族を連れて入ってくる
後ろから 美生(ミセン)と夏宗(ハジョン)もついて来た
『いい知らせですヨンジン公も賛同されました』
『私も何かお役に立てれば』
『よく決断してくださいました』
毗曇(ピダム)は 善徳(ソンドク)女王からの文を 後ろ手に握りつぶした
この文の真意がどうであろうと もはや取り返しのつかない事態なのだ
そんなこととも知らず 夏宗(ハジョン)と美生(ミセン)がはしゃいだ声で…
『それに コウン様の父君であるホユン公も 協力してくださるとの知らせです』
『屈阿火(クラファ)県の城主も 軍を率いてきます』
『屈阿火(クラファ)県の軍なら大規模だ』
『あとは軍さえ到着すれば 何の心配もありません』
『お祝い申し上げます』
『たくさんの貴族たちが 上大等(サンデドゥン)の大義を固く信じています』
『…ありがたいことです』
『ありがたいだなんて… アーッハッハ… 我々の思いどおりです』
『はい 順調に進んでいます』
なかなか戻って来ないサンタクに 毗曇(ピダム)は外に出ようとするが
行く手をヨムジョンが阻む
『どちらへ?』
『サンタクは来ていないか』
『…見ていませんが どうしました?』
『仕事を頼んだのだ 来たら連れて来い』
『はい 皆が集合したので上大等(サンデドゥン)から激励を』
『分かった』
そこへ 危急を知らせる伝令が到着する
善徳(ソンドク)女王のもとへには キム・ユシンが報告に来ている
『各城とすべての民に 毗曇(ピダム)とその一派の殺害命令を』
『……はい』
『私兵廃止は貴族にとって大問題なので 怪しい動きがあります』
『都で戦をすることになるのですね』
『準備は整っています』
『……』
『陛下 大丈夫ですか?
ヨムジョンに仕組まれた誤解だそうですね』
『…策略でも誤解でも関係ありません
偶然がいくつも重なっていけば 必然になります
歴史はいつも そうやって作られるのです
私も毗曇(ピダム)も もう後戻りはできません
でも 私に確認すらしない毗曇(ピダム)が残念です
一方で 毗曇(ピダム)に申し訳なく思っています』
『申し訳ないとは どういうことですか?』
『思い返してみると 貴族から私兵を奪うため
急に彼を好きになったのか… よく分かりません
彼の勢力を排除するために 婚姻を選んだのかもしれない
それも分かりません ただ王座を譲って 毗曇(ピダム)と静かに暮らしたい
それは最後の夢で… 私の本心でした』
毗曇(ピダム)は 伝令が持ち帰った告示文を読み絶句する
それを拾い上げるヨムジョン
“毗曇(ピダム)を上大等(サンデドゥン)から罷免し
新羅(シルラ)の敵として宣布する
神国を愛する民ならば誰であれ 毗曇(ピダム)を刺殺せよ”
告示文を読み上げたヨムジョンは 伝令を詰問する
『どういうことだ!』
『陛下は各地に勅書を出して 掲示しています』
『結局…』
ヨムジョンは 顔色を窺うように毗曇(ピダム)に視線を移す
毗曇(ピダム)の表情は 絶望に打ちのめされたように暗い
(陛下は王座を譲って 私と余生を過ごしたかったのでは?)
毗曇(ピダム)の絶望に追い打ちをかけるように
善徳(ソンドク)女王の宣布の告示文が…
『この反乱を機に反逆者を掃討し 三韓一統の基盤を作るのです』
※三韓一統:高句麗(コグリョ)百済(ペクチェ)新羅(シルラ)の三国統一
善徳(ソンドク)女王は 三韓一統の夢に向かい迷いを捨てる覚悟だった
そこへ 閼川(アルチョン)が…
『陛下と神国を反逆者から守るために 民が武芸道場に集まっています』
『民が自発的に集まったのか?』
それは意外だという表情の金春秋(キム・チュンチュ)
『はい』
『今すぐ武芸道場に行きます』
決起して集まった民の前に立つ善徳(ソンドク)女王
明活(ミョンファル)山城においては 毗曇(ピダム)が決起の声を張り上げる
互いが それぞれの立場と思いで集まった者たちに呼びかける
『神国は泣いています!無能な女王のせいです!』
『神国の危機です 欲にまみれた貴族のせいです』
『戦には負けて 他国に見下されています』
『民は多くを搾取され 他国に頼る状態です このように…』
『このように神国は苦境に陥っています!』
『神国は危機に直面しています』
『これ以上 見ていられません!』
『もう黙っていられません!』
『女王を廃位し!』
『反乱勢力を制圧し!』
『新たな神国を!』
『神国の偉業を!』
『偉大な神国を築くのです!』
『網羅四方を目指すのです!』
『女王陛下 万歳!』
『毗曇(ピダム)公 万歳!』
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